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セブンス  作者: 三嶋 与夢
ネタがないよ 十四代目
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それぞれの旅

 スキル―― スピード ――の効果。


 それは移動速度を上昇させるものだ。単純に移動速度を上昇させるのだが、その上昇率は俺の力量によっても大きく変ってくる。


 二割、三割程度だった最初の時と比べると、今では倍近い上昇も可能だった。それをすれば魔力の消耗も大きくなる問題を抱えてはいたが、それでも増えた魔力でなんとかできる範囲でガレリアの港に到着した。


 港に降りると以前よりも作業が進んでおり、船から荷を下ろす作業を見ているとガレリアの騎士たちに囲まれたレオルド君が俺に手を振ってきた。


「ライエル殿!」


 俺よりも若く、以前は頼りなく騎士たちからも信用のなかった少年は、今ではそれなりの実績を積んで周囲も従うようになっていた。


 ガレリア、ルソワースの突発的に始まったルール無視の真剣勝負。そこで小さいながらも武功を立ててからは、ガレリアの内政面で活躍していた。


 港の開発責任者も、レオルド君の名前になっていた。


「久しぶりだね。何ヶ月ぶりかな? いや、一ヶ月程度だったような?」


 俺が以前会った時の事を思い出していると、レオルド君は苦笑いをしていた。


「二ヶ月はない程度です。姉上は都合が合わず、今回はこちらに出向く事が出来ませんでした」


 グレイシアさん――ガレリアの公王代理は、四ヶ国連合の使者と話があるようで動けなかったという。


「ロルフィスかな?」


 使者を出した国を確認すると、レオルド君は頷いた。


 潮風が強く、少し寒く感じる港。俺たちはレオルド君に案内され、手配された宿泊施設へと案内された。


 仮設された建物が多く、作業をする人間の働く声が周囲から聞こえる環境だ。活気があるように感じた。


 レオルド君が俺に言う。


「ベイムのトレース家から新当主が来ましたよ。言われた通り追い返しましたけど、少し可哀想でしたかね?」


 レオルド君が少しだけ不安そうにしているのを見て、宝玉内では三代目が普段よりもトーンの低い声で。


『うん、良い子だね。でもね、それをされると僕たちが困るんだ。フィデル君には頑張って貰ったし、これからも頑張って貰うからこれくらいはご褒美というか、約束を守りたいと……』


 自分たちのために利用した訳だが、どうにも宝玉内に残っている歴代当主たちにとって、レオルド君は眩しい存在らしい。


 俺が同じ事を言えば「甘い」だの「弱肉強食」だの言うのに、レオルド君には甘かった。きっと、自分たちがなくした純粋さを見せつけられているような気分なのだろう。


 実際、レオルド君は真っ直ぐな性格をしていた。


「俺の都合もあるのは事実だけどね。ま、今のベイムからは距離を置くといいよ。バンセイムが宣戦布告をしたみたいだし、動くのは秋を過ぎて冬になるだろうし」


 バンセイムほどの大国でも、ベイムを落とすのに大軍が必要だ。そして、兵力のほとんどは民である。


 秋というのは収穫の時期であり、大国であるが故に収穫時期の微妙なズレもあった。大軍を動かすとなると食糧はもちろん、人手も必要になる。


 忙しい時期は動かない。あるいは、動いてもバンセイムを落とせないと俺たちは考えた。


 もしも――セレスが動いたのなら、俺たちがベイムにいないのは都合がいい。ヴェラにもセレスが動いたら逃げるように言っている。


 レオルド君は腕を組んで考え込むように。


「……バンセイムが動きますか。規模でだけで言えば前回ベイムに流れ込んだ魔物の軍勢より少ないでしょうし、レダント要塞で食い止める形ですかね?」


 宝玉内。五代目がレオルド君の予想を否定した。


『魔物と人間は違うからな。確かに魔物の軍勢の突破力は脅威だが、俺は魔物よりも人間の方が怖いと思うけどね。……多分、レダント要塞は早い段階で抜かれるな』


 俺は五代目の意見を、レオルド君に伝えるのだった。ベイムとバンセイムの戦争のために用意した要塞だが、俺たちはそこを守り切れるとは考えていなかった。


「いや、レダント要塞は割と早い段階で突破されるよ」


「え? でも、数十万の魔物の群れを止めた要塞ですよ? ライエル殿は、そこで二万程度の数で支えきったと聞いていますが?」


 俺と他の人間では大きな違いがある。


 それは、歴代当主たちの知識――そして、そんな彼らが残してくれたスキルだ。ウォルト家が支援系のスキルばかりを発現し、受け継いできた肉体は支援系に優れた適正を持つ肉体となっている。


