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セブンス  作者: 三嶋 与夢
元不良な六代目
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兄弟弟子

 宿屋の一階では、ミランダが困った顔をしていた。


 シャノンは姉であるミランダの近くで果物を搾ったジュースを飲んでいる。


 周囲では、客が増えているのかいつもより人が多い。


 ノウェムやアリア、そしてクラーラは荷物の方をまとめている。


 モニカは貸倉庫でポーターの最終調整に入っていた。


 俺はミランダに。


「チケットの確保が出来ないのか?」


 ミランダは頷いた。


「値段も上がっているんだけど、それ以上に混雑しているからしばらくは避けた方がいい、ってね」


 予約が一杯で、更に宿の確保も難しくなっていると言われたらしい。


「しばらくはセントラルか……できるだけ早く出発したかったんだが」


 ミランダは言う。


「タイミングが悪かったわね。それはそうと、シャノン」


「何?」


「あんたも少しは手伝いなさい。みんな忙しい時に、ノンビリジュースなんか飲んで」


 ミランダが呆れているが、ジュースはシャノンが購入したものだ。


 一応は仲間なので、報酬は山分けになっている。


 そして、ミランダがシャノンの報酬を管理していた。


 お小遣い程度の金額をそこから渡しており、自由に出来るお金があるのだ。


「え~」


 嫌そうな表情をするシャノンに、ミランダは握り拳を振り下ろす。


 避けようとしたシャノンの裏をかいた攻撃。


「痛い……」


「はぁ、ライエル、買い物に行くのよね?」


「え? あぁ、うん」


 既に必要なものは揃っているのだが、買い物をしつつセントラルの現状を見ている。


 以前は気が付かなかったが、セントラルの住人は婚約破棄を割と好意的に受けいれていたのだ。


 そして、セレスが次の王妃であるというのが、住人たちにとっても重要らしい。


 気が付けば、国中が狂っているような状況だ。


 全てではないにしても、ウォルト家はここ数年で主要な領主や重鎮たちと接触を繰り返していた。


 俺が閉じ込められている間に、外の世界もセレスによって大きく変わっていったのであろう。


「だったら、シャノンを荷物持ちに連れて行ってくれる。最近はダラダラしているから、こき使ってあげて」


「可愛い女の子に荷物持ちとか、ライエルにはできないわよね?」


 可愛らしくポーズをするシャノンに、俺は笑顔で。


「可愛かったらな。外面だけ可愛くても、お前は内面が酷いからこき使える」


 そう言うと、シャノンが。


「……後悔させない、って言ったのに」


「グハッ! ……それを言うのか」


 宝玉からは三代目の声が聞こえてきた。


『ハハハ、アレは良かったよね。次が楽しみでたまらないよ』


 四代目も。


『俺としては他の迷台詞も面白かったです』


(こ、こいつら)


