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セブンス  作者: 三嶋 与夢
ネタがないよ 十四代目
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ベイムからの旅立ち

 ――宝玉内。


 ミランダは円卓が広がり闘技場となったその場所で、吹き飛ばされ地面を転がされていた。


 すぐに受け身を取って立ち上がると、目の前にはミレイアが銃口を向けて無表情で引き金を引く。


 体を反らして銃弾を避けると、糸をミレイアの腕に絡ませて力任せに振り回して壁に投げつけた。だが、ミレイアは銃についたナイフでミランダの糸を切断するとドレス姿のまま壁に足をついてそのまま走り出す。


 銃をヒラヒラした袖から引き抜いては、ミランダに向けて銃弾を放って拳銃を放り投げていた。一発撃てば弾込めが必要な拳銃は、どれもナイフがついており近接戦も出来るようになっている。


 ミランダが走って銃弾を避けようとするが、太ももを撃ち抜かれてその場に倒れ込んだ。


 怯えるように屈んでいたシャノンは、ミレイアの隙をうかがって魔眼を使用するもミレイアに銃口を向けられ――。


「ヒッ!」


 ――と、言って視線を逸らした。そんなシャノンの足下に、ミレイアは銃弾を撃ち込むとシャノンは後ろに倒れて尻餅をつく。


 ミランダは、怪我が治って立ち上がろうとすると魔法でゴーレムを作り出した。


 土塊の人形がミランダとミレイアの前に立ちはだかる。ミレイアは、銃に弾を込めながら歩き出すと、三メートルを超える大きなゴーレムに向かって行った。


「くっ!」


 圧倒的に有利に見えるゴーレムだが、ミランダはそれでも時間稼ぎ程度にしか考えていない。


 ミランダから見て、大きなゴーレムが拳をミレイアに叩き付ける背中が見えた。直後、ズタズタに引き裂かれたゴーレムが崩れ去って土に戻る。


 崩れ去るゴーレムのその先には、二丁拳銃姿のミレイアがいた。ニヤリと笑うその姿に、ミランダも頬に汗が伝う。


「……本当に有り得ないわ」


 相手が自分のご先祖であり、そしてウォルト家の関係者と聞いていたが規格外だった。


 そんなミランダに、ミレイアは言うのだ。


『なんですか、人を怪物みたいに。失礼ですよ』


 銃をしまうと、ミレイアは髪をかき上げて周囲を見た。未だに地面に座り込んでいるシャノンを見て、溜息を吐いた。


『シャノン。貴方の瞳はこれくらい出来るのよ。まったく、精神に干渉する事ばかりにこだわって。少しは魔力の流れを見て、相手のどこを突けば崩れるかを探りなさい』


 ミランダが汗を拭うと、シャノンは泣きそうになりながら。


「無理です! あんな状況でそこまで見られない!」


 目に涙を溜め、首を横に振るシャノンを見てミレイアは肩を落としていた。ここしばらく、宝玉内に入ってはミレイアの指導を受けるミランダとシャノン。宝玉内にいるというウォルト家の歴代当主たちは、誰一人として顔を出さない。


 そんな中で、ミレイアだけは積極的にミランダとシャノンに関わっていた。


『本当にシャノンは駄目可愛いわね』


 呆れつつも、ミレイアはシャノンの下へ向かうと手を貸して立たせていた。そして、服についた汚れを手で払ってやっていた。放置していれば消えるのだから、ミランダはそれを無駄な行動だと思う。


「シャノン、もう少し協力しなさい。一人で戦うのはきついのよ」


 ミランダが愚痴を言うと、ミレイアは口元に手を当てつつ。


『私一人倒せないようでは、この先が思いやられますよ、ミランダ。ウォルト家の女になるという事をしっかり理解しなさい。歴代の妻たち、そして娘たちの中には私以上の強者が何人もいるんですからね』


 ミランダはそれを聞くと、頭が痛くなる思いだった。自分が弱いとは思っていないが、上には上がいると思い知らされるからだ。そして、ウォルト家という規格外な一族を見せつけられた気分だった。


「今の私では相応しくないと?」


 ミランダの言葉に、ミレイアは面白そうな表情をしていた。


『相応しいのか相応しくないのか……最終的に決めるのはライエルよ、ミランダ』


 ミレイアは二人を近くに来させると、ゆっくりと話を始めた。


『私は貴方たちに期待しているのよ。ライエルを支えてくれると。でもね、同時に貴方たちにも幸せになって欲しいの。私に似たミランダ、そして私の目を受け継いだシャノン。可愛い私の子孫たち』


 ミレイアは二人を抱き寄せると、言うのだった。ミランダは少し照れくさく、シャノンを見ればオズオズとミレイアの服を掴んでから抱きついていた。


 シャノンは母の事をあまり覚えておらず、ミランダも母の面影をミレイアに重ねるのだった。


『……昔。私が幼かった頃ね。私の目は見えなかった。身体的な欠点は貴族にとってとても重いわ。出来損ない、面汚し……兄弟、姉妹もそう言ったわ。家臣の中にも私を毛嫌いする者もいた。私がいるだけで、ウォルト家に不利益が出ると』


