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セブンス  作者: 三嶋 与夢
ネタがないよ 十四代目
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第十四章 エピローグ

 アグリッサ討伐から、バンセイム王国の建国と大陸の分裂――。


 その流れを聞き、ウォルト家とフォクスズ家の関係を聞いた三代目の声が宝玉内に静かに響いた。


『はぁ、一番大事な情報が抜けているとか、どういう事? アグリッサをどう倒したのか知らないといけないのに……バンセイムとかどうでもいいよね?』


 三代目の落胆した表情は、俺とミレイアさんからしても意外な反応だった。いや、この人ならこれが一番正しいのかも知れない。


 五代目は円卓に腰掛け、天井を見あげながら腕を組んでいた。


『近付いて叩っ斬る、ね。つまり、ウォルト家のご先祖様はそれを実行したわけだ。フォクスズ家の魔法が得意なご先祖様は別行動をしていたなら、もしかすると魔法に特化していたのかもしれないな。後衛系の黄色の宝玉に記録されたのもそのためか』


 しかし、七代目はあごを触りつつ、真剣な表情で。


『それでしたら、セレスは近接戦も化け物です。参考になったかどうか分かりませんね。しかし、本当にどうでもいいというか、微妙な話でしたな』


 三人とも、ウォルト家の先祖の話を微妙と表していた。俺はフォクスズ家のことが気にかかっているのに、三人とも気にした様子がない。


「あの、フォクスズ家の件は――」


 三代目が笑顔で。


『ん? いいんじゃない。ちょっと理由は重いけど、ウォルト家に仕えてきた理由も判明したし。まぁ、ノウェムちゃんは記憶持ちでウォルト家に対して思い入れが強すぎて、ライエル個人を見ているか分からないけど、そこはライエル自身で解決してね。というか、ご先祖様の脇の甘さが酷すぎるよね』


 七代目も三代目に同意していた。


『今更ウォルト家がアグリッサを倒したと触れ回ったとして、それが真実と証明出来なければただの嘘になりますからね。証明しても『それで?』みたいな感じでしょうし』


 五代目は難しそうな表情で俺とミレイアさんを見ながら。


『ご先祖様も無念だっただろうし、なんとかしてやりたいが……ライエルが大陸を統治したら、実はバンセイムが悪かった、って事にして名誉を回復するしかないな。でも、それをやるとなぁ』


 三人が顔を見合わせ、三人とも頷いた。代表して三代目が口を開く。


『ぶっちゃけ、箔付けのための嘘と思われるよね。まぁ、権力者なんて多かれ少なかれそうやって見栄を張るし、そういうのも大事だけどさぁ。なんで今更、って感じになるよ。実際、僕たちがバンセイムを滅ぼしても良心が咎めない、って訳でもないし。ほら、もう三百年も昔だから』


 昔なら取り戻して先祖の名誉を回復、というのも可能だった。それがメインでもいいだろう。しかし、今ではバンセイムは擁護出来ないほどに酷い。ついでにウォルト家も酷い。ウォルト家に大義があるとしても、セレスの行動で台無しだった。


 七代目が、溜息を吐きつつ。


『最後の最後で役に立つかと思えば、微妙な結果に終わるとは……』


 三人がガッカリしており、それを見たミレイアさんがワナワナと震えていた。


『なんですか、貴方たちは! ウォルト家の正当性や、フォクスズ家の事も知ることができたじゃないですか! 少しは考えてみてください。バンセイム家がご先祖様の手柄を横取りしたために、大陸は分裂してこのような状況になったのですよ!』


 ただ、三代目の意見は冷めていた。


『いや、別に分裂したのはバンセイムだけの理由でもないと思うよ。実際、独立したかっただろうし、不満もあったはずだ。それに、統一されていたから、って幸せとは限らないからね』


 五代目が俺の方を見て。


『まぁ、アレだ。ライエル……ご先祖様の無念も晴らしつつ、バンセイム家は滅んでも仕方ないと、個人的に思えれば気が楽になるだろ。今回はそれでいいじゃないか。というか、ライエルの名前ってもしかして』


 七代目が思い出したように手を叩いた。


『息子夫婦が名前で悩んでいるときに、フォクスズ家の夫婦が相談に乗っていました! まぁ、別に良いじゃないですか。長い歴史の中、名前がかぶることもありますよ』


 三代目が笑いつつ。


『そうなんだけど……重い。重いぞ、フォクスズ家! でも、お世話になったし、それくらい別にいいよね。ライエル、そういう事だからノウェムちゃんの事はよろしくね』


 なんという事だ。人生どころか一族総出でウォルト家に尽くしてくれたフォクスズ家への対応が軽すぎる。


「あの、俺はノウェムになんと言えば?」


 五代目が俺に対して。


『自分で考えろ。というか、惚れているなら受け止めてやれ。まぁ、ノウェムがお前個人を見ているか、お前を通してウォルト家、そして過去の英雄を見ているかは知らないけどな』


 言われてみると、確かにノウェムは俺に対してハーレムを認める、など価値観が違うところがあった。いや、俺を本当の王家の血筋として見ているなら……俺個人をどう見ているのか気になる。


