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セブンス  作者: 三嶋 与夢
実は黒いのか? 三代目
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違う世界を見るシャノン

 ――その屋敷は、サークライ家が末の娘を閉じ込めるために用意したものだった。


 目の見えぬ少女【シャノン・サークライ】はそれを良く理解している。


 目の不自由な自分を隠しておきたいサークライ家の判断は、まだマシな部類だろう。


(殺されないだけマシ、よね……。でも、殺さなかったことをいつか……)


 自室で椅子に座り、彼女は窓の外を見ていた。


 彼女は目が見えないと思われていたが、そうではない。


 見える世界が違うのだ。


「今日は暖かいわ」


 窓から入る日差しが、体を温めてくれる。


 目が見えないことで、彼女は他の感覚がより鋭くなっていた。それは、ただ鋭くなっていたのではない。


 足りないところを補うまでに、彼女の感覚は鋭いのだ。


 相手の呼吸音、心音を聞き取り距離も測れる。


 見えていないだけで、彼女は普通に生活が出来ていた。


 しかし、それをあえて隠している。


 理由は面白いからだ。誰もが自分を哀れみ、そして見えないことを良いことに油断する。それが面白かった。


 それに――。


「魔力の流れが見えるって良いわよね。だって、ほとんど見えているもの」


 彼女の目は魔力を視覚する事が出来た。


 目に見えない魔力の流れを見られるという能力は、彼女の見えない目と【スキル】が起こした結果である。


 目が見えないことで他の感覚が鋭くなったように、シャノンの目を補おうとスキルもそれに特化した。


 いわゆる魔眼を持つ少女が、シャノンである。


「それにしても、あのライエルとかいう男、相当警戒していたわね……なんか変な感じがするし、早く追い出したいのに」


 屋敷にライエルたちが住むようになってから、シャノンは苛立っている。


 姉と二人での生活を望んでいた彼女にとって、ライエルたちは邪魔なのだ。


 特に、ライエルには、不思議な光が七つも見えていた。今までに見たことのない魔力に、シャノンは警戒を強めている。


「せっかく良い感じに壊れ始めていたのに、邪魔してくれちゃって……」


 シャノンが姉を好いているのは事実だが、それ以上に今はシャノンにとって姉のミランダは玩具である。


 新しい力を手に入れたシャノンは、魔力の動きで相手の感情が分かるようになっていた。


 魔眼を手に入れたのは、彼女がまだ王都セントラルにいた時だ。


 一人の少女を見た時に、それは起こった。


 目の見えないはずの自分に、大きな魔力の塊が見えたのだ。


 そこにいるのは自分と同じくらいの年齢の少女であった。なのに、誰よりも大きな魔力の塊を持っていたのだ。


 相手は伯爵家の娘で、実家であるサークライ家とも繋がりがあった。


 その魔力の光は、周囲の魔力をまるで引き寄せているようにも見え……美しく、それでいてとても怖く、魅入られそうになったのを覚えている。


「……いつか私だって超えてみせる。この目があれば」


 まるで違う何かが、人間の世界に降りてきたような存在。


 シャノンはその少女と挨拶をしたが、見向きもされなかった。


 目が見えず気弱な少女としてしか、見られなかったのだろう。


 それがとても悔しかった。好かれたいのではない。しかし、見向きもされないのでは、自分がその程度だと言われている様な気分になる。


 なのに、その少女が興味を持ったのは――。


「あぁ、早く壊して私がいないと駄目な人形にしたいのに……使用人共で練習してきたから、だいぶ上手くなったと思うんだけどな」


