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セブンス  作者: 三嶋 与夢
ネタがないなら開き直ればいいじゃない! 十六代目
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ロルフィスの副団長

 ――ルフェンス。


 ライエルがいる事で、連合軍本部が置かれたかつて魔物の大軍によって滅ぼされた国だ。そんな国に訪れていたのは、ロルフィスからの使者であるアレット・バイエだった。


 仮にも四ヶ国連合、カルタフス、ジャンペア、ファンバイユ……いくつもの国々を動かした連合軍盟主であるライエルに会うため、身なりも整えていた。


 肩まで伸びたボブカットの金髪は、ここ最近は忙しく切ることも出来なかった。身なりを整えるのを理由に一日ノンビリと出来たのが、アレットには嬉しかった。


 そう思えるくらいに激務を押しつけたのも、実はライエルなのだが……。


 ルフェンスの王城に入ったアレットは、新しい部下たちを連れていた。これまでの部下たちは昇進して隊を率いているためだ。


 ロルフィスも人手不足であるのだが、今回の面会にはその辺の理由も関係してくる。


 門をくぐって庭に入ると、応急修理というわけではなく王城自体がライエルの拠点として改築されつつあった。


 遠くからは騎士たちが訓練している声が聞こえてくる。


 アレットの副官である新米騎士が、その様子を見て。


「バンセイムの騎士ですか? 訓練も甘いですね。ロルフィスの騎士ならあの程度――」


 そんな事を口にしたので、アレットは睨み付けた。ロルフィスは小国であったため、かつては騎士を精鋭にするために訓練を厳しいものにしていたのだ。だが、同数から多少の劣勢ならともかく、二倍以上の兵力にはアレットも勝つのは難しいと理解していた。


「愚かさを露呈しているぞ。これだけの数を揃えられている、という事実が既に脅威だと知れ。厳しい訓練を課されてきた事で自負もあるだろうが、相手を侮るなよ」


 城の中に入り、案内人がロルフィスの騎士だったこともあって部下たちが安心しているため緩んだ気持ちをアレットは引き締めた。


 十代後半の若い騎士たちを引き連れているアレットだが、元から人手不足は深刻だった。ベイムに出て世間を知る前の新米騎士たちであり、どうしても気が強い。


 案内役の騎士も溜息を吐く。


「アレット副団長殿も大変ですね。それからお前ら、少なくとも今ここにいる大半の騎士や兵士は数万規模の戦争を何度も経験した連中だ。あまり変な事を言って怒らせるなよ」


 新米の騎士たちが、口を閉じて気まずそうにするのを見たアレットも少し不安だった。だが、王城の中に入ると気を引き締めるのだった――。






 執務室のソファーで横になる俺は、書類を読みながらモニカの報告も聞いていた。


 ノースベイムでは復興のためにノウェムやクラーラを求めている。だが、求められたクラーラは難色を示しており、ポーター部隊の実用化のために予算の申請と職人の手配を求めて来たのだ。


 ノウェムは魔法使いと共に、ルフェンスでいくつかの村を復興させておりこの場にはいなかった。


 アリア、ミランダの両名はマクシムさんに部隊ごと預けており、そこで自身の部隊を率いて貰っている。


 エヴァもエルフたちと忙しく打ち合わせをしており、メイに至ってはマリーナさんを連れて……というよりも、体の大きさから言ってマリーナさんがメイを連れて行っているような……まぁ、二人で領内の魔物退治を行なっていた。


 そして、今の俺が仕事中なのにソファーで横になっている理由は――。


「しかし、呼びつけておいて会うのが執務室か。まぁ、応接間で堅苦しい挨拶などをしなくて済むと思えば良いのかな?」


 カルタフスの女王であるルドミラさんが、俺を訪ねてきたからだ。いや、正確には呼びつけていた。


 そして、今の俺はルドミラさんに膝枕をして貰っている。


 モニカはそんな俺を見ながら。


「膝枕欲しさに大国の女王を呼びつけるなど、チキン野郎がはじめてでは? そのくせ、それ以上に進まないのですから本当にチキン野郎ですね。だが、そこがいいと思います!」


 嬉しそうに親指を突き立てているので、俺は書類よりも後頭部の柔らかい感覚や、視界に入る大きな二つの膨らみを見て顔が少し熱くなった。


 七代目がボソリと。


『……良い眺めだ』


 三代目は少し羨ましそうに。


『僕はお尻派だから、膝枕の方が……はぁ、羨ましい』


 どうしよう……ミレイアさんがいないから、宝玉内の会話がどうにも男同士の下品な会話に傾きつつある。


「……それを言うな。正直、ザインやガレリア、ルソワースから誰かを呼ぶと脅しにしかならないから、出て来て貰ったんだ。それより、クラーラの方はどうなった?」


 モニカは真剣な表情になると。


「未だに拒否していますね。クラーラとアデーレは相性が悪いですから。予算を抑えたいアデーレに対し、クラーラは基本的に書物などの知識を忠実に再現したがります。まぁ、どちらも応用力の乏しさは同じだと思いますけどね」


