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セブンス  作者: 三嶋 与夢
動物大好き効率厨な五代目
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ジオニ村

 舐めていた。


 ここまで酷いとは思わなかった。


 俺は、言い争う集団を見て、そんな感想を抱いていた。


 朝――。


 クラークさんは俺の提案を受け入れ、義勇兵をいくつかの集団にまとめてくれた。


 そこまでは良かったのだ。


 しかし、問題はその集団である。


 十名程度にまとめた集団に、騎士が入れば良かった。


 だが、いくつかの集団にまとめるのなら、監視する騎士は集団に配置しなくても良いと隊長の言葉で取りやめになったのである。


 移動する集団の後ろ、中間に監視役の騎士が馬に乗って兵士を連れていればいい――。


 確かに移動だけならそうだろう。


 しかし、その際に責任者を決めると言うと、揉めてしまったのだ。


 責任者と言っても、人数確認や報告などのやり取りを任せる存在だ。


 そんな仕事を奪い合っているのである。


「俺の方が官位は高いだろうが!」

「装備もろくに揃えられない野郎が、でかい口を叩くな!」

「せっかくのチャンスを逃してたまるか!」


 争っている彼らの中では、小隊長を決めると思い込んで大きく揉めたのだ。


 最初から集団で参加しているところは、数にものを言わせて責任者を決めた。


 その様子を見た俺は、呆れるばかりだった。


「……なんで、この程度で」


 そう言うと、マーカスさんが俺に言う。


「気持ちは分かるな。ここで人数を率いる立場になれば、手柄を手に入れるチャンスが増える。そう思ってもおかしくねーよ」


 簡単な依頼だと思っていた。


 確かにヒッポグリフは危険かも知れない。


 だが、倒せないほどの敵でもない。


 そう思っていたのだが、ここまで味方が酷いとは思いもしなかった。


 初日に動きが悪いと思っていたが、今はこんな集団で戦えるのか疑問に思えてきた。


 宝玉の中からは、三代目が笑い出す。


『何これ、酷い』


 二代目も同じだった。だが、余裕があるみたいだ。


『揉めるんだよな。しかも人生かかっているとか思うから、余計に揉めるんだよ。部隊を率いている奴を見れば、俺たちなんかなんとも思っていないと分かるだろうに』


 五代目が言う。


『俺ならこんな集団を率いるのはごめんだな』


 六代目は。


『三ヶ月もあれば、半分以下にしてある程度は使えるようにできなくもないですがね』


 引きつった表情をする俺に、ミランダさんが言う。


「ほら、さっさと食事を済ませて出発の準備をしましょう。モニカが食事の準備を済ませているから」


 争う集団を眺めながら、俺はポーターの近くで食事をしている仲間の下に向かうのだった。






 移動中、俺は休憩もかねてポーターの荷台部分に乗る。


 荷台には荷物が満載されているが、モニカとシャノンが乗り込んでいるので人が入れるようになっていた。


 毛布が置かれており、割と快適な環境が整っている。


「お前、何をしているんだ?」


 シャノンを見ると、モニカと一緒に手に毛糸を結んだもので交互に交換していた。


 毛糸が渡されるごとに指の間を通っているので、形が変わっていく。


 他にも、ジャラジャラ音のする布で巻かれたものや、玩具が荷台には広がっていた。


「暇なのよ! 移動するだけで、基本的に座っているだけなのよ。外に出て歩けば寒いし、視線がまとわりついて嫌な感じなの!」


 怒るシャノンは、モニカから毛糸を受け取ると失敗したのか形が崩れてしまった。


「あぁぁあぁぁ!! どうしてくれるのよ! これで何連敗したと思っているの!」


 悔しそうにするシャノンに、モニカはニヤリと笑って見せた。


「甘いのですよ、小娘。このモニカ、暇つぶしも多種多様に心得ております。特別機に遊びで勝とうなどお笑いものです。あ、チキン野郎は適度に勝たせてあげますよ。そうしないとつまらないでしょうし」


