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セブンス  作者: 三嶋 与夢
実は黒いのか? 三代目
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迷宮のスペシャリスト

 アラムサースの迷宮。


 地下五階にある大きな部屋に到着した俺は、そこに全員を集めて今後の方針を伝える事にした。


 ここまでは、ダミアンの依頼のせいで増えた冒険者たちが魔物を倒していたので、戦闘もなく到着できた。


 しかし、地下五階以降は、冒険者の数が極端に少なくなってしまう。


 そのため、ここからは戦闘も発生するので、先に話しておこうと思ったのだ。


「さて、全員にこれからの方針を伝える」


 俺がパーティーのリーダーで、ダミアンは護衛対象だ。


 本人は自分の身は自分で守れるのだろうが、指揮が出来るのかと言われるとまったく駄目であった。


 他人に興味が薄いのである。


 そんなダミアンが、鎧姿の人形を屈ませてその腕に腰掛ける。


 まるで大人が人形を腕に乗せているように見えた。


「方針? 確かにここは魔物もいなければ、他の冒険者もいない。というか、ここまで迷うことなくよく来られたね。迷宮は定期的に道を作り替えるのに」


 迷宮はゆっくりとその構造を変化させていく。


 そのため、知っているからと安心していては、迷ってしまうことも多かった。


(スキルのおかげ、なんだけどね)


「その点は心配ありません。俺は迷宮に挑むにあたり、効果的なスキルを複数持っていますから」


 そう言って胸元の宝玉を見せた。


 ダミアンやクラーラがそれを見ると、頷いていた。


 ミランダさんだけは、少し不思議そうな表情をしている。


「魔具なの? でも、そんなスキルを刻んだ魔具は高価よね?」


 ミランダさんの問いに答えてのは、クラーラだった。


「魔具ではありません。スキルを記録する【玉】です。魔具が発明される前に主流だったものです。複数のスキル持ちですか……青は支援系でしたね」


 クラーラに頷くと、俺は話を続けた。


「極力戦闘を避けますが、避けられない。もしくは倒しておいた方がいい場合は戦闘を行ないます。基本的に地下四十階を目指すので、途中の宝箱は回収できるならする、時間がかかるようなら無視します」


 ダミアンは嬉しそうだ。


「いいね。いいね! 君に頼んで正解だったよ。迷宮で迷わない、ついでに敵を感知できるスキルを持っているのはありがたい。しかも宝箱の位置まで分かるみたいだ。本当に助かるよ。地下三十階までで手に入るような物は、学園でも手に入るから興味ないんだよね」


 ダミアンには興味がないらしいが、俺たち冒険者に取ってみれば金貨に替わるような代物を無視するのである。


 アリアは少し勿体ない、などと言いながら納得していた。


 ノウェムは反論せず頷いていた。


 ミランダさんも、興味がないのか反対しない。


 ただ、クラーラだけは――。


「可能な限り戦闘を避けるのは分かりますが、荷物はどうします? ダミアンさんの人形が使えない状況は避けたいのですが?」


 クラーラが、二体の人形が木箱とダミアンの荷物を担いでいるのを見る。俺もその意見には賛成だ。


 ――なので俺は、指を鳴らしてその場に魔法陣を作り出す。


 それを見た全員が、少し驚いていた。


 前に見せていたノウェムやアリアも、その様子が見慣れないのか食い入るように見ていた。


「ほうぎょ……玉のスキルだよ。この宝箱に荷物を詰め込めば、移動の際に荷物を持たなくていい。軽い状態で移動も出来るけど、そう何度も取り出しが出来ない。頻繁に使用する物は手元に残しておてくれ。使用できるのは、一日に二回程度だから」