 魔眼で魔力を見て、それを操ることが出来るようになった。


 自分の魔力を伸ばし、そして相手の魔力を乱す。


 彼女にしか見えないので、誰も気が付かない。


 乱された相手を操る術を、シャノンは使用人で試してきた。


 それは目が見えなかったシャノンに、自分の世界を大きく広げる手助けとなった。


 同時に、暗い感情を植え付ける。


「明るくて綺麗で、理想のお姉様……早く壊したいなぁ。そうすれば、私はいつかあの人を超えられる。私はあの人になる」


 『あの人』に違う意味で魅入られたシャノンは、一度目と閉じてから目を開ける。


 黄色の瞳が金色に光り出していた。


「まずはお姉様をお人形さんにしないとね。私の思う通りに動く、ね」


 自分が目標とした『あの人』に気に入られたお姉様――ミランダに、シャノンは歪んだ感情を抱いていた。


 恍惚とした表情で、シャノンは窓の外を見ていた――。






「管理された迷宮って、こんな感じなのか」


 ダミアン・バレ――。


 学術都市の七傑に数えられる変態の依頼を受けた俺は、管理された迷宮に足を踏み入れてボソリと呟いた。


 ダリオンで経験した迷宮とは違い、金属の薄い板がバラバラに折り重なり迷路を作り出していた。


 ほんのりと光っている場所があり、時々赤い点滅をする丸い物体が見える。

独特の雰囲気のある迷宮を管理しているようだ。


 よく本で出てくるような迷宮は、煉瓦で作られた通路や洞窟のイメージがある。学術都市は他と違うと思っていたが、ここまでとは思わなかった。


「おい! こっちは行き止まりだ!」

「早く下に向かえよ!」

「くそっ! 魔物がいねー!」


 今回の依頼で迷宮に挑めるとあって、俺たちのようにダミアンの依頼を受けた冒険者は多かった。


 だが、多すぎて地下一階はそうした冒険者で溢れている。


 普段から迷宮で魔物を倒している冒険者たちは、非常に迷惑そうにしながら地下へと向かっていた。


(なる程、七傑の依頼は周囲に迷惑をかける、っていうのは本当だな)


 ノウェムが周囲を照らしていたが、途中で止めてしまう。


 周囲で同じように明かりを用意しているので、移動に困らなかったのだ。


「想像以上ですね」


 少し苦笑いをしているノウェムに、アリアも同意していた。


「わざわざ外に出て探さなくても、遭遇する確率は多いから人気だとは聞いていたけど……」


 微妙な表情をしているアリアだが、俺も同意見だ。


 スキルで周囲の状況を確認すると、魔物は全て倒され宝箱も開けられている。頭の中に浮かび上がっているマップには、黄色い点がいくつも存在して見えにくいほどだった。


 五代目がアドバイスをしてくる。


『マップを見る時は見やすい倍率で確認しろ。全体を見渡す感じだと、反応ばかりで何も見えないだろ。それと、分かっているだろうが……』


 俺は宝玉を握りしめた。


「ノウェム、アリア、俺たちはこのまま次の角を右に曲がる」


「はい、ライエル様」


「え、なんでよ。みんな左に曲がっているわよ」


 アリアだけが納得できない様子だったが、俺が左に曲がるのを避けたのには理由がある。


 確かに魔物は全て倒された後だろう。


 しかし、敵意を持つのは何も魔物だけではない。


 移動している黄色の集団に混ざって、赤い反応がチラホラと見えている。


(俺たちだけじゃない。他の冒険者もカモ、って感じなんだろうな)


 殺しまでは行かなくとも、盗みや脅しなどで冒険者が持つ商売道具を奪う連中もいるのだろう。


 中には、パーティー全体が赤い表示になっている連中までいる。


 そうした連中を避けているのは、俺たちが三人だけのパーティーだからだ。しかも、男は俺一人。


(人手が少ないのは困りものだな)


