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セブンス  作者: 三嶋 与夢
お金大好きで恐妻家な四代目
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ポーター

 予定を合わせて久しぶりに迷宮に挑んだ俺たち。


 普段のメンバーは、俺、ノウェム、アリア、ミランダ、クラーラ、ポヨポヨ、ポーターという面子だ。


 ポーターを中央に配置し、アリアが先頭に立って移動をしている。


 いくつか改造したポーターは、荷台に細い柱を付けて天井を取り付けていた。


 迷宮に天気は関係ない。


 しかし、戦闘で荷物が攻撃を受けるのを防ぐために取り付けたのである。


「やっぱり、箱形にした方が良いかな?」


 俺が軽量化を重視するよりも、頑丈にしたいというとポヨポヨがアゴに手を当てて言う。


「むしろ、盾を前面に展開するのではなく、もっと攻撃的に……スパイクをつけてポーターを突撃タイプにしてはいかがです? 敵や罠など破壊して進めば良いんですよ!」


 それを聞いた俺は、良いかも知れないと一瞬思ったが、すぐに首を横に振った。


 大事な荷物を持ったポーターが突撃し、破壊でもされたらかなわない。


 クラーラも額に手を当てて言う。


「……他の冒険者を巻き込んだらどうするんですか? 絶対に駄目です」


 ただ、ポーターに取り付けた大きめのランタンは良い感じだった。


 魔力の消費を抑えてくれる。


 代わりに、お金はかかるようになってしまったが。


 通路が明るく、頻繁に消す事が出来ないのが問題ではあった。


 前を歩くアリアが止まると、そのまま通路を曲がった先に敵がいる事を知らせてくる。


「少し静かにしてよね。こっちは音も聞かないといけないのに」


 ノウェムはポーターの横を歩き、反対側をミランダが歩いていた。


 クラーラはポーターの前を歩いている。


 後方が空いているのだが、いざとなればポーターの影に隠れるつもりであった。


 そうなると、やはり頑丈さは欲しい。


 金属の板がデタラメに張られたような通路内に、アリアが言うように足音が聞こえてくる。


 俺は指示を出す事にした。


 だが、以前とは違っている。


「ノウェムは魔法の準備を、一回当てたら残りはアリアと俺で対応する。抜けたらミランダが二人を守ってくれ。ポヨポヨは後方の警戒な」


 一人だけ後方の警戒とあって不満な口ぶりで、ポヨポヨが――。


「暗くてもハッキリ見えるのに……あの程度の数はすぐ片付くのに……」


 文句を言っていた。


 出来るのは分かっているのだが、今回の迷宮への挑戦は今のメンバーがどこまでやれるのかを見るために行なっている。


 地下一階から地下五階までの戦闘にポヨポヨを投入するのは、その目的に反していた。同時に――。


「お前が戦うと金にならないんだよ」


 宝玉からも同意する声が聞こえた。お金に厳しい四代目だ。


『大事だよね。挑むだけでも金がかかるのに、そこのオートマトンがグチャグチャにすると収入が減るから……はぁ、普通に荷物運びや回収でお金を稼いだ方が効率は良いのに』


 四代目の言う普通とは、俺がポーターで冒険者を目的地まで運ぶ、あるいは戻る時に回収する事を意味していた。


 これがとてもいいお金になる。


 下を目指す冒険者は、荷物を運んで貰い場合によっては乗って楽に移動が出来た。


 戻ってくる冒険者にとっては、疲れた状態で重い荷物を持たなくていい。場合によっては乗って戻れるので非常に喜ばれた。


 どちらも時間短縮に貢献するので、行きと帰りだけで金貨が稼げる程なのだ。


(……俺、四代目の言う普通は、ちょっと違う気がするな)


