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セブンス  作者: 三嶋 与夢
ネタがないなら開き直ればいいじゃない! 十六代目
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八代目

 ――初日。


 数万の軍勢がぶつかった戦場は、日が暮れ始めたためにウォルト家の軍勢が退く形で収束した。


 天幕ではウォルト家の主だった面子が揃っており、会議を行なっている。ただ、ウォルト家の軍勢は少なくない被害を出していながら焦った様子はなかった。


 マイゼルが天幕にいる面子に向かって言う。


「さて、これでライエルが代々続く玉を持ち、それを使用できる事が証明された。初代から三代目のスキルは欠損も多いが、四代目から七代目までのスキルは戦場では厄介極まりない」


 スキルの使用を制限した戦場で、初見でこうも崩れなかったのはマイゼルにとってはライエルがはじめてだった。だが、慌ててはいない。


 ベイルが報告をしてくる。


「功を焦った次男や三男の部隊が突出し、いくらか被害を受けました。少なくはありませんが、それでも想定の範囲内です」


 被害が出た。それはつまり、人が死んだということだ。しかし、集まった面子はあまり思い詰めた様子がない。


 マイゼルは少しだけ悲しそうに。


「家を継げない次男以降は、戦場で手柄を立てて出世して身を立てる事を夢見る。無謀になるのは仕方がない。だが、無駄ではなかった。その身をもって、ライエルが玉を扱えることを示したのだからな」


 ジェラードも報告をする。


「マイゼル様、右翼ではノウェムの姿を確認しました。ですが、まともにぶつかってはおりません。敵はこちらの陣容に合わせ、部隊を移動させている様子。後方支援は我々より有能だと判断します」


 同じようにベイルも同意した。


「左翼も同じです。野戦に出たかと思えば、防御に徹して柵を用意。まるで籠城しているようです。数の不利は大きいですな」


 それを聞いてマイゼルは頷き――笑った。


「では、手柄を手にする機会も与えた。これで若い連中はしばらく大人しくなるだろう。それに、少し痛い目に遭った方が気は引き締まる。今まで一方的な戦場ばかりだったからな」


 寄子の一人である騎士が、マイゼルに進言した。


「右翼では被害が大きな領主もおります。後退させるべきですね。それに、ウォルト家の寄子として言わせて貰えれば、後方などにいつまでも配置されていては面子が――」


「分かっている。さて、厄介な連中も知ることができた。こちらも陣容を整えるとしよう」


 こうして、マイゼルたちは明日の打ち合わせをするのだった――。






「右翼が集中的に狙われています」


 見張り台にいるモニカの声を聞いた俺は、本陣と左翼がそれ程まで攻め込まれていない事の原因を知ることができた。


「右翼から攻めるか。増援を出す。それにしても、数ではこちらが勝っているんだぞ。そんな事をすればどうなるかなんて――」


 数的有利。地理的有利。それらを持つ俺に対して、父の行動は右翼に集中するというものだった。


 左翼と中央に余裕があり、こちらには余力があった。中央に攻め込む敵は、数も少なく装備の質も昨日より劣っている。しかも、積極的に攻め込んでこない。増援を送る事を決定すると、すぐに伝令に命令を出す。


「……先に右翼を攻め落とすつもりか?」


 防衛用の拠点を用意したような俺たちは、容易に陣形を変えられないという欠点があった。そのため、守りには適していたが攻めには応用力が欠けている。それを補うため、予備兵力を常に持っていたのだが……。


 すると、モニカが中央の動きを報告してきた。


「敵、後退していきます。ですが、これは――バラバラに散らばっています」


 見ると、敵がここにきて明らかにおびき寄せてきていた。


「構うな。今は右翼に増援を――」


 だが、俺の判断を聞く前に目の前の部隊が勝手に飛び出した。それはまるで、昨日とは逆の立場だった。


「……前衛部隊、柵を越えて追撃に入ります」


「どうして……ブロア将軍はなにを」


 だが、将軍の近くにいる部隊は動いていない。一部が独断で追撃に入ったのだ。そして、それに釣られていくつかの部隊も動き出してしまった。


 伝令にすぐに引き返すように伝えたが、直後に伝令が駆け込んできた。


「一部の部隊が命令を無視して敗走した敵の追撃を開始しました! ブロア将軍の命令を無視して柵を越えています! 至急増援を派遣して欲しいと、ブロア将軍が――」


 伝令に向かい、俺は腹立ちながらも命令を出した。


「送る! それまで耐えさせろ!」


 見れば、明らかに敵は軽装で逃げることを前提にしているような部隊だった。右翼に集中していると思っていたが、バラバラに逃げ出した敵兵士たちが、綺麗にまとまり外に出た部隊に襲いかかっていた。


