ライエル・ウォルト立つ
ギルド本部を爆破した俺は、広場に来ていた。埋め尽くすのは俺に協力してくれた四ヶ国連合やカルタフスの兵士たちだけではない。ベイムの兵士や住人たちもいた。
曇り空――。朝早くから集まった人々に向け、俺は宣言する。
「戦争を経験した諸君、気分はどうだったかな?」
煽るような俺の言葉に、ざわめきと共に殺意を抱くような連中がいた。黄色の表示から赤に変わるのを、六代目のスキルで確認しながら話を続ける。
「おや、怒ったのかな? ここまで勝つ気のない戦いをしているものだから、蹂躙されるのを待っていると思っていたよ」
近くで俺の警護を行なっているアリアやミランダが、俺に視線を向けてきた。ここで暴動でも起こされてはたまらないとでも思っているのだろう。確かに、無難に正義や不幸をアピールしてベイムを味方につけるのは簡単だ。
可哀想だったね。こんなの誰も予想出来ないよね。今度から俺たちが助けるよ。……素晴らしい。楽すぎて笑いが出てくる。
ただ、そんな事では困る。俺は、四ヶ国連合やカルタフス、そしてジャンペアにファンバイユ――多くの国から兵士たちを借りている立場だ。特に、四ヶ国連合のザイン、ロルフィス、そしてかつてのセルバの領民たちからすれば、ベイムなど悪党にしか見えないだろう。
住民たちの不満が広がり、そして俺に敵意が向いてくる。良い傾向だ。
「今頃になって来やがって! 遅いんだよ!」
「返せ! 家族を……家を返せ!」
「親を殺された子供もいるんだぞ!」
ベイムの住人たちの声を聞くと、俺は鼻で笑った。
「それで? 今まで散々こうやって他国で稼いできたのに、自分たちがやられるとそういうのかな? なんと身勝手な連中だろう。そうか、俺の助けはいらないか。ならば、俺たちは帰ろう。潔くバンセイムに蹂躙されろ。嬲り殺される前に自殺をするのも手だと思うぞ。まったく、助けに来たのに全くの無駄だったな」
そう言うと、住民たちから支離滅裂な言葉が聞こえてきた。
「に、逃げるのか!」
「卑怯者!」
「何が英雄だ! インチキ野郎が!」
本当に酷い。まともな人間なら、こいつら話が通じないと思うところだ。だが、三代目が宝玉内からアドバイスをくれる。
『まぁ、こんなものだよね。こういう状況だと冷静さなんかないよ。自分がなにを言っているのか冷静に考えられないんじゃないかな』
すると、俺は広場に仮設した壇上の上に、セルマさんを呼んだ。元聖女の登場に、周囲のざわめきは少し静かになる。
セルマさんに笑顔を向けると、セルマさんが頷いた。連れてくるつもりはなかったが、まさに俺のファインプレーだ。やはり、俺は持っている男だろう。
両手を広げるセルマさんは、ベイムの住人たちに語りかける。
「ベイムの皆さん。今回の戦――確かに酷い状況でしょう。我がザインもライエル殿の言葉に従い、兵を派遣しました。ここにいる兵士の中にもザインの出身者はいます。ただ、ザインで派兵が決まった時、多くの兵士は難色をしましました。長年、ベイムから派遣される傭兵団に苦しめられたからです。雇うために金銭を支払い、雇った敵国によって村は襲撃され家族は殺され、略奪をされてきました。それでもベイムを救援するために兵士を出したのは、国の救世主であるライエル殿の言葉だからです」
周囲の住民たちから反論する声も聞こえてくるが、俺の時よりもその声は少なかった。武器を持ったザインの兵士たちが、ベイムの住人たちを睨んでいるからだ。
「……我々がベイムに入れたのも、ベイムの首脳陣である商人やギルドの幹部が船で逃げ出したからです。そうでなければ、我々はベイムに駆けつけることも出来なかった。駆けつけると言ったのは、ライエル殿です」
やはり美人が説得すると俺より反論が少ない。静かになったところで、俺はセルマさんと演説を交代する事にした。話の内容よりも、一拍おきたかったのが理由だ。
「……聞こう。捨てられた諸君よ。俺を追い出し、バンセイムに蹂躙されるか。それとも……俺に従いベイムを渡すか。ベイムの全てを俺に渡せ。そうすれば、貴様らには勝利をくれてやる。バンセイムを追い返し、ベイムを再興してやる。貴様らの王として俺を迎えるか、それともこの場で死ぬか選べ! 言っておくが一度や二度、バンセイムを追い返したところで、バンセイムの国力を考えればあれだけの規模の戦力を今後も投入するのは可能だぞ」
可能だ。だが、出来るとは言っていない。最低でも数年の時間が必要だし、その時間を与える気もなかった。
「また商人に従い、逃げ出す者たちを上に置くのか? 冒険者に防衛を任せ、また負けて蹂躙されるのか? ……言っておく。俺は俺の民を見捨てない。従うならば跪け!」