 そう思いながら、俺は溜息を吐いた。


「外に出て歩くだけでもいいだろ? ほら、準備してこいよ」


 そう言うと、ミランダは頷いていた。


「ほら、シャノンは準備して」


 シャノンはジュースを飲み干すと、ダラダラと階段を上っていく。


「寒いから外に出たくないのに」


 文句ばかりを言うシャノンを見て、ミランダは溜息を吐いていた。


 俺は苦笑いをする。






 昼間だというのに吐く息は白く、寒さが身にしみる。


 王都を歩く俺とシャノンは、はぐれないように手を握っていた。


 シャノンは。


「買い物、って言われても買う物がないわよね?」


 俺をジト目で見てくるので、俺は右手で顔を押さえつつ。


「なら、小物でも買えば良いだろ。アリアなんか、屋台巡りをしているぞ」


「アリアと一緒にしないでよ。これでも私は儚いお嬢様なんだから」


「元、な。ほら、気になるものでも見つけたら声をかけろ。俺の方は周囲の噂話でも聞くから」


 歩きながら、周囲で話をしている住人たちの声に耳を傾ける。


 シャノンの歩幅に合わせながら歩くために、スピードが遅いのだ。


「聞いたか、セレス様がセントラルに到着したらしいぞ」


「予定よりも遅かったな。大丈夫なのか?」


「そう言えば、昨日は門の方で騒ぎがあったようだが……」


 それを聞いて、俺は立ち止まった。


 シャノンが首をかしげる。


「どうしたのよ」


「い、いや……なんでもない(両親が来ているのか……それに、セレスも)」


 すると、シャノンは呆れたように言う。


「変なの。ねぇ、あれを買って」


 シャノンが指を差したのは、アクセサリーを売る出店だった。


 その中で、いかにも安そうな貴金属が並べられている。


 そんな商品を見るシャノンは、一つだけを指さした。


「これ」


「これか? いや、安いからいいけど……いや! お前は小遣いがあるだろ!」


 買ってしまいそうになったところで、俺は気が付いた。


 シャノンもお金を持っているのだ。


 そして、俺が気付くと舌打ちをする。


「ちっ、それぐらい買ってよ」


「安いからいいけどさ。お前、その性格直せよな」


 渋々購入すると、シャノンは嬉しそうに購入した商品をポケットに入れるのだった。


 俺には良い物には見えないのだが、シャノンが喜んでいるのならきっと何かあるのかも知れない。


 もっとも――。


「お姉様に自慢しよう。これで仕返しが出来るわ」


 ――あまり深く考えていないのかも知れないが。


 そうして出店から離れる俺は、近くに知り合いがいるのに気が付いた。


 歌を歌っているのは、エヴァである。


 グリフォン退治の歌を作り、セントラルで披露していた。


 丁度終わるのか、拍手が聞こえてくると金属の筒に小銅貨や銅貨が投げ込まれる。


「歌い手? 前のエルフよね。そう言えば、歌い手の語りとか歌をちゃんと聞いた事ってなかったわ」


 シャノンがそう言うので、俺は手を引いてエヴァの下へと向かう。


 客たちは喜んでその場を離れていくと、エヴァは衣装の上にコートを羽織った。


「もう終り?」


 そう言うと、エヴァはお金を拾い集めつつ。


「ごめんね~、次の歌い手が来るから私は場所を空けないと……って、ライエル? 今日はその子とデートなの?」


 からかうようなエヴァの視線に、苦笑いをする。


「そんなところだよ。シャノンが歌とか語りを聞きたい、って言うからさ。手伝うよ」


「あ、いいのに」


 小銭を拾い集め、俺は缶にそれを入れていく。


 一杯になる缶を見て、エヴァは嬉しそうだ。


「大きな入れ物でも探してこようかしら。でも、こういうのも波があるし、大きいのにした途端に客が来なくなると……う~ん」


 悩んでいるエヴァを見ていたら、シャノンが俺の腕を引く。


 催促だろう。


「なぁ、代金を払うから適当な場所で歌か語りを聞かせてくれないか。シャノンはグリフォン退治に同行したから、出来れば違う歌が良いんだ」


 エヴァは少し考える。


「違う歌、ね。そうなると最近まで人気のあった他国で睨み合う【二大戦乙女】、【聖女】……でも、【女王】の話題もいいかもね。女の子だと騎士や将軍よりお姫様かしら?」


 また大層な名前が出て来たと思うと、シャノンがワクワクしている。


 俺は疲れているエヴァを見ながら言う。


「食事と歌一曲で大銅貨三枚。それでどうだ?」


 エヴァは好条件だったのか、嬉しそうに納得していた。


「いいの! 歌うわよ。こうなったら、とことん歌ってあげるんだから!」


 俺の出した条件は、エヴァにとっては破格のようである。


 シャノンも嬉しそうだ。


 両手をバタバタさせており、年齢よりも幼い印象を受ける。それだけ楽しみにしているのだろう。


「本当! やった!」


 歌い手の歌や語りが聞けるとあって、大喜びしていた。


 この辺、まだ幼い子供なのだと思える。


「今日は午後から個人相手に歌を披露……やっぱり、一族を離れて正解ね!」


 正解なのだろうか?