 間違ってはいないのだろうが、俺が思っている冒険者とかけ離れている。


 ポーターでお金を稼いだのは事実だが、それは手段ではあって目的ではない。


 それを、宝玉内の五代目が注意する。


『……お前のお金じゃないからな、守銭奴』


 四代目も言い返す。


『稼ぎは大事だろうが! 生きていくには稼がないと駄目なんだよ!』


 間違ってはいない。


 だが、その意見に六代目が――。


『お金は使ってこそだと思いますがね。下手にため込んでも、死んであの世に持って行けるわけでもないし』


 大金を持っていても、それを上手く使えないのなら意味がない。


 そういう意味では、金を上手く使える人間になりたいと思う。


 ただ、四代目は地味に稼ぐのが上手かった。


 冒険者たちが出せなくはないラインを見極め、そして交渉させて値引きさせる。あえてこちらが退いた形で、最終的には儲けているのだ。


 そんな事を考えていると、通路から魔物が姿を現した。


 金属で武装したゴブリンたちが、アリアが言っていた通りの数でこちらに向かってくる。


 準備していたノウェムが――。


「ファイヤーバレット!」


 火の玉を複数撃ち出すと魔物が怯んだ。金属で防いでも、火傷を負ったようだ。


 アリアと俺が前に出る。


 アリアは以前よりも短い槍を持ち、小さな盾を前に出して相手の攻撃を受け流して体勢を崩させる。


 そのまま金属の内部分に槍を突き刺していた。


 今までのスタイルとは違い、大きく振り回す事がなくなっている。


(やりやすいな)


 メイスを持たずにサーベルを持った俺は、ゴブリンの攻撃に半身を反らして避けると、そのままサーベルで首を斬る。


 首から血を噴き出したゴブリンが、地面に倒れて金属音を響かせる。俺とアリアの間を抜けようとしたゴブリンは、左手で抜いたサーベルで首を斬り飛ばした。


「あ……」


 間の抜けた声を上げると、ゴトリとゴブリンの頭部が床に落ちて首から血が噴き出す。


 血が周囲に飛び散った。


 幸い、汚れたのは俺とアリアだけである。


 アリアが言う。


「……ちょっと、血で汚れると滑るんだけど」


 随分と逞しくなった。


 なんとも酷い光景を前にして、だいぶ慣れてきたのか感想が血で滑る……もう、お嬢様だったアリアではないのだと少し悲しくなる。


「悪かったよ。いや、本当に……」


 複雑な表情で見ている俺に、アリアが不思議そうにしている。


「なんで微妙な顔をしているの?」


 戦闘が終わると、クラーラが近づいてゴブリンから金になるものをはぎ取っていく。はぎ取るための道具もポーターに積み込んでいるので、クラーラの持っている荷物は少量だった。


 金属もポーターの荷台に放り込めばいい。


 アリアは周囲の警戒にはいると、後方をミランダさんが警戒する。


 俺はクラーラを手伝い、ノウェムに確認を取った。


「ノウェム、疲れてないか?」


 魔法使いは体力も消耗すれば、精神力も消費する。魔力をコントロールするのは、精神的な疲れが来るからだ。


 魔法使いはパーティーの攻撃の要になっている場合、常に気にかけるのが正しいのだという。


 その日によってコンディションも変わってくるので、リーダーはメンバーとコミュニケーションを取らないといけないらしい。


 魔法を一回使用しただけで疲れるとは思っていないが、ノウェムは笑顔を向けてくる。


「大丈夫ですよ、ライエル様」


「そうか……なら、回収したらこのまま移動だ」


 ノウェムに回収をさせないで、俺とクラーラのみで終わらせると移動を開始する。


 先程と同じように、先頭はアリアに任せていた。


(アリアが何も言わずに見張りに入るから、俺は話が出来ていいな)


 以前はスキルに頼り、味方の状態もなんとなくだが理解していた。


 そのために会話も少なかったと思う。


(会話……苦手とか言っていられないよな)


 俺はクラーラにも声をかける。


「クラーラ、ポーターの操作は大丈夫?」


「はい。移動速度がある程度なら……ただ、階段は疲れますね。明かりを用意しなくていいので、助かるには助かるんですが」


 本人としては、明かりの調節が自分で出来ない事に不満があるようだ。


(この辺は今後の課題だな)