身振り手振りを加え、裏ではエヴァがスキルを発動していた【オールマインド・ランゲージ】――ある種、洗脳にも似たスキルだ。歌を聞かせたいエヴァにとって、最強とも言うべきスキル。それが意味するところは、声を聞き手に理解出来るように届けるというものだった。
言葉の壁。そして様々なものを払いのけ、心に響かせる言葉とする。歌い手にとって、これ程都合の良いスキルはない。
エヴァは使うのをためらっていたが、今は俺の声を届ける方が先決だ。話を聞かないのでは始まりもしない。
普段通り、サクラが膝をつく。そのサクラもかなりの数が紛れ込んでおり、次々に地面に膝をつくとその数は増えていく。やがて、数百人程度が混乱しながらも立っていた。
「お、お前ら正気か! ベイムは独立した商人の都だぞ! そ、それはあんな小僧にいいようにされて黙っているのか!」
「今攻め込んで来ているバンセイムの人間だぞ!」
「あいつの妹は、バンセイムの次期王妃なんだぞ!」
やはり、スキルやサクラを使用しても、抵抗する人間はいるらしい。だが、大多数は俺に従うと決めたのだ。
俺は両手を広げ、そして声を張り上げた。
「いいだろう。今日からベイムは俺の物だ。諸君、これは英断だ。何しろ……この俺に従うのだからな! フハハハッ!」
あぁ……何万という人間に見られながら、俺は高笑いをしながら思った。
凄く気分が良い、と。
――再編成と武具の変更をしたバンセイムの兵士たちを率いる騎士は、目の前の光景を見て叫ぶ。
「ふざけるな! お前らがどうして……これでは逆ではないかぁぁぁ!!」
塞がれた一本道は、適度な広さがあった。
野戦での装備では市街地では戦いにくいと、今まで持たせていた長めの槍などを放棄して突入したのだ。
大規模な部隊では身動きが取れないと、小隊規模も少なくなっている。冒険者たちに対抗するためだったのだが、そんなバンセイムの兵士たちが目の前にしているのは重装甲の騎馬隊だった。
盾と槍を持って細い一本道を突撃してくる。
騎士が魔法を放つと、騎馬隊が張ったマジックシールドに容易に弾かれた。マジックシールドを展開し、騎馬による突撃はバンセイムでも基本とされる戦術だ。それを、ベイムが実行している光景が信じられなかった。
そして、その突撃は騎士から見てもかなり訓練されているように見えたのだ。
「お前ら、ベイムの兵士じゃ――」
細い一本道――騎馬隊によって蹂躙されるバンセイムの部隊は、大打撃を受けた――。
「小道を塞いで瓦礫を撤去していた訳か。やるな」
建物の上で、俺はアリアが率いる騎馬隊が突撃するのを見て感心していた。
モニカやヴァルキリー一号や二号、そして合流した三号に囲まれている俺は、ミランダと一緒に建物上で周囲の状況を確認していた。
緑色の鎧を着たミランダは、兜を脱いで肩をすくめていた。
「アリアが考えたのよ。やる気になれば出来るんだから、もっと早くにやる気を見せて欲しかったわ」
呆れているが、少し安心している様子でもあった。他の場所でも、次々に援軍が到着して数の差を埋めている現状では、バンセイムの優勢も崩れ始めていた。
ミランダは髪をかき上げつつ。
「それで、これから先はどうするの?」
俺は不敵に笑ってみせる。きっと、似合いすぎているだろう。
「都市部からバンセイムの軍勢を追い返し、そこからは正面突破だ。この俺がセレスに宣戦布告する大事な戦だ。それ以外の方法など有り得ない」
ミランダが溜息を吐く。
「はぁ……今更正々堂々とか、正面とか言われてもね。相手からすれば抗議ものよ」
俺は髪をかき上げながら。
「それは俺のせいではない。俺はわざわざバンセイムの正面に回った。相手が部隊を二分した方が悪い。俺は悪くない」
宝玉内からは七代目も同意してくれた。流石は俺の祖父だ。
『そうだな。そういう風に事が運ぶように仕組んだが、最終的に判断を下したのはバンセイム側だ。うむ! 悪いのはバンセイムの将軍だな!』
すると、俺は腰に下げたカタナを抜く。ミランダも、俺の視線の先を見ていた。俺は、客人たちに言うのだ。
「バンセイムも精鋭を固めて部隊を編成したか。悪くはないが、おかげで他の部隊が大変だな」
目の前には、全身鎧――フルプレートの騎士たちがいた。
目立つ場所にいたので、俺たちを見つけたのだろう。騎士の一人が言う。
「緑色の鎧を着た女――青い奴もいるが、関係ない。お前たちは我々が殺す!」
魔具の類いだろう。武具を魔具で固め、そして得意な得物を持ってかかってくる。ミランダが、兜をかぶると左手を振るった。
指先からワイヤーが出ると、粘ついており騎士たちを捕らえ――なかった。
「その程度で!」
一人の騎士の鎧が燃え上がり、ワイヤーを焼き切って突撃してきたのだ。魔具の性能か、それともスキルか。
