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セブンス  作者: 三嶋 与夢
章タイトルのセンスが欲しいぞ 十七代目
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円卓

 ――サウスベイムの賑わいの中に、少しピリピリとした緊張感のようなものが見え始めた。


 各国から代表が来ている事もあって、警備などで騎士や兵士たちが目を光らせ数が多くなっているからだ。


 そうしたサウスベイムの状況の中で、エリザ・ルソワースは困っていた。


「……道に迷った」


 人通りが多い。加えて普段からあまり外に出して貰えず、出ても護衛や誰かが傍にいたエリザも以前サウスベイムに来ていたが、開発ペースが速すぎてほとんど別の街に見えていたのだ。


「こんな場所、前にはなかった」


 泣き出しそうなエリザだが、涙は流さない。困った様子でオロオロとしているが、外見は背が高くとも水色の長い髪を持つ美人だ。普段は顔立ちが美しく、余計に周囲に冷たい印象を与えている。


 しかし、今は女性らしい服装を――パンツスタイルに、上着はフリルのついた服装だった。軽い気持ちで護衛たちを置き去りにして、街を歩いて迷子になったエリザはそんな姿でオロオロとしている。


 そこへ。


「何をしているの?」


 両手にお菓子などを抱えたシャノンが、エリザの後ろに立っていた。


「……後ろを取られた」


 そして、エリザはシャノンのような小柄な少女に後ろを取られたことを悔しがってその場に座り込む。


「なんか失礼ね。というか、エリザじゃない」


 エリザは屈んでシャノンを見ながら。


「お前……シャノンか? たしか、ミランダの妹だったな」


 互いに微妙な関係であり、こうして話をする機会は少なかった。互いにライエルの嫁候補であり、エリザにして見ればシャノンもライバルだ。


 シャノンは抱えたお菓子の中から、一つを手にとって食べ始めた。


「はしたないぞ」


 エリザの言葉に、シャノンは呆れていた。


「五月蝿いわね。こっちは屋敷だとお菓子を制限されているのよ。お小遣いを得たら、外に出てストレスの発散が必要なの」


 美味しそうにお菓子を食べるシャノンを見て、エリザのお腹が鳴った。慌ててお腹を押さえるエリザは、白い肌を赤く染めて恥ずかしがる。


「なに? お腹が空いているの? しょうがないわね。私のお菓子を恵んであげるわ」


 上から目線のシャノンに、エリザは腹が立った。しかし、シャノンの持っているお菓子は美味しそうだ。


(いや待て、私! これでもルソワースの代表。こんな小娘に恵んで貰うなど……)


 シャノンがエリザに向けているのは、サウスベイムでも人気のお菓子だ。


「あら、いらないの? これ、サウスベイムでも人気のお菓子で、朝には売り切れるからもう今日は買えないわよ」


 因みに、売っているのは小遣い稼ぎを忘れないヴァルキリーズである。各派閥が、資金調達のために店を開いてお菓子や料理を振る舞っている。元がオートマトン――しかも、人に対して尽くすように作られているのでその腕前はなかなかのものだった。


 甘い香りが、エリザの鼻腔をくすぐる。


 手を伸ばし始めたエリザに、シャノンはお菓子を引っ込めた。


 ニヤニヤしながら。


「ほら、ちゃんと欲しいと言いなさい」


「お前、嫌な奴だな」


 エリザがそう言うと、シャノンは横を向いた。


「なんで私がお姉様の敵に優しくする必要があるのよ。それに、これでも優しい方よ。人気のお菓子をあげるんだからね」


 すると、エリザが立ち上がった。


「この辺に詳しいのか? ルフェンスにはついていかなかったのか?」


 ライエルに置いて行かれたのか? そういう言い方をされ、シャノンは急に大声で。


「はぁ!? 私が置いて行かれるわけがないでしょう! これでも仕事だってしているんだからね。あいつ、私がいないと駄目人間だし」


「そ、そうなのか? 私は普段傍にいないから、その辺の事情を知らないんだ」


 シャノンに怒鳴られ、落ち込むエリザ。そんなエリザを見て、シャノンは溜息を吐く。


「仕方がないわね。ついてきなさい。恵まれるのが嫌なら、美味しいお店を紹介してあげる。私、お菓子専門だけど」


 ちなみに、その他全般はメイやマリーナの専門だ。屋台や店の料理のほとんどを食べ尽くしており、二人はサウスベイムの有名人だ。


「いいのか? 敵だろ?」


 エリザがそう言うと、シャノンは不敵に笑いつつ。


「ふっ、今だけは友達でいてあげるわ」


 などと、少し頬を染めてそんな事を言っていた。エリザも嬉しそうに。


「そ、そうか!」


 友達という言葉に喜ぶエリザは、かつて飾り物の女王として扱われていた。そのため、人付き合いが苦手である。グレイシアとも微妙な関係になり、友達という言葉に飢えていた。


