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セブンス  作者: 三嶋 与夢
実は黒いのか? 三代目
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ダミアン・バレ

 珍しくミランダさんに頼まれた俺たちは、ギルドでどうしても会って欲しいと言われていた人物に面会していた。


 両手を合わせて必死に頼み込まれ、会うだけなら、と了承した結果が――。


「君たちが彼女の言っていた冒険者パーティー? 僕はダミアン・バレ。あ、自己紹介とかいいよ。名前を覚えるのが面倒だし、というか……興味がないからすぐ忘れるんで」


 ボサボサの緑色の髪は、長いと短いとも言えない長さだった。


 眼鏡をかけており、何らかの魔具なのか少し重たそうだ。


 身なりの整った眼鏡である四代目と比べると、だらしのない眼鏡という印象の青年である。


 二十代前半で、小柄だがローブを纏い独特の雰囲気のある青年は自分よりも大きな杖を持って、肩にかけている。


 装備品を見ると、魔具の類いであるのが分かる。


 ただ、どうしてこうも会いたくない人物を紹介されたのか?


「ミ、ミランダさん?」


「ごめんなさい! 本当にごめんね、ライエル。ただ、教授がもうどうしても待てないとか言うから……迷宮に入って現実を見れば、諦めるだろうし」


 ノウェムも少し困った様子だ。


「依頼はダミアンさんを護衛して、地下四十階のボスを倒すことでしょうか? ですが、私たちにそこまでの実力があるとは言えませんよ」


 アリアはダミアンを見て、想像していた教授とは違ったのか軽いショックを受けている。


 知的な男性でも思い浮かべていたのだろう。


 ダミアンが言う。


「その辺は理解している。個別の実力はありそうだけど、三人しかいない時点でお察し、だろうし。だけどね、僕の護衛依頼は誰も受けないんだよ。腹が立つよね。依頼を張り出すだけでもギルドに金を払っているのに。上の爺たちに金を出させるのがどれだけ大変だと……」


 話しているのに、俺たちに視線を合わせようとしないダミアンは酷く失礼に見えた。


 ブツブツと文句を言い出すダミアンを無視して、俺はミランダさんに事情を確認した。


 俺たちを呼び出した理由である。


「ミランダさん、これは依頼ですか?」


「個人的な依頼になるわ。教授を護衛して迷宮に挑んで欲しいの。冒険者たちが教授の依頼で迷宮に挑んでいるだけ、だってどこからか聞いちゃって……」


 困っているミランダさんに、ダミアンが言う。


 呆れた様子で、冒険者ギルドの対応に文句を言ってくる。


「依頼するだけで金を取って、ついでに達成する気のない冒険者を迷宮に入れただけ、だよ。本当に嫌になるよね。これだからギルドは信用できないんだよ。要求した物を用意してくれるだけで良いのに」


 それが難しいというのを分かっているのだろうか?


 ただ、相手は本職ではないので、その辺の苦労が分かっていないのかも知れない。


 俺は依頼を受けるべきか思案した。


(どうする? 受けても良いけど、俺たちに依頼の達成なんか無理だぞ。たったの三人。しかも七傑のダミアンを入れて迷宮攻略? 嫌な予感しかしない)


 自分たちだけでも難しいのに、面倒を見る人間が加わるのは命取りになりかねない。


 俺は、ノウェムやアリアに相談する事もなく、断ろうとした。


 だが、ここで六代目が言う。


『……ライエル。これはチャンスだ。この依頼を受けろ。正し条件付きで、だ』


(条件付き?)


