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セブンス  作者: 三嶋 与夢
初代様は蛮族
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怪物

 酷く疲れていたが、目を覚ました俺は眠いのを我慢して朝食を摂る。


 宿屋で出された朝食は、お世辞にも美味しそうとは思えなかったが、暖かくてそれでいて体が求めているのか食べると美味しく感じる。


 そんな俺の姿を見て、ノウェムは安心した様子だった。


「昨日は酷く疲れていたようですけど、今日は大丈夫そうですね。顔色も悪くありませんし」


 起きてからノウェムの世話になりっぱなしだ。


 顔を洗い、歯を磨いて髪の毛のセットまでさせてしまった。何度か、初代の声で怒鳴り声が聞こえてきたのだが、そのほとんどがノウェムに頼るなというものだった。


 何故か、かなりノウェムの事を気にしている様子だ。


 初代だけではない。


 四代目から前――初代、二代目、三代目に四代目は、どこかノウェムに甘い感じがする。


 五代目以降は、ノウェムの実家は家臣の家であるためか、俺の世話をしていても何も言わない。


「なんだか疲れが抜けきらないけど、昨日よりはマシかな。今日は一日中移動だし、買い物を済ませて入口で荷馬車を待とうか」


「そうですね。水筒はありますから、保存食と消耗品を買っておかないと」


 ノウェムは用意しているが、俺の荷物がほとんどない。旅をするにしても、軽装過ぎると行商人も言っていた。


「ここで買い揃えられるものは揃えて、次の町では武器も見繕わないといけませんね」


 今は丸腰だ。


 ゼルの小屋では鉈などはあったが、ナイフはなかった。流石にそういった物を持ち歩くのもアレなので、どこかで買うつもりでいる。


「サーベルとかあるかな?」


 少しノウェムが難しい顔をする。俺の使用していたサーベルを思い出したのだろう。


「業物でなければあると思います。ただ、武器の善し悪しは私の方ではなんとも……」


 申し訳なさそうなノウェムだが、元は聖属性の魔法を勉強している。俺と違って本格的に魔法使い一本に絞っているので、複雑で難しい聖属性の魔法使いだ。


 もっとも、他の魔法も使えるが。


「杖は持ってこなかったのか? ノウェムが持っていた杖は魔具だろう?」


 魔具とは、スキルを封じ込めた武器である。個人が一つしか持たないスキルを、複数使用する際に用いられる。


 今では玉よりも、こちらが主流となっていた。


「申し訳ありません。アレはフォクスズ家に置いてきました。流石に家宝とも言える物なので、私個人が持ち出すのは忍びなく。ですが、これでも魔法はライエル様には及びませんが学んできました。役に立って見せます」


「そ、そうか」


 五大二天。


 それが魔法の基礎である。


 五大【火】【水】【土】【風】【雷】の五大属性に加え、【聖】【闇】の二天と言われる二つの属性が存在する。


 貴族であれば、魔法使いとしてそれらを使いこなせる者は少なくない。もっとも、今では上流階級の出身者が魔法使いであり、それ以外――特に騎士爵家などでは、魔法を使用できない貴族もいる。


 個人によって得意な属性は違うが、それでも基本的に魔法使いなら全ての属性を扱う事は出来る。


 ただ、ノウェムは特化型として鍛えているだけだ。


『健気だなぁ……なんて良い子なんだ』


 初代の声が聞こえてきた。ノウェムが、自分たちが世話になったフォクスズ家の者だと知ると、明らかに贔屓した発言をしている。


 初代たちの話をまとめると、ウォルト家はフォクスズ家に並々ならない恩を受けているそうだ。


 だが、時代の流れなのか、そんなフォクスズ家をウォルト家は家臣扱いしている。それが、初代たちには許せないらしい。


 特に、二代目と四代目はかなりお世話になったのか、俺にノウェムを大事にしろと言ってきて五月蝿い。


『ライエル、もう少し自分で頑張ろうか。ノウェムちゃんに頼りすぎだから』


 二代目がそう言ってくるが、俺は何をすれば良いのか分からなかった。


(というか、先祖代々世話になっているのから、頼っているのは俺だけじゃないような……)


 ノウェムの目の前でご先祖様たちと会話する訳にもいかず、聞き流しつつ会話を続ける。


「今日は近くの村に立ち寄って、その後は目的地の町に着くんだったな。そのまま徒歩で領地を出るか」


 俺の意見に、ノウェムは難色を示す。


「それも良いですが、出来れば行商人の一団と供に出発しましょう。二人だけでは目立ちますし、標的に会います」


 どうやら俺の意見はまずかったようだ。初代も口を挟んでくる。


『なんでそんな基本的な事も知らないの! ちょっと、こいつってばお坊ちゃま育ち過ぎるだろ。ウォルト家の男はもっとこうワイルドさが売りなのに!』


 だが、二代目がその意見に言い返す。


『うるせーよ! お前はワイルドじゃなくて馬鹿だろうが!』

『てめぇ! 親父に向かってなんて態度だ! 表に出ろ!』

『出られねーよ、馬鹿!』

(う、五月蝿い……)


