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セブンス  作者: 三嶋 与夢
誰に似ているのかな? 十五代目
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フェスティバル

 ――ライエル率いるサウスベイムの軍勢により、レダント要塞を奪われたバンセイムの軍勢。報告を受け、動ける兵力のほとんど半数である六万の兵力をベイムとは反対方向に向かわせた。


 本隊をベイム、サウスベイムの両軍勢に挟撃させないためである。レダント要塞に進みつつ、サウスベイムの軍勢を探しながらの行軍となっていた。


 半数の兵力――その全てが、領主貴族の軍勢ではない。領主貴族にしてみれば、ベイムで略奪が出来ないというのは問題だった。


 それに、総大将が先に領主貴族の軍勢をベイムに入れた事もあり、被害が大きいのも領主貴族の軍勢だったのだ。


 領主を失い動けなくなった兵士たち。


 領主貴族にも寄親、寄子の関係が存在している。男爵以上の家には、準男爵や騎士爵の家が寄子として上下関係を持っていた。そのため、寄子の領主が倒された場合、寄親の部隊に兵力は吸収される。


 しかし、寄親を失うとそうもいかなかった。


 領主を失った兵士たちをまとめ、再編しようとしたバンセイムの軍勢。しかし、セントラルの兵士のように隊長が倒れたので違う部隊に配属、という流れが出来なかった。


 領地同士の関係が良好ではない。また、出身の村同士が敵対している。親兄弟を殺された……様々な理由で、再編が進んでいないのだ。


 総大将に、部下である男が報告する。


「再編した部隊ですが、部隊内で争いが起きて怪我人を出しています。こちらが派遣した騎士の命令を無視している状況でして……領主様以外の命令は聞けないと」


 総大将は頭痛を覚えた。


「今がどういう状況だと思っている! これだから領主貴族は嫌いなのだ。生きていても、死んでも迷惑をかける! 生きている領主たちに兵力を与えると言って貸し出せ!」


 すると、部下は首を横に振った。


「そ、それが……本隊以外の増援は認めないと。他領の兵士の面倒など見ていられないというのが現状でして。それに、領主貴族内部で裏切り者も出たこともあり、警戒している雰囲気です」


 報告では、準男爵家クラスの貴族に裏切り者がいたとあった。そのため、領主貴族たちは他の領主の兵を受け入れるのにためらいを感じていたのだ。寄親を失った寄子の部隊なども、参加に加えれば面倒を見なければならず領地ごとに軍役なども違って急遽組み入れて戦う、というのを避けたがっていた。


 普通なら兵力を少しでも確保しようと動くのだが、レダント要塞からの知らせを受けて以降は領主貴族たちが慎重になっていたのだ。


 そして――。


「伝令! ベイム内部に用意した陣地が焼き払われました!」


 天幕に駆け込む伝令が知らせてきたのは、奪い返した場所に陣地を用意したがまた焼き払われたという報告だった。


「くっ、誘い込んで叩くつもりか。現場の指揮官は何をやっている。それくらいすぐに分かるだろうに」


 伝令は、総大将に告げる。


「し、しかし。そうでもしなければベイム内部に休める場所がありません。現場の指揮官はベイム内部から撤退し、再編後に再度侵攻する事を提案しております」


 都市内部での戦闘は、想像以上に建物がひしめき合い広さが限定されていた。そして、冒険者にとって戦いやすい状況が出来上がっていた。数で囲むにしても、土地勘がなく囲んだと思っても抜け道から逃げられる。


 逆に孤立させられ部隊が次々に削られていた。むろん、ベイム側も無傷ではない。このまま押し切れば勝てる状況だ。だが、後方で精鋭部隊を破った三万の兵力が自分たちを狙っている。これ以上の損害は、総大将の評価を落とす事になるのだった。


「……現場の意見を尊重する。撤退させ、部隊の再編を急がせろ」


 総大将は部隊の再編に力を入れるのだった――。






 ――サウスベイムの軍勢を探す六万の兵力は、ベイムから少し離れた場所で周囲に部隊を派遣していた。土地勘のある傭兵たちの多くが、ベイム侵攻の際に倒されてしまったために多くの部隊を出して敵の動きを探っていた。