 そう思っていると、同じように家出の経験がある六代目が。


『……この子の場合は夢があるから良いんだろうが、飛び出して心配している家族がいるのを忘れないで欲しいな』


 すると、五代目と七代目が。


『お前が言っても説得力の欠片もない』


『まったくですな』


 声を出さない六代目だが、落ち込んでいる姿が簡単に想像出来る。


 俺は周囲を見ながら、エヴァに。


「どうやら次の歌い手たちが来たな」


 すると、相手はコートを脱いでこの寒いのに薄着になっていた。


 冬用の衣装だと言うが、見ているこっちは寒くなる。


 エルフの三人組みは、歌い手一人に楽器持ちが二人だった。


 エヴァが相手を睨み付けていた。


「あら、ニヒルとか言う田舎者のエヴァじゃない」


 美しい金髪をかき上げ、エヴァを挑発する女性エルフ。


「都会育ちだからって馬鹿にして……あんたもまだ店で歌えない格下じゃない! 立場は一緒よ! 一緒!」


 言い返すエヴァに、相手も。


「あんたみたいなのが流れ込んでくるから、場所取りも大変になるのよ! 少しは住み着いた同胞に気を使いなさいよね!」


 エルフも大変なのだろう。


 俺はウンザリしているシャノンの手を握りながら、エヴァを待つ。


「同胞? アンタは敵よ、敵! それに、ニヒルはエルフの中でも一番古い一族よ。馬鹿にしないで欲しいわね」


「そうやって見下すから、あんたたちが嫌いなのよ! 少しだけ歌と語りを多く持っているからっていい気になって!」


「何? 悔しいの? そうよね、あんたたちは語り継ぐ歌なんか少ないものね」


「キィィィ、悔しいぃぃぃ!」


 どうやらエルフ同士でも色々とあるようだ。口喧嘩をしている二人を、後ろの男性エルフ二人が呆れてみている。


 こちらに気が付くと、謝罪してきた。


「すみません。挨拶みたいなものなので、少しすれば終わりますから」


「あ、はい」


「本当にすみません。結構人気のある歌い手なんですが、最近になってエヴァが流れてきたので色々とありまして……」


 苦労しているようで、文句を言えなかった。


 そのままエヴァが口喧嘩を終えるのを待ち、俺たちは食事をしに向かうのだった。






 食事を終え、歌や語りを聴いた俺たちは暗くなるセントラルの道を歩いていた。


 人通りが少ない道。


 外に出ると雪が降っており、積もり始めている。


(寒いと思ったら雪かよ)


 雪を踏みしめながら歩く俺たち。


 食後にそのまま数時間拘束し、シャノンは歌や語りを沢山聞いたのである。


 満足そうなシャノンだが、代わりにエヴァは疲れていた。


「いや~、今日は本当に楽しかったわ。特に睨み合う二大戦乙女は最高よね」


 シャノンが言う二大戦乙女とは、小国同士で戦争をしている国のトップ二人である。


 君主が率先して軍を率いて戦い、その激しさから戦乙女や戦妃とまで言われて恐れられているようだ。


「いや、怖すぎるだろ。なんで毎年何回も戦うんだ。馬鹿だろ」


 国境で何度も戦っている国同士で、傭兵たちも参加するようだが二人の強さを見て被害が大きくなると判断して引き返すようだ。


 エヴァは疲れた表情をしながら。


「お気に召したようで嬉しいわ。私も聞いただけで実際には見ていないけど、ここ数年でかなり戦の回数が増えたみたいよ。以前から仲が悪い国同士みたいだけど」


 それを聞いた五代目など。


『……それってあれじゃないか? 毎年ガチで戦争していると言うよりも、決められたルールで殴り合っているだけだろ』


 八百長だと言い始める。


 同意するのは四代目だ。


『そういう戦争もありますね。ガチで殺し合って、弱ったところを周囲に攻め滅ぼされるとか馬鹿ですからね』


(そんなパターンもあるのか。戦争と言えば、かなり悲惨なものというイメージの方が強いんだが)


 主に三代目の記憶のせいだろう。


 エヴァは、俺を見ながらニヤリと笑う。


「女王とか、聖女もそうだけど、綺麗な人らしいわよ、英雄さん」


 俺は咳払いをする。


 以前、俺の英雄譚を語り継げとエヴァに宣言してしまった。成長後にテンションがおかしくなっていたのだが、からかわれるネタにされている。


 俺は話を逸らそうとするが、手を握っていたシャノンが立ち止まった。


「どうした?」


「……嘘、なんで」


 目を大きく見開いている。黄色い瞳が黄金色に輝いており、視線の先には騎士が四人の部下である兵士を連れていた。


 俺は騎士や兵士の装備を見て、すぐに相手が理解出来た。


 宝玉の中から、七代目が――。


『ライエル、すぐに移動だ。相手はまだこちらに気が付いていない!』


 三代目は理解出来ていないのか。


『何? 何があったの? というか、知り合い?』


 セントラルの住人に話を聞いている騎士は、住人がこちらを見て指さすと懐から財布を取り出し銀貨を手渡していた。


「ラ、ライエル、痛い!」


 強く握りしめてしまったのか、シャノンが痛がるとすぐに手を離す。


「わ、悪い。それより、すぐにこの場から逃げ――」


 振り返ってエヴァも連れ出そうとすると、相手が声をかけてきた。


「少し待って頂けますか。その歌い手には興味がありましてね。とても素晴らしい歌声を持っているとか。話題のグリフォン退治を我が主であるセレス様に聴かせて頂きたいのです」