 いつにもまして六代目の真剣な声に、俺は言葉を呑み込むと六代目の声に耳を傾ける。


『ミランダをシャノンから引き離すいい機会だ。精神に働きかける事も可能な魔眼だ。ミランダは既にシャノンの支配下にあるか、もしくはその手前にあってもおかしくないからな』


 シャノンに対してかなり慎重な六代目に、五代目が同意した。


『可能性があるなら潰しておくのも良いな。改心させる時にミランダの助力もあればなおよし、だ。ここはミランダも誘え。それから本格的な準備に入るぞ。ダミアンにもそう伝えろ。ミランダが参加するなら、本気で依頼を受けてやる、ってな』


 五代目もやる気みたいだが、俺としては危険なので回避したかった。


 今の俺たちにそこまで出来るとは思えない。


 反対を示すために、宝玉を指先で触れると二代目が面白がっていた。


『やる気なしかよ。でもな、ライエル……五代目も六代目も、準備をすると言ったんだ。別にお前たちだけでダミアンを護衛しろとは言っていなんだぜ』


 三代目が俺に助言してきた。


 二人共、この状況を楽しんでいる。


『面白そうだから引き受けなよ。これはライエルにとっても良い経験になるよ。僕としてはクラーラが気になるね。あの子はサポート専門だ。声をかけてみるのも悪くないよ』


(こいつら楽しみやがって!)