 ミレイアはそのまま二人に語るのだった。


『でもね。一番上の兄は優しかった。不器用で、それでいてウォルト家の在り方に反発して、いつも父に反抗していた。私の事もそれが原因かも知れないけど、凄く大切にしてくれたわ。それにね、父も私を他の兄弟や姉妹と同じに扱った。目が見えないという言い訳を許さなかったわ。冷たい人だと言われていたけど、普通に扱われるというのは私にとってとても嬉しかった。不器用な人が多いのよ。弱くて寂しがり屋。そんな人たちばかりがウォルト家を背負って……だから支えて上げて』


 ミレイアは、ミランダとシャノンに笑顔を向けた。そして、笑顔で――。


『それにね。ウォルト家の男は女の手の平の上で上手に転がるわよ』


 ――シャノンが唖然としながら。


「……私、途中までいい話をしていると思ったのに」


 とても残念そうにしていた。やはり、ミレイアはミレイアだ。ミランダもそれを再確認した。


 だが、ミレイアが言う。


『む? その顔は呆れているわね。まったく、これだからお子ちゃまは……いい? 今からとても大事な事を教えます。ウォルト家の男を上手に手の平で転がす極意と言ってもいいわ』


 ミランダは少し反応して顔を上げた。


「極意?」


 シャノンがそんなミランダを見て。


「お姉様……そんなに食いつかなくても」


 ミレイアは二人を再び抱きしめると耳元で囁くのだった――。


『それはね――』






 サウスベイム。


 用意された荷馬車の中、金属の塊であるポーターが異彩を放っていた。


 時間は朝早く、周囲では作業をするヴァルキリーズがテキパキと準備を進めている。出発の準備に取りかかっていた。


 その中で俺は、ノウェムから受け取ったリストを手にしていた。


「ライエル様、準備は全て整いました。レダント要塞方面にはアデーレさんとマクシムさんが先に仕上がったヴァルキリーズを連れてバンセイムに入ります。私たちの方は海路から他国に入り、そのままバンセイム方面へ向かいますね」


 頷く俺は、ポーターを見た。


 荷が積み込まれ、そして準備が整うとモニカが最終チェックをしていた。クラーラも付き添い、同じように荷物のチェックをしている。


 リストを確認しながら。


「アリア、それにクラーラは分かる。モニカもこっちに回して貰うと助かる。だけど、なんでシャノンまで俺のところなんだ? カルタフス経由でバンセイム、そしてファンバイユに向かうんだぞ?」


 四代目のスキル―― スピード ――があるため、俺たちの移動距離はとても長い。そして、割と時間もないので急いでファンバイユの協力を取り付ける必要があった。


 ただ、俺のところの面子は、アリアとクラーラ、それにモニカにシャノンだったのだ。


 アリアは分かる。貴重な戦力だ。


 クラーラはポーターの操作に必要だ。


 モニカは――こちらについていくと言い張り、認める形になった。


 だが、シャノンは留守番でもいいのではないか? と、俺は思っていた。


 ノウェムは木箱の上に座り、足をブラブラさせているシャノンに視線を向けた。忙しそうに動いているヴァルキリーズを見ているのは、シャノンが手伝っても邪魔になるからだ。


「シャノンちゃんが希望したんです。ミランダさんもそれを認めました。こちらは私とミランダさん、それにエヴァさんとメイちゃん、更にマリーナさんも連れていきますからね」


 サウスベイムを空けるのは気が引けたが、既にフィデルさんが入って指揮を執っている。


 ベイムから来たギルドの職員が仕事を始め、冒険者たちも迷宮で魔石や素材を回収してきていた。


 ノウェムは言う。


「……ラウノさんとイニスさんもサウスベイムに移住してくれました。ラウノさんはライエル様と一緒にカルタフスへ向かうそうです。ヴェラさんには説明してありますから、後は乗り込んで貰うだけですよ。久しぶりの船旅ですね」


 久しぶりの、とは言っているが、それはヴェラとの船旅が、という意味だった。俺はノウェムの言葉に視線を逸らした。


「あれは冗談だから。本当に煽るための冗談で……」


 ノウェムはクスクスと笑いながら。


「フィデルさん、実は楽しみにしていたようですよ。後で冗談だと聞かされ、凄く複雑な顔をしたそうです。でも……本当に第一子でしたら、少し困りましたね。男子なら跡取りの可能性も出て来ますし、トレース家の正統な後継者という立場でもあります。トレース家の立場もありますし、出来れば第一子は正妻になる方がいいですね。これからを考えると、候補から除外になるのはエヴァさんやメイちゃん、それにクラーラさんでしょうか? 貴族の血筋が後継者として認められやすいので」