 初代から続く玉によるスキルの継承により、重複するスキルがなかったのも幸運なのだろう。


 俺は宝玉をいつの間にか掴んでいた。


「……受け継いだスキルが優秀だったんだよ」






 夜。


 宝玉内に出向いた俺は、円卓の上に座ってイライラしている五代目を見た。


 涼しい表情で五代目の椅子に座っているミレイアさんを、五代目は睨み付けていた。


『おい。いい加減にライエルにスキルの継承をさせろ。俺は伝えたい事は伝えたし、何よりも三段階目の俺のスキルは今後役に立つ』


 ミレイアさんは、そんな五代目を見て溜息を吐くのだった。


『素直じゃありませんね。大事なものを伝えていませんよ。初代から四代目まで、ウォルト家はどちらかと言えば地方の領主貴族。中でも家庭を重視してきました。それがどうして五代目である父上で激変したのか、ちゃんと伝えていませんね』


 五代目は眉がピクリと動くと、ミレイアさんを見ながら。


『お前が教えてやればいいだろうが。そんな事を教えて意味があるとでも?』


 ピリピリとした緊張感の中で、三代目と七代目は肩をすくめていた。俺が二人のやり取りを聞いて溜息を吐くと、話題を変えるために話を切り出した。


「いいですか? 明日にはガレリアを出発して、ルソワースへと向かいます。その後はカルタフスに向かって海路はおしまいです。今のところは順調ですから、また稽古でもつけて貰えませんか?」


 宝玉内に足を運んだのは、歴代当主たちに稽古をつけて貰うためだった。今までは忙しく、そうした余裕がない時もあった。


 今のような時に稽古を受けておく必要があると思ったのだ。それに、五代目も役目を終えて消えようと考えている。ミレイアさんが拒否しているが、いつ消えるか分からない。


 七代目が場の空気が嫌になったのか、椅子から立ち上がった。


『わしが相手をしよう。ライエル、来なさい』


 そう言って七代目と記憶の部屋に向かおうとすると、勢いよく扉の一つが開いた。


 ――俺の記憶の部屋の扉だった。


 ニヤニヤした同じ顔を持つらいえるが、そこには立っていた。


『暇だと聞いて参上しました。みんなの可愛いらいえるです。さぁ、ライエル! 僕と勝負をするんだ! 勝てば記憶を返してやろう!』


 ビシッとポーズを決める少年時代の俺を見て、頭が痛くなってきた。俺はこんな事は絶対にしない。そう思って口を開こうとすると、ミレイアさんが口を開いた。


『まったく。頑固すぎますよ、父上。仕方ありませんね。ライエルの記憶の部屋は、ある種宝玉の部屋でもあります。そこを通して父上の過去を覗いてきますね』


 そんなミレイアさんの言葉に、らいえるが嫌そうな表情で。


『え~、僕にも僕の事情があるんですけど? ミレイアさん、横暴だよ。それにさぁ、別にもうスキルとかいらないんじゃないかな? これだけあればライエルには十分だし、相談役の方が価値はあると思うよ』


 らいえるの言葉に、ミレイアさんが首を横に振るのだった。


『いつまでも私たちを頼ってどうします? それに、セレスを倒すため、ライエルには知らなければいけない事が多いんですからね』


 らいえるは頭の後ろに両腕を回して組んでいた。そして、ミレイアさんを見て言う。


『ミレイアさんや宝玉の意志と、僕の考えは違いますけどね。僕は家族を救って貰うつもりです』


「救う?」


 俺はライエルを見て、言葉の意味を考えた。そのままの意味なのか、それとも違う意味があるのか。


 少し考えれば、セレスの呪縛から解放しろという意味にも聞こえる。だが、文字通りの意味ならば――。


 七代目がらいえるを見ながら、握り拳を作った。


『らいえる、救うとはどういう意味だ? 分かっていないのか? もう、マイゼルたちがやった事を償うのは――』


 例え、セレスが原因だったとしても、周囲がそれを認めるだろうか? セレスが悪かった。だから、他の人間に罪はない。それが通るなら、俺も皇帝を目指さなくても良かった。セレスを少数精鋭で倒し、そして全てが解決出来た。


 だが、現実は違う。非常だ。最低だ。


 らいえるは天井を見ながら。


『――それでも、救って貰います。それが僕の願いでもありますからね。宝玉の意志や、歴代当主、そしてミレイアさんの考えは知りません。僕個人の考えですよ』


 黙っていた三代目は、俯いたままだ。


 五代目も口を開こうとしない。七代目も同じだった。ただ、複雑そうな表情でらいえるを見ていた。そして、ミレイアさんが言う。


『……分かりました。先にらいえる君の用事を済ませましょう。父上の事はその後です』


 五代目は嫌そうに呟く。


『余計な事をしておいて……』


 宝玉内は、今までになく雰囲気が悪かった。






 目を覚ますと、ガレリアにある宿舎だった。


 朝晩の気温差が出て来た。少しだけ寒いかと思っていたが、かぶっていた毛布の上にはもう一枚毛布が掛けてあり暖かかった。


 モニカがもう一枚を用意してくれたようだ。本人は部屋におらず、今は部屋の外に出ている様子だった。


 上半身を起こすと、やはり少し肌寒く感じる。


「……面倒な事になった。これから本格的な旅になるのに」


 ルソワース、そこからカルタフス。


 カルタフスからはバンセイムを経由して、ファンバイユへと向かう事になる。結構な移動距離なのだが、宝玉内の雰囲気が悪い状況での旅になった。


 そして、俺は強制的にらいえると話を――更には勝負をする事になったのだ。


 現状。成長を六回も経験した。これは確実に多い方だ。だからといって、らいえるに勝てるかと言われるとそうでもない。


 セレスのような移動術。ミレイアさんも行なっていた。


 それだけでセレスと同じ実力とは言えないが、セレスが俺から全てを奪う前の俺――十分に脅威だった。


「昔はそんなに凄かったのか? 俺が忘れているだけなのか……いや、色々と奪われているとか聞いたし」


 奪われただけでアレだけの実力差が出てしまうのだろうか? そう思いつつベッドから出て背伸びをすると、モニカが部屋に桶を持って現われた。


 お湯を用意していたようだ。


「おや、起きられましたか? せっかく、今回は布団の中に潜り込んで、誰かが来た時に勘違いを誘発してやろうと思っていましたのに。チキン野郎は空気を読みませんね」


「朝の準備をしながらそんな事を言っても説得力の欠片もないけどな。いつもの冗談はいいから、早く支度をするぞ。今日中にルソワースの港に到着しないといけないんだからな。アリアたちは?」


 俺がそう言うと、モニカは桶を床に置いて椅子を持ってきていた。俺の顔を見ると、首を傾げつつ。


「何故、私がチキン野郎の女共の世話までする必要が? やれと言われればやりますが、このモニカに……他の女の世話をさせるなんて」


 泣き真似まで始めたモニカの頭部を叩くと、金色のツインテールがふわりと動いた。


「あ痛っ。冗談じゃないですか。アリアさんたちはまだ寝ていますよ。船旅で疲れていますからね」


 海路はまだ数日続くので、俺はこれからの事を考えた。


「休める内に休ませておきたいけどな。クラーラはともかく、シャノンの方には気を使ってくれ。あいつ、体力ないから」


 この旅で最初に体調を崩すのは、俺はシャノンだと思っていた。モニカも気を付けている様子で。


「食事の栄養バランスは完璧です。ただ、移動が続けば体力を消耗しますので、そこまではなんとも言えませんね。でも、シャノンは割と最近では体力面でも向上が見られますよ」


 言われて俺はアゴに手を当てた。


「……最初が酷かったから、普通に生活すれば嫌でも体力がつく、か」


「ですね」


 モニカも同意したのだった。






 ――船の上。


 ライエルたち一行とは別で動いていたミランダは、甲板の上で作業をする船員たちを見ていた。


 トレース家の船ではなく、頼んで南方へと移動して他国からバンセイムに入る経路を選んでいた。


 南の方へ移動しているせいか、風も暖かい。


 ミランダは手すりに掴まると空を見上げていた。青空が広がり、遠くには陸が見えていた。


「シャノン、元気にやっているからしら?」


 妹であるシャノンの心配をしつつ、ミランダは風に揺れる髪を指先でかきあげた。


 シャノンの方からライエルたちについていくと言ったのだ。本来ならミランダに同行するか、サウスベイムで待たせる予定だった。体力は確かに以前よりもついたが、それでも周囲と比べると酷く差があったからだ。


 何かしら、シャノンなりに思うところがあったのだと思い、ミランダはシャノンの意思を尊重した。


 ミランダはシャノンの事も気になるが、南方の国での事も考えていた。


「……こっちは四ヶ国連合とカルタフスの書状があるけど、どれだけ信用して貰えるか」


 南方にはバンセイムに接する国があった。だが、小国と言うには領土は広く、大国と言うには微妙な規模の国だ。


 ベイムが取引をしている国の一つではあるが、ミランダを始め誰もが馴染のない国である。


 取引をしていた商人の紹介状もあるので、国王には会えるはずだ。


「ま、上手くやってみましょうか。駄目でもバンセイムに入って、そこから情報を探ればいいし」


 今回、南にある国の国王は男性だった。そのため、ライエルがこちら側ではないのだ。もしも女性だったら、迷わずミランダたちは送り込んでいた。


 ライバルが増えようと、勝たなければ未来がないのだ。そして、セレスを倒すにはまだ力が足りないのも事実だった。


「ファンバイユの協力を取り付けても、今のままではバンセイムとは五分か少し劣るわね。もう少し協力してくれる国を増やさないと」


 協力したとしても、いずれは帝国としてその国の上に君臨する予定だ。ミランダは気が引ける思いだった。


「……セレスによる支配か、ライエルによる統治か。どちらもウォルト家の人間だと思えば、ウォルト家の手に大陸の未来がかかっているわけか。随分と困った一族ね」


 ミランダはそう言って少しだけ笑うのだった。


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