 戻ってこない部隊があれば、そこに敵がいる可能性も考えていたのだが……。


「全部隊、時間通りに戻ってきました。ですが、敵を見つける事はできませんでした。将軍、このままサウスベイムに向かうべきでは? 奴らも本拠地を狙われれば、流石に出てくるしかありません」


 部下の言葉を聞き、六万もの部隊を預けられた将軍は考え込んでいた。


「サウスベイムは開発が始まって一年も経っていない。そんな場所を攻めたところで、放棄されていればどうなる? 我々がいなくなれば、本隊に容易に奴らが接近出来る」


 サウスベイムの発展具合を、期間から考え捨てても惜しくない程度だと思い込んだ将軍だったが、本隊の後ろを守るのが最大の目的だった。


「本体の後ろを守れればそれでいい。三万もの軍勢が動くなら、どうしても通る道は限られてくるからな」


 いつ来るか分からない敵を前に、バンセイムの軍勢は緊張状態が続いていた――。






 ――続々とベイムの港に入港するのは、増援を乗せた船だった。


 第一陣がガレリアの港から到着すると、アリアはライエルを出迎えるために港に来ていた。ガレリアの港で待機をしていたヴェラ・トレース号が到着すると降りてくる増援部隊を見てライエルを待つ。


 馬や物資なども次々に下ろされ、ヴェラが降りてくるとアリアはヴェラに駆け寄った。


「ちょっと、ライエルはどうしたのよ? まさか、何かあったの?」


 心配するアリアに、ヴェラは少し頬を染めて視線を逸らした。


「う、うん。大丈夫だけど、何かあったと言えば……タイミングが、ね。数日前までグッタリしていたのに、今朝になって急に」


 アリアは、ヴェラの顔を見ながら。


「ちょっと待ちなさい。何があったのかハッキリ言いなさいよ! まさか、あいつこのタイミングで――」


 すると、ヴェラは観念したように。


「なんか、今朝になって急に高笑いをはじめてね。このタイミングで? とは思ったんだけど、もうここに到着する直前だったし。ほら、急いでいたから。出来れば船の上で少し落ち着いて欲しかったんだけど――」


 船の方からは、笑顔のグレイシアとエリザが降りてきた。部下たちの方へと向かう彼女たちを見て、アリアは右手で顔を覆った。


「あいつ、なんでいつも大事な時にやらかすのよ」


 直後。


 爆発音と震動が皆を襲い、アリアは周囲を見渡した。バンセイムの大攻勢かと思ったが、周囲のヴァルキリーズたちが落ち着いていたのでそれもないだろうと警戒を解く。そして、アリアの視界は爆発した建物が見えた。


 ベイムの中心地――ギルドの建物が吹き飛んでいたのだ。黒い煙が立ち上ると、立派なベイムの象徴ともいうべき建物が崩れていく。


 爆発がまた起きると、いつの間にかクラーラがアリアの後ろにいた。


「あ~、やっちゃいましたね、ライエルさん。もっと派手にやればいいのに」


「クラーラ!」


 いつもと雰囲気の違うクラーラを見て、アリアはヴェラを見た。ヴェラは、肩をすくめてから言う。


「ライエルの世話とか、他にも色々と頑張ってくれていたのよ。そうなると、ほら……数日前に倒れちゃって」


 すると、今度はいつの間にかクラーラと一緒にいたセルマを見て、アリアが驚く。


「って、なんで貴方がいるんですか!」


 セルマは頬に手を当てていた。少し顔が赤い。


「だって、ライエル殿が倒れちゃって、人手が欲しいだろう、って。これでも聖女だから、色々と治療関係の知識なんかもあるのよ。そういう魔具も持っているし、役に立てるかな、って」


 クラーラはセルマを見ながら笑っていた。


「この人も凄くチョロかったですよ。まぁ、みんなチョロかったんですけどね。しかし、ライエルさんは普段もあれくらい積極的なら――」


 アリアはクラーラの両肩を掴み、前後に激しく振った。


「おい、何があったのよ! ちゃんと話しなさいよ!」


「――ちょっ、待って! 怪力のアリアさんに揺すられると、か弱い私ではとても……」


 すると、船からモニカたちが飛び降りてきた。アリアがそちらの方を見ると、モニカは悔しそうにしている。


「なんたる不覚! チキン野郎にあんな特技があるとは……お前らのせいで出遅れたんですよ! くっ……『ベイムよ、俺に落ちる時が来た』などとあんなポーズで言うから、保存して興奮していたらこんな事に」


