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セブンス  作者: 三嶋 与夢
ネタがないよ 十四代目
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三人目

 レズノー辺境伯の領地。


 辺境伯の城で書類を取り交わした俺は、笑顔で握手を求めた。


 だが、握手に応えた辺境伯は苦虫を噛み潰したような表情をしていた。理由は簡単だ。


 辺境伯が、俺に言う。


「ブラウベイとパルセレーナは無事なんだろうな」


 脅すような声。そして周囲の騎士たちの視線には殺気が込められていた。跡取りを人質にとっての交渉は、周辺の状況も追い風となって辺境伯はサインをするしかなかったのだ。


 俺が二人をさら……救出した後、見事に辺境伯はセントラルに抗議をした。そして、セントラルにいた息子さんからは特に気にした様子もない手紙が来ただけ。


 セレスに魅了されたのは確実であり、周辺領主たちとの関係も微妙になっていた。セントラルに抗議したためだ。ウォルト家を始めとした軍勢が攻め込むのではないか? という噂が広がっていた。


「安心してください。これでも約束は守る男ですよ」


「人さらいの売国奴が」


 辺境伯の言葉は間違ってはいない。ファンバイユは大陸西部の国々に働きかけ、バンセイムへ攻め込もうとしていた。レズノー辺境伯は、協力すべき周辺領主たちとの関係に溝を作っている現状……。


