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セブンス  作者: 三嶋 与夢
ネタがないなら開き直ればいいじゃない! 十六代目
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父親

 銀色の銃から放たれたのは、青い銃弾――魔力で出来た銃弾だった。


 引き金を引くと、父の用意したマジックシールドを七代目のスキル【ワープ】で飛び越えて鎧を貫いたのである。鳩尾あたりよりやや下に風穴を開けた。


 フラフラとする父が、サーベルを手放すと静かになった戦場でサーベルが地面にぶつかる音が聞こえた。遠くではまだ戦っているが、次第に静かになっていく。


 ゆっくりと仰向けに父が倒れると、左手で自分の体を触って血を確認しながら――。


「……そうか、私は父と……お前に負けたのか、ライエル」


 父が俺を見ながらそう言った。どんな風に俺を見ているのかは分からない。銃を持った俺と、七代目を重ねてみているのかも知れない。


 そうして銃を宝玉に戻すと、左手に持った拳銃を後ろ腰のホルスターにしまって俺は宝玉を握りしめたまま父の方へと歩いた。


 すると――。


「マ、マイゼル様ぁ!」


 ベイル・ランドバーグが慌てていた。周囲の情報がヴァルキリーズを通して集まってくる。スキルを使用しているので、周囲の地形や敵味方の配置も頭の中で表示された。


 ヴァルキリーズは、俺が勝った事を戦場で伝えており俺たちが勝った事が広まっていく。だが、興奮したベイルたちのような騎士や兵士が動き出した。


「退けぇ!」


 ベイルがスキルを使用したのか、素早い動きでこちらに接近しようとしてきた。それをアリアがスキルを使用して止めていた。


「邪魔するな、って言ってんのよ!」


 スキルが使える事が周囲に広まると、ミランダも黙ってはいない。


「これで本気が出せるわね……ほら、退かないと死ぬわよ!」


 両手の指からワイヤーを出して、縛り上げ切断していく。戦場が再び騒がしくなる頃には、俺は父の下に辿り着いていた。


 かがみ込んで、体に開いた穴を手で押さえる父の顔を見た。血が大量に失われ青いと言うよりも黒かった。戦場の土煙で顔が汚れ、本人は動くのも辛そうだった。


 ただ、スッキリしたような顔をしていた。


「……何故だろうな。今は解放された気分だ」


「はい」


「ライエル……お前、いくつになった」


「今年で十七になります」


 家を出たのが春頃だ。ソレを思うと、俺が外に出てもうすぐ二年になる。色んな事があった。長い時間がかかったような、それでいてあっという間だったような……。


「……そうか。十七か。ならば初陣を経験させなければ……待て、私はお前に馬を買ってやったか? 武具も用意せねば……すぐに、作らせねば……それに嫁の手配を……いや、婚約者はノウェムだったか? どうにもよく思い出せない」


 記憶が混濁しているのか、今までの事を忘れたのか……父は、俺を息子として見ていた。涙が出そうになった。ただ、俺に手を伸ばすと左手に血がついているのを見て。


「……夢ではないのか。そうか、私は負けたのか」


 血を吐く父に向かい、俺は頷いた。そして、伸ばされた右手を両手で掴んだ。


「……申し訳ありません、父上。もう、これ以外の手立てがありませんでした! ……不出来な息子で……申し訳ありません」


 そして、父は呼吸を整えると目を閉じた。少しだけ、笑っていた。


「なにを言う。これだけ迷惑をかけながら、まだ父と呼んでくれるお前だ。不出来なのは私だったな。だが、もう駄目のようだ。体が動かない。謝りたい。お前に……色々と伝えたいことが……」


 血を吐き出す父、そして地面の乾いた土が父の血を吸っていく。咳き込み、そして俺が父の右手を強く握ると、宝玉が光り出した。


「つ、伝えたい事もある。だが、今はやるべき事が……ラ、ライエル……か、勝鬨を上げよ。お前は私に勝ったのだ。私に止めを刺せ。そして……セレスを止めてくれ。アレも私の娘。ウォルト家の……コフッ!」


 血を吐いて喋れなくなった父に、俺は頷いた。そして、言うのだ。


「ご安心ください。必ず止めて見せます。だから……」


 なんといえば良いのか分からなかった。だが、父は笑っていた。


「あぁ……すまない。先に行って父に叱られておこう。お前は後からゆっくり来なさい。セレスは……こちら側に来たらきつく叱って……」


 父がそのまま一呼吸すると、動かなくなった。俺は立ち上がると、宝玉を握りしめた。


「マイゼル・ウォルトは……このライエル・ウォルトが討ち取った! すぐに戦闘を中止し、投降せよ!」


 そして、宝玉が青い光を放つ。宝玉内の三代目が。


『これは――アンチスキル? いや、違う』


 戦場に青い光の粒が降り注ぐと、それに触れた敵兵たちが急に崩れ落ちた。アリアと戦っていたベイルも、目を見開いてその場に立ち尽くす。武器を持ちながら、俺の方を見ていた。