 俺は出発する前に、宿場町で旅をするための道具を買い揃えるのだった。






 宿場町を出発し、村で一泊して次の日には町に到着した。


 ウォルト家の領地の端にある町は、ウォルト家と他の領地を繋ぐ中継地点でもあった。そのため、防衛を考慮して砦も近くに存在している。


 兵士の数も他の町よりも多い。


 町には夕方に到着したが、行商人が俺たちにお礼を言ってくる。


 途中で立ち寄った村で、行商人の手伝いをしたからだ。主に、ノウェムが手際よく手伝いをしていた。


 俺は、少しだけ……というか、ほんとど見ているだけだったが。


「途中の村で手伝って頂いてありがとうございます。魔物は出ませんでしたが、これは手間賃だと思ってください」


 そう言って銅貨を受け取る。


「ありがとうございます」


 受け取ったのは俺だが、お礼を返したのはノウェムだった。


「お兄さんも気の利いたお嬢さんをよく捕まえましたね。羨ましい限りですよ」


「は、はぁ……」


 曖昧に返事をすると、四代目が声を上げてくる。


『そこはノウェムちゃんの好感度稼ぎにソレっぽい事を言えよ! 俺には勿体ない女です、くらい言えないの!』


 だが、そこで五代目がボソリという。


『あんたは母さんに相当苦労させられたから、そう言わないと落ち着かないだけだろ? まったく……』

(なんなのこいつら。というか、本当にこいつらが俺のご先祖様のなの?)


 認めたくないわけではないが、それでも言いたい事の一つや二つはある。


「目的地のダリオンを目指すなら、大きな都市から王都行きの馬車が出ているはずです。そこまで行けば安心ですが、気をつけてください。ウォルト家は魔物退治もしっかりしていますが、他の領地では危険な場所も多いですからね」


 行商人の説明にお礼を言いつつ分かれると、俺とノウェムはそのまま宿屋を探す事にした。


 今日は買い物をしている余裕もないので、このまま宿屋で二日か三日程度を過ごし、準備をするつもりである。


 それというのも、俺――というか、玉に問題がある。


 どうやら、俺にスキルが発生した事で、玉のスキルの枠が埋まったようだ。八つのスキルを内包し、玉は【宝玉】になったと三代目が言っていた。


 今まではスキルを使用するだけだったが、こうして歴代の使い手であるご先祖様と話せる効果も、宝玉の効果だという。


(俺としては五月蝿いだけなんだが……)


 ただ、宝玉も完全ではない。そういったご先祖様たちとの会話や、スキルの使用には当然だが原動力がいる。


 それには俺の魔力を使用していた。


(最近疲れが取れない原因が、慣れない旅と宝玉だからな)


 つまり、俺が疲れやすくなっている原因は、ご先祖たちが口を出す度に魔力を消費しているからだ。塵も積もれば山となる。


「ライエル様、ここなど宜しいのでは? 値段も設備の割にお手頃ですし」


 ノウェムが宿を探してくれたので、俺はそれに従う事にした。というか、善し悪しが分からない。どれも同じに見える。


「お風呂あると良いな」


「すいません。こちらもお湯を桶で借りるタイプの宿です」


 ノウェムが申し訳なさそうにすると、四代目がキレる。


『お前はそうやって贅沢ばかり言いやがって!』

(止めてよ。そんなに大声出されると、魔力がどんどん減っていくんだから)


