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セブンス  作者: 三嶋 与夢
そろそろ駄目な奴が出て来てもおかしくないぞ十三代目
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可愛げのない冒険者

 ラウノさんから情報を貰って数日後。


 屋敷にタニヤさんが訪れていた。俺が相手をする事にしたが、屋敷にはダミアンのオートマトンしかいないので今回はその二号にお茶を用意して貰っている。


 だが、微妙な俺の好みには興味もないのか、モニカとは違うお茶を出してきた。たぶん、ダミアンの好みだと思う。


 タニヤさんが、ソファーに姿勢正しく座っていた。だが、お茶に手を付けていない。今までよりも淡々とした口調だった。


 スキルを使用する。六代目の―― サーチ ――は、タニヤさんの反応を黄色や赤で示していた。


 迷いがあるのかも知れない。そうなると、詳しい事情を知っているという事になる。タニヤさんはギルド側の人間だ。やはりギルドを優先するだろう。


「ライエル君、緊急の依頼が発生しました。噂で聞いているかも知れませんが――」


「カルタフスですか?」


「……知っていたなら早いですね。そのカルタフスですが、最近になって不穏な動きがあります。カルタフスの関係者からも依頼がベイムに届いており、緊急を要する依頼だと判断しました。そこで、ライエル君にギルドは今回の件を依頼します。報酬は成功すれば金貨で五万枚を約束しますよ。依頼内容は囚われている女王の救出です」


 前金だけでも金貨で数千枚を用意されていた。


 成功報酬など支払うつもりもないので、随分と条件のいい依頼に見せたいようだ。


 宝玉内からは五代目の声がする。


『金貨数千枚なら痛くもない、か。冒険者ギルドもやるじゃないか。支度金としても悪くない金額ではあるな』


 俺は書類を見ながら。


「支度金も随分と贅沢ですね。ただ、うちのパーティーは全員が女性なんですが? これ、依頼内容的にアウトじゃないですか」


 ラルクのスキルが異性に対して強力なスキルである、という報告は上がっているようだ。そして、俺と仲間を分断する計画でもあるらしい。


 七代目がそれを見ながら。


『分断すればなんとかなると思ったか。しかし、今回はギルドも切り札を出すはず……舐めてかかれば危険ですな』


 三代目が七代目の意見に対して、笑っていた。


『だからいいんじゃないかな? ラルク、だっけ? この子も可哀想だよね。自分が僕たちやベイムから利用されているとは気付いていないだろうし。おっと、ライエル……計画通りだ』


 タニヤさんは、俺が断る理由も考えていたようだ。


「単独でも十分に達成可能だと判断していますよ。それと、女性ばかりというのは嘘ですよね? マクシム、ダミアン……二人とも冒険者登録は済ませています」


 徹底的に叩くつもりなのか、マクシムさんの名前まで出してきた。俺は書類を見ながら。


「……迷宮討伐の依頼もあります。そちらを片付けてからでも?」


 困ったように、タニヤさんが言う。


「緊急ですので、出来れば早い内に。それと、どうしても無理ならギルドから応援を派遣しますよ」


 それを聞いて、俺は笑顔になった。考えられるケースだったのだ。そして、送り込まれる冒険者たちは、俺たちを襲撃する気だろう。


「助かりますね。俺の方に応援を?」


「流石にそこまでは……ですが、向こうにもベイムから冒険者を派遣しています。向こうで協力を得られるように手配は出来ますよ」


 言われた俺は首を傾げつつ。


「そうなんですか? おかしいな。有名どころのパーティーは他の依頼をしているはずですよね。東支部以外から派遣したんですか?」


 派遣型の東支部以外のギルドで、ベイムから出る冒険者は南支部の傭兵団くらいだ。タニヤさんの表情は相変わらず作ったような表情だった。


「それだけ急いでいますからね。では、迷宮の方へは応援を送ることにしますね」


 俺は頷くと書類にサインをしようとして、手を止めた。


「そうだ。色々と雑用もあるので、東支部の知り合いに仕事を頼んでもいいですか? ……雑用とか頼みたいんですけど」


 タニヤさんはそれを聞いて、少し考えたが笑顔で頷いた。


「どうぞ。ただし、あまり有能な方たちは困りますよ。雑用を依頼されて引き受けるとも思えませんし」


 俺は書類にサインをしながら。


「えぇ、大丈夫ですよ。引き受けてくれそうな連中に心当たりがあります」


 俺は俯きながら、思うのだった。


(タニヤさん、甘いですよ。雑用程度を引き受ける冒険者なら、切り捨ててもいいと思いました?)






 タニヤさんが帰ると、俺は屋敷にいたダミアンとマクシムさんを部屋に呼んで話をした。


 カルタフスの依頼の件だ。そして、現状がかなりまずい事も告げる。


 ダミアンは眼鏡を外し、レンズを拭きながら。


「ふ~ん、それで? ライエルは何か考えがあるんでしょ?」


 マクシムさんの方は緊張している。ダミアンとは正反対だ。


「まずいですね。ベイムの支援が受けられなくなるのは、どう考えても今後の方針に影響が出ますよ」


 俺がこのままベイム――トレース家から支援を受けると、マクシムさんは考えていたようだ。そして、そのつもりでアデーレさんも動いているらしい。


 俺は謝罪をしつつ。


「あぁ、先に謝っておきますね。ここも引き払います。多分というか、近い内にトレース家でも動きがありますし、迷宮討伐を進めている場所に基礎工事を始めたのでそこを今後の拠点にしますよ」


 ダミアンが嫌そうに。


「え~、ここの地下室は気に入っていたんだけど」


「向こうで好みの建物でも作ってくれ。というか、本格的に動こうと思うんだよね」


 俺は二人に計画を打ち明けるのだった。


 それはカルタフスで予想される冒険者の襲撃と、女王の救出によって恩を売って北の大国にバンセイムを睨んで貰う計画だった。


 それを聞いたマクシムさんは。


「……上手く行けば確かにいい話です。ただ、リスクも大きい。それに、お嬢様を危険に晒すのに、俺がおそばにいないのは」


 やはり、アデーレさんの傍から離れるのが嫌なのだろう。ダミアンの