 そう思ったところで、七代目が俺に言う。


『……ライエル、今回の依頼は引き受けなさい。代わりに要求しようじゃないか。人形使いダミアンの魔法である【ゴーレム】を』


 七代目が独自の魔法であるゴーレムに、かなり関心を持っていた。


 その理由を聞いてドン引きだ。


『七傑とまで言われたダミアンの魔法だ……この情報は高く売れるぞ!』


 最終的に、四代目がご先祖様たちの意見をまとめる。


『では、俺たちの意見は依頼を受ける、って事で。ライエルの判断は?』


 俺が考え込んでいると、アリアが声をかけてきた。


「ちょっと、真剣に考えてどうしたのよ? 私たちには無理な依頼じゃない。ここは無理せずに断って――」


「受ける。ただし、条件付きだ」


 俺が受けるというと、ノウェムの表情は変わらなかった。まるで最初から俺がこの依頼を受けると思っていたような感じだ。


 アリアは俺を見て驚いていた。


「ちょ、ちょっと! 今は無理しない方針だ、ってあんたが言っていたのよ! この教授を連れて地下四十階なんて行けるわけがないわ!」


 ミランダさんがアリアに言う。


「アリア、そう深く考えないで。迷宮に入って難しいと教授に理解して貰えればいいんであって――」


 すると、ミランダさんの声を遮って、ダミアンが俺を見て声をかけてきた。


 今まで視線は周囲を見ており、俺なんか見ていなかったのに、だ。


 何か心境の変化があったのか、ニヤニヤと笑い始める。


「へぇ、断ると思っていたけど、骨があるみたいだね。いいよ。君たちに依頼しよう。それで……条件はなに?」


 俺はご先祖様たちが宝玉から告げてきた条件を言う。


「一つ目は時間が欲しい。迷宮に泊まりがけで挑むことになるから、準備に三日は欲しい。あんたもそのつもりで時間を作ってくれ。期間は一週間でどうだ?」


 俺の条件にダミアンは頷いた。


「いいよ。でも、その期間は少し短くないかな? 僕をただ連れて行くだけなら、報酬は支払わないよ。せめて三十階層は突破しないと仕事をしたと認めないからね」


 俺にとってそれは問題ではなかった。


「構わない。二つ目は人手だ。俺の方でも探してくるけど、こちらからはミランダさんを連れてくるように頼むよ。これを拒否するなら、依頼は受けない」


 人手が欲しいのは当然だが、ダミアンはそれを聞いて首をかしげる。


「この子が欲しいの? 色恋を仕事に持ち込まないで欲しいんだけど……まぁ、そんなつもりはなさそうだね。いいよ。君、強制参加ね」


 ダミアンがミランダさんを見て言う。


 ミランダさんは俺に一度だけ視線を向けると、ダミアンに無理だと言った。


「教授、私には無理です! 妹の面倒を見ないと……目が見えないんですよ。今は使用人もいないし」


 だが、やはりダミアンなのか、ここで学園の権力を行使する。


「受ければ単位を上げよう。学園の方にも貢献したと伝えておくよ。嫌なら……そうだね。何もしない。うん、僕は君に何もしない」


 笑顔で言うダミアンに、ミランダさんは俯いてしまった。


 “何もしない”という言葉は、ダミアンの一種の脅しなのかも知れない。


 俺はついでに頼む。


「……彼女の妹を病院で預かって貰うのがもう一つの条件です。目の治療に関して得意な医者に診て貰いたい。こちらで金の用意はしますよ」


 俺がシャノンの治療のため、と言うとミランダさんが顔を上げた。


 だが、微妙な表情をしている。


 治療が出来るなら、サークライ家がすでに依頼しているからだ。


「彼女はお金持ちだった気がするけど? 完治は無理じゃないかな? 僕は興味ないから知らないけどね。ただ、紹介するだけだから僕は構わないよ」


 そして俺は言う。


「今回の報酬は貴方の得意な魔法でいかがです? ゴーレムという魔法を使うようですね。俺はそれを報酬に望みます」


 ここで拒否してくれればと、内心で思ったがダミアンは簡単に頷いた。


 独自魔法に執着がないのか、それとも俺には使えないと思っているのか。


「そんなに欲しいのかな? それでいいなら予算も使わないですむから僕はありがたいけどね。でも、後で文句を言わないでくれよ」


 そこでノウェムが口を挟んできた。


「意外にあっさりですね。ライエル様では使えないと?」


 ダミアンは首を横に振る。


「使えるんじゃないかな? 教えた連中は確かに“魔法は成功”していたよ。ただ、最後にはみんな文句を言ってくるんだよね」


 スキルにまで昇華したダミアンの魔法である。


 他の人間が使っても、たいした成果は得られないのかも知れない。


 しかし、二つ名まで貰う様な魔法だ。


 知っておくだけでも情報として価値があるのは、七代目の言うとおりである。


「俺の方でも知り合いに声をかけますが、アラムサースに来て間もないので参加しても一人でしょうね。そちらはミランダさんだけですか?」


 誰か知り合いがないのかたずねてみると、ダミアンが上を向いて考え始めた。


「……単位の欲しい連中はいるけど、使えるのはそっちの子と数人いるかいないか、だね。使える人間は単位なんか自分で取るし、僕の脅しには屈しないけど」


 どうやら頼りにならないようだ。


 人としてかなり欠けているような印象を受けるが、これでも学術都市の七傑と言われる変人である。


 優秀であるのは間違いないはずだ。


「では三日後にここで。それまでに必要な準備ですけど――」


 俺が打ち合わせを行なおうとすると、ダミアンはギルドを去って行く。


 手を振りながら、俺たちに言うのだ。


「外でも研究のために調査で泊まり込みもするんだよ? 準備くらい一人で出来るから心配ないよ。それより、そっちがちゃんと準備をしてきてよね」


 本当に自分勝手な印象を受けるが、俺はそれよりも本命であるミランダさんを見た。


 俺の方を見て何か言いたそうにしている。


「何か言いたいことでも?」


「……どうして私の名前を出したの? シャノンがいる事は知っているじゃない。確かに会わせたのは私だけど、教授を連れて迷宮に入って貰うだけで良かったのに」


 シャノンを預けるのが心配なのだろう。


 俺としては、こんな人が精神を支配されているようには見えない。いや、もしからしたらこの状態がまずいのだろうか?