 こうした時に、どうにも厄介ごとに巻き込まれる。


 人数の少ないのは不利だと実感した。


 俺は混雑具合を確認し、戻ることを二人に告げる。


「今日はもう戻ろう。無理して稼ぐ必要もないし、しばらくすれば落ち着くだろうから」


「ここまで来たのに勿体ないわね」


 アリアが不満を口にすると、ノウェムは説得する。


「確かに先に進めば魔物と遭遇するでしょうが、そうなると地下五階かそれ以上か……深ければ深いほどに、魔物が強くなると聞きますから、危険かも知れませんね」


 俺的に言えば、常にマップで敵の位置まで確認できる。


 奇襲など受けないし、逆に奇襲して相手を楽に倒せる自信もあった。


 だが、それを言っても意味がないので止めておく。


「というか、人が多すぎる。なる程、確かに管理が必要だな、これは」


 五代目が同意してきた。


『きっと、中には最下層まで行って財宝を奪おう、って奴もいるだろうな。これだけ深いとなると、どんな財宝が眠っていることやら』


 三代目も言う。


『宝箱、って基本的に倒れた冒険者の品を、迷宮が再現しているとか聞いたけど本当かな? 死体も装備も呑み込んで成長するとか聞いたけど、実際に見てみたいよね』


 周囲に同意を求める三代目だが、二代目は引いていた。


『……ないわー。それはないわー』


『え?』


 四代目も言う。


『そんなグロテスクなところを見たいとかドン引きですよね』


『え? あれ?』


 三代目が慌てているというのも珍しいが、今は帰るのが先決だ。


「さて、このまま帰るか」


「道は分かるのよね? というか、ちゃんとスキルの説明をしなさいよ。いったいいくつ使えるのよ」


 アリアが俺に説明を求めてくるので、俺は答える。


「……全部で八つだね」


 それを聴いたアリアの顔が引きつっていた。


 ノウェムは……変わらずニコニコとしているだけだ。


 宝玉から聞こえる声は、冗談を言い合っている二代目から四代目を無視して俺に声がかかった。


 五代目だ。


『さて、ライエル』


 俺は宝玉を触り返事をする。すると、五代目が言う。


『今日の夜は会議室に来い。俺と六代目、そして七代目のスキルを教えてやる。ついでに三代目のスキルも、な』


 俺はそれを聞いて少し驚いた。


 今まで教えてくれなかった三代目と七代目のスキルを、ここで一気に教えると言う。


 しかも、自分たちのスキルの応用……二段階目までも、である。


(急にどうしたんだ、五代目は……そんなに焦る人でもないのに)


 不思議に思ったが、俺は五代目の指示に従う事にした。






 深夜。


 屋敷の全員が寝静まると、俺は宝玉内に意識を飛ばす。


 ベッドの上に寝ているだけだが、意識だけを宝玉に持って行ける。


 そこでは、円卓を囲んでご先祖様たちが色々と雑談をしていた。


(俺に聞こえないところでも会話をしているんだろうな)


 そう思いつつ、俺は自分の席に腰を下ろす。


 進行役の四代目が俺を見ると、雑談を止めて手を三回叩いた。全員が雑談を止める。


『はい。ライエルも来たので会議を始めます。さて、今日呼び出したのは五代目だったね』


 テーブルに肘をついた五代目は、俺を見て言う。


『ライエルにスキルを教える。三代目と七代目のスキルを、だ。スキルの使い方を見るに、今のライエルなら失敗しないだろうからな』


 スキルの失敗とは、スキルを連続使用して魔力の枯渇を起こす現象だ。


 気を失うならまだ良い方で、実は死んでしまう可能性もある。


 以前、盗賊団のボスと戦った時に、相手がスキルを多用しすぎて体中から血を噴き出していた。


 三代目が俺を見て頷いていた。


『いいんじゃないかな? でも、基本的に応用は教えられないよ』


 五代目はそれでいい、と言うと七代目に視線を向ける。


『……使用回数は一日に二度まで、という事なら』


 七代目はスキルの使用制限を条件に、俺にスキルを教えてくれるようだ。


 この二人のスキルだが、三代目のスキルは質が悪く。


 七代目のスキルはとんでもなく魔力の消費が大きいようだ。


「お二人のスキルはどんなスキルなんですか?」


 俺が聞くと、三代目は笑いながら言う。


『スキル名は【マインド】だね。主に精神攻撃や防御をするスキルだよ。相手に幻覚を見せる事もできるけど、使い慣れると相手を意のままに……おっと、ここからはライエルには刺激が強いかな?』


 そこまで言って、三代目は口元を手で押さえた。


 周囲のご先祖様たちが、溜息を吐く。


 二代目はドン引きしている。


『お前は性格悪いよな』


『そうかな? さて、次は七代目だね』


 三代目が七代目を指名する。


 立ち上がった七代目は、俺にスキルを使用して見せてくれた。


『わしのスキルは【ボックス】だ。空間系のスキルでな。便利だが魔力の消費が激しく、下手をするとそのまま魔力を失って気を失う』


 七代目が指をパチンと鳴らすと、俺の目の前に魔法陣が出現する。


 その魔法陣からは、まるで宝箱のような箱が出現した。


『箱の大きさはライエルの魔力次第だ。これは維持するための魔力を必要としないが、呼び出す時の魔力消費量が大きい。中身は時間すら止めた状態で保存できる優れものだがな』