「面白い。ここは俺が……」
戦おうと一歩踏み出すと、大剣を持った騎士が左側から突っ込んできた。それを、ヴァルキリー一号が翼のようなバインダーで受け止める。
「させません」
「こいつ!」
スピードもパワーもある騎士の一撃を、易々と受け止めるヴァルキリー一号は、そのままバインダーから剣を抜いた。相手の騎士を吹き飛ばし、二号も三号も武器を手に取る。
モニカの方は――。
「ふっ、私が相手をするまでもないですね」
首を横に振って戦うヴァルキリーズを見ていた。
ミランダは、両手の指先から糸を出すと。
「【ワイヤーフレーム】……今度は燃やせるかしら?」
自分の糸を焼き尽くした騎士に向かってワイヤーをグルグル巻きにして作った武器を投擲していた。短剣は炎が噴き出す鎧に突き刺さると、ミランダはそのまま短剣についていたワイヤーを引っ張り、騎士を建物の方へと放り投げた。
周りが頑張るので、俺は渋々カタナを鞘に戻すと宝玉を握る。
「仕方がない。お披露目と行こうか」
左手に持った宝玉は弓の形に変化していくと、今までと違って銀色の羽根――飾りがあしらわれていた。握る部分には鷲の頭の飾りがついており、狩人であった二代目に相応しい感じの武器になっていた。
モニカがソレを見て。
「依然と形状が異なっておりますね」
「恰好いいだろ」
そう言って銀色の弓を構えると、光の矢が複数出現した。今までと形状が違う。俺たちに襲いかかってきた騎士たちに矢を放つと、回転しながら矢は騎士たちへと向かう。
「散開!」
隊長格らしい騎士がそう言うと、バラバラに移動を開始する騎士たち。光の矢を危険と判断したのだろうが――。
「残念だったな。こいつは特別なんだ」
追尾する光の矢は、勢いを衰えさせることなく騎士たちに襲いかかる。突き刺さり、一人が違う建物まで吹き飛ばされた。
腕を犠牲にしてなんとか防ごうとした騎士は、腕を光の矢が貫いて爆発する。
すると、隊長格の男が俺の方まで走ってきた。アリアと同じようなスキルなのか、一気に距離を縮めて俺に剣を振り下ろそうとしていた。
「甘い」
持っていた弓を振るう。両端の羽根飾りは鋭く、相手を斬ることも可能だった。鎧ごと騎士を切り伏せ、そして銀の武器は相手から魔力を吸収する。
モニカは俺の戦い方を見て。
「以前よりも威力が上がっていますね。使い勝手が良さそうです」
俺は銀の弓を肩に担ぐと、周囲を見た。
「いいだろ。さて、それでは魔具は回収させて貰おうか。俺は扱えないが、手柄を立てた連中に調整して与えても良いな」
ミランダが俺の方を見ながら。
「魔具とか関係ないとか、ライエルも規格外よね」
俺はそんなミランダに言う。
「教えてやる。スキルは使いこなしてこそ、だ。いくつも魔具を持っていたとしても、使いこなせなければ意味がない。それにな……やはり三段階目に到達したスキル持ちには及ばないよ」
そう。魔具の利点は誰にでもスキルを扱えるようにしたことだが、強力なスキルをいくつも刻んだ魔具など扱える人間が少ない。
昔の俺のように、宝玉に魔力のほとんどを持って行かれてかえって役にも立たないことが多いのだ。
「まぁ、俺が強すぎるのが原因でもあるけどな」
すると、ミランダは兜を脱いでジト目で俺を見てきた。
「私たちは弱い、とでも?」
俺はミランダを見ながら、銀の弓を宝玉の姿に戻して首にかけなおした。
「馬鹿だな。お前たちを守りたいから強くなったんじゃないか。そこは男の子の強がりだと思って聞き流してくれ。愛しているぞ、ミランダ」
モニカとヴァルキリーズが、口笛を吹いてくる。
「口を開けば愛を囁く。まったく、チキン野郎はとんでもないたらしですね。もっと私にも言ってください。最高画質と音質で記録しておきます。常に再生して他の愚妹たちに自慢してやりますから。さぁ! 私に愛を囁いて!」
言っても良いが、欲しがっている相手には焦らすのも良いかも知れない。俺は、モニカを見ながら。
「馬鹿だな。照れるじゃないか。言わなくても察してくれ。さて、仕事に戻ろうか」
モニカは言う。
「そうやって煙に巻いて楽しんでいるんですね! このモニカ、そういうのも大好きだと教えましたよね。ご褒美ですからもっと焦らして!」
「可愛いじゃないか。よし、これが終わったら膝枕をしてやる。ミランダもどうだ? 船の中ではかなり好評だったぞ」
ミランダは、少し困った様子だった。そして、俺を見ながら。
「……正気に戻っても催促するわよ」
俺は笑いながら。
「いつでも来い。お前たちの愛を受け止めるのも俺の務めだからな。俺の愛は世界すら包み込むのさ!」
モニカとヴァルキリーズに拍手されながら、俺はその場で高笑いを始めた。