 オートマトンに応用力に乏しいなどと言われている二人は、本当に大丈夫なのだろうか? そう思っていると、ルドミラさんがクラーラの擁護をする。


「クラーラは知識が豊富だ。それもあらゆる分野の知識を持っている。建築も土木もその一つなのだろう? なら、復興をしているベイムには必要な人材だよ。多少の融通が利かないところを無視しても、ね。だからアデーレという者も引き抜きたいのさ」


 俺はルドミラさんを見上げながら。


「意外ですね。クラーラの擁護に回るとは思いませんでしたよ」


 すると、ルドミラさんはクスクスと笑う。


「そうかな? だが、私はクラーラの事は高く評価しているよ。彼女は有能だ」


 しかし、モニカはクラーラのノースベイム入りに反対する。


「確かに現状では必要なのでしょうね。ただ、ダミアン教授がポーターの改良に興味を示さず、ポーターによる輸送部隊の設立は難しくなっております。クラーラをそこから外すのは全体としてもまずいでしょうね」


 ルドミラさんが少しだけ目を細めた。


「ポーター部隊か。こちらにもいくつか回っては来たが……なぁ、ライエル、その情報を私に売らないか? いや、譲って欲しいな。荷馬車の数を減らせるとなると、馬を他の事に利用できる。私としてはそれを理由に今回の訪問を下の者たちに説明できるのだが?」


 別に渡しても問題ない。というか、どうせ渡すつもりだった。


「いいですよ。ただ、完成していないので、約束だけですね。魔法使い数名を派遣してください。いや、こっちにいるカルタフスの騎士たちに教えて持って帰らせましょうか?」


 色んな国の騎士たちがおり、サウスベイムの工房で何を作っているのか調べに来る者たちもいた。


 自国の利益のために動いている者たちもいて、今の連合軍は一枚岩ではない事が表面化しつつある。


「なんだ、つまらないな。その様子なら最初から渡すつもりだったのか。まぁ、それならそれでいいが」


 ルドミラさんがそう言うと、俺はモニカに言う。


「クラーラはそのままの配置で。ただし、ポーターが完成して動かせる連中が出たら、ベイムに送る。それまではアデーレさんに追加の人員を送ると言っておけ。クラーラには……サウスベイムの職人たちも仕事が限界を超えているからな。四ヶ国連合に依頼をして」


 すると、ルドミラさんが。


「いや、少し待ってくれないか。その依頼、カルタフスで受けようじゃないか。こちらにも職人はいるからな。それに、余裕もある。輸送に問題もあるが、今はそんな事は言っていられないだろう?」


 俺は、なんとなくルドミラさんの考えが理解できた。ポーターの技術が欲しいのだが、それ以上に今後の技術発展のために少しでも下地が欲しいのだろう。


 連合内部で、自国の利益を求める動きが強くなってきた。


 これは、早い内にセレスを倒さなければ、先に連合が崩壊してしまいそうだ。






 応接間。


 何度か利用しているが、かつての王城の見栄なのか随分と広く豪華に作られていた。


 色々と交渉をする際に有利にするためか、煌びやかに作って相手が少しでも萎縮すれば――などと作ったのか。それとも、単に舐められないためか。


 モニカとルドミラさん、更にはカルタフスの護衛である騎士が部屋にいた。


 目の前には大きなテーブルを挟んでアレットさんたちロルフィスの騎士たちが、俺の目の前にいた。


 アレットさんはルドミラさんを気にしながらも。


「ライエル殿、書類で用件は伝えているが」


 俺は頷きつつ、面会用の豪華な服を着てアレットさんに言う。


「ヴァルキリーズからも報告で上がってきていますよ。連合軍内部でのロルフィスの地位について、でしたね」


 アレットさんは真剣な表情だった。


「慣れていないので本当に連絡が取れているか不安な者が多いんだよね。それはともかくとして、現状では確かにロルフィスの貢献度は低い。それは認めているが、こちらにも理由があってのことだ。だが、他の三ヶ国と比べても我々は異例の貢献をライエル殿にしていると考えている」


 ザイン、ガレリア、ルソワース……三ヶ国が俺に協力的な理由は、国を救ったから、だけではない。ザインでは以前からセルマさんやアウラさんと噂があった。ガレリア、ルソワースは正式にグレイシアさんやエリザさんを受け入れると宣言してしまった。