 そんな接待込みの遊びなど、分かっていたらやりたくもない。


「ちぇっ、勝てないならもう良いわよ。編み物でも作るわ」


 目の見えないシャノンが、作りかけの編み物を取り出すとチマチマと編み始める。


 それを見て、モニカは片付けを開始した。


「見えないのによく編めるな」


 感心していると、シャノンは自慢気に背を反らして、ない胸を見せつけているような仕草をとる。


「普通に見えないだけで、ちゃんと情報としては認識しているのよ。あんたとは違うのよ」


 鼻で笑ってくるシャノンのホッペタを掴み、横に引っ張る。


「柔らかいな」


「痛い! 痛いってば! ちぎれちゃう! 止めてよ! 痛いじゃない!」


 それを聞いて、モニカはソワソワし始める。ポーターの後部にあるドアをチラチラ見ては、何かを待っている様子だ。


「何をしているんだ?」


 俺がそう聞くと、シャノンのホッペタから手を離したので舌打ちしていたい。


「ちっ! この場面で勘違いをした連中が、中に入り込んでくると思ったのに! 思ったのに! どうしてお約束を実行しないんですか。……空気読めよ」


 勘違いは置いておくとして、空気を読めていないのはモニカではないのか? そう思っていると、ポーターが止まる。


 休憩には早いので、俺は立ち上がるとすぐに外に飛び出した。


 ポーターから降りると、ドアを閉めて周囲を確認する。


「何があった」


 後ろを歩いていたアリアが、俺に説明をしてくる。


「魔物よ。騎士が相手をしているわ。それにしても、こっちには回すつもりがないのかしら」


 アリアの視線の先を見ると、そこではオークを騎士が囲んで相手をしていた。


 武器は揃っているのだが、どうにも囲んでいるだけで決定打がない。


 そこに駆けつけたのはクラークさんだった。


 弩を騎乗したまま放つと、オークの頭部に矢が突き刺さっていた。


 宝玉から声がする。


『へぇ、良い腕じゃないか』


 二代目の声だった。


 だが、頭部に突き刺さった矢にオークが膝をつくと、一人の女性騎士が馬を走らせてそのまま飛び上がる。


 オークへと落下しながら剣を振るい、そのまま剣に魔法が宿ったかと思うとオークを斬り伏せてしまった。


 派手さもあって、使い勝手の良い魔法なのだろう。


 だが、俺の感想は違う。


 アリアは口笛を吹いた。


「凄いわね。燃え上がっているわよ」


 目の前でオークが燃え上がり、女性騎士は剣を鞘にしまっていた。


 ただ、アリアも褒めているだけではない。


「ただ、最後にあそこまでする? もう終わっていたようなものよね」


 頭部に矢が刺さったのだ。


 後は囲んでいるだけでも良かった。止めを刺す必要はあったとしても、わざわざあそこまでする必要はない。


(最後に目立つために、止めを刺したのか?)


 そう思っていると、ノウェムが治療した若い男が声を上げる。


 助けた後にこちらの指示に従って貰う様に交渉し、今はマーカスさんの下についてもらっている。


「流石に本物の騎士は違う、ってか。十騎長だよな」


 同じようにろくな装備を持っていない若い男も、憧れた視線を向けていた。


「俺もあんな風になれるかな」


 そんな二人を連れていた年上の青年は、少し呆れたように言う。


「お前ら、普段から真面目じゃないのに、こんな時だけ……」


 気が付いていないようだ。


 アリアもそれを見て、少しガッカリした感じで三人組みを見ていた。


(外で魔物の相手をしていなければ、こんなものか)


 騎士たちの実力を見て、確かに十騎長である女性騎士はある程度の腕があるのは理解できた。


 だが、一番動きが良かったのはクラークさんだ。


 無理に止めを刺しに来たノーマという女性騎士とは、できれば一緒に戦いたいとは思えない。


 火が消えたオークから、騎士たちが連れていた兵士が素材や魔石をはぎ取っていた。


 その間、クラークさんは周辺の警戒などを、指示を出しつつ行なっている。


 よく動いている人だ。


 なのに、ノーマさんは馬に乗って先頭に戻っていってしまった。


 七代目が呆れたように言う。


『何故、部下に仕事を任せない? あれは部隊を指揮する者だろうに』


 三代目が笑っていた。


『一人の騎士として見れば優秀だけど、人を使う立場にしたら駄目な人間だよね。ま、若いから手柄が欲しいんだろうけど。魔物を倒すと『キルスコア』とかなんかあるんだったかな?』