 とても優しい声で、エヴァに声をかけた騎士は長くサラサラとした黒髪を持っていた。


 笑顔でこちらに近づくのだが、相変わらず隙がなかった。


 騎士が着ている制服に、兵士たちの制服はウォルト家のものだったのだ。


「おや?」


 騎士は、俺に気が付いたようだ。


「……お前、ライエルか」


 アルフレート・バーデンの声が低くなると、連れていた四人の兵士たちも警戒して俺たちを囲むように動き始める。


 七代目が宝玉の中から、忌々しそうに呟いていた。


『ライエルを呼び捨てとは、随分と偉くなったものだ。バーデン家の小僧が』


 俺は振り返ると、シャノンとエヴァを庇うようにアルフレートの前に立った。


「久しぶりですね、とでも言えば良いんですか? こんなところで会うとは思っていませんでしたよ」


 実際、俺はセレスが王都に入ったという噂は聞いている。だから、会わないような場所で情報収集をしていたいのだ。


(スキルでも個人を特定出来ない。まさか、こんなところで出くわすなんて)


 そう思っていると、周囲がニヤニヤとしている。


 兵士たちは、アルフレートの兵士ではなくウォルト家の兵士なのだろう。


「ウォルト家を追い出された出来損ないが、こんなところで女連れか? しかもエルフに幼い少女……ん? お前、サークライ家のシャノンか?」


 アルフレートは、シャノンのことを知っているようだった。


 シャノンは俺の後ろに隠れる。


「な、何よ、あんたたち!」


 エヴァが囲むように動き出した兵士たちに叫ぶと、アルフレートは溜息を吐きつつ言う。


「ライエルの女か。それも面白いだろうな。きっとセレス様は褒めてくださる。問題は、どうやって連れ去ったか、だな」


 圧倒的な強者だと思っているのか、アルフレートにはおごりがあった。


 確かに俺は携帯用に短剣を持っているだけだ。


 この数を相手に戦うには、心許ない。


 六代目の声がする。


『ウォルト家の人間か? 随分と上から目線だな』


 五代目も気に入らないようだ。


『悲しくなってくるものだな。昔は周囲から下に見られ、這い上がろうともがいていたんだが……』


 三代目は呆れつつも、五代目に言うのだ。


『誰しも力を持てばそういうものだけどね。でも、この子はバーデン家か』


 四代目は怒っているようだ。


『散々ウォルト家に寄生してくれたバーデン家、ね』


 七代目が言う。


『ライエル、やれ! わしらが許す!』


(許す、許さない、の問題でもないんだが……でも、見逃してはくれない、か)


 アルフレートは、俺に恥をかかせたいようだ。しかも、それがセレスのためであるというのだから、俺にとっては納得出来ない。


 かつては兄弟子と思っていた相手だが、今は嫌悪すら覚える。


「動けなくして二人を連れ去るのもいいな。それとも、お前の目の前で――」


 妄想をするアルフレートは、腰に下げたサーベルを引き抜く。


 だが、俺が見ていたのは引き抜かれたサーベルではない。


「――おい」


「あ?」


 アルフレートは、自分が喋っているのを邪魔されたのか不満そうだった。


 だが、俺には関係がない。


 俺が聞きたいのは、アルフレートの腰に下げられた短剣だった。


 見たことのある短剣は、アルフレートが持っていていい物ではない。


「その短剣をどこで手に入れた」


「これか? これは褒美としてセレス様から与えられたものだ。羨ましいか? 出来損ないのお前と違い、あの方はとても――」


「違う。セレスはどこでその短剣を手に入れた」


 俺がアルフレートを睨み付けているのに、周囲の兵士たちは反応しなかった。だが、セレスを呼び捨てにすると一斉に剣を抜く。


 鍛えられているだけあり、兵士たちも質が違う。


「……『様』を付けろ、ゴミが。お前など、生かされただけでも恩情だというのに! あの方と同じ血を引いていると思うだけで、どれだけ憎いと思ったか!」


「――どうでもいい。お前らが何を思うが関係ない。ただ、その短剣は俺の知り合いが持っていたものだ。どこで手に入れた!」


 怒鳴りつけると、アルフレートは俺の激怒に気分が良くなる。


「あの間抜けな三人組みの冒険者か? セレス様の誘いを断ったから、直々に処分された幸運な連中だよ。その時にセレス様のものになった短剣だ。短剣も馬鹿な三人組みに使われるより、ずっと光栄に思うだろうな!」


