一騎討ち
――北側の門は突破され、オークを先頭になだれ込んでくる魔物の群れ。
それを前にして、アリアは槍を構えた。
門の内側に用意された柵と、落とし穴にオークが落ちる。
落とし穴の下に用意した杭に突き刺され絶命する魔物たちだが、穴を埋め尽くすと仲間を踏み越えて柵にしがみついた。
槍を持った兵士や騎士たちが魔物を突き刺すが、東側と違ってここは人手が多い。
油の用意も間に合わず、落とし穴程度しか用意出来ていなかった。
走ってくる伝令は、中央の状況を知らせる。
「グリフォンが中央に! 東側にもヒッポグリフが!」
慌てる伝令を捕まえると、アリアは状況の確認をする。
「ちゃんと説明しなさいよ! ヒッポグリフは二体よね? 残りの一体はどこに行ったの!」
伝令は息を切らしながら言う。
「グリフォンとヒッポグリフが、隊長代理のところに……」
隊長代理――ライエルの事だろう。
(二体同時? 三体で来るかと思ったけど……)
アリアが空を見上げると、グリフォンやヒッポグリフは見えなかった。
魔法の光は確認しており、ライエルが上手くやっていると信じるしかない。
「こっちは持ちこたえているから、大丈夫だって知らせなさい。東側からも応援が――」
その時だ。
柵が押し倒され、魔物が入り込んできた。
槍を構えるアリアは、振り返ると近づいてきたゴブリンを突き刺しそのまま槍を振るってゴブリンを放り投げる。
伝令役がドン引きしているが、アリアは言う。
「ここは何とかするから、そう伝えて! 早く!」
走り去る伝令を見たアリアは、柵に使用していた丸太を持ったオークを見る。
近くにいた兵士を殴り飛ばし、アリアに向かってきたのだ。
(距離を取りなさいよ!)
「下がって!」
突貫工事で作った柵が思ったよりも脆く、穴はすぐに魔物で埋まってしまった。
アリアがオーク相手に槍を構えると、近くでは魔物との乱戦に入ってしまった。
厄介なオークが次々に流れ込んでくると、一体のオークの頭部に矢が突き刺さった。
「クラークさん?」
壁にあった足場から降りると、前に騎士や兵士を並べてクラークが弩で魔物に矢を放っていた。
そして、弩を地面におくと腰の剣を抜くのだった。
「矢は尽きた! 盾持て!」
木で作った不格好な盾を持った兵士たちを前に出し、そのまま突撃させるとその隙間から槍を持った騎士たちが魔物を突き刺す。
魔物を押し返し、そして本人はオークの相手をしていた。
「やるじゃない!」
アリアもスキルを使用し、一体のオークを槍で斬り伏せる。周囲には血が広がり、金属のぶつかる音に叫び声に雄叫びと五月蝿くなっていた。
「怪我人を下がらせろ! 絶対に一対一になるな!」
クラークが指示を出し、周囲の騎士や兵士たちが盛り返すとアリアは自由に動けるようになる。
そこからは、アリアの独壇場となる。
「アハ! 貰ったぁぁぁ!!」
周囲の状況もあり、血を見て興奮したアリアは槍を振り回す。
スキルで強化した肉体。
硬化して威力を増す槍。
スピードが上がって周囲の魔物を次々に屠っていく。
その姿を見たクラークは呟くのだった。
「……なんという剛勇。あれで男の子だったら」
勿体ない、そう呟くクラークだった――。
急降下してきたグリフォンの爪を避けると、背中に背負っていた弓や矢筒がひっかかり宙を舞った。
翼の羽ばたきで上昇しようとしたグリフォンだったが、矢筒が衝撃で吹き飛ぶと意識をそちらに取られたようだ。
(爆発したのか? これからは扱いに注意しないと)
背中で爆発されなくて良かったと、爆発する矢が入った矢筒を見た俺は左手を掲げる。
「ライトニング!」
スキルで強化した魔法を当てる。
しかし、グリフォンは地面に着地して体を震わせるとそれだけで元に戻った。
(足りなかった? 奥の手を出すべきだったか)
今の攻撃が効いていないと思った俺にアドバイスをしてくるのは、二代目だった。
『すぐに空に飛び上がらない……効いているな。ま、すぐに自由に動けるようになるだろうが』
五代目が言う。
『あ~、グリフォンとか魔法に抵抗があったな。しかし、思ったよりも強そうじゃないか』
「なら全力で――」
切り札を使用する、その瞬間に二代目が言う。
『馬鹿。地面でも動き回るぞ、こいつら。ほら、向かってきた』
すぐに走って俺の方へ来ると、獅子の体はしなやかに動いて俺に飛びかかってきた。
こちらは前に走って前転すると、グリフォンの真下をくぐるかたちになる。