 選択肢は少ない。


 ミレイアさんが、まるで悪の女帝のような声で言う。


『それは違いますよ。ライエルを捨てたのはバンセイムです。売国奴とは酷いですね』


 五代目はそんなミレイアさんに。


『まぁ、ライエルにも言い分はあるだろうが、やっていることはどう考えても酷いからな。辺境伯も怒るだろうさ』


 俺は窓の外に視線を向けると、そこには麒麟の姿をしたメイがいた。背中にはパルセレーナさんと、ブラウベイ君を乗せている。


「お爺様!」


「ブラウベイ!」


 窓を大急ぎで自ら開け放った辺境伯は、窓の外にいる麒麟よりもブラウベイ君を見ていた。周辺の騎士たちが窓の外と俺とを交互に見る。


「俺の大切な仲間ですから安心してください。捕まえようなどと考えないでくださいね。そうすれば、協力の話はなくなりますよ」


 周囲が俺の言葉に息をのんでいた。レズノー辺境伯が生き残る道は、既に俺に協力するしかないのだ。


 国内の状況を考えれば、いずれセレスは――いや、今もセレスは国力を無駄に疲弊させている。それが自分の首を絞めるとは考えていない様子だった。


 辺境伯が、窓から振り返って俺の方を見た。


「確かに約束通り、孫と義娘は返して貰った。レズノーは時が来れば約束通りに動こう。だが、領地の件は」


 俺は頷く。


「用意させて貰いましょう。ファンバイユと打ち合わせは進めておいてください」


 レズノー辺境伯はそれを聞いて。


「それはいいが、下手に動けばセントラルとて気が付くのではないか?」


 俺は受け取った書類を封筒に入れて大事に持つと。


「大丈夫ですよ。セントラルが動くまでに準備は整います」


 そう。準備はもう整いつつある。






 ――大陸南西。


 そこに位置する領地は、バンセイムを代表する貴族であるウォルト家の領地だった。


 今では完全な敵地であり、ライエルが戻ることは出来ないその場所を訪れたのはノウェムたちだ。


 フードをかぶったミランダは、周囲を見て少し不思議がる。


「都市部には行かないのね。情報を集めるならそこじゃないの?」


 同じようにフードをかぶったノウェムは、荷馬車から見える光景を見ていた。通りかかった街こそが、初代から三代目までが住み続けた領主貴族ウォルト家発祥の地だった。


「……流石に都市部では私の顔を知っている人が多いですからね。ここはウォルト家にとって重要な場所ですので、それなりに話が聞けるかも知れません」


 荷馬車の上から、エヴァはフードを脱いで外を見ていた。


「良いところじゃない。なんか悪くない雰囲気よ。ウォルト家の領地だから、もっと末期かと思ったんだけど」


 バンセイムで暴れ回っているウォルト家の軍勢――。


 きっと、領地内もセレスに洗脳されて酷い状況なのだと思っていたのだろう。ノウェムは俯きつつ。


「ここはとても重要な場所ですからね。セレス様にも手出しはさせませんでした」


 ミランダが、そんなノウェムの言葉に反応した。


「手出しをさせなかった、ね。随分と大事な場所なのね。でも、ここってそこまで重要なの? 確かに大きな街はあるけど……」


 現在のウォルト家の領地規模から言うと、そこまで重要な場所でもなかった。交通の要所、という場所でもない。


 そのため、四代目は屋敷を移転したのだ。


 ノウェムは言う。


「領主貴族であるウォルト家は、ここから始まったんですよ。それが重要ではないと?」


 ミランダはノウェムから視線を外しながら、外の景色を見ていた。


「ノウェムにとって聖地みたいな扱いという訳ね。理解したわ」


 ミランダは皮肉を言ったが、ノウェムは否定しなかった。ノウェムだけではない。フォクスズ家にとって、この場所は間違いなく聖地であった。


(再びウォルト家と巡り会えた場所……いえ、あの人の血族と。あの人の意志を継いだウォルト家の人間……バジル様に出会えた場所ですからね)


 荷馬車が止まると、ノウェムたちは降りて街を見渡した。


 そして、ノウェムはミランダとエヴァを連れて歩き始める。向かった先にあったのは墓地だった。


 いくつも並んだ墓地の中で、別枠で用意された墓にはバジル――クラッセル、デューイ、スレイ――。ウォルト家の当主たちの名前が刻まれた墓石があった。


 ノウェムはフードを外すと、祈るような仕草をした。


(歴代当主様方。ライエル様は、貴方たちのように強い人間に育っております。ウォルト家は安泰ですよ。このノウェムが、必ずライエル様を大陸の覇者にします。大陸を制覇し、そして強き人間の世界を取り戻してご覧に入れます)


 自身の願望も入り交じった誓いのような心の声は、墓石の下に眠る歴代当主に届いたのだろうか――。






 らいえるが消えた記憶の部屋は、セレスが出てくることもなくなった。


 歴代当主たちがトラウマを呼び起こされる事もなくなり、扉を開けるとすぐに俺が軟禁されていた自室へと繋がる。


 ガーターをつけた女性陣を並べて、それを眺めたいと言っていたエロガキの姿がないと寂しく感じた。


 部屋が少し広く感じる。


 ミレイアさんに誘われて自分の記憶の部屋に入ったのだが、これからなにをする、というのは聞いていなかった。


「ミレイアさん、ここでなにをするんですか? それと、らいえるが次で最後、みたいな言い方をしていたんですけど?」


 ミレイアさんは、部屋の中を見渡しつつ埃っぽいのか指先で家具に触れていた。指でなぞると、指先に埃がついて白っぽくなっていた。


『ライエル』


「はい?」


 名前を呼ばれて近付こうとすると、俺は咄嗟に後ろへと下がった。


 ミレイアさんが近付いた俺に向けていたのは、銃口だ。ナイフがついており、接近戦にも対応出来る一発式の銃。


「……危ないですね」


 そう言うと、ミレイアさんは銃を袖の下にしまい込んで笑う。


『いい反応ですよ。それだけ自身の体を使いこなせれば可能性はありますね。らいえるが役目を放棄したときは焦りましたが、これなら先へと進めます』


 そう言ってミレイアさんは左手を横に振るう。部屋の中が灰色に染まると、景色が変っていった。


 そして景色に色が戻ってくると――そこは俺が知らないのか、それとも消えてしまった記憶の中の光景なのか……知らない景色が広がっていた。


 ミレイアさんは、俺の方を見て言う。


『三人目はこの私――ミレイアですよ、ライエル』


 案内人と言っていたミレイアさんが、どうやら最後を担当するようだ。それを聞いて、俺はこの人も消えていくのかと思った。ただ、最初のセプテムさんとは違い、らいえるのように手強い相手、とも思える。


 簡単に消えてはくれないと思えたが、それをどこかで安心している自分もいた。


『……そこで複雑な表情をするより、素直に驚いて欲しかったですけどね。ただ、私の役目も同じです。ライエルには知らなければいけない事実があります』


 俺は内心を悟られないようにと思いながら、ミレイアさんに聞き返した。


「なんですか?」


『気付いているかも知れませんが、アグリッサ――三百年前のセプテムを倒したのは、バンセイム家の人間ではありません』


「……それは、そうなんでしょうね」


 バンセイム家が、どうやってアグリッサを倒したのか? 更に言えば、当時の記録が驚くほどに少なかった。バンセイム王国の前には大陸を支配していたセントラス王国があった。


 そのセントラスの一領主貴族だったバンセイム家が、アグリッサの支配する大陸を救って王座に就いた。その後は周辺領主たちが独立し、大陸は三百年近く統一されなかったのだ。