 それを助けるために、また中央から部隊が飛び出す。


「なにをやっているんだ!」


 敵味方が入り乱れ、魔法や矢での援護など出来ない状況。同時に、敵と自分たちとの練度の差を思い知らされた。形は整えたが、やはり積み上げてきたものが違う。


「敵、右翼より撤退していきます。そのまま中央へ移動を開始」


「くっ! 救援は間にあうのか?」


 直後、左翼で魔法による大きな光が発生した。






 ――左翼では、昨日とは敵陣の内容が異なっていた。


 フォクスズ家の部隊を中心として編成された敵の部隊は、魔法による攻撃が苛烈となっていた。


 ライエル陣営は防戦に徹しているが、それでも昨日とは違い敵はさらに精強だった。


 ノウェムは、周囲のヴァルキリーズに守られながら、杖を掲げると魔法を発動する。


「防ぎなさい」


 その言葉だけで、左翼の味方の前には薄い黄色のような光が発生して盾を作りだした。


 しかし、一箇所だけに集中して魔法を撃ち込まれており、ノウェムがその場所に釘付けとなっている。


 そのため、一部では敵が柵を越えて侵入してきていた。マクシムやミランダ、それにメイやマリーナがいるため、崩れてはいない。いないが、とても厳しい状況だ。


 何しろ、味方が浮き足立っていた。


 特に酷いのは合流した兵士たちだ。バンセイムと言うよりも、主にベイムから合流した兵士たちが左翼に多かったのも問題だった。


「こちらの方が数は多いというのに」


 ノウェムがそう呟くと、マジックシールドを展開した部隊がノウェム目がけて突撃をしてきた。


「――来ましたね」


 相手を見ると、そこにはノウェムに杖を届けた兄【エルバート・フォクスズ】の姿を確認することが出来た。


 ノウェムはマジックシールドを展開しており、魔法が使用できないでいるとヴァルキリーズが銃をバインダーから取り出して攻撃を開始した。


 しかし、銃弾はエルバートが展開している盾によって完全に防がれている。銃弾が弾かれ、そして突撃をする騎馬隊は柵を前にして加速した。


 加速した敵の騎馬隊は、マジックシールドで柵を破壊して突破してきた。なんという力業――そうノウェムが思っていると、ヴァルキリーズが動き出した。手に武器を持ち、ノウェム目がけて突撃する敵に飛びかかったのだ。


 すると、エルバートが馬上から跳び上がってノウェムの前に飛び降りた。


「久しぶりだな、妹よ!」


 長い茶髪の髪を後ろでしばった兄は、全身鎧の姿で手には剣を握りしめていた。ノウェムに斬りかかるが、ノウェムはそれを右手に持った杖で受け止める。


「お久しぶりです、兄上。そうなると、この攻撃は父上ですか。やはり、癖は出ますね。タイミングも読みやすい」


 表情を変えないノウェムを見ながら、エルバートは汗を流していた。


「悪く思うな。お前がライエル様に忠義を尽くすように、俺たちはマイゼル様に忠義を尽くしているのだから」


 ノウェムは軽く頷いてから、兄に左手を向け――。


「理解しています。なので、苦しまないようにして差し上げますよ。吹き飛びなさい」


 ――魔法を放って吹き飛ばした。


 エルバートもすぐにマジックシールドを展開し、そして後ろに吹き飛ぶだけに留めると周囲に視線を向けていた。そこには、護衛の騎士たちが、ヴァルキリーズと戦っている姿が見えていたはずだ。


 ヴァルキリーズは、騎士を馬から引きずり下ろし、そして止めを刺していた。


「……人ではない、か。だが、それなら!」


 エルバートがヴァルキリーズを警戒すると、左手を掲げた。敵の騎士たちがエルバートの下に集まる。ノウェムは微動だにせず、そんなノウェムを守るように、ヴァルキリーズがノウェムの前に出て背中の翼のようなバインダーを前方に展開して盾を作る。


 エルバートを中心に炎の嵐が吹き荒れ、周囲の柵などを吹き飛ばしていく。


 直後、ノウェムたちを目がけ魔法が降り注ぐと、周囲で激しい爆発が発生した。


「やったか」


 エルバートがそう言うと、周囲ではボロボロになったヴァルキリーズの姿。半身が吹き飛んでいるが、骨格部分は残っていた。頑丈な素材で作られているため、この程度で済んでいる。