 三代目は、溜息を吐いた。


『あ~あ、これでアグリッサの弱点とか知ることができると思ったのにさぁ。肩すかしも良いところだよ。なんだよ、期待させておいて』


 プルプルと震えるミレイアさんが動くと、一瞬で銃を抜いて発砲していた。三代目に弾丸が命中――しなかった。三代目の座っていた椅子に、弾丸がめり込み、そして消えていった。


 宝玉内。円卓の間には三代目の声だけが聞こえてきた。


『もう、怒らないでよ。別にミレイア“ちゃん”が役立たず、なんて言ってないでしょ。結果的に役に立たなかったけど、可愛いから許して上げるね。ほら、僕のひ孫だから』


 煽る三代目に、ミレイアさんが悔しそうな表情をしていた。






 ――ランドバーグ家。


 かつて、三代目の時代に騎士になった家系だ。


 ウォルト家に代々仕えた陪臣騎士の家だが、ウォルト家から娘が嫁いでいた。ウォルト家内部でもしっかりした家で、ウォルト家が広がった領地を管理するために屋敷を移転した後を任されるくらいに。


 ライエルが憧れた騎士【ベイル・ランドバーグ】は、この家の現当主の次男だった。今はウォルト家の屋敷で仕えており、そのためにセレスの影響下にあった。


 そんなランドバーグ家の当主と、ノウェムは話をしていた。


 ここはフォクスズ家にとって重要な土地であり、セレスすらノウェムを警戒して手を出していない場所だった。


 そんな当主が、セレスの影響にある訳もなく。


「――これが現状です、ランドバーグ様」


 五十過ぎの男は、体に怪我が目立っていた。戦争での怪我が多く、今では体が思うように動いていないのか杖を持っている。


「お屋敷を訪ねても相手にもされなかったが、まさかそこまでとは」


 両手で顔を覆い、ランドバーグ家の当主は気を落としていた。


「お屋敷の様子がおかしかったのは事実だ。それはわしも確認しておる。だが、弟がついていながらこのような……」


 ノウェムにとって、ランドバーグ家は忠誠心が高く信用のある家だった。ライエルの避難先にも、かつて初代が興したこの土地が相応しいと考えていたのだ。


 だから、ノウェムはこの土地を訪れた。セレスが約束通りに手を出していないと確信をして。


 ノウェムはランドバーグ家の当主に頭を下げた。


「ランドバーグ様、ライエル様のために兵をお貸しください。現状、ライエル様は自分で動かせる兵力があまりにも少ないのです」


 ランドバーグ家の当主は頷く。だが、同時に部屋に若者を呼んだ。


「分かった。ランドバーグはウォルト家に恩のある家。ライエル様がお立ちになるなら、兵を出そう。ただ、わしの体は言うことをきかん。バルドア、入ってきなさい」


 バルドアと呼ばれた青年が部屋に入ってきた。背が高く、綺麗な茶髪の髪はサラサラしており背中まで伸びていた。


 緑色の瞳は鋭く、鍛えた体をしていた。


「バルドア、話は聞いていたな? お前がライエル様の下に向かえ。領地からは人を出す。最低でも三百は連れていけ」


 ランドバーグ家の当主の言葉に、バルドアと呼ばれた青年は少し驚いていた。


「三百!? 父上、現状では二百ですら領地経営に支障が――」


 父上と呼ばれたランドバーグ家の当主が、杖を少し上げて床を叩いた。すると、バルドアは口を閉じる。


 ノウェムに対して。


「すまないな。事の重大さを理解していないらしい。だが、バルドアは初陣も済ませ、親の目から見て優秀だ。少し経験が足りていないが役に立つだろう。ただ、こちらも三百が限界だ。なるべく力のある若い連中を用意させるが、わしらだけではこれ以上の兵は出せない」


 ノウェムからすれば、期待していたのは二百名前後だ。それだけでも、領地の一割以上の兵力となっている。三百となれば領地の統治に問題が出る数字だった。


 しかし、今は少しでも兵力が欲しかった。


「ありがとうございます。それでは、南部を目指し、そこからジャンペアに入って船でサウスベイムまで移動して貰います」


 バルドアが少し驚いていた。


「ジャンペアからベイムですか。東部方面が慌ただしくなっていますが、そちらで戦争が始まるのですね。分かりました。準備を進めます」


 バルドアがキビキビとした動きで部屋を出て行った。


 ノウェムは、そんなバルドアの後ろ姿を見て、かつてランドバーグ家に嫁として送り出された五代目の娘を思い出す。


(……全ては、ライエル様のために)


