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臆病雀と嫌われ烏

作者: すずま

山に一羽の烏がおりました。

真っ黒な烏は、他の鳥が嫌いでした。


川で水を浴びていると、川蝉はけたけたと笑うからです。

山で熟れたざくろをつついていると、メジロはひそひそ話をします。

木の上で羽を休めていると、雉は澄まし顔で大きな飾り羽根をこれ見よがしに開きました。


他にもまだまだ有りました。兎にも角にも、烏は他の鳥が嫌いです。


「綺麗で色鮮やかな羽がそんなに偉いのか。」


水溜まりに映る自分の姿に、烏は悪態をつきます。

唯一、烏の話し相手であった梟はそれを聞いて眠そうな目を更に細めました。


「君も、彼らが木の実ひとつ割れないのを馬鹿にするだろう。それと、同じだよ。」


梟はぐるんと首を回します。


「では君はなぜ、私を友と呼ぶのかね。」


夜になれば、皆まっくろだ。そんなことを考える暇があれば、私はネズミを探すよ。

以前、梟はそう烏に言いました。


そのことを梟に話すと、彼の首はまた反対の方向にぐるりと回りました。


「つまりは、そう言うことだ。」

「じいさんよ。あんたが言っていること、俺にはさっぱりだ。」


烏は梟ほどではないにせよ首を傾げます。

彼はほおほおと笑いましたが、答えてはくれませんでした。




ある晴れた日。烏は水を飲みへ川におりました。

すぐそこの川上では、おしゃべりなメジロたちが小さな雀をからかって面白がっています。

甲高いメジロの声は川の音でも消えません。それが烏にはとても不快なのでした。


「こらこらお前さん。私たちより川上で水を飲むなんて、どうかしてる。」

「お前さんの汚い羽で、水が汚れるじゃないか。」


ごめんなさいごめんなさい。と、雀は繰り返しています。

しかしメジロは雀を突いて追いかけ回し続けておりました。

烏はそれを横目に見ておりましたが、雀がどうなろうと知ったことではありません。

自分は悠々と水を浴びて、烏はその場から飛び去ります。

雀はまだ、ごめんなさい、と繰り返しているようでした。




それを聞いた梟はぐるんと首を回します。


「君は、見ていただけだったのか。」

「雀の知り合いなんて、俺は願い下げだよ。」


仲間で集まっては、ちゅんちゅんと喧しい。烏は雀も嫌いなのでした。


「馬鹿にされてるってのに言い返さない、あのチビがいけない。」

「しかしね。そのおチビさんは君と違いおチビさんだ。」

「俺が知ったことか。」


メジロなんか突き返してやれば良い。

不機嫌に羽を開く烏に、梟はほおほおと笑いました。




ある雨の日。烏は木の枝に止まって、雨宿りをしていました。

ざあざあと雨はひっきりなしに音を立てています。

暇を持て余した烏がくちばしで羽の手入れをしていると、枝が微かに揺れました。


「もし、烏さん。ご一緒しても宜しいでしょうか。」


その声はいつぞやの雀でした。

烏が枝の先を見れば、小さな羽をぱたぱたと開いて雫を払っています。

烏は一歩、雀と距離を空けました。


「今日は止みそうにありませんね。困ったものです。」


雀は首を伸ばしたり。引っ込めたり。遠くの山を眺めて言いました。


「烏さんも、今日はこちらでお過ごしですか。」


真っ黒な丸い目を瞬かせ、雀はこちらを見ました。茶色い雀は枝と混じって、薄暗い中では一緒になって見えます。

烏は外の様子を眺めたまま、一言。


「ああ、仕方ない。」


そう返しました。雀は居心地が悪そうに尾羽を震わせます。

それから、雀と烏は無言で翌朝を迎えたのです。




それを聞いた梟はぐるんと首を回します。


「君は何も話さなかったのか。」

「話す必要がないからだよ。」


当然だろうと、烏は梟の問いかけに答えました。


「あんな臆病者と話して何になるんだい、爺さん。」

「はて、おチビさんよりも。私には君の方がよほど臆病者に見える。」


なんだって。と烏は梟を睨みつけました。梟は眠たそうに眼を細めていました。

怒った烏は梟の巣から出て行きます。

梟はほおほおと笑っていました。




その日の烏は山から山を行ったり来たり。とても落ち着きませんでした。

そんなものだから、烏は腹を空かしてしまいました。その時ふと目に入ったのは、よく熟れて落ちてしまった様子の柿。烏が降りてその柿を突きます。とてもとても甘い、美味しい柿でした。