 とんでもなく便利なスキルである。


 それを聞いて、なんで今まで黙っていたのかと思い七代目に視線を向けた。


 すると、七代目は言う。


『……わしのスキルは一度使用すると、途中でキャンセルする事もできないスキルだ。下手をするとそのまま死亡する事もある。少しは魔力が増えたからと言って、無理はするなよ、ライエル』


「は、はい」


 どうやら便利だが危険でもあるようだ。


 使用方法を後で聞くことにして、俺は五代目を見た。


 だが、話を続けたのは六代目である。


『さて、三代目たちのスキルについては近い内に教えるとして、ここからが本題なんだが』


「本題は別だったんですか?」


 六代目を見ると、咳払いをした。


 どうにも言い難そうにしている。


 すると、しびれを切らした五代目が――。


『おい、でかい図体をして恥ずかしがるな。お前が言わないなら俺が言うぞ。俺にも関係あるんだからな』


 五代目にも関係のある話?


 そう思っていると、六代目が溜息を吐いてから言う。


『……ライエル、実はサークライ姉妹だが、あの二人は俺の妹に似ている』


 六代目の弟と妹は三十人を超えている。


 そこまでいくと肉親の情が湧いてくるのか疑問だったのだが、前に言っていた仲の良い妹だったようだ。


「初代のように大事にしろ、と? まぁ、出来る範囲で気を使うつもりではいますが」


 そう言うと、六代目は首を横に振った。


『それもあるが、本題はそこじゃない』


(今、それもあるって言ったな。言ったよね? 俺、もう周りに女の人がいても困るんですけど! もしかして、嫁にしろとか言わないよね? 五代目とか六代目は妾が普通にいたから、この辺の価値観が俺とは違うんだよな……)


 話を中断するのも悪いと思い、俺はそのまま六代目の話を聞く。


『姉のミランダは妹にそっくりだ。性格も似ている。【ミレイア】もとても優しい子だった』


 六代目が思い出すように言うと、五代目も頷いていた。


『娘の中では一番大人しくて、口答えしてこないから楽だったな』


 なんというドライな感想だ。


 娘に対して少し酷いのではないだろうか?


 すると、六代目が話を続ける。


『妹のシャノンだが、あの子はミレイアが持っていた目を持っている』


「……目を?」


 シャノンの目は見えないと聞いていたが、六代目と五代目は何か知っているようだ。


 そして、俺にその辺の事情を説明してきた。


 六代目曰く――。


 シャノンは魔眼持ちなんだとか。


「魔眼ですか?」


『スキルで元からない視力を補おうとしたんだろうな。本人の意思もあるだろうが、それ以上に本能的なものだ。聞いたことはないか? 感覚の一つを失うと、他の感覚が鋭くなると言うのを』


 六代目の話を聞き、本で読んだことはあるので頷いた。


『それをスキルで補った場合に発生することがある。あの目は……シャノンの目は【ミレイア】が持っていた魔眼そのものだ』


 五代目が話に割り込んできた。


『ミレイアは目が見えないが、魔眼の力で魔力を見ることが出来た。その上、他の感覚から得た情報を視覚に再現できる。普通に目が見える連中よりも、よく見える目を持っていたんだよ。ついでに言えば見えない魔力の流れに触れることが出来る。厄介な力を受け継いだものだ。あの悪戯小娘が。ミレイアの魔眼で遊びやがった』


 五代目が少しだけ怒気を孕んだ声を出す。


 ミレイアの魔眼というが、本人が発現したものなので五代目の個人的な感情なのだろう。


(ミレイアさんをそれなりに気にかけていたのかな?)


「……シャノンのスキルが発動している証拠は?」


 俺は五代目と六代目が言いたいことを何となく理解した。


 屋敷に来てからの不思議な体験が、シャノンが起こしていた物だという。


 六代目が俺に証拠を伝えてきた。


『お前がスキルを発動した時に視線が動いた。しかも、宝玉にまで視線を向けたぞ。ミレイアも相手がスキルを使用するとすぐに察知していたよ』


 俺はシャノンの悪戯を止めれば良いのかと思っていると、想像以上の事を二人は言ってくる。



 五代目は真剣な表情で――。



『ライエル、シャノンを止めろ。改心させるのが無理なら……あの目は潰す必要がある』



 ――シャノンの瞳を潰せと言ってきた。


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