二代目が言う。
『魔法で一撃必殺……俺のスキルなら可能だぞ、ライエル』
そう言われた瞬間、サーベルを放って獲物を見失ったグリフォンの尻尾を掴んでそのままスキルを使用する。
「フルバーストなら!」
スキル【フルバースト】――自身の能力を倍化するスキル――を使用し、尻尾を掴んで投げようとすると後ろ足が俺の顔面に襲いかかろうとする。
左腕で受け止めると、体が浮き上がった。
その瞬間も右手で掴んだ尻尾は手放さない。
受ける瞬間に飛び上がったのが良かったのか、勢いを殺してそのままグリフォンの背中が見えると尻尾を手放した。
左腕が痛むが骨は折れてはおらず、予備のサーベルを引き抜いたところで背中に乗った俺を振り落とそうと暴れ始めた。
グリフォンの背中は、相当獣臭い……。
六代目が言う。
『一対一の男の勝負か! こういうのを待っていたぁぁぁ!』
「五月蝿いよ!」
左手でグリフォンの首元を掴み、サーベルの刃を噛むと俺は腰に下げた鞄からロープを取り出す。
六代目の意見を聞いて準備をしていたが、妙な敗北感を感じた。
元から輪っかを作っており、こちらを振り向けないグリフォンの首に投げつけるとそのまま強く引っ張り首を絞めた。
グリフォンの甲高い声に耳が痛くなるが、離さないようにロープを左腕に巻き付けようとすると痛みがあった。
「ちっ、なら右手だ」
右腕にロープを巻き付け、サーベルを手に取るとグリフォンが翼を羽ばたかせる。
「飛ぶのか。すぐに止めを――」
三代目が忠告してくる。
『あ、一撃で仕留めなよ。返り血を浴びると滑りやすくなるから。それに、空を飛んだら止めを刺す時は着地出来そうな場所で――』
「なんでそんなに余裕なんだよ! こっちは余裕がないんだぞ!」
そう言うと、七代目が言うのだ。
楽しんでいるのが声色で理解出来た。
『ライエル、男とは強敵と戦って成長するものだ。強者がいてこそ、成長出来るのだよ。それにな、ウォルト家の男ならこの程度はできて当然だ』
色々と間違っていると思いながら、浮き上がったグリフォンに跨がり足で胴体を締め上げてしがみつく。
空の上で投げ出されれば、ロープを握っていても危険だろう。
右腕に巻いたロープを引っ張り、空へと舞い上がるグリフォン。
空の風は地上よりも冷たかった。
振り落とそうと暴れるグリフォンの背中で、俺は周囲を見るのだった。
景色が変転し、空が下に。地面が上になると、そこでグリフォンが空中で上下を逆転させたと知るのだった。
「この距離で落ちたら死ぬだろうが! この野郎ぉぉぉ!」
サーベルを持ったまま魔法を使用し、俺の体から紫電が発生する。グリフォンが上空で暴れると、景色がコロコロと変わっていく。
暴れ回って振り落とそうとするので、必死にしがみついて耐える。
魔法を使用するとグリフォンの動きが鈍くなった気がするが、それでも高度が落ちない。俺を空高くから落とすつもりのようだ。
三代目が言う。
『高いなぁ』
四代目も。
『これ、自由に出来たら金になるんだけどなぁ……娯楽にも輸送に使えるんだけどなぁ……』
お前ら、俺の心配をしろ! そう言いたいのを我慢して、持ってきた荷物から今度は布を取り出すのだった。
サーベルを鞘にしまい、魔法で布を水に濡らす。そして、グリフォンの頭部に投げつけると視界を塞ぐのに成功した。
六代目が言う。
『水に濡らして貼り付けたのか。やるじゃないか!』
五代目は。
『このまま高度が落ちたら、止めだな。……あれ? 最初から水で濡らせばここまで高く飛ばなかったんじゃね?』
「……先に言えよぉぉぉ!!」
叫んで暴れ回って、スキルの使用で無理矢理グリフォンの背中にしがみついて――。
空の上という事もあって、普段では感じることが出来なかった感覚を何度も経験する。
地面が遠いだけで、ここまで不安になるとは思わなかった。
落ちていく感覚もそうだが、踏ん張りが出来ないというのはなんとも――。
「さっさと……落ちろぉぉぉ!!」
魔法で紫電を発生させる。
水で濡らさなかったのは、無茶苦茶寒いという事もあったからだ。
体が耐えきれないというか、寒さで動かなくなる。それに、しがみつくのも大変そうだ。
グリフォンの体は焦げることはない。だが、確実に効いているのか首を振り回す力が弱くなっていた。
フラフラと降下していくグリフォンを、締め上げたロープや胴を挟み込んだ足で操作しようと俺はもがく。
(村が見えた。このまま心臓を……って、どこだよ!)