しかし味わう暇もなく、何かが烏の上へと落ちてきました。驚いた烏は飛び立とうとしましたが、羽が絡まるだけです。よくよく見れば、それは人間の網でした。いくら騒いで羽を散らして暴れても、それは振り払えそうにありません。

烏が途方に暮れていると、聞き覚えのある声が近づいてきました。


「まあまあ、烏さん。これはたいへんだ。」


小さな雀は烏の元に下りてくるとぴょんぴょんと跳ねまわりました。


「人間の罠にかかるなんて、あなたらしくもない。私だけではどうにもなりません。」

「そこをどうにかならないものか。」

「残念ながら、私はあなたの様に大きくも、賢くもないのです。」


烏は項垂れて地面に突っ伏してしまいました。

雀はバツが悪そうに体を小さくしました。次に彼は短い首を伸ばします。


「いえいえ。どうにかしてみましょう。少しばかりご辛抱ください。少しばかりの間です。」


雀は元来た方へと飛び立っていきました。烏は地面に伏したまま大人しくしていました。それは別段、雀を待っている訳ではありません。烏は始めから雀に期待をしていなかったからです。

雀自身の言う通り、烏よりも小さくて、賢くもない雀に何ができるのでしょう。烏はただただ、自身の失態を嘆きました。


「烏さん烏さん。知り合いの鼠さんを連れて参りましたよ。私ではどうにもなりませんが、彼ならばどうにかして下さるでしょう。」


ですから、戻ってきた雀に烏はひどく驚きました。日が暮れて、烏はもうとっくに諦めていたのです。雀は少し誇らしげに胸を張っています。隣にいた鼠は絡まっている網を掴み、さっそくその歯でかじり始めました。

鼠はあっという間に網の穴を広げていきます。穴が自分ほどになった頃。烏は木の枝まで一直線に飛び上がりました。広げた羽の隅々まで目を通して、烏は息をつきます。


「お怪我はありませんか。」


胸を撫で下ろす烏の隣に、雀がやってきました。烏は雀の顔を覗き込みます。


「あんたのおかげで助かったとも。しかしどうして、親しくもない俺を助けたんだい。」


烏は尋ねました。すると雀はまん丸い目を瞬きました。


「烏さんが助けを求めていたのではありませんか。」

「もちろんだとも。しかし、人間の罠にかかった俺を助けて、あんたには何の得もないだろう。」


自分が危険な目に合うかもしれない。

烏は首を傾げます。烏さん烏さん、と雀は羽を遠慮がちに羽ばたかせました。


「私は頭が悪いので、烏さんの言う損得はいまいちよく分かりません。ですが私は烏さんとは一晩ご一緒に過ごさせて戴いた身です。」

「そんな理由だけで良いのかい。」

「烏さんはメジロさんたちに追い掛け回されている私を見ていたことがありますでしょう。しかし、烏さんは私の事を、ノロマだ臆病者だと、そしる事はなさいません。ですから私にはそんな理由だけで十分なのです。」


雀はくちばしを鳴らして笑っています。一方の烏は雀の言葉に恥ずかしくなって顔をそらしました。黙り込んでしまった烏の代わりに、雀は羽を広げます。


「さあさ。もう暗くなってしまいます。早く寝どこまで戻りましょう。」


烏は黙って頷きました。前を飛ぶ小さな雀の後姿を、烏は別れるまで眺めていました。




それを聞いた梟はぐるんと首を回します。


「それで君はどうしたのかな。」

「どうしたもこうしたも、何もないよじいさん。」


眠そうな梟に烏は背を向けて羽を広げました。

梟は首をまた反対の方向にぐるりと回します。


「何処に行くんだい。」

「何処だって良いだろう。」


烏は少し恨めし気に振り返ります。


「その雀と鼠に、礼を言いに行くだけだよ。」


ぶっきらぼうにそう残して、烏は飛び立ってしまいます。

巣に落とされた真っ黒な羽を眺めて、梟はほおほおと笑っていました。







初投稿になります。宜しければ評価などして戴けると幸いです。

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