「この街での楽しみ方を教えてあげる。まずは腹ごしらえよ。それからトレース家の店に行ってショッピング。ライエルの名前を出せば、喜んでタダにしてくれるわ」


「す、凄いな、ライエルは」


 フィデルがライエルの名前で購入させており、大量に買わせているのだがシャノンはその事を知らない。


 そのまま二人でサウスベイムの街で遊び回り、戻った頃にはエリザは護衛の騎士たちに怒られ、シャノンは買い物の請求を受け取ったライエルに怒られた。


 二人して、部屋で正座させられている姿が確認されたとか、されないとか――。






 サウスベイムに用意された大会議室。


 用意された円卓を囲むのは、各国の代表たちだ。そんな中で、豪奢な椅子に座って権威を示している俺は、表情を崩さないようにしていた。


 会議室では、いかにバンセイムが危険かを説明がされている。バンセイム王家が、ファンバイユ王家にした婚約の解消から、セレスの異常な行動の数々。


 そして、バンセイム国内で起きている地獄が伝えられると、各国の代表も怪しみながらも納得している様子だった。


 正直、誰もが正義感から連合に参加してはない。バンセイムの東部では、ウォルト家が敗北して俺につく事を選んだ領主も多い。


 時代の流れが、こちらに来ていると見て協力を申し出た国や領主たちも多かった。


 更に、ファンバイユはかつて六代目や七代目にトラウマを刻まれた上に失った領地の回復が目的だ。


 すると、カルタフスに隣接し、バンセイムと国境を接しない国の代表が。


「これは酷い。確かにバンセイムをどうにかする必要がありますな。しかし、盟主殿……参加する我々への見返りはいったいどのような物になるのですかな?」


 すると、四ヶ国連合を代表してアウラさんが。


「これだけの脅威を前に、報酬を求めますか。打ち倒さねば、大陸全土の危機になるのは明白です」


 アウラさんが俺を擁護するのは、俺のため……ではない。四ヶ国連合の、そしてザインに発言力があると見せるためだ。


 実際、俺が立ち上がるため、ザインにはかなり協力をして貰っている。その見返りを求めているのだ。


「……小国風情が」


 不穏な空気が会議室に広がると、宝玉内から三代目がワクワクしたような声で。


『いいね。寄せ集め、って感じが出ていて実にいい。ウォルト家の兵士の大半が味方についていて良かったよ。周りに示しがついているからね。逆に少なければ、主だった国が全力でバンセイムに攻め込めない』


 アウラさんが。


「今の言葉は聞かなかったことにしましょう。ですが、この場で連合を抜けるなら、そう言えばよろしいのでは?」


 相手が言えないと理解しての発言だが、流石に煽りすぎだった。


 その他にも。


「後から出て来て、報酬だけを心配する態度はいかがかと」

「我々の協力がなければ、まともに戦う事が出来ないというのを忘れているのでは?」

「今まで日和見をしておいて」


 そうした不満が次々に噴き出してくる中で、俺は黙って話を聞いていた。宝玉内からは、三代目のアドバイスが聞こえてくる。


『ライエル、こういう場では最良の回答を出しても意味がない。人は気持ち次第でそれを素直に受け取れないからね。こういう時は、不満を言わせておいて疲れたところで提案しよう。会議も体力勝負だよ』


 それぞれの立場、そして認識の差を埋めるための会議だ。ある程度の口論など起きて当然だった。


 そして、一人の中年男性が立ち上がる。


 ファンバイユの更に西にある国の代表だった。


「失礼。先程から議題に上がっているのは、いかにバンセイムが非道を行っているか。そして、それが大陸全土に広がるのも時間の問題という事でしたな。しかし、こういってはなんですが……ウォルト家の出身である盟主殿が、本当に盟主として相応しいのか(ハナハ)だ疑問です」


 セットされた髭を持つ中年男性は、王太子という立場らしい。もっともな疑問だと思いながら聞いていると、王太子は。


「これだけの規模の連合軍です。きっと歴史に名を刻むでしょう。その総大将である盟主殿が、敵であるバンセイムとの関係者――納得できないのは私だけではないはずです」


 ざわめく会議室内で、俺は黙ってその話を聞いていた。


 すると、グレイシアさんが腕を組みながら、王太子を睨み付け。


「なにが言いたいのか?」


 王太子は肩をすくめ。


「女性を籠絡し、勢力を広げる。なる程、それも確かに手段の一つですね。凶悪とこの場で紹介されたセレス・ウォルトと似ている。やはり兄妹のようだ。……私は、この場で盟主を選び直す必要があると思いますが?」