(元から優しいし、判断できないな)


 ノウェムがミランダさんを慰める。


「大丈夫ですよ、ミランダさん。シャノンちゃんはしっかりしていますし、少しは屋敷の外に出て見るのも良い機会です。閉じこもってばかりでは、自分の世界が広がりませんから」


「けど……」


 すると、アリアが俺に詰め寄ってきた。


 ノウェムと違い、こちらは俺の意見に反対らしい。


「なんでこの依頼を受けたのよ。報酬の魔法だって、あの教授にしか使えないのは今の話を聞いたら分かるでしょ!」


 俺としてもこの依頼は受けたくなかったが、シャノンのことを考えればミランダさんから離しておきたかった。


 ついでに、協力を頼むには丁度良かったのもある。


 六代目が言う。


『シャノンの側で改心させようと動けば、必ず察知するぞ。これで良かったんだ。迷宮ならシャノンも干渉できない』


 五代目も同意見だった。


 ただ、こちらはシャノンの改心だけが目的ではないようだ。


『ついでにライエルもそろそろ“成長”してもらおうか。シャノンと向き合うにしても、今のまま魔力に制限があるのは厳しいからな』


 迷宮から出て成長をする段階で、屋敷にシャノンがいれば少しまずいと言いながら、五代目はシャノンを遠ざける言い訳を考え始めた。


 二代目に至っては、シャノンの事はあまり深刻に考えていないようである。


『俺としては、ライエルがこの機に成長して欲しいけどね。この先を考えれば、この辺で強くなっておかないと厳しいぞ』


 四代目も同意見だった。


 迷宮で俺が成長することを望んでいるような口ぶりだが、シャノンの事になると疑念を持っているようだ。


『迷宮で修行する連中は昔からいたな。というか、五代目と六代目がいうようにシャノンが怪物候補なのか? 俺の意見としてはあれで怪物とは思えないけど。セレスが特別なのか?』


 俺は溜息を吐いてから、アリアに言う。


「……ミランダさんのためだよ」


「ミランダの?」


 それだけ言うと、準備もあるので俺たちは行動することにした。






 三日後――。


 ギルドに顔を出した俺は、荷物を持ったクラーラを見て手を振る。


 体の割に大きな荷物を背負っているが、普段と同じように歩いていた。


 その光景を、新米の冒険者は不思議そうに見ている。


「時間通りだね」


 今回、俺はクラーラにサポートを依頼したのだ。


 割と渋るかと思ったのだが、クラーラはすぐに了承してくれた。


 報酬に関しては、こちらが費用を出すことになっている。


 クラーラは俺たちを見た。


 いや、俺たちの恰好を、だ。


 俺もノウェムも、そしてアリアも普段より少し荷物を持っているだけだ。


 迷宮に泊まりがけで挑むには、荷物が少なすぎるように見えたのだろう。


「荷物の量が少ないと思いますが? 事前に必要な量は伝えましたよね?」


 少し不満そうなクラーラには、迷宮に挑むのを俺たちが舐めているように見えたのかも知れない。


 俺は誤解だと言って、近くにおいてある木箱を見せた。


「木箱ですか? アレを背負うとでも?」


 効率が悪いといったよう目で、クラーラは俺を見てきた。


 苦笑いをして答える。


「いや、みんなが集まってから誰も見ていない場所で――」


 そこまで言うと、ギルドに向かってくる冒険者たちが騒ぎ始めた。


「おい、ダミアンが来たぞ!」

「人形共の行進かよ」

「迷宮に挑むんだって? 最初から本人が出れば良いのによ」


 不思議に思って騒ぎのある方向を見ると、クラーラが俺に説明してくれた。


 ノウェムもアリアも、道を空ける冒険者たちを見て信じられないものを見たような表情をしていた。


 いや、ノウェムは普段通りである。


「人形使いのダミアンの行進ですか。珍しいものが見られましたね。これだけでも参加した価値はあるかも知れません。作り出した人形たちを操るのがダミアンですから、こういう事も可能なんですよね」


 俺は目を見開くと、ご先祖様たちも驚いていた。


 二代目が言う。


『おいおい、これがダミアン、って奴の魔法か!?』


 三代目は静かに呟いた。


『なる程ね。誰もが欲しがるわけだよ』


 四代目も。


『これを見ると、その価値が分かるね。広まっていないことを見るに、何か問題があるんだろうけど』


 五代目が少し興奮していた。


『鉄で出来た人形かよ。こいつらで隊を組んで突撃させれば相手は一溜まりも無いな』


 六代目は一緒に歩いてくるミランダさんを見ているようだ。


『……普段と違って動きやすい服装か。ミレイアに似て綺麗だな』


 どれだけミレイアさんの事を大事にしてきたのだろうか?