心臓の位置が分からないでいると、二代目がアドバイスをしている。
『ライエル、こんなのは大体同じだ。骨に守られている内側だ。骨の間に差し込んで仕留めれば良いんだよ』
「その位置が分からないんですけど!」
『馬鹿、なんのためのスキルだよ』
ハッとして二代目のスキルを使用すると、既にフルオーバーの効果が切れかかっていた。
魔力を大量に消費したが、それでも相手の心臓の位置が分かる。
強い光が脈打っている感覚。
光の中で一番強く光っており、俺はサーベルを左手で握りしめるとその位置に狙いを定めた。
(ちくしょう、フラフラしてきた)
スキルを複数使用すると、ガリガリ魔力が減っていく気がした。高度が下がって村が近づくと、俺は村の戦闘が終りを迎えようとしているのに気が付いた。
地面への距離が近づき、この距離ならば、と俺はサーベルをグリフォンに突き刺すのだった。
深々と差し込むと、これまでにない叫び声をグリフォンが発し、耳が痛くなる。
サーベルを引き抜くと、血が勢いよく噴き出してグリフォンは北側の門に向かって落下していく。
「こいつ――」
すると、次の瞬間。
『ライエル!』
二代目の声と共に、俺は村の中央へと視線を向けた。
グリフォンが壁に激突し、そのまま俺の体は宙に投げ飛ばされる。
――戦闘が終了に近づいていた。
魔物の数は減り、空ではバチバチとライエルが魔法を使用しているのがシャノンには分かっていた。
心配になって見ていた姉のミランダがいる東側では、ヒッポグリフが無残な姿になってしまっている。
「……ちょっと引くわ」
姉に対してこれまで以上に警戒しようと思ったシャノンは、近くにいたノーマを見る。
今までミランダばかりを見ており、近くではノーマが空を見上げては伝令が来ると報告だけ受けていた。
ノーマが言う。
「あんな戦い方があるのか」
シャノンはそれに対して、言い返した。
「普通は絶対にしないわよね。あいつ、頭おかしいんじゃないの?」
ノーマもそれに頷いていたが、彼女にしてみればライエルがグリフォンに勝利すれば出世のチャンスである。
いや、確実に出世するだろう。それだけの大きな功績である。
ノーマはニヤニヤしていた。
「今にして思えば運が良いな。グリフォンが率いていた魔物の数は予想よりも多かったが、規模が小さいと言える。普通にグリフォンを相手にすると思えば、この戦場は美味しかったな」
シャノンは呆れながらノーマを見ていた。
そして言うのだ。
「私も人のことは言えないけど、あんたはもっと上手くやれば? そんなやり方だといつか失敗するわよ」
すると、ノーマは一瞬だけ悲しそうな顔になるとすぐにいつもの他者を見下した顔になる。
「馬鹿か? この世の中は綺麗事じゃないんだ。騙された方が悪いんだよ。私に手柄を譲ったあの青い髪の男も、いつかきっと後悔する」
シャノンは思う。
(たいして気にしないと思うけどな)
実際、ライエルの価値観は大きくズレている。
今回の事もそうだが、本人は見ている視点が違うのだ。
シャノンは、ライエルの周りに浮いているような六つの光を思い出していた。
徐々に静かになる戦場だが、中央で治療を行なっているノウェムの方は忙しそうだ。モニカも炊き出しに雑用に忙しく動いている。
戦闘は終りを迎え、気の早い村人たちが顔を出していた。
「出て来たら駄目じゃない」