 そして、ミランダさんにも声をかける。


「動きが良いですね、ミランダさん」


 そう言うと、ミランダさんは笑顔で言ってくる。


「ありがとう。嫌味じゃなかったら、本気で嬉しいのに」


 俺は乾いた笑い声を出すと、ミランダさんに余裕があるのを確認して最後にポヨポヨに声をかける。


 何故かいじけているのだ。


 二代目が言う。


『こいつ、オートマトンの癖に面倒臭いな。いじけやがって!』


 役に立っていないのが不満なのだろう。


 人間以上に表情が豊かに感じた。


「はぁ……休憩の時は働いて貰うから、その時まで我慢しろよ」


 そう言うと、ポヨポヨがフライパンやら調理器具を取り出して言う。


「お任せください。休憩時の調理からおやすみまで、完璧にこなして見せますよ!」


 ――俺は、別に迷宮でそんな豪華な食事を期待してはいない。


 ただ、ポヨポヨがやたらと本気を出すのである。


「いや、そこまで凝ったものはいらないから……」


 そうして移動をする俺は、会話を終えると周囲に気を配るのだった。






 休憩に選んだ場所は、一泊するには手頃な広さだった。


 魔物もおらず、ポーターから下ろした荷物に座って食事を取る。


 一人元気なポヨポヨが、スープの準備をしていた。


 パンを焼いて、そしてハムなどを挟んでいる。


 迷宮での食事と考えれば、豪勢な部類であった。普通は味の濃いスープや、持ってきたパンなどだけだ。余計な荷物を減らしたいので、凝ったものを作る道具は持ってこない。


 だが、ポーターに調理器具や食材を積み込めるので、人数が少なければこういった贅沢も可能であった。


 現在、見張りはミランダが行なっている。


 食事を終えたノウェムとクラーラが眠りについていた。


 ポヨポヨがミランダの分の材料を用意し、できたてでも食べさせるのかそのまま待機している。


 一緒に食事をするアリアに、俺は言う。


「……数」


「何よ?」


「ここまで来るのに、間違ったのは一回だけだったな」


 そう言うと、アリアが慌てて言い訳をする。


「あ、あの時は後から合流したのよ! というか、覚えていたの? いちいち細かい男よね」


 怒り出すアリアに、俺は言う。


「いや、間違ったのはその一回だけだった。数ヶ月前を思えば、動きが全然違ったから……一緒に行動していても戦いやすかったよ」


 そう言うと。


「……そう。悪かったわね」


 食事を再開するアリアだったが、少し嬉しそうだった。その後もちょくちょく会話をしてから、先にアリアが眠る事になった。


 基本的に移動中に神経を使うのはアリアである。休憩中の見張りからは外し、明日に備えて貰う事にしたのだ。


 俺は全員が寝静まると、呟く。


「前とは大違いだな。人数が多い事もあるんだろうけど」


 それを聞いていたポヨポヨが。


「独り言ですか? 寂しい奴ですね。私が聞いて上げますよ。どんな悩みもご相談ください。ネタにしていじって差し上げますから」


「それ、全然嬉しくないんだけど?」


 そして、俺は木箱の上で座り直すと、ポヨポヨに話す。相談と言うよりも、確認に近かった。


 自分の中での確認だ。


「前に挑んだ時は散々だったよ。アリアは泣きそうになるし、クラーラには迷惑をかけた。ノウェムには自分で判断させた方が良いのに、細かいところまで指示を出そうとして……けど、空回りだったんだよね」