 そう言って走り去っていくモニカ。ヴァルキリー一号と二号が、そんなモニカを追いかける。


「お前がそんな調子で、私たちの邪魔ばかりするから」


「今は追いつくのが先決です!」


 走り去るモニカたちは、爆発したギルド本部へと向かって行った。アリアはその様子を見ながら、目を回しているクラーラの頬を手で軽く叩く。


「ねぇ、いったい何をするつもりなのよ。いきなり爆発とか――」


 すると、セルマがアリアの疑問に答えた。


「なんでも、ベイムの象徴はいらない、と。これからは俺自身が象徴だと言っていましたね。ライエル殿は、本当に豪快ですよね」


 アリアは、クラーラを地面にゆっくりと寝かせると、モニカたちをおうように走り出すのだった――。






「ファンタスティックゥゥゥ!!」


 両手を広げ、爆発し、燃え上がるギルド本部を見ながら俺は天に向かって叫んだ。あぁ、色々とあったが、こうしてギルド本部が吹き飛ぶ姿を見ると清々しい気分だった。


 宝玉内の七代目も大喜びだ。


『火薬の性能が上がっていますな! なんとも派手に吹き飛んでくれましたよ! しかし、ライエル――いや、らいえるサンも爆発に関して芸術的だな。こうもキレイに吹き飛ばすとは!』


 三代目も大喜びだった。


『船にいる時からベストライエル候補が続いたけど、まさかここに来てベイムの象徴を吹き飛ばすとか豪快だよね。いや~、今回も大収穫だ。特にあの三人の修羅場を切り抜けた手腕は最高だった。自ら修羅場を作りだし、ついでに解決……パーフェクトだよ、らいえるサン!』


 爆風や建物が崩れる震動を体で感じながら、俺は天井部分が地上に落ちるのを眺めていた。建物内部に配置した火薬を詰め込んだ樽が、今も爆発をしており振動が伝わってきた。


「まぁ、邪魔ですからね。俺にとっても、そしてこれからのベイムにとっても。これはつまり、新しいベイム誕生のフェスティバルという奴ですよ」


 周囲に煙が舞い上がり、俺はそれを特等席で見ていた。ベイムの象徴が残っているというのは、俺にとって都合が悪い。排除する事を考えた時……どうせなら派手にやろうと考えたのだ。


 すると、この場にスキルを使用したアリアが汗をかきながら俺のいる建物の屋根に着地した。勢い余って滑り込んだ形で、屋根の瓦などがはがれ、割れていく。


「見つけたぁぁぁ!!」


「おっと、見つかってしまったか。アリア、よく俺を見つけたな。これが愛か。素晴らしいな、愛! アリア、俺もお前を愛しているぞぉぉぉ!! おっと!」


 アリアは俺に近付いてくると、俺の胸倉を掴み上げていた。ほんのり頬が赤くなっているので、きっと照れ隠しだろう。そんなところが凄く可愛い。


「何してんのよ! 今がどんなときか分かっているの? ようやく立て直しが上手く行って、準備が整ってきたのに!」


 俺は胸倉を掴んでいるアリアの手を握り、真剣な表情で言う。


「すまん。……目立ちたかった」


 すると、アリアの顔が赤くなってくるので抱きしめる。


「そんな理由で許されるとでも――」


「まぁ、聞け。建物内に人もいなかった。周囲にも人がいない。鍵をかけていたのもあるが、高価な物も全て持ち出されていたよ。どうやら、本気で商人やギルドの幹部はベイムを捨てたらしい」


 アリアは、俺に抱きつかれた状態で軽く抵抗するが、本気で抵抗はしていなかった。


「だ、だから私たちが先に入って抵抗を――」


「だから、だ。状況が好転して勝利をすれば、奴らは戻ってくる。そして、ベイムもそれを受け入れる可能性がある。受け入れなくとも、ベイムはここを中心に俺たちの意志とは無関係に独立するかも知れない。そのために、ベイムの象徴を破壊し、新しい象徴をベイムの住人たちに植え付ける必要がある」