 王宮の騎士たちにとって、魔物を倒した数というのは騎士の役目を果たしたとして重要視される。


 強さの証明でもあるからだ。


 ゴブリン程度の小物では数にならないが、オークやオーガなら十分な成果であろう。


 特に、一対一で倒した数が重要らしい。


 アリアが、ノーマが戻るのを見て集団が歩き出したので、未だに魔物から魔石などを回収している集団を見る。


「もう移動? 待ってあげてもいいのに」


 俺はアリアに言う。


「急いでいるんだろ。魔物に遭遇する回数が多いから、その度に移動が止まる。予定していたよりも到着が遅れているのかもな」


 アリアは不満そうにしていた。


「ライエル……なんでこんな依頼を受けたのよ。あんたがリーダーだし、その辺の判断に口は出したくないけど、ミランダのお父さんだから、って断っても良かったんじゃない」


 俺は歩き出すと、空を見上げた。


 そして、受けた理由を呟く。


「……たぶん、少し甘く考えていたと思う」


 そう言うと、アリアが俺をジト目で見てくる。


「あんた、どうして時々そんなにのんきなのよ。私たちの命がかかっているんですけど?」


 そう言われた俺は、頭をかくのだった。


 本当の理由を言うべきか悩んだが、甘い考えには違いないので黙っておく事にした。


(ご先祖様が村を犠牲にするのを嫌がったから、って言っても伝わらないよな)


 特に二代目が、この依頼を聞いた時に相当腹を立てていた。


 自分でも、甘く考えて救えるのなら、という気持ちだったのは事実だ。


 その結果、今の酷い状況である。


(うん、引き受ける前に、しっかりと調べておくべきだった。本当に甘いな、俺は)


 曇り空で、口から吐く息が白くなっている。






 ジオニ村に到着したのは五日目の事だった。


 そこまで行くと、最終的にグループ分けをした効果が出ていた。


 野営の準備や見張り、そして集団としての行動が取れるようになっていたのだ。


 それでも、ご先祖様たちからすると駄目だと言われている。


 部隊が到着すると、出迎えたのは白髪の長い髪をボサボサにした男だった。


 村長をしているその男は、疲れ切った表情をしているために年齢よりも老けて見える。


 建物の一部が破壊された家もあれば、村を守るための丸太の壁が倒れているところもあった。


 何度も襲撃を受けたのか、村人たちも疲れた表情をしている。


 そして、俺たちを怖がるように見ていた。


 まるで敵でも見ているかのような視線を受け、俺の近くにいたノウェムが言う。


「……怖がられていますね」


「救出に来たつもりなんだけどね」


 そう言うと、ノウェムは俺に教えてくれた。


「小さな村のようですから、百名以上の武装した集団が来るだけでも恐怖ですよ。それに、何度も襲撃されたのでしょうね」


 近くに魔物が住み着き、村を餌場のように襲撃を繰り返していたようだ。


 怖がっている村人たちが、家の窓から俺を見ていた。


 視線を向けると、窓を強く閉める。


 マーカスさんがそれを見て言う。


「感じが悪いな。せっかく来てやったのに」


 ブレッドさんは嫌味を言いつつ、同意していた。


「柄の悪い騎士がいたからでは? それはともかく、私としても気分が良くありませんね。こんな態度を取られては」


 俺たちから見れば、確かにそうだろう。


 しかし、そんな二人にノウェムが言う。


「……今の言葉を、村の人たちには思っていても口にしないでくださいね」


 二人は不思議そうにしていた。


 俺も同じだったが、俺の場合は二代目が教えてくれる。


『助けに来てやった? そんな気持ちでいるから駄目なんだろうが! ここは王族の直轄地! お前ら宮廷騎士には守る義務があるんだよ! 誰のおかげで食っていけると思っているんだ! それを分かっていない奴が偉そうに来てやったとか……』


 文句を言う二代目に、七代目が言葉をかける。


『大きくなりすぎて、役割も細分化していますからね。その辺の責任を感じないのでしょう。王宮も同じです。小さな村が潰れようが、助かろうが小さな出来事なのですよ』


 自分の責任ではない。


 確かに役職を与えられている訳でもなく、マーカスさんの仕事ではない。責任があるのかと言われると、疑問だった。


 マーカスさんは、仕事が欲しくともなかった騎士である。


 しかし、騎士であるからには守る義務はあるという事だろう。


(大変だよな、宮廷騎士や貴族も)