 それを聞いてダミアンが頷いていた。


「結構な荷物が入りそうだね。僕のも入れさせて貰おう。それにしても使用制限があるという事は、これは魔力の消費が大きいのかな?」


 俺は隠さずに頷いておいた。


 無理できない、というのも説明する必要があったからだ。


「俺はスキルを使用するので魔力が限界だ。戦闘では魔法を極力使用しない。代わりに――」


 大きめの宝箱に手を伸ばした俺は、その中に入れておいた武器を取り出した。


 弓矢である。


 しかし、矢の先が特徴的であった。


 ミランダさんが言う。


「それ、爆発するとかいう矢よね? 学園で作って売っている子たちがいたけど」


「正確には魔法を込めた魔具の一種ですよ。魔石なんかも詰め込んでいるので、矢が刺さるなり接触すれば魔法が発動します。この辺の魔物には便利ですから」


 以前、五十階層まで到達した冒険者に、必要な道具の類いは聞いていた。


 矢がとても貴重なのだが、それでもあるとないとでは段違いだと言っていたのを思い出す。


 買い込んだために、かなりの出費である。


(今回は魔物の素材も回収しないと……出費が)


 本当に一本一本が高いのである。


 クラーラが少し安心した様子だった。俺たちが準備を怠っていないと知ったからだろう。


「アラムサースの迷宮では、金属を纏った魔物が出てきますからね。そういった武器は効果的だと思います。ですが、矢は足りますか?」


 俺はもう一つの武器を宝箱から取り出した。


 鈍器である。


 メイスともいう武器で、相手に叩き付ける武器だ。


「危険度が少なければこっちを使う。金属を着込んでいるだけで、中身には打撃の方が効くだろうから」


 クラーラもそれを聞いて納得したようだ。


「クラーラは周囲を照らして貰う。後は荷物持ちだけど、これはダミアンさんの人形を一つ使用させて欲しい」


 ダミアンは笑っていた。


「構わないよ」


「前衛は俺とアリア、そして人形を一体出して貰います。悪いが盾代わりにさせて貰います」


「そうだね。正しい使い方だ」


 ダミアンはここでも快く引き受けた。楽しそうなのが少し気になる。


「その後ろにダミアンさんとノウェム、クラーラだ。後ろには人形を配置して貰います。この陣形で地下二十階までは進もうと思っています」


 地下二十階のボスが討伐されていない場合は、俺たちで倒して先に進む必要があった。この戦力では厳しいと思えるが、俺には二代目のスキルもある。


(流石に人形には効果がないだろうけど)


 人形にスキルを使用しても、効果があるか疑問だった。試してみる必要があるだろう。


「ライエル様、予定通り地下三十階までは――」


 ノウェムが言ってくるので、俺は悪びれもせずに言うのだ。


「他の冒険者たちも動き回っているが、基本的に接触しない。助けを求めて来た場合は、その場で判断するが依頼の達成のために動く」


 ダミアンがつまらなさそうにしていた。


「他の連中と関わって時間を無駄にしないで欲しいね。ま、君は有能そうだから従うよ。僕としては依頼した物が手に入ればそれでいいし」


 本当に他人に興味がなさそうだ。


 アリアはダミアンに言い放つ。


「あんた、少しは情とかないわけ!」


 すると、ダミアンは鼻で笑った。


「はっ! 情? 迷宮に挑む時点で自己責任だ。命が危ないから助けてやるのは構わないが、僕の依頼を忘れないで欲しいね。人助けが好きなら、依頼が終わったら好きなだけやればいい。もっとも、君には助けられると思わないけどね。君……この中で一番弱いだろうし」


 弱いと言われたアリアが、持っていた槍を握りしめる。


 その様子を見て、クラーラがアリアの側によって声をかけた。


「ダミアンさんの言う通りです。人助けを否定はしませんが、私たちは依頼を受けています。優先順位を間違えたのは、あなたですよ」


 助けられる命を助けないでいれば、冒険者としても悪評が立つ。


 助けられる場合のみ、助けるのである。


 でなければ、今度は足を引っ張られ迷宮で命を落とすのは自分たちになりかねないからだ。


「判断を誤ったか、運が悪かったか知らないけど、そんな連中のために僕の研究を邪魔されたくないんだよ。分かったら休憩は終わろうか」


 ダミアンが切り上げると、俺は宝箱に荷物を詰め込む事にした。


 普段使用しているサーベルは、ここでは使用しないので宝箱に入れておく。


 ノウェムがアリアに声をかけていた。


「アリアさん」


「分かっているわよ。弱い人間は助けられない……だから、強くならないと」


 ダリオンでゼルフィーさんに教えて貰った事だ。


 助けたいのなら自分たちが強くなくてはいけない。


(助けられる強さ、か……)