 ノウェムの言うライエルとは、どちらのライエルなのか誰にも分からなかった――。






 ――アデーレは、連れてきたヴァルキリーズの報告を聞いて頭を抱えていた。


 ライエルたち一行は、ファンバイユとの協力を取り付け、国境を接しているレズノー辺境伯すら取り込んでいた。


 ノウェムたちはジャンペアに協力を取り付け、その周辺国はジャンペアが交渉を引き受けていた。


 なのに、アデーレの方は小さく切り崩そうとしてたいした成果が出ていなかった。


「……もっと大きな家を取り込めば良かった」


 落ち込むアデーレを慰めるのは、マクシムだ。


「お嬢様、そう悪い事ばかりではありません。結果的に、数千の兵力がこちら側についたのですから」


 その数千の兵力は、正確には五千にも届かない兵力だ。下手をすると三千にも届かない恐れもあった。


 領主たちがどれだけ協力をしてくれるか、アデーレにも分からない。裏切りを考えている連中もいるかも知れない。


 そうした報告をライエルにすると、返ってきた言葉をヴァルキリーズが無表情で口にする。


「いいではありませんか。信用出来る領主に例のものを渡しています。裏切り者が出た場合でも、問題ありません。ライエル様も準備が整ったとお喜びです。はぁ、私もライエル様の近くが良かった」


 最後は余計だと思いながら、アデーレはサウスベイムへと戻る準備を進めていた。ここ最近、小領主の悩み相談や苦情が舞い込んで大変だった。


 ライエルが大きな領主を切り崩した理由を理解しつつ、アデーレはマクシムと共に今後の事について相談する。


「マクシム、東部での物価の上昇や兵を集めている様子を見て、貴方はどう思います? ベイムに流れ込むのは――」


「――収穫も終わって冬になります。もうしばらくすれば、準備が整ってベイムへ進軍するでしょうね。レダント要塞へ辿り着くまで二ヶ月もかからないでしょうね」


 自信を持って言うマクシムに、アデーレは安心して頷いた。それだけの期間があれば、ジャンペアへ移動してそこから船に乗ってサウスベイムに戻れる。


「それで、レダント要塞はどれだけ持ちますか? 私としては、ベイムが増強をしているでしょうし、兵力も増えているので二ヶ月以上は持つと――」


 そこまで言うと、マクシムは真剣な表情でアデーレに言うのだ。


「――お嬢様、レダント要塞はもって数週間です。早ければ一週間で突破されますよ」


 その言葉が信じられなかった。


 ただ、マクシムは戦争に参加した経験も多く、騎士としても優秀な男だ。アデーレはそういった方面でマクシムの言葉を信用していた。そして、マクシムを信頼もしている。


「きっと補強していますし、兵力だって私たちの時以上ですよ? それでも数週間ですか?」


「えぇ、そうです。ライエル殿なら追い返せるかも知れませんが、それでも双方痛み分けに終わる可能性が高いですね」


 アデーレはその理由が知りたかった。単純に、ベイムには強い冒険者たちがいる。そうした冒険者たちを配置すれば、それなりに戦えるはずだった。アデーレは、ライエルを見ているのでそう思ったのだ。


「優秀な冒険者も多いと聞きますけど?」


「そこは難しいところですね。優秀とは、小隊単位で優秀であって、大軍を率いた優秀ではありませんから。それに、統制が取れているとは言い難い。バンセイムで普通の将が軍を率いても数週間で突破出来ると思いますけどね」


 アデーレは首を傾げた。


「ライエルさんの時は、大変でしたが魔物の軍勢を殲滅しましたよ?」


 マクシムは困った様子で、頭をかいた。


「そこは難しいところですね。確かに魔物の軍勢は脅威ですし、単純に数は力なのですが……まぁ、人間の方が厄介だという事です。それに、勘違いされていますから訂正しておきますが、ライエル殿は軍を率いると恐ろしい程に強いですよ」


 アデーレは納得した。


「スキルですね。そういったスキルを、ウォルト家の歴代当主たちが青い玉に残しているから――」


 マクシムは笑顔になった。そして、アデーレに対して首を横に振る。


「それを使いこなす才能が脅威なんですよ。それと、あの年齢では考えられないほどに落ち着いて、淡々と周囲をかためるように動く。時には情を持って、時には冷酷に……目的を達成するためにあそこまで動ける十代を私は知りません。老齢な将軍の雰囲気を持っていますし、戦いたくない相手ですよ」


 マクシムに評価されているライエル。だが、本人が聞けば微妙な顔をするだろう。そして、宝玉内の歴代当主たちは、きっとマクシムのことを褒め称える。自分たちを評価したから、とでも言って。


 アデーレは、マクシムの説明を言葉だけで理解した。だが、もっと本質的なものを理解していない様子だった。


 だが、マクシムが言うならそうなのだと、納得して立ち上がる。


「さて、それなら急いで準備をしないといけませんね。これから忙しくなりますよ、マクシム。頼りにしていますからね」


 アデーレにそう言われ、マクシムは頬を赤く染めて鼻の下を軽く指でこすった。


「お、お任せください、お嬢様」


 周囲では、ヴァルキリーズがそんなマクシムを見ながら。


「台無しですね。せっかくの真面目な雰囲気が」

「あの年齢差は問題があるのでは?」

「しかし、御主人様に負けず劣らずのチキン野郎でしたね。何度も二人っきりにして差し上げたのに手を出さないばかりか、告白までしない」

「……告白をしていたら、死亡フラグのようにも感じますね」


 周囲の声など聞こえていないアデーレとマクシムは、笑顔で今後の話をするのだった――。


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