『重要なのはバンセイムではありませんよ。まぁ、確かに名君も数名はいましたが、基本的に周りに迷惑をかける輩が多かったですからね。私としても思い入れなどない上に、嫌な思い出しかありませんからその辺はどうでもいいんです』


 王家にまったく忠誠心がない。まぁ、領主というのは王家の権威が欲しいのであって、騎士道のような忠義は二の次だ。自分を正しいと認めてくれる権威に対して、頭を垂れているとも言える。


『トラシーを覚えていますか? その時に神獣である鯨――白鯨がいましたよね? 彼女が言っていた言葉を思い出しなさい』


 そう言えば、トラシーを撃退したときに何か言っていた。三百年前を知っているような雰囲気だった。


「同じ苗字を持つ英雄がどうとか……でも、詳しい事は聞けませんでしたよ」


 俺の言葉に、ミレイアさんは微笑みながら。


『……ライエル、実を言うと私は貴方が大陸をその手に掴もうとした時に思った事があります。やはり、持ち主の手に戻ってくるのだと。運命を信じますか、ライエル?』


 なにを言っているのか分からないので首を傾げると、ミレイアさんは言う。


『三百年……バンセイムに貸していた玉座を取り戻しなさい。あれは元からウォルト家のもの。語られることすら許されなくなった、ウォルト家の人間が手にした功績を奪ったバンセイムから、全てを取り戻すときが来ましたよ』


 俺が驚いて唾をのみこみ、そしてミレイアさんに確認を取った。


「あの、それはつまり――」


『ウォルト家――その正式な跡取りである青年がいました。本当にただ強いだけの人です。魔法も使えなければ、魔具などもない時代。玉すら持たずに身体の強化系スキルだけでアグリッサに挑んだ英雄です』


 周囲の景色は天幕がいくつも用意され、これから戦争が始まろうとしているところだった。


 そんな場所で、大声で歩いてくる青年がいた。


『よう、ノウェム、元気にしていたか? ちゃんと飯食って寝たか?』


 ガハハハ、などと豪快に笑う青年の背は高く、そして大剣を背負っていた。初代のような鉄の塊ではなく、本当に両手持ちの剣だった。


 そして、ノウェムと呼ばれた青年は、線の細い男性? だった。見た目、女性のようにも見える。


『聞こえているから大声を出さないでくれ、ライエル』


 ライエル――俺と同じ名前だった。


『悪いな。これから攻め込むんだ。気力が溢れてきて仕方がないぜ』


 荒々しい青年は、大剣を抜くと軽く振って見せた。そんな様子をノウェム――が、見ていた。溜息を吐いているが、少し嬉しそうだった。


 ミレイアさんが言う。


『……この人はフォクスズ家の人間ですよ。魔法に関して才能のある一族、という事になっています。宮廷貴族で伯爵の家系だったんですよ』


 フォクスズ家が伯爵と聞いて、俺はまた驚いてしまう。


「なにが……いや、まずは話を聞きます」


 ミレイアさんが、頷くと青年二人は話を続けた。


『ところでライエル、バンセイム伯爵には話をつけたんだよな? あまり前に出て欲しくない人なんだが』


 俺の先祖である青年は大剣をしまい込むと肩をすくめた。


『末端の騎士爵家の跡取りに色々と言われたくないのさ。ま、俺は兵を出して貰って満足だけどな』


 フォクスズ家の青年の目が細くなった。


『ライエルが集めた兵たちにまで悪影響が出る。止めさせてくれ。僕たちは、ライエルだから一緒に戦おうと決めたんだ。後から状況を観察していいとこ取りを狙うバンセイム伯爵は……嫌いだね』


『そう言うなよ、ノウェム。兵も物資もこれで揃ったんだ。後はセントラルに乗り込んで、アグリッサの婆に一発ぶちかますだけだろうが。あの婆の顔面は俺が最初に殴ると決めているから、二番目以降は譲ってやるぞ』


 フォクスズ家の青年は苦笑いをしていた。


『相変わらずだな。アグリッサはあれで武にも魔法にも精通している。容易な相手ではないよ』


 すると、ご先祖様は初代と同じような笑い声、そして発言をした。


『そんなのは関係ないね。近付いて叩っ斬る! それで全部解決だ。終わったら酒でも飲もうぜ。お前とは一番長い付き合いだからな』


 フォクスズ家の青年は少し悲しそうに笑っていた。


『……君の奥さんに悪いから遠慮しておこう。お腹に子供もいるんだろ?』


 そこで映像は灰色になった。


 ミレイアさんは、俺に向かって言うのだ。


『ライエル、全てを知る準備は出来ましたか?』


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[一言] しびれました。同じ名前だったんだ。
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