 一人だけ見ている場所が違う。


 七代目も呆れていた。


『そこですか? 普通は動く鎧に目が行くと思いますが?』


 七代目の言うとおりだった。


 全身鎧が、武器や荷物を持ってダミアンの後ろを歩いてくる。


 一見すると、ダミアンが騎士たちを連れている光景だろう。だが、その鎧たちは、人が着るような鎧ではなかった。


 手足が大きく、そして体や頭部が小さく作られている。


 体のバランスがおかしいのである。


「……最初から作っていた人形を動かすから、人形使いか」


 俺がそう呟くと、ノウェムも頷いていた。


「凄い人ですね。あれだけの数を一人で操っておられるのでしょうか?」


 ダミアンが連れているのは四体の人形である。


 一体が大きな荷物を担いでおり、残りも鞄を担いでいたが手には武器を持っている。


 一緒に歩いているミランダさんは、少し恥ずかしそうにしていた。


(病院にシャノンを預けてから、教授を迎えに行くと言っていたけど……迎えは必要なかったかも知れないな)


 迷宮に挑むのを楽しみにしていたのか、前に見た時よりもやる気のあるダミアンがそこにいた。


「おはよう、諸君! 迷宮に挑むには実に良い天気だ!」


 テンションが高いダミアンの言葉を聞き、俺は空を見上げた。


 今日は曇りである。


 アリアが呆れていた。


「迷宮に天気は関係ないじゃない」


 そう言うと、ダミアンが眼鏡を指で位置を正しながら言う。


 この辺の仕草は、四代目もよくやるな……などと思ってしまった。


「関係ない? どうしてそう言い切れるんだい? 天気が悪くて、今日は迷宮に挑むのを止める冒険者もいるかも知れないじゃないか。外に出る冒険者なんかは、特に天気に左右される。そうした連中と一緒に酒場に行く冒険者もいるかも知れない。もっと言えば、雨が降ったら、迷宮に行こうと思う連中も出てくる。ほら、天気は迷宮に挑むにも重要だ」


 ダミアンの言い分にも一理あるが、そこまで説明されても困る。


 それに、正直に言って面倒くさい。


 そんなダミアンが、クラーラと同じように俺たちを見て少し表情が真剣みを帯びてくる。


「迷宮に挑んだことがある、と僕は聞いていたんだが?」


 荷物の少なさに俺たちの本気度が低いのでは?


 そう思ったのだろう。


 俺は溜息を吐いて近くに積まれた木箱を指さした。


「こいつが荷物の全部だよ」


 そう言うと、ダミアンは頷いた。


「なる程……効率が悪いね。僕の人形に持たせても良いが、それだと戦力が減るんだけど?」


 そう言われた俺は、ダミアンに人が少ない場所まで移動するように頼んだ。


 迷宮に入って誰もいない部屋まで運べば、そこで七代目のスキル【ボックス】を使用できる。


「その辺の説明は後でするとして、これで全員だな? よし、ならすぐに迷宮に行こう。地下一階から三階は冒険者も多い。戦闘も地下五階までほとんどないらしいから、そこまで行ったら休憩ということで」


 俺の意見に、ダミアンは頷きながら笑っていた。


「いいね。露払いをしてくれている訳だ。ギルドも冒険者も、たまには役に立つじゃないか」


 正確に言えば、ダミアンも冒険者だ。


 ギルドカードを持っている。


 楽しそうにしているダミアンを放置し、俺はミランダさんに近づく。


 シャノンの事を心配しているのか、ミランダさんは落ち着かない様子だった。


「どうしました?」


「え? あぁ、シャノンがちょっと、ね。入院するのは昔を思い出すみたいで、嫌がったから……」


 三日前に事情は説明していた。


 その時は納得していた様子だったが、ミランダさんが一人の時に抵抗したのだろうか?