「……ライエル様」






 ――左翼。


 厄介であるフォクスズ家を足止めしていたのは、同じフォクスズ家のノウェムだった。杖を持ち、大鎌の形状にすると父や兄と向き合っていた。


 乗り込んできた両名の相手をしていたのだが、降り注ぐ青い光の粒を見上げていた。まるで雪のように舞い落ちる青い光を、ノウェムは右手で触れると握りしめた。


「……ライエル様、お辛いでしょうに」


 悲しそうに呟くノウェム。


 ノウェムの傍にいたヴァルキリーズが、ノウェムに現状を報告してくる。


「ノウェムさん、敵は無力化していきます。この光が関係していると……。それと、投降を始める者たちが出始めました。ただ、大半は現状が理解できていない様子です」


 空を見上げるノウェム。


 それは、武器を手に持って向き合っていた父のジェラードや、兄のエルバートも同じだった。ジェラードは言う。


「……マイゼル様が逝ったのか」


「父上」


 ジェラードは、兜を脱いでそのまま自身の首筋に剣の刃を当てた。


「もう良い。先代とマイゼル様にお仕えしてきた。現当主が責任を取る。それだけだ。お前は投降してライエル様の指示に従え。処刑でも、そして配下に加わるにしても、フォクスズ家の者として動きなさい」


 エルバートが俯きながら頷いていた。そして、剣を鞘にしまってノウェムに投げて寄越す。


「ノウェム……投降する」


 ノウェムはライエルに向けた優しさを、家族には向けなかった。右手で兄の剣を手に取ると、頷くだけだ。そして、父の方を見て。


「兄上の件はライエル様にお任せします。他に言い残すことは?」


 すると、父であるジェラードは笑っていた。これから死ぬのが怖くない、というよりも娘に対して思うところがあったようだ。


「アハハハ、ノウェム……お前は本当に正直だな。家族が死ぬのだ。少しは悲しそうにしなさい。ライエル様も不快に思われるぞ」


 言われて、ノウェムは。


「ライエル様のお側にいる時はそうしますよ」


 そして、ジェラードは自分の首筋を斬って血を噴き出させた。最後に――。


「どちらにしろ……これでフォクスズ家の役目も……」






 本陣の天幕近く。


 そこに止めてあったポーターの荷台に乗り、投降する兵士たちの姿を見ていた。全員が信じられないという表情をしていたのだ。


 宝玉を首に下げながら、俺は三代目に確認を取る。


「何が起きたんでしょうね。あのまま戦う事になると思いましたけど、急に宝玉から光が溢れて……そのまま戦場に光が降り注ぐとか」


 先程の光景を思い出しながら、俺は三代目にたずねた。今は俺の周りに誰もいない。いや、近付かなかった。


 気を利かせて少し離れた場所で護衛をしてくれているのだ。


『僕にもサッパリ、かな? まぁ、これも宝玉の力なのかもね。なにしろ、この青い宝玉を作ったのは力のあるセプテムだ。アグリッサ以上の存在だよ。こんな事が出来るならもっと早くに、っていうのは贅沢かな? ……ただ、マイゼル君のスキルの影響かも知れない。断定は出来ないね。まったく、こういう時にこそ、ミレイアちゃんがいればいいのに』


 三代目は冗談を交えつつ俺に答えているが、気を遣っている気がした。涙を流し、腫れてしまった目元を皆に見せないようにしている俺は、無理して笑うのだ。


「確かにそうですね」


『ライエル、泣きたいのは分かるけどもう少しだけ我慢だ。悪いけど、今のライエルの立場はそういう立場だからね。ただ、後で時間を作るんだ。そしたら、また今まで通り。きっとこれからはもっと忙しくなるから』


 かつては五月蝿いほどに声が聞こえてきた宝玉からは、今では三代目の声しか聞こえなくなった。それを寂しいと思う自分がいた。


「……三代目、父は最後にセレスから解放されたんでしょうか?」


『そうだね。解放されていたと思うよ。それにしても、魅了された者を解放する手段が、殺す事だとは……それに、マイゼル君が宝玉になんらかの影響を与えた。おかげで魅了された連中を解放する手段は得たけど。ままならないね』


 本当なら、父をこの手にかける前に手にしたかった。


「……母上にはどうしたら良いのでしょうか」


『解放しても罰を与える事になると思う。ライエル次第だけど、今後を考えると厳しいかな。周りは絶対に重い罰を求める。甘くすれば、ライエルに甘さがあると思われるからね。まぁ、拷問なんかは逆にしない方が良いよ。家族にそこまでするのか、って思われるだろうし』


「難しいですね」


『そうだね。難しいよ。世の中、バランスを取るのが本当に難しい。まぁ、そんなものだから、ライエルはライエルのバランスの取り方を覚えないとね。正直に言って、これから先は僕には未知の世界だ。ついでに言えば、絶対の正解なんてないからさ』