 ノウェムは、一緒に行動している三人組みを見る。


「あなた方も、ですよ」


 すると、口の悪い男は助けられたこともあってか、ノウェムに頷いていた。


「いや、流石に助けられたから従うけどよ。この村の連中は態度悪くないか?」


 仲間であるチャラチャラした男も同じだった。


「だよな。セントラルから駆けつけた、っていうのにさ」


 二人の責任者のような青年は、溜息を吐く。


「治療して貰った上に、食事も分けて貰って口答えか? 悪いな。俺からも注意しておく」


 青年の方は割としっかりしている。


 俺はノーマさんとやり取りをしている村長を見るのだった。


 青い表情で、必死に訴えている。


「襲撃を受けたのは今朝か? なら、しばらくは安全だな」

「そんな! すぐにでも倒してください。夜も怖くて眠れない村人もいるのです。奴ら、この辺のゴブリンなども引き連れ、村人をさらって……被害はもう四十名を超えたんです!」

「到着したばかりだ。兵を休ませる。食事の準備をしてくれ」

「そ、そんな……」

「また襲ってきても我々が対処する! 貴様は指示されたとおりに動け!」


 ノーマの態度を見て、俺でも流石にまずいというのは理解できた。


 人を動かすために厳しい態度も必要だろうが、もっと言い方があるのではないか?


 俺は村を見た。


 確かに村人の数が少ない気がする。


 スキルを使用すると、誰も住んでいない家もいくつかあった。


 そして――。


「……まずいな。ノウェム、全員を集めてくれ。俺はクラークさんに伝えてくる」


「どうしました、ライエル様」


 ノウェムが俺を見て首をかしげてくる。


 宝玉内のご先祖様たちも、俺を通して情報を得ている。


 二代目が言う。


『何がヒッポグリフだよ。大物が隠れてやがったな』


 三代目も同意する。

『確かにヒッポグリフがいれば、なんとなくそんな気は……』


 四代目が言う。


『高く売れるんですよね。でも、このままだとなぶり殺しというか』


 五代目は。


『確かにヒッポグリフの親分的な立ち位置だな』


 六代目が。


『大方、子分的な役割をヒッポグリフが担っていたのでしょうな』


 七代目が、その魔物の名前を言う。


『倒せるかどうか不安でしたが、これで確信しました。このままだと負けますね。まさか――グリフォンがいるとは』


 鷲の頭部と翼に獅子の体。


 ヒッポグリフよりも巨体で、獰猛な魔物である。


 空の脅威とされ、ヒッポグリフを引き連れて村などを襲撃すればいくつもの村が消えていくことになる魔物だ。


 俺は、恐怖を煽らないために、ノウェムに言う。


「先に知らせに行く。みんな集めておいてくれ。このまま休憩に入るなら、適当な場所にポーターを止めておく必要もあるから……どこかの民家に話を付けないといけないな。その辺の交渉は任せる」


 ノウェムは、俺に任されたと思ったのか笑顔になる。


「はい。では、先に私とミランダさんで交渉をしてきますね。大勢で行けば脅したみたいになるので」


(そうだな。確かに女性が多くても、数がいれば脅しているみたいだよな)


「悪い。任せる」


 俺はそのままクラークさんを探すために、早歩きでその場を去るのだった。






 部下に指示を出しているクラークさんを見つけた俺は、事実を話すことにした。


 流石にノーマさんとは面識がなく、頼りになりそうなのはクラークさんだけだったのだ。


 そして、彼は俺の情報を聞いて目を見開く。


 小さな民家の裏で話をした。


 俺にはスキルがあること。


 そして、そのスキルでグリフォンを発見したことを。


「グリフォン、だと……それは、精鋭をぶつける相手だよ。とてもじゃないが、寄せ集めの我々では」


 苦しそうな表情をするクラークさんは、青くなっていた。


 俺は失礼だが聞いてみることにした。


「隊長や騎士たちの腕は、その……」


 クラークさんは首を横に振る。


「確かに騎士団に所属しているから、訓練もしている。けどね、ノーマ隊長以外は騎士として私もだが実力的には下の方だ。どうしてこんな編成になるのか疑っていれば、まさかここまで……こちらも失礼だと思うが、君のスキルは外れる事はあるのかな?」


 クラークさんの視線が、俺の青い宝玉を見ていた。


「……外れませんね。確実にグリフォンがいます」


「そうか。確かにこの集団では随分と落ち着いて頼りになると思っていたが……君が嘘をいう可能性もあるとは思うが、とてもそんな雰囲気でない。それに、思い当たる節もあるんだよ」