 つまり、三ヶ国にしてみれば俺とは婚姻関係がある、という事だ。ザインも、セルマさんが――それはもういいか。


「分かっています。だから、俺の方からは特に何も――」


「それでは困る! 四ヶ国連合の中でのロルフィスの地位もある。明らかにロルフィスだけを冷遇しているように見えているのが問題だ」


 俺はアレットさんを見ながら。


「そう言っている人たちがいると?」


 ラウノさんに調べて貰った方が良いかも知れないが、今は敵よりも身内の調査を依頼しているのでラウノさんも大忙しだ。


 諜報関係も人手不足である。


「セルバの件、確かに国土は広がった。今回も感謝している。だが、国内ではこれ以上の協力に疑問を持つ者も多い」


 すると、ルドミラさんが笑い出した。


「おかしな話だ。今更、四ヶ国連合を抜けられる訳があるまい。ロルフィス周辺は全てライエルの手の中。考えればすぐに答えが出る。今抜ければ、お前たちは周辺国全てを敵に回すことになる。このまま内部に敵を残してバンセイムと戦うほど、ライエルも甘くない。となれば……」


 アレットさんは表情を変えないが、周りの騎士たちの顔は感情が表に出ていた。怒りや動揺、そういった感情が、だ。


 俺はルドミラさんを手で制し。


「ロルフィスの協力には感謝しています。国内事情が厳しいのなら、今後の協力も最低限で受け入れましょう。それによって四ヶ国連合を冷遇することも、ロルフィスを冷遇することもないと約束します」


 アレットさんは、少しだけ眉を動かし。


「だからそれでは!」


 ルドミラさんが口を開く。


「――ロルフィスの立場がない、か? ハッキリ言え。お前たちが望むのは、ライエルと王女殿下の婚約だろう? だが、忘れるなよ。私だけではない。ファンバイユの姫もいる。それに、ライエルを初期から支えてきた女たちも、だ。ここに食い込むのが容易ではないと理解しているよな?」


 威圧して貰うために来て貰ったが、まさかここまでとは――アレットさんたちも、苦々しい表情をしていた。きっと、俺に王女殿下を押しつけようとしたのだろう。流石の俺も、ノウェムが拒否した相手を受け入れるというのは不可能だ。というか、これ以上は増えて欲しくない。三代目はまだいける! などと言うが、俺はとっくに限界を超えていると思っている。


 宝玉内からは、七代目の声が聞こえてきた。


『国同士に対等な関係などないからな。古来より、全てを等しくなど不可能だ。しかし、ここで問題を抱えても面白くない』


 三代目も同意見だった。


『そうだよね。面白くないよね。というか、ライエルの場合は家訓とかあるけど、ロルフィス側からすれば国同士の問題に家訓なんか持ち出すな! って気分だろうし。でも、厄介だよね。裏切って鎮圧しても、その後にどういう扱いをするのかも問題だし。過激すぎても、ね。……あ、いい事を思いついた』


 絶対にいい事じゃない。俺もそれだけは分かった。


 応接間では、ルドミラさんとアレットさんの声が段々大きくなってきていた。


「大陸が大きく動こうと言う時に、お前らは離反でもちらつかせ交渉か? それとも懇願か? 裏切りたければ裏切るといいぞ。私はすぐにでも三万の兵を出してやろう。報酬など受け取らなくてもいいな」


「大国だからと脅しのような真似を。こちらは貴様らよりも早くに協力しているというのを忘れているようだな。後から出て来て美味しいところだけ持って行くのが、大国のすることか!」


 カルタフス、そしてロルフィスの騎士たちもピリピリとしていた。


 俺はそんな応接間で、心の中で謝罪をしながら言う。


「分かりました。古来より婚姻は重要ですね。ただし、現状では俺と王女殿下の婚姻は不可能です。俺が婿入りできない立場ですからね。ロルフィスの玉座を空席には出来ません」


 すると、アレットさんが眉間に皺を寄せ。


「だが、王子でも王女でもお生まれになれば――」


「ですので、重鎮同士の婚姻を進めましょうか。まずはお見合いをしてみませんか、アレットさん?」


「……わ、私だ、と」


 アレットさんの表情――というよりも、瞳が輝いたのを俺は見逃さなかった。俺は思うのだ。


 すまない、バルドア、と。俺じゃない。宝玉内の二人が……。


『よし、これでロルフィス内から婚姻云々が出ても大丈夫!』


『このままバルドアには、四ヶ国連合……特にロルフィス陣営の引き込みに頑張って貰いましょう。おっと、ライエル……バルドアには後日ちゃんと報いるように』


 ……俺って最低だ。部下を売ってしまった。


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