 他人に自分の魔力を消費されていく感覚は、実に嫌なものであった。精神的にも肉体的にも辛いものがある。






 宿屋で眠ったところで、俺は前に呼び出された部屋にいた。


 宝玉の中に呼び出されると見える部屋は、作り出されたイメージのようなものらしい。


 俺がご先祖様たちと会話をする部屋だが、同時に夢を見ているような感覚でもある。


 騒がしい面々が揃って会話をするのだが、今日は大事な話があるようだ。


『俺なりに考えてみたんだが、実は思い当たる節が――』


 初代がそう言うと、二代目が切り出す。


 自分の意見を聞いて貰えず、蛮族スタイルの初代がいじけてしまった。


『それより、会話をするルールを決めないか? このままだとライエルが潰れそうなんだけど?』


 俺の魔力を心配したのか、二代目の意見に祖父が賛同する。


『お前ら騒ぎすぎなんだよ! 孫が倒れたらどうしてくれる!』


 どうやら、ご先祖様たちは宝玉に記録された記憶であり、スキルそのものであるようだ。魂の一部が残る、などという事ではない。


 本人たちは死んでいる。


 だが、記録として、そしてスキルとして宝玉の中に残っているようだ。もっとも、生前の最盛期の姿をし、性格も反映されているので生前と変わらないのだとか。


 すると、三代目が言う。


『進行役を決めようか。マークスがやりなよ』


 そう言うと、誰もやりたくなかったのか残り六人が賛成する。


『異議無し。頑張れ』

『良いと思います』

『ですね』

『お、お前ら俺にばかり押しつけやがって!』


 四代目は激怒するが、その場の流れを変える事は出来ず、ついでに元から苦労性なのか引き受けてしまう。


 そして、その後もルール作りが続く。


『個人名とか親父、お爺さまってライエルが混乱するだろうし、ここは何代目、とかで統一しようか』


 三代目が言うと、別に反対意見は出なかった。


『では、ライエルの少ない魔力を考慮しつつ、会話は最低限にする方向で』


「……何気にディスってません?」


 五代目が、キッパリと言う。というか、五代目が一番情け容赦のない感じがする。


『だって少ないでしょ。魔法を数発使用して限界が来るとかあり得ないよ。実戦で使えないレベルだね』


 俺の魔力が少ないとご先祖様に言われつつ、ルール作りが終わる。というか、結構鍛えてきているのに、少ないと言われると心外だった。


『っていうか聞けよ、お前ら! 仮にもウォルト家の初代だぞ! 俺は偉いんだぞ!』


 そこまで来て、自分の話を聞かない一同に対し、初代がキレる。


 それを聞いて、二代目が鼻で笑っていた。どうやら、初代と二代目の間には確執があるようだ。


 進行役の四代目が、眼鏡の位置を正しつつ発言を許可する。


『魔力の消費を気にしながらですから、手短にお願いしますね、初代』


『……様くらい付けてもいいだろうに。おっと、用件はライエルの妹の件だ。完璧で雰囲気のある嬢ちゃんだったか? ライエル、一つ聞きたい』


「はい」


 いつもより真剣な初代の雰囲気に、俺も真面目に聞く事にする。


『お前の妹、年の割に綺麗というか美人じゃないか? それも規格外とも言えるくらいに、だ。男共が寄ってくるだろ』


 俺はそれを言われると、少しだけ考える。十三歳の割にしては、確かに妖艶という言葉が似合う妹だった。


 当然だが、両親は認めないが婚約の申し出はいくつもある。それも、名のある家の嫡男が申し込んできた事もあった。


「そうですね。年の割には……身内贔屓ではありませんけど、綺麗でした。可愛らしいというより、本当に綺麗で美人でしたね」


『そうか。ついでにだが、屋敷の雰囲気がおかしいとか言っていたな。お前が十歳になるまでは普通だったんだよな? それが急に変わった、と』


 俺は黙って頷いた辛い記憶だからだ。自分を見て欲しいとあがき続け、それが報われなかった事を思い出す。


『間違いない!』


 そして、初代はテーブルに拳を叩き付けると堂々と妹に関する事実を告げる。


『お前の妹――セレスは怪物だ!』


「……は?」

『『『……うわぁ』』』


 その場の空気が一気に微妙になる。普段よりも真面目な雰囲気だっただけに、周りも真剣に聞いていればこの結果だ。


 四代目が今日の会議の終了を宣言した。


『はい。今日はルールを決めたからここまで。連日の開催は避けるけど、開きたい時はライエルにこちらから連絡するから』


「あ、それでお願いします」


 俺は魔力消費が抑えられると喜ぶと、周囲も解散と聞いて部屋から出て行く。ドアがあったから出て行けるとは思ったが、どうやら各自の部屋があるらしい。


『以上、お疲れ様でした』

『おつかれっした』

『おつかれ~』

『はぁ、いつもより真剣だと思ったらこれだよ』


 それぞれが部屋に帰ると、初代が憤慨する。


『お前ら聞けって! マジなんだよ! マジで怪物なんだって!』


 俺も帰りたいと思うと、その場から消える事が出来るようだ。最後に挨拶をして、その場から消える事にした。


「あ、じゃあ、お疲れ様でした」


『お前らぁぁぁ!!』


 会議室らしき場所に、初代の叫び声が響いた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ノリがくさい
[一言] ちゃんと伏線をひいて回収。丁寧ですね 初代が軽んじられてて草
[一言] 今のところ読んでてイライラしかしない件 なんで書籍化できたの?
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