ノーマは言う。
「戦闘も終りだが、誰かに下がらせるように言うか」
ノーマは近くにいた伝令に村人に戻るように言え、と命令していた。
シャノンは北側を見た。
姉のミランダが東側にいたので気にしていなかったのだが、北側はヒッポグリフもおらず一番戦力が整っている。
安心していたというよりも、シャノンの中で危険度は低かったのだ。
そして、北側を見るシャノンは――。
「え? 生きてる」
そう呟くと、ノーマが聞き返す。
「なんだ? 怪我人でも……」
そう言ったノーマに、シャノンは大声で言うのだ。
「ヒッポグリフが生きてる!」
ノーマはそれを聞いて、目を見開くのだった――。
――周囲が静かになり、避難していた村人は外に出る。
大人たちが外に出ると、ルカも他の子供たちと一緒に外に出るのだった。
「勝った……俺たちが勝ったんだ!」
「守ったぞ! 俺たちの村が救われたんだ!」
「良かった。本当に良かった……」
叫び、泣いている大人たちを横目で見たルカは、周囲を見渡すとライエルの弓が地面に刺さるように立っているのが見えた。
弦は切れており、心配になったルカは飛び出すのだった。
そして、タイミング悪くその後に伝令の兵士が村人に戻るように言うと全員が戻っていく。
駆けだしたルカは、弓の近くに来るとそこにライエルが倒れていないのを見て安心した。
「良かった。ライエル様は無事だ」
しかし、地面が黒くなっている場所もあり、矢筒がバラバラになっているのを見る。
「だ、大丈夫だよね?」
弓を拾い、周囲をキョロキョロと見渡すと、そこに北側で激しい音が聞こえてきた。
そこには動かなくなったグリフォンに乗ったライエルが、手を動かしている姿が見えた。
手を振っていると思ったルカも、ライエルに向かって手を振り返す。
「凄ぇ! やっぱり、ライエル様は凄いや!」
大きく手を振るルカの近くでは、ヒッポグリフがゆっくりと立ち上がっていた――。
村で少し高い位置にある中央部分。
北側の壁に激突して壁を突き破ったグリフォンは、今はピクリとも動いていなかった。
そして、俺は外に出ていたルカを見つけてしまった。
俺を心配してクラークさんも駆け寄ってきた。
北門にぶつかったグリフォンから投げ出された俺を、心配しているのは分かっている。だが、俺にはそれよりも重要な事があったのだ。
「ライエル君、立ち上がっては駄目だ!」
ぶつかった衝撃でフラフラになった俺だが、それでも大声を張り上げてルカに向かって叫ぶ。
「そこから逃げろ! 逃げるんだよ!!」
アリアが肩を貸してくれたので立ち上がれているが、ルカは手を振っていると思ったのか弓を持ってこちらに手を振っている。
そして、周囲では戦闘が終わったと思っている騎士や兵士たちが多く、誰が倒したと言い合いになっている連中もいた。
戦いは終わったと思い込んでいる。
ルカの後ろには、ゆっくりと立ち上がるヒッポグリフの姿が見えたのだ。
そして、二代目が言う。
『おい、分かってんだろうな……この状況を!』
不意に二代目が見せてくれた記憶がよみがえった。
死んでしまった長男を抱き上げ、泣きわめく二代目の姿だ。
この場の誰もが気が付いていない。
そして、気が付いても間に合わない。
俺は歯を食いしばる。
(なんでだよ……上手く行っていたじゃないか……なのに、なんで!)