 三代目が笑っていた。周囲のざわめきでは、その方が都合の良い連中から賛同の声が聞こえてきた。


『痛いところを突いてくるね。さて、ライエルはどう返すのかな?』


 三代目が楽しんでいるのは、逆に誰ならセレスを止められるのか? その答えがないと知っているからだ。


 俺は背筋を伸ばしたまま。


「……バンセイムへ攻め込む兵士は現在で十五万を予定しています。これも、時間が経てばまだ増えるでしょう」


 ルフェンスを目指して訪れるバンセイムの領主、そして流れ着いた不満を持つ民たち。まだ増える予定だ。


 王太子が眉を動かし。


「それが何か? 兵力で言えば最大兵数はカルタフスの――」


 ルドミラが言う。


「カルタフスも動員にそこまでは出せんよ。しかし、それ以上の兵力を出してくれるというのかな? 兵力だけではない。各軍勢との連絡手段は確保しているのか? 作戦は? 各国の状況把握は? この場で、盟主殿以上に出来る者がいるなら名乗り出てはどうか?」


 すると、ファンバイユの代表である重鎮が一言。


「辺境の国はこれだから。出せても精々三万が限界の君の祖国とは既に尺度が違うのだよ」


 長いこと、大陸は分裂しており規模の小さい視点しか持っていなかった。大陸規模というと、兵力だけではどうにもならない問題も出てくる。


 すると、ジャンペアのジュールが手を叩いた。


「結果など出ている。それが理解できただけでもよろしいではないですか。まぁ、男子たる者、上を目指すのはいい事だ。ただ、ジャンペアは盟主殿を支持する」


 主だった面子が頷き、俺の支持を表明すると他の参加者たちが押し黙った。


 三代目が興味深そうに。


『まぁ、いきなり大陸規模の視点を持て、とか言っても無理だよね。僕だって首を傾げたくなるし。ライエルは色々と便利なスキルとか、オートマトンとか持っているからこういう時に有利だよね』


 モニカたちオートマトンの存在もそうだが、歴代当主たちが残したスキルが俺を優位にしていた。個人であれば、アリアのような赤い玉や前衛系のスキルが有用だ。


 部隊やもう少し大きな規模なら、後衛系だろう。


 ただ、大軍勢を指揮するとなると、支援系のスキルは飛び抜けて優秀だった。


 かつて、初代が安いからと買った青い玉が、まさかこれ程のものになるとは……世の中、不思議なことが多い。


 俺は参加者に視線を巡らせ、意見がないと知ると。


「では、会議を続けましょう。皆さんお忙しい身ですからね」


 ただ、この後の会議で決まったのは、今の時期では忙しくて動けないという事だけだった。


 三代目曰く。


『まぁ、春から秋までは普通に忙しいもんね。兵力が領民なら、簡単には動かせないし』


 だ、そうだ。






 ――ミランダの自室。


 固まったミランダは、シャノンの紹介で部屋を訪れたエリザを見ていた。照れているエリザと、胸を張ってどうだと言わんばかりの態度でシャノンをミランダが見て。


「……え? お友達?」


 シャノンは胸を手で叩き。


「そう! 私とエリザは友達よ」


 エリザも照れながら。


「こっちに来てから色々と話をして、正座をさせられた時に友達になりました」


 ミランダは引きつった笑みで何度か頷き。


「そ、そう」


(……元から問題のある人だと思ったけど、これはまさかの予想外。まさか、シャノンがここでやってくれるとは)


 ミランダがエリザを見ていると、シャノンがエリザに。


「お姉様にもちゃんと紹介したし、これで安心ね。さぁ、エリザ、これから食堂に行くわよ。今日は小さなゼリーがデザートだから、口の中でコロコロしたいの」


「あ、あぁ。私もコロコロしたい」


 普段は冷徹そうなイメージだが、こうして見るとエリザもシャノンと同じで駄目だった。ミランダは、冷静にエリザを見ながら……暗い笑みを浮かべた。


 即座に優しそうな笑みに切り替えると。


「シャノンの友達なら、私の友達ね。仲良くしましょう、エリザ」


 すると、エリザが嬉しそうに。


「そ、そうか! 仲良くだな!」


 グレイシアとライエルを奪い合った状況とは違い、エリザは嬉しそうにしていた。本来、ミランダやシャノンもグレイシアと似たようなものだ。しかし、状況が違う上に、エリザが友達に飢えていて自ら――蜘蛛の糸に絡まる獲物でしかなかった。


 ミランダはエリザの手を引いて。


「さぁ、食事にしましょう。その後はお風呂ね。あ、一緒の部屋で寝ない? パジャマパーティーよ」


「パジャマパーティー! 聞いたことがある!」


 嬉しそうなエリザ。


(ルソワース……駄目だと思っていたけど、やっぱり駄目ね。もっとエリザの周りは固めておかないと。そんなに脇が甘いから、私に奪われるのよ)


 こうして、エリザがミランダの派閥に組み込まれたのだった――。


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