 ポヨポヨは言う。


「成長しましたね、チキン野郎。今日からはヒヨコ野郎と呼んで差し上げます」


「おい、成長してないぞ。なんだよ、ヒヨコ、って」


 俺は寝ている三人と、ミランダさんに視線を動かす。今の俺は、見張りの予備みたいなものである。


 その視線をいかがわしいと思ったのか、ポヨポヨが言う。


「こんなところで盛って……まったく、殿方はこれだから」


「勘違いするな。それから、なんで服を脱ごうとする? 眠たいなら寝とけよ、後で叩いて起こしてやるから」


「ちっ、やっぱりチキン野郎ですね。この私のチラチラにも弱腰のその態度……ふっ、いつか抱きつかせてやるよ」


「絞め落としてやろうか? もう寝ろよ」


 そう言うと、ポヨポヨがツインテールを揺らして「イヤイヤ、続きが聞きたいの」などと言いだした。


 ……なんだろう、外見は可愛いがまったく似合っていない。


「今日は良い感じだった。問題点もあるけど、基本的には全員が優秀だ、って言ったクラーラの言うとおりだ」


 ポヨポヨも納得していた。


「ポーターで商売をしている時に、他の冒険者たちを見ていましたが……確かに、全員が個別で見れば動きが良いですね。パーティーでしたか? 小隊を組むと一気に悪くなりますけど」


 今はそれぞれが自分の働きを行なっているだけである。


 パーティーとしての連携は、そんなすぐに磨かれない。個人によって動きも判断も違うのだ。


 何度もパーティーで連携を確かめ、そしてパーティーとして完成していくのである。


「そうだな。何人かのリーダーと話しはしたけど、どこも能力重視よりもこいつと上手くやっていけるか、っていう直感とかが大事とか言っていたし」


 ポーターで荷運びを請け負っていた関係で、アラムサースの冒険者とも知り合いが一気に増えたのだ。


 移動中に会話をし、他のパーティーの動きを見られたのは良かった。


 パーティーによって色々とやり方は違うが、やはり基本は守っているパーティーが、優秀に感じる。


 ポーターの運用や操作方法を学ぶためにやっていたが、意外にもアラムサースで知り合いを多く作る事が出来た。


 多くの冒険者に『背負われライエル』などと呼ばれているのは苦笑いものだが、それも冒険者の妬みである。


 まともで恰好いい二つ名がつくのは、渋く皆に尊敬されるか畏怖されるような冒険者だろう。


 俺では若すぎて、そこまでではない。


 ただ、話題になっているので、二つ名の事で会話が弾むのは助かる。話すのが苦手だが、そういった話題の一つや二つで、コミュニケーションが取りやすくなっていた。


(そう思うと、悪くないんだよな……背負われ、っていうのも)


 聞けば美人に囲まれ大事にされている様子が、男性冒険者には不満だったようだ。


 地下四十階層を突破できたのも、ダミアンの人形のおかげと思われているところがあるのも聞いた。


 ただ、実際にはその通りである。


 ボス戦では頑張ったが、それ以外のところではダミアンの人形に盾役をやって貰い助かった。


 俺はポーターを見る。


「……ポーターも良い仲間だよな」


 俺がそう呟くと、ポヨポヨが……。


「私とチキン野郎の愛の結晶ですからね。ただ、私にも早い内に名前を……仮ではなく、本当の名前を決めてください。マジでポーターに負けたのが悔しいんです。あのポンコツ量産機共に滅茶苦茶に言われるんです!」


 俺はポヨポヨを見て首をかしげた。


「そんなに何か言われていたか? お前も言い返していただろ。量産機とは違うんです、とか」


「これだから大人しそうな見た目に騙される奴は……あいつら、本当に口が悪いんですよ。私とは比べものになりませんよ! このチキン野郎の天使である私が泣いているんですよ! もっと守ってくださいよ!」


 俺は言う。


「泣いているというか……喚いているだけ?」


 ポヨポヨが悲しそうな顔をしてその場に膝を曲げて座り込んだ。


 悲しそうな歌を歌い出すのだが、上手くてビックリする。


(こいつ、本当に色んな事が出来るんだな……メイドにこだわった理由はなんだ?)


 古代人が、どんな目的でポヨポヨを作り出したのか……理解できない俺だった。


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