 アルフレートや兵士たちの笑い声に、シャノンは震えている。


 そして、エヴァは。


「ちょっと、こいつらおかしいわよ。すぐに逃げないと」


 アルフレートは真剣な表情になると、エヴァに向けて言うのだ。


 その態度は、声をかけてきた時は全く違うものだった。


「セレス様に歌を聴いて貰えるのに逃げる、だと? たかがエルフが、セレス様に逆らうというのか。……手足を切り落とせ。手足がなくとも、歌えれば問題ない」


「はっ!」


 兵士たちが近づいてくると、俺は指を鳴らす。


 地面から魔法陣と箱が出現すると、自動で開いてそこからサーベルが飛び出して来た。


 空中に投げ出されたサーベルを手に取れば、魔法陣と箱は消えてしまう。


 近づいてきた兵士たちに、スキルを使用する。


「……アップダウン」


 四代目のスキルを使用すると、全員の動きに鋭さがなくなった。それでも、命令を実行するために動くのである。


 宝玉の中から、四代目が指示を出す。


『鍛えているね。それに、スキルを使用されても動じない。敵が優秀なのに、複雑な気分だよ。ライエル、相手が格上だとこういったスキルは効果が薄くなるか、相手が勝手に解除する。油断しないように……もっとも――』


 俺は左手を上げて、魔法を使用する。


「ライトニング!」


 アルフレートや兵士たちに紫電が襲いかかり、感電すると地面に倒れ込んだ。威力は抑えており、命に別状はない。


『――実力的にはライエルが格上になるけどね』


 魔法に倒れた兵士たちを見て、周囲では悲鳴が聞こえてきた。


 人通りが少ない通りだったが、発見されたのだろう。


「よし、エヴァはシャノンを連れて――ッ!」


 俺はサーベルで攻撃を防ぐ。


 同じようにサーベルで突きを繰り出してきたのは、アルフレートであった。


「少し痺れたぞ、ライエル。兄弟子に向かって魔法を使うとは、弱虫なりに小狡くなったか?」


 相手をはじき返し、距離を取ると構えを取る。


 アルフレートは同門であり、戦うにはやりにくい相手でもあった。


 俺の後ろでは、エヴァがシャノンに抱きついていた。


 二人を逃がしたいのだが、魔法を使用したのに兵士たちはもう立ち上がっている。


 こちらを睨み付け、斬りかかろうとしていた。


 アルフレートが言う。


「お前たち、ライエルは私が押さえておこう。他の二人をやれ」


 兵士たちが動き出し、俺が二人を守ろうとするとアルフレートがサーベルで突きを放ってきた。


 足を引いて半身を逸らすと、そのまま横に振り抜こうとしてくる。


 サーベルで受け止めると、アルフレートが蹴りを放ってきた。


 攻撃を受けて後ろに飛ぶと、シャノンとエヴァに近づいていた兵士を斬る。


 しかし、俺の攻撃を防ぐと、相手は距離を取った。


 三代目が、溜息を吐きつつ。


『……ライエル、もう手加減できる相手じゃない。数の上でも不利だ。下手な手加減を続けるなら、シャノンちゃんやエヴァちゃんが死ぬよ』


 五代目も同意する。


『覚悟を決めろ。それに、この場からすぐにでも逃げるべきだ』


(分かっています)


 宝玉を握りしめると、俺は再度構えるのだった。


 アルフレートたちは、俺の動きを見て目を細めていた。


「こいつ、思ったよりもやりますね」


 兵士の言葉に、アルフレートは面白くなさそうに命令する。


「先にライエルを潰す。セレス様はそこのエルフの歌を楽しみにしている。これ以上の時間をかければ、セレス様が退屈するからな」


 そのためだけに、剣を抜いて襲ってくるアルフレートたちを見て、俺は本当に頭が痛くなる思いだった。


 同時に――。


「その短剣は返して貰おうか」


 ロンドさんの短剣を奪い返す事を考える。


 そして、セレスに恐怖と同時に怒りがこみ上げるのだった。


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― 新着の感想 ―
プリンさんと全く同じこと思った 今までもライエル浅慮というか危機感ないなぁって思う場面あったけど今回のは格別にひどい よなぁ
[一言] セレスが来ているとわかっているのにのんきに過ごしてるの頭ヤバいでしょ… 金なら有るんだから馬車買うなり無理やり乗せてもらうなりすればいい。 もしくは近くの町へ行って便が出てなくても大金払って…
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