 そして、ノウェムは無傷のままその場に立っていた。エルバートは、そんなノウェムを見て呆れたような顔をしていた。


「……この子たちは随分と貴重なんですけどね。ライエル様が私のために護衛としてつけてくださったのですが」


 周囲に被害が出ないようにマジックシールドを展開していたノウェムは、呆れたように地面に倒れるヴァルキリーズを見ていた。そして、兄に視線を戻す。


 エルバートは少し笑っていた。


「これ以上はない俺と父上の全力だったのだがな。それこそ、右翼を吹き飛ばすくらいの一撃だぞ。やはり、お前は規格外だよ。……全員、撤退だ」


 疲れた表情をするエルバートを見ながら、ノウェムは右手の杖を掲げた。


「良い攻撃でしたよ。ただ、逃がすとは思わないでくださいね」


 ジェラード、エルバート親子の渾身の一撃を防ぎ、味方の被害も押さえたノウェム。だが、戦場はライエルたちにとって厳しい状況に傾いていた――。






 夜。俺の天幕では会議が行なわれていた。


「いや~、昨日とは立場が逆でしたね。初日に敵の出鼻をくじき、少し調子に乗った部隊が飛び出してしまいましたよ」


 冗談のように報告してくるブロア将軍だが、その表情は疲れ切っていた。飛び出した味方を見捨てる事が出来ないと、詰め寄る指揮官たちもいてまともに命令が出せる状況ではなかったらしい。


 こういう時のために軍規がある訳だが、培ってきたものの違いが露骨に出ていた。


 天幕の中、中央の主だった面子を集めた俺は被害報告を確認しながら呟く。


「……予備の部隊はそのまま前衛に配置。負傷した兵士たちは後方へ送ります」


 ブロア将軍が後方へ送る部隊を確認すると。


「少し多いですが、仕方ありませんね」


 ブロア将軍のいうとおり、初日に勝ったために気が緩んでいた。もっと引き締めるべきだったのだ。


 すると、エヴァが疲れた表情をしながら。


「勘弁してよ。勝手に飛び出した上に、救助のためにこっちまで怪我人が続出したのよ。不満を持つ連中だっているんだけど? 罰とかないわけ?」


 目の前で殺される味方がいたとして、それを無視すると士気が落ちる。義憤に駆られ飛び出した者たちがいたのも、味方を助けたいからだ。そして、助けなかった場合は不満が味方に向いてしまう。


 俺やブロア将軍に、だ。そして、それが落ち着けば飛び出した部隊に今度は不満が向くのだ。本当になにをやっているのかと言いたい。


「後方へ送って指揮官は罰を受けて貰う。命令違反と独断専行だからな。まぁ、汚名返上のチャンスは用意するけど」


 エヴァは不満そうな表情をしていた。それもそのはずだ。何しろ、救出するために、エヴァの部隊からも死者が出ている。


 本来なら避けられた戦死者だった。


「納得がいかないわ」


 そして、同じようにこの場にいたエリザも不満そうだった。当初は左翼に配置していたが、陣容の変更でノウェムの代わりに中央に来て貰った。もっとも、今日の事を思えば最初から左翼にいて貰った方が良かったかも知れない。


「明らかな誘いだった。それを見抜けない連中ときたら……ベイムの兵士は本当に弱兵だな」


 エリザの部隊も出撃して救出して貰った。だが、相手はある程度のところで被害を押さえつつ後退しており痛手を与えたとは言えない。


 ブロア将軍が肩をすくめながら。


「戦場が日常のルソワースやガレリアと比べるのは酷でしょう。まぁ、責任は自分にあるわけで」


 俺は溜息を吐きつつ。


「……初日に気を引き締めなかった俺にも責任がありますね。敵の目標を見抜けませんでしたし」


 すると、ブロア将軍が首を横に振る。


「それはどうでしょうね。向こうからすれば、あのまま中央が崩れなければ右翼を集中的に狙っていましたよ。それにしても、左翼の爆発も驚きです。被害は少なかったようですが、正直言って冷や冷やしましたよ」


 報告では、人的被害は許容範囲だった。だが、設置した柵などが使いものにならなくなっている。補強は止めて左翼には下がって貰った。そのため、右翼が飛び出した形になっている。


「……右翼も下げましょう」


 ブロア将軍が俺の言葉を聞いて真剣な表情になった。


「中央が飛び出た形になりますね。ただ、本当なら数日は相手を釘付けにして出血を強いたかったところです」


 元から両翼が下がるのも計画の内だった。


 そして、俺は立ち上がりながら言う。


「工兵部隊には夜間も柵の強化に励んで貰いましょうか。明日からは、中央が激戦区ですからね」


 この戦いは、早くも中盤戦にさしかかろうとしていた。


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