 三代目が宝玉内から声を出す。


『逃げた商人たちを受け入れないにしても、ライエルを受け入れない可能性もあるからね。ここで最初にベイムの象徴を破壊しないとね』


 七代目も感心したように。


『心を折りにいく訳ですな。絶望的な状況と、下準備も完了しているとなれば……まぁ、後はライエル次第でしょうね』


 アリアがボソボソと。


「まさか、それであんたは……」


 俺はアリアの顔を見るために少しだけ離れると、両肩に手を置いた。アリアに笑顔を向けながら。


「心配するな。絶対に成功する。何故なら……俺はみんなのライエルだからな! おっと、そろそろ人が集まってくる頃だな」


 周囲を見れば、駆けつけた兵士たちやミランダの姿があった。屋根に登ってこちらを警戒している冒険者の姿もある。


 俺はそんな彼らに向かって。


「喜べお前たち! ライエル・ウォルトの帰還だ。どんな絶望的な状況だろうとはね除け、そして勝利を届けるためにやってきた。さぁ、もっと喜べ! 勝利は俺と共にある!」


 片腕を振って周囲にアピールをすると、周りがポカーンとした表情で俺を見ていた。


 アリアが俺を掴んで。


「喜べるか! 何も知らせないで爆破して笑っているんじゃないわよ! こっちがどれだけ大変だったか!」


 集まってくるベイムの住人たちが俺を見ていた。俺という存在を見上げており、まさしく俺はベイムにとって新しい象徴となっていた。


「なんだ、褒めて欲しいのか? 後で膝枕をしてやろう」


「い、いらないわよ! それより、あんたクラーラたちにいったい何をしたのよ。船から降りてくると妙に顔が赤いし、なんか嬉しそうだし……おい、私の目を見て話せ!」


 アリアに真正面から顔を向けられた俺は、アリアの目を見つめ返す。ここで嘘など吐いては失礼だろう。


「知りたいか? ならば夜に俺のベッドに来い。ゆっくり教えてやろう」


 アリアの顔が赤くなったので、俺はアリアから離れた。そして、ベイムの都市を見渡し、その先にいるバンセイムの軍勢を見る。破壊された壁の向こうに陣取るバンセイムの軍勢の数は、酷く少なくなっていた。


 俺はバンセイムの軍勢を指差し。


「さぁ、次はお前たちに落ちて貰おうか。待っていろよ、バンセイムの諸君。このライエル・ウォルト……正々堂々と正面から君たちの相手をしようではないか! フハハハッ!!」


 七代目が嬉しそうに。


『まぁ、ベイムも巻き込めば数を見ればこちらが上になるからな。バンセイムが軍を二分してくれたのだ。正面から乗り込むのが礼儀だろうさ』


 高笑いをする俺に、アリアが横でボソリと。


「……今更正々堂々とか、あんた頭おかしいんじゃないの? いや、この状態はおかしいけどさ」


 俺はアリアに言う。


「違うな。間違っているのは俺ではなく、世界の方だ! こんな恰好いい俺を認めない世界はないと確信している。それでも認めないなら、認められるようにするだけだ」


 アリアが頬を引きつらせながら。


「あんた、ちゃんと勝てるのよね? 勝つだけじゃなくて、こっちは味方を増やさないといけないとか、色々と条件があるのよ? それなのに、いつもあんたは大事なタイミングでそんな状態……」


 俺は右手を掲げ、顔も天に向けた。曇り空だが、とてもいい曇り空だ。天も俺を祝福している気がする。


「安心しろ。俺は天に愛された男……いや、世界に愛された存在だ。それに、このライエル・ウォルト――狙った獲物は女だろうが国だろうが関係なく落とす男だ。成功率は百パーセント! 万に一つの失敗も有り得ないのだよ。まぁ、今回口説くのは大半が男だけどな!」


 宝玉内からは、三代目の笑い声が聞こえてきた。


『最後に粋な冗談を言えるようになるなんて……らいえるサンも成長しているんだね。僕は嬉しいよ。まぁ、存在自体が冗談の塊だけどね』


 さぁ、ここからが本当の戦いだ。俺は周囲に続々と人が集まってくると両手を広げた。皆の視線を感じながら、俺は言う。


「本番はここから……楽しんでいこうじゃないか、諸君!」

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