『悩んでるんじゃねーよ! お前にはできる事があって、あの子を救えるんだろうが!』
二代目の声は必死だった。
『俺にあんな光景を二度も見せるのか! そんな事をしたら、絶対に許さねーからな! ライエル! 頼むから……助けてくれよ!』
俺は俯いて自分の足に力を入れる。
(……分かっていましたよ)
心配するアリアが、俺に声をかけてきた。
「ライエル、あんた横になって休まないと」
(分かっていたんだよ!)
俺は顔を上げるとアリアからフラフラしながらも離れて、自分の足で立ち上がるのだった。そして、二代目の叫び声を聞く。
『死んだ人間と生きている人間を秤にかけんな! 俺はもう死んでるんだ! もう、お前に伝えたいことは伝えただろうが! だから、だから……もう、俺の前で子供が死ぬところを見せるんじゃねーよ!』
覚悟を決める。
痛む左手で俺は宝玉を握りしめると、引きちぎるように首から取る。
しかし、鎖は外れるとそのまま左腕に絡んで宝玉は光を放つのだった。
銀色の装飾は膨れあがり、大きな弓の形になる。
銀色の弓の中央には宝玉が位置していた。
だが、その銀色の弓には弦がない。
周囲が騒然となると、アリアが声を出す。
「銀色の弓? それ、前は大剣だったはずじゃ……」
クラークさんも驚いている。
右手を宝玉のあたりに持って行くと、宝玉は光り出して青い光を出す弦が出現した。
構えて引くと、魔力で出来た矢が出現する。
青白く光る矢は、強く引けば引くほどにその形をハッキリとさせていく。
『そうだ。それでいいんだよ。俺のスキルを使え……ライエル。そのスキルは、もうお前のものだ』
弓を引く俺は、歯を食いしばっていた。悔しくて悲しい気持ちだ。
嫌だった。
だって――。
「そうだよ……俺は……でも、別れたくなくて……」
呟く俺に、アリアは言う。
「ライエル、あんた泣いて……」
そして、騎士の一人が気付いたのか叫ぶのだった。
「おい! ヒッポグリフが!」
全員が見ると、オロオロとしている子供の後ろで起き上がって今にも子供を襲おうとしているヒッポグリフの姿が見えていた。
『ありがとうな、ライエル……楽しかったぞ』
二代目の照れくさそうに笑う顔が思い浮かぶと、俺はスキルを使用する。
「セレクト――」
それはスキルを使用する相手を決めるスキルだ。
俺の周囲で入り乱れて敵味方が戦っていても、味方だけにスキルを使用出来る本物のサポートスキル。
逆を言えば、敵だけに使用する事もできる。
動き回る敵味方を識別し、スキルだろうが魔法だろうか当てることが出来る。必ず当たる、というものでもないが……その精度はかなり高い。
二代目はこのスキルを使用し、複数の矢を一度に構えて別々の目標に当てることが出来たという。
二代目の三段階目であるスキル――。
ヒッポグリフに狙いを定めた俺は、弦を離す。
二代目は――。
『……頑張れよ』
(どうして……)
魔法で作り出された光の矢は、真っ直ぐにヒッポグリフに飛んでいく。
矢を離した瞬間に周囲には風が巻き起こっていた。
(……なんで)
ルカが後ろから飛びかかるヒッポグリフに気が付き振り返っていた。
(安心した声で言うんですか。俺はもっと……色々教わりたかったのに……。消えないで、なんて言えないじゃないですか……)
光の矢は光の尾を作り出し、そしてヒッポグリフ目がけて一直線に進むと、体を突き抜けて空まで飛んで雲に穴を開ける。
貫かれたヒッポグリフは、大きな穴を開けて燃え上がっていた。
ルカは地面に尻餅をついており、俺は構えを解くと銀色の弓も消えて鎖は俺の左腕に巻き付いていた。
宝玉が青く光ると、そのまま地面に膝をついてしまう。
「ラ、ライエル!」
「すぐに担架を! 急いでライエル君を!」
アリアとクラークさんの声が聞こえた。
アリアに支えられた俺は、涙を流し呟く。
「俺……ちゃんとお別れを言っていないです……二代目様……」
意識が遠のく時、歩き去って行く二代目が右手を上げてヒラヒラと振っている姿が見えたような気がした。
自虐で『俺は地味だから、最後も地味で良いんだよ』などと聞こえた気がする。