 しばらく時間を作り、心の整理を付けたかった。


 これが憎い相手ならもっと楽だったのかも知れない。だが、七代目の記憶の中では、本当に俺は愛されていた。それを知ることができた。出来たのだが……それが余計に俺を悲しくさせた。


 すると、三代目が言う。


『こういう時は女性に頼りなよ。女性の方がこういう時は強かったりするし、何よりライエルの周りにはそういう子が一杯だからね』


 いつもの軽いノリで言う三代目に、俺も言い返した。


「一杯いすぎて、誰を頼っても角が立つんですけどね。まったく、誰のせいでこうなったんだか」


『お、言うようになったね』


 三代目が笑った。笑って、三代目なりに俺を慰めてくれていた。






 ――バルドアは、捕虜となったベイルの下へと来ていた。


 武器を取り上げられ、一箇所に集められた兵士たちとは違い、ベイルは責任のある立場だ。バルドアが顔を出すと一人だけだった。


 用意された鉄格子の中におり、姿勢を正して座っていた。


「……来たか。助かったぞ、バルドア」


「叔父上。すぐにライエル様もこの場に来られると思います。その時は全てをお話しください」


 ベイルは疲れた表情をしているが、目は真剣だった。


「今更会わす顔がない、などと言ってはいられないな。だが、いくつか約束してくれ」


「……私に出来る範囲なら」


 ベイルは甥っ子であるバルドアを見て少し微笑んだ。


「俺は責任を取る。そうしなければ、ライエル様の足を引っ張る事になる。処刑が一番望ましい。ただ、他の者には寛大な処罰を求める。それと……ランドバーグ家の男として、今後はお前がライエル様にお仕えしろ。兄上もそのつもりでお前をライエル様の下に送ったのだろう?」


 バルドアは叔父であるベイルを見ながら頷くのだった。


「……はい。実家からは三百名近い兵士を連れて来ています」


 ベイルは笑った。


「流石は兄上だ。俺とは違うな。そう……俺とは大違いだ」


 悔しそうに俯くベイルに、バルドアはたずねた。


「叔父上、ウォルト家のお屋敷で何が起きていたのですか? ライエル様を冷遇して、不自然だとは思わなかったのですか?」


 ベイルはありのままを答えた。


「……言い訳にしかならんが、それが正しいと思っていた。いや、言われるままに動いていた。疑問も抱かなかったよ。セレス様こそがウォルト家に相応しいと……今にして思えば、どうしてセレス様を当主にしようとしたのか、自分でも説明が出来ない。実際、俺だってライエル様には期待していた。そういった連中は多かったんだ。本当に……期待していた」


 バルドアも、セレスの虜にされたバンセイムの死兵を見ている。そして、自身の身内がそんなセレスから解放されて、こうして話してくれていても助ける手段がなかった。何しろ、世間がそんな話を信じない。


「叔父上、名を変えて一騎士としてライエル様に――」


「俺にも意地がある。それに、マイゼル様のお供は多い方がいいだろう。フォクスズ家の当主も自害した。責任を果たせば、俺も後を追う」


 覚悟は決まっているようで、バルドアはそれ以上の説得は出来なかった――。






 ――宝玉内、円卓の間。


 そこには二つの席とその後ろにドアがあるだけだった。八人分の席は、六席が失われて今はその場所に銀色の武器が浮いている。


『初代の大剣――二代目の弓――四代目の短剣――五代目の蛇腹剣――六代目のハルバード――そして、七代目の銃、か。僕の剣だと見劣りしないかな?』


 そんな独り言を呟いても、今では返事が返ってこなかった。三代目は思う。


(皮肉だね。ウォルト家で唯一の戦死者である僕が、この場で最後まで残るなんて。もっと早くに消えておけば楽だったのに)


 ただ、それぞれに意味があった。今なら、三代目もそう思えるのだ。初代がライエルの心に変化を与え。二代目はライエルの心を強くした。六代目は戦場での振る舞いや腹芸などをライエルに教え、四代目は主に内政を――五代目は、ライエルに思いを。そして、七代目はライエルが愛されていた事実を。


『僕が残せるものなんか、本当にスキルくらいしかないのに……まったく、周りが勝手に期待して迷惑だよ』


 二代目が消えて以降。宝玉内では最後に誰が残るのか話し合ったこともあった。だが、最終的には、スキルの難易度的に三代目か七代目とされていたのだ。


『教える事とかもうほとんどないのに。すぐにスキルを渡して終わってもいいかな?』


 いつもの冗談を言っても、誰も返事をしない。


 円卓の間には銀色の武器が浮んでいるだけだった。


『……最後まで見届けたい、って思うのは駄目なんだろうなぁ。でも、最後を任された訳だし、何か残せるといいんだけど』


 普段の飄々とした態度ではなく、三代目の本音がこぼれていた。


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― 新着の感想 ―
物語を否定するわけではないですけど、アグリッサがいなくともウォルト家の物語はきっと面白かったのでしょうね。ここがやっぱり一番堪えます。
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