 俺は全員が必要な荷物以外を宝箱に入れると、再び指を鳴らして宝箱を消す。


 指を鳴らす必要はないのだが、七代目がやっているのを見て真似ているだけだ。


「さて、一日にノルマは五階だ。地下二十階までは速いと思うけど、気を抜かないように」


 俺が歩き始めると、全員が移動を開始する。


 悔しそうにしているアリアには、ノウェムが声をかけて落ち着けていた。


 だが、普段はここで声をかけそうなミランダさんが、俯いていたのが印象的だった。






 今気が付いたのだが――。


「次はこのまま右に曲がって待機だ」

「はい、ライエル様」


 ご先祖様たちのスキルは――。


「敵がこちらに気が付いていないから、このまま奇襲を仕掛ける。俺は弓矢を使うから、爆発が起きたらアリアが斬り込め」

「任せなさい!」


 迷宮において、いや、ほとんどの状況で――。


「宝箱があるけど、なんか仕掛けまでついているな。どうしようか、クラーラ」

「解除できる技術は私にはありません。不安があるなら避けるべきですが……よく気が付きましたね」


 かなりというか、卑怯と言えるほどの性能を持っていた――。


「今日はこの辺で休みますか。周囲の魔物を倒しておけば、少しは安心できますし」

「実に素晴らしいね。今日一日で地下十八階だよ。しかも戦闘をしかけたのはあっても、しかけられたのは零回だ。うん、君は実に優秀だ」

「……ありがとうございます」


 ダミアンに褒められても、何故か微妙な感じがした。


 俺の力ではなく、ご先祖様たちのスキルのおかげである。


 俺自身のスキルは、どれだけの効果があるのかハッキリしていないのもあって少し思うところもある。


 周囲の魔物を倒し、そして少し広い部屋に入ると俺たちは荷物を下ろす。


 周囲は金属の板がデタラメに張られた壁があり、部屋の入口には長方形の緑色に光る看板があった。


 人の絵だろうか? そんなのが書かれている。


「それにしても、随分と不思議な迷宮ですね。独特すぎてどうにも違和感がある」


 俺がそう言うと、ダミアンが迷宮について説明してきた。


「それはそうだよ。何しろ、学術都市がある場所にこの迷宮ができたんじゃない。この迷宮があったから学術都市が上に出来たんだ」


 少し気になった言い方をしたので、俺はたずねる。


「この迷宮があったから、学術都市が出来たんですか?」


「そうだよ。ここは他の迷宮とは違って、古代遺跡が迷宮になったんだよ。そうすると、そこから出るわ出るわ……今主流の魔具だって、この迷宮から出現した宝や素材をヒントにしたんだよ。道具もそうだがね。ここは学術都市にとって、本当に宝の山なのさ。そうだな……例えば、この迷宮を形作る金属だが、持ち帰ることも可能だ。本当にごく少量だけどね」


 ダミアンが人形を動かすと、そのまま壁を剥ぎ始めた。


 しかし、迷宮が急激に反応して壁を戻そうとする。


 そして――。


「何をやっているんです?」


 クラーラが俺たちを見て呆れていると、金属の板が剥がされた。


 いや、迷宮自身が破棄したようだ。


 綺麗に小さくちぎれた金属の板が、人形の手に握られている。


「この子に授業だよ。図書館の子だよね? 君も見てごらん」


 ダミアンがクラーラを【図書館の子】と呼ぶと、俺たちは人形の握った金属を見る。


「昔はこんな金属を僕たちは作り出す事も、加工することもできなかった。だが、学術都市がそれを解明したんだよ。その技術が、魔具の加工にも使われている。昔はこれだけの金属でも価値があったようでね。冒険者は一生懸命壁を剥がしていたらしい。今では笑い話だよ」


 迷宮自体が、この世界に多大なる恩恵を与えている。


 それがアラムサースの迷宮だった。


「管理するわけですね。消えたら迷宮がなくなる以上に問題だと言うことですか」


 俺がそう言うと、ダミアンが眼鏡を押し上げて光らせる。


「そうだよ。それが分かっていない連中が多いわけだけどね」


 ダミアンが人形に引きはがした金属の破片を捨てさせた。


 すると、金属の板が、まるで床に溶けるように消えていく。


 驚いている俺を見て、ダミアンが説明してきた。


 クラーラは見慣れているのか、それとも知っていたのか驚かない。


「迷宮の一部だったから簡単に取り込まれただけだよ。外に持ち出せば二度と一部だと認識されない。その辺も研究している連中がいたけど……僕は興味がない。あるのは古代技術の結晶である【自動人形(オートマトン)】だけだよ。僕は古代技術の結晶を超える人形を作り出すんだ。そのためには、どうしても古代技術の自動人形を作っておきたい」


 今まで黙っていた七代目が、疑問に思ったようだ。


 宝玉から声が聞こえる。


『待て、この男もしや……自動人形自体が本命ではないのか?』


 俺も驚いた。


 ミランダさんからは、自動人形を復元して理想の女性を作り出す、様な事を言っていたので古代技術の人形を用意するのが目的だと思っていたのだ。


「もしかして、自動人形自体には興味が薄いんですか?」


 俺がそう言うと、ダミアンは興奮して語り始めた。


「他よりはあるね。目標であるし、何よりも上の爺さんたちが自動人形の復元に興味を持っているから。でも、僕としてはそれで予算を貰えれば良かったかな。復元するのはついでだよ。僕は自分の理想となる女性を作り出すんだ。胸が慎ましやかでお淑やかで……あ~、凜とした表情をしていると更に素晴らしい!」


 恍惚とした表情をしているダミアンを見て、俺は頬を引きつらせる。


 別にダミアンだけの問題ではない。


 ダミアンの話を聞いて、宝玉のご先祖様たちが騒ぎ始めたのだ。


 二代目曰く。


『貧乳好き? 女の魅力は胸の大きさだろ!』


 三代目は。


『程々が良いよね。大事なのはバランスだよ。それよりもお尻も重要だと――』


 四代目――。


『チッパイのどこが悪い! 良いじゃないか! 大きさだけが全てじゃない! あんなのはただの脂肪の塊なんだよ!』


 五代目は興味がないようだ。


『母乳が出れば問題ない。出なくても乳母がいるし』


 六代目は笑いながら――。


『ハハハ、胸は形ですよ、形! 大事な事でしょう?』


 七代目は巨乳派のようだ。


『貧乳に価値など……理解できませんね』


 ヤレヤレ、という風に言っている七代目だが、俺としては――。


(なんで俺はご先祖様が胸に対してどう思っているかを聞かないといけないんだ……)


 耳を塞ごうが聞こえてくる、歴代当主の女性の乳房に関する価値観。


 そして争う声は、耳を塞いでも聞こえてくる。


 暗い表情をする俺に、ノウェムが近寄ってきた。


「ライエル様、それでは見張りの当番を……大丈夫ですか?」


 俺はゆっくりとノウェムの胸を見た。


「うん、大きいのは良いことだ」


「はい?」


 気が付かないノウェムだが、興奮していたダミアンが言う。


「なんだ、君は異端者か。図書館の子、君も小さい胸の……ちっ、大きいじゃないか。僕は君も嫌いだ」


 ダミアンがクラーラに言う。


 クラーラは呆れもせず、ただ淡々と――。


「そうですか。肩が凝るので私も小さい方が良かったとは思いますが」


 すると、ダミアンが笑顔になる。


「すまない。君はそんな大きな胸をしながら、控えめな胸に憧れていた同士だったんだね。僕はそれなのになんてことを……なんなら切る?」


 どこからかメスを取り出したダミアンに、クラーラは言う。


「切るのは嫌です」


「そうか……」


 残念そうにするダミアンを見て、俺は思った。


(クラーラもちょっと変わっているよね)






 二日目。


 前と同じ陣形で俺たちは地下二十階を通り過ぎた。


 ボスの居る階層は、一方通行で迷宮中央に大きな部屋があるだけの造りだ。


 地図で見てみると、中央の広い部屋に細い通路が入口と出口を直線で結んでいる。


 ダリオンで経験した迷宮とは、まったく違うので興味がある。


(やっぱり、場所によって違うのか。これなら、追いかけられることもないか)


 ボスのいない階層を通り過ぎると、次は地下二十一階であった。


 休憩を挟みたかったが、どうやら後ろから冒険者の一団がこちらに向かってきていた。


「後ろから同業者が来ているね。数は……十二」


 十二名いても、これから先では戦力不足となるような階層だ。


 きっと、ボスがいるのか確認に来たか、この先で魔物の相手でもするのかも知れない。


「あんたのスキルは便利よね。支援系、ってなんか目立たないのが多いし、パッとしないから役に立ちそうにない、って思っていたけど」


 アリアが俺を見て言うと、二代目が――。


『これだから前衛系のスキルを持つ奴は嫌いなんだ。こっちを見下しやがって……。スキルだろうが道具だろうが、上手く使った奴が強いんだよ!』


 二代目の時代では支援系のスキルは不遇だったようだ。


 アリアのように前衛系のスキルを持つ人に、何か言われたのかも知れない。


 そんなアリアと俺の会話に、ノウェムが加わる。


「スキルが凄いのではありません。それを使いこなすライエル様が凄いんです。いくつものスキルを使いこなすのも才能ですから」


 アリアに対して、俺は凄いと言うノウェムの意見に照れてしまう。


 確かに、スキルの扱い方は上手いとご先祖様たちにも褒められた覚えがある。


(俺って少しは凄いのかな)


 妹のセレスと比べられ、まったく駄目だと思ってきたが、外に出るとそうでもないと気付くことも多かった。


 すると二代目が。


『ライエル、俺って凄い、とか思っただろう?』


(こいつ、心を読みやがった! ……初代みたいだ)


 少しだけ初代を思い出すと、こんな時になんて言うのか気になった。


(案外、また怒られたのかも知れないな)


 少し寂しく思ってしまう。


 そんな会話をしつつ、迷宮に挑んでいる俺たち。


 しかし、ここでもミランダさんは会話に入ってこない。


 話しかければ答えるし、笑顔も向けてくれる。


(やっぱり少し距離があるな。ここからどうやって説得して味方に引き入れれば良いんだよ)


 戦闘よりも、ミランダさんの事で悩む俺だった。






 地下二十階を越えた辺りで、戦闘は一気に激しさを増してきた。


 直線的に切られた金属の板を持ったオークが、それを無理矢理武器や盾に加工した物を持っているのである。


 中には頭を防御する物までかぶっていたオークもいる。


 通路奥。


 クラーラに魔法の明かりを消してもらうと、俺たちは息を潜める。


 五体で固まってうろうろしているオークたちを発見した俺は、全員に止まるように言うと弓に矢をつがえた。


「クラーラ、明かりは爆発音が聞こえたら点けてくれ」


「はい」


「ノウェムとミランダさんは準備してください。火属性がいいな。俺が名前を呼んだら目の前のオークに放ってくれれば良いです」


「はい」


「わ、分かったわ」


「ダミアンさんは……任せます」


「冷たいね~」


 キリキリと弦が張る音が聞こえてくると、俺は二代目のスキルを使用する。


 そして、五代目と六代目のスキルで距離を測った。


 二代目の【オール】。

 五代目の【ディメンション】。

 六代目の【スペック】。


 三つのスキルが、未だに俺たちを察知できいない敵の様子を知らせてくる。


 まるで感覚が広がるような二代目のスキルで、俺は暗い通路奥にいるオーク立ちに狙いを定めた。


(厄介なのは盾を持っている奴だな)


 狙いを定めると、二代目が言う。


『もっと呼吸を整えろ。一撃で仕留めようと思うな。当てて相手を怯ませれば、この戦力で勝てる』


 アドバイスに従い、俺は矢を放った。


 矢が放たれると同時に、俺は弓を背の入れ物になおして腰に下げていたメイスを右手に取る。


 爆発音が聞こえると、クラーラが魔法で周囲を照らす。


 通路奥にいたオークたちの中央には、盾を持っていたオークが倒れていた。


 頭部を一撃で吹き飛ばせたようで、起き上がる気配がない。


「ノウェム、ミランダさん!」


 魔法を用意していた二人が、それぞれ魔法を行使した。


 ノウェムの方が速い。


「ファイヤーウェーブ!」


 炎の波がこちらを向いたオークたちに襲いかかる。


 仲間の盾を拾ったオークが魔法を防ぐが、その前にいたオークは黒焦げになっていた。


(流石にノウェムの魔法は威力があるな)


 問題はミランダさんだ。


「ファイヤーカノン!」


 炎の球体が撃ち出され、そのまま盾を構えたオークに向かう。


 狙いも少しズレていたのだが、盾に防がれてしまった。


 しかし、その衝撃でオークの体勢が崩れる。


 盾を持っていたオークの後ろにいた仲間も、全ては防げなかったのか体に火傷を負っていた。


 魔法を撃ち終わったこちらを見て、武器を持ち走り寄ってくる。


 すると、俺がアリアに声をかける前に。


「ほら、突撃だ 一号! 二号!」


 ダミアンがそう言うと、鎧人形が大きな槍を持って通路を走る。


 痛みのない人形は、恐れずそのまま槍を突き出す。


 オークが武器を振り回すが、簡単に攻撃をはじき返していた。


 人形の鎧自体が、結構な金属で出来ているのか攻撃を受けても凹まない。


 二体のオークが槍で突かれ動きが取れないでいると、その間を抜けて盾を持ったオークが雄叫びを上げて突進してくる。


 眼鏡を人差し指で位置を直しながら、ダミアンが言う。


「そこは退くべきだ。僕たちは忙しいから、逃げれば追わなかったのに……残念だったね」


 言い終わると、俺が叫ぶ。


「アリア!」


 駆けだしたアリアが、目の前で一瞬消えたように見えた。


 しかし、次の瞬間には盾を構えて俺たちに突撃してくるオークの後ろに回り込んでいる。


 スキルを使用し、回り込んだのだろう。


「壁や天井を利用したのか」


 俺が通路となっている場所を見ながら言うと、そのまま回り込んだアリアが槍をオークの急所へと深々と刺していた。


 前のめりに倒れるオーク。


 盾が床に激突すると、金属がこすれる音が聞こえてきた。


 甲高い音だ。


 少し、何とも言えない気持ちの悪い感じがした。


「よしっ!」


 オークにとどめを刺せたので、アリアは喜んでいる。


 槍をオークから抜き取ると、血も噴き出して彼女の体にかかった。


 ダミアンが言う。


「本当に優雅さが足りないよね。力押しの一撃で仕留めるとか。しかも野蛮だ」


 どうにも、アリアとダミアンの相性は悪いようだ。


「あんたの人形も同じじゃない! 突撃して槍で突き刺すだけでしょう!」


「シンプルで無駄のない攻撃と言いたまえ」


 子供のような喧嘩をする二人を放置して、俺は他のメンバーにお礼を言う。


「悪いな、クラーラ。ずっと魔法を使わせて」


「これも仕事ですから。それに、私は慣れているので平気です。点けたり消したりが多いのは初めての経験ですけど」


 大きめの杖の先が魔法で光っている。


 明るさもサポート専門だけあり、ノウェムがするよりも明るかった。


「ノウェム、魔法の威力が上がったんじゃないか? オークを一撃だったぞ」


「ありがとうございます。でも、ここは狭い場所ですから逃げ場がありません。ライエル様の判断のおかげです」


 どの魔法を使用するかは、本人に任せていた。


 しかし、広範囲に広がる魔法を使用したノウェムの判断は、非常にありがたい。


「ミランダさんもお疲れ様です。慣れないのにすみません」


「……え? あ、あぁ、いいのよ、ライエル君」


 一瞬、ボンヤリしていたミランダさんを見て、俺はすぐに笑顔を向けた。


「きつかったら言ってください」


「そうね。うん……そうするわ」


 ミランダさんがそう言うと、俺は振り返ってまだ言い争っているアリアとダミアンを見た。


 溜息を吐きつつ、宝玉からの声に耳を傾ける。


『ライエル……』


 悲しそうな六代目の声だ。


(分かっていますよ、六代目……)


 スキルを使用した時――。


 戦闘中に、ミランダさんの反応が一瞬だけ赤く光ったのだ。


 赤は、敵意を持つ相手を示す色である。


(やっぱり、シャノンは危険だな)


 改心させる事が難しくなりつつあった。


 戦闘中に、俺に敵意を向けたミランダさんを思い出す。


 彼女の反応は、今はどちらとも言えない黄色に光っている。


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