 クラークさんは、この面子で遠征というのが怪しいと思っていたのだ。


 ノーマさんが隊長に選ばれ、普段から問題のある連中が集められた印象を持っていたようだ。


 そして――。


「噂があったんだよね。セントラルが財政難で増えすぎた貴族を減らすんじゃないか、ってね。そうか……最近だと上の方が次男や三男に家を持たせると聞いていたが、そんな事は難しいと……」


 落ち込んで倒れ落ちそうになるクラークさんを支えた。


 王宮やセントラルのことに詳しくなかったが、どうにも裏があったようだ。


 五代目が低い声で言う。


『あの野郎……もしかしたら知っていたかも知れないな』


 あの野郎とは、ラルフさんの事だろう。


 七代目が言う。


『わざと娘たちが知るように遠征の話を聞かせ、誘導したと? まぁ、宮廷ネズミはそういう事が得意ですからね。ライエルやマーカスたちを消して、教育できているミランダを実家に戻して婿を取るつもりだったのか……まぁ、どちらでも損はない訳ですからね。ライエルが受けなければ、二人が死んだ。ライエルが受けてミランダが手元に残れば、ライエルが死んで娘も手元に戻ってくる。手の平の上で転がされた感じですな』


 六代目が呆れつつ。


『だが、依頼を受けたのはライエルだからな……ただ』


 宝玉内の六代目が、ニヤリと笑ったような気がした。


 三代目も笑っている。


『舐めているよね。この程度で殺れると思っていたなら、大甘だよ』


 四代目も同じだった。


『ここはやっぱり、大きな手柄にしてセントラルに帰るべきだろうね。きっと王宮の連中も大喜びだ! 何せグリフォンを倒した一団! もしかしたら、爵位持ちが誕生するかも知れない! 何人が昇進するのかな? きっと財政がさらに圧迫されるね!』


 二代目も同意見だった。


『村一つとこれだけの人間がいなくなれば、喜ぶ連中がいるんだろうな……でもさ、そういう連中の嫌そうな顔を見るのは、楽しいよな!』


 何故だろう。


 ご先祖様たちが喜んでいる。


 クラークさんが微妙な表情をしている俺を見て、自分の不甲斐なさを責めていると思ったのだろう。


 謝罪をしてくる。


「すまない。万年平騎士の私だが、ここで諦めるなど騎士として恥ずかしいことだ。ライエル君、強制はしない。だが、出来れば逃げるのなら女子供も一緒に――」


 俺は笑顔になる。


 そして、言うのだ。


「何を言っているんですか、クラークさん。これはチャンスですよ」


「……チャンス? いや、ライエル君、言っては悪いがグリフォンは騎士団でも上位の実力を持つ騎士たちが相手をする魔物だ。ノーマ隊長でも中位に届くか届かないかだよ。ここは時間を稼ぐから、君たち若者は――」


 逃げるように言ってくるクラークさんだが、俺は騒いでいるご先祖様たちの声が聞こえてくるので五月蝿かった。


 二代目から順に。


『さて、まずは村人の協力を得ようか。ライエルの社会勉強だと思っていたけど、これはこれで面白い事に――』

『部隊の掌握ができると楽だよね……ま、従わないなら魔物の餌と言うことで。半分もいれば、後は村人に協力して貰って何とかしようか』

『ライエル、金の魔力を教えてあげよう。良い社会勉強だよ』

『なんだろうな……こう、ワクワクしてくるよな。地形を把握して、人員を配置して……迎え撃つか、それとも攻め込むか』

『大物ですな。俺たちの頃は誰が討ち取るか競ったものです。攻め込むのに一票で』

『頭部は剥製がいいですかね。上手く行けば全身の剥製も手に入ります。残念なのは、飾る場所がないことでしょうか』

(あ、あれ……誰も悲壮感がない。グリフォンは強敵だよね。というか、迷宮のボスよりも強いよね?)


 七代目だけが、剥製にしても飾る場所がないと落ち込んでいるだけだ。


 そもそも、落ち込むポイントがズレている。


「大丈夫ですよ、クラークさん……」

『『『楽しくなって参りました!!』』』


 たぶん、俺は複雑な表情をしていたと思う。


 クラークさんが、違う意味で青い表情をして俺を見ていた。


 ご先祖様たちに騒がれ、そしてクラークさんを安心させようと発した言葉は――。



「楽しんでいきましょう」



 クラークさんは、素早く上下に何度も頷くのだった。


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