 それを思うと、ミランダさんはシャノンの支配下にないのかも知れない。


 六代目が安心した様子だった。


『よし! これで第一段階は成功だな!』


 ミランダさんとシャノンを引き離す事には成功したが、俺が引き受けた依頼はダミアンを連れて地下四十階のボスを倒すことである。


 六代目にしてみれば、そんな事よりもミランダさんが大事なのだろう。


(ミレイアさん……もしかしたら、六代目に色々迷惑かけられたんじゃないかな?)


 これだけ執着している様子を見るに、何かしら迷惑をかけたのではないかと不安になってきた。


 既に過去の話なのだが。


「いい機会ですよ。シャノンにとっても、ミランダさんにとっても、ね」


「私にとっても?」


 俺を見て不思議そうにするミランダさんを見て、俺は前もって用意していた言い訳をする。


「互いに依存しすぎ、とまではいかなくても、もう少し相手を信用してはどうです? シャノンちゃんはしっかりしていますよ……見た目よりも」


 弱々しいイメージだが、内心は腹黒いとまでは言えなかった。


 アリアが俺に近づくと、ミランダに心配ないというのだ。


「そうよ、ミランダ。少しは信じて上げないと。それに、病院なんだから面倒を見て貰えるわ」


 見て貰わないと困る。


 そのために金貨を支払ったのだ。


 ダミアンの知り合いという事で、向こうも気を使ったのか個室を用意したのである。


 おかげで思った以上の出費だった。


(ここしばらくで一番使ったな。予備の武器なんかも買い込んだし)


 ダミアンの人形たちが木箱を持ち上げる。


 その中には水や食料、更には予備の武器なども入っている。


(さて、本命はミランダさんの説得だけど、ダミアンの依頼もなんとかこなしたいところだね)


 ダミアンが俺たちを急かす。


「速く行こう。時間は有限で貴重だよ。こんなところで無駄には出来ない」


 俺は溜息を吐く。


 すると、ノウェムが俺を慰めてくれた。


「行きましょう、ライエル様。大丈夫ですよ。この日のために準備してきたのですから」


 俺は頷くと、鼻歌を歌い出したダミアンの後ろを歩くのだった。


 横にはノウェムが。


 その後ろにはミランダさんにアリア、そしてクラーラと続く。


 アラムサースの迷宮に挑むにしては、周囲からすればかなり頼りない面子に見えているかも知れない。


 しかし、ご先祖様たちは違う。


 軽い調子で二代目が――。


『一週間もかかるか? 五日もあれば十分だろ』


 三代目が。


『ミランダちゃんの説得の方が難しいかもね』


 四代目も。


『だろうな。ライエルは前の一件で少し距離を取られただろうし……もっと上手く立ち回れたのに……ちっ!』


 舌打ちをされてしまった。


 五代目が言う。


『最大一週間で四十階層のボスを倒してミランダの説得だろ? ミランダの説得の方が難しいが、余裕だろ』


 五代目の言うとおり、最近は前のように話しかけてくれなくなった。


 俺が無理にシャノンを病院に押し込んだ形になったからだ。


(もっと上手くやれば良かった)


 後悔しても遅いが、六代目が言う。


『ライエル。ダミアンの魔法なんぞどうでもいいが、ミランダだけはなんとしても説得しろ。分かったな』


 強面の六代目が威嚇してくる様子が浮かんでくる。


 俺は頭を横に振った。


 隣を歩くノウェムが、俺を見て大丈夫かと声をかけてきたので笑顔で問題ないと答える。


 最後に七代目が。


『ダミアンの魔法があれば、鎧だけを突撃させる戦法がとれますな。場合によっては僅かな兵士で倍以上の敵を相手にする事も……いや~、楽しみですな!』


 ダミアンの依頼に、ご先祖様たちの思惑が重なった今回の依頼。


 俺はどちらもこなす事が出来るのだろうかと、不安に思うのだった。


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