 ノウェムは笑顔だった。口調も優しかった。なのに、ここまで責められている気がするのは、きっと俺の責任だ。


 フィデルさんを煽るために、ヴェラが妊娠したという嘘を演出した。結果、その時に同じ場所にいたアリア――アリアとキスをしてラインを繋ぎ、更にそこからモニカに知られる事になった。


 戻ってみれば、モニカが赤ん坊のためのグッズを用意しており、女性陣に囲まれる俺という構図が出来上がっていた。


 運が悪かった。ガレリア、ルソワース、カルタフスから、グレイシアさんにエリザさん、ルドミラさんまでいて同席していた。


「すみません。もう勘弁してください。あの時の事はもう思い出したくないです」


 俺がノウェムに謝罪すると、ノウェムも。


「申し訳ありません。少し、私も嫉妬してしまいました。ライエル様の問題でもありますし、私はその決定に従います。ただ、私の言葉も一つの意見として聞いて貰えれば」


 思い出したくもない、あの日の出来事を過去へと追いやり、俺はノウェムの謝罪を受け入れつつ準備が進むのを見ていた。


「……ベイムにバンセイムがなだれ込むまでに終わらせたいな」


 バンセイムがベイムに宣戦布告をしてから、ベイムは慌ただしくなっている様子だった。






 ポーターを七代目のスキルであるボックスで収納し、俺はアリア、クラーラ、モニカ、シャノン――そしてラウノさんを連れて、トレース家の船であるヴェラ・トレース号に乗り込むのだった。


 港には見送りのために仲間たちが来ていた。


 ノウェム、ミランダ、エヴァ、メイ。他にはメイと行動を共にする、マリーナさんも見送りに来ていた。


 上着を脱いでシャツ姿のフィデルさんが、船に乗り込んできた。


 甲板の上で、ヴェラがフィデルさんと話をする。


「行ってくるわね、父さん」


「……あぁ、気を付けるんだぞ。お前の事だから心配ないが、今回は疫病神のヒモ野郎が乗り込んでいるからな。貞操の危機の時は、迷わず引き金を引きなさい」


 割と本気で言っているのではないか? そう思えるフィデルさんは、俺に敵意を向けていた。


 ヴェラが呆れつつ言う。


「全く。もう諦めてよ。ライエル以外の男は見つける気もないわ。ライエルがいなくなると……可愛い孫の顔が見られないわよ。ジーナの子供とは面会出来るか分からないんだし」


 フィデルさんが頭を抱えていた。


「くそっ! 孫を冗談とかそれはあんまりにも……どいつもこいつも、私の娘を奪っていく! 娘に手を出した男はみんな嫌いだ! 孫だけ残して消えてしまえばいいんだ!」


 苦悩するフィデルさんを見ていると、三代目が宝玉内で笑っていた。


『フィデル君、今日も絶好調だね』


 七代目も満足そうに。


『なかなかの逸材ですな。煽れば煽るだけ輝いてくれます』


 フィデルさんが船から降りるとき、俺の事を睨み付けてきた。そうして降りて、タラップが外されると、ヴェラが俺の傍に来る。


「ライエル、このままガレリアとルソワースに向かうわ。そのままカルタフスに行くけど、カルタフスからは陸路よね? 必要なものは揃ってるの?」


 心配するヴェラに、俺は言う。


「心配ない。クラーラとモニカが確認してくれた。それに、足りなければ途中で買うよ」


 冒険者ではなくなってしまったが、各地のギルドで魔物の素材は買い取りを行なっている。


 魔物との戦いが避けられないなら、倒して素材を回収――そして売って資金を得る事も可能だった。


 モニカはヴェラに言う。


「このモニカがついているので、心配は無用です。この嘘つき……チキン野郎のヒヨコ様を世話出来ると思ったのに」


 ヴェラも苦笑いをする。モニカは、俺の子供が出来たと聞いて割と喜んでいたようだ。


 アリアが呆れつつ。


「ライエルが童貞なのはあんたも知っていたんでしょ? なら、どうして子供が出来ると勘違いしたのよ。あんた、やっぱり壊れているんじゃないの?」


 アリアの言葉に、モニカはツインテールを振り乱しながら。


「ガレリアとルソワースの戦いでチキン野郎は逃げ出したじゃないですか! 意外とよろしくやっているかも知れないんですよ!」


 アリアの視線が俺に突き刺さる。


「……お前、俺がそんなに器用だと思うのか?」


 すると、アリアが納得して頷いた。


「そうよね。流石にライエルだし、それはないか。だって童貞だし」


 アリアに笑われ、俺が納得出来ないでいるとクラーラがボソリと。


「アリアさんも処女ですけどね」


 その場が微妙な空気になると、クラーラは一人で荷物から本を取り出して読み始めてしまうのだった。


 シャノンは船が動き出すのを見ながら。


「……この面子も結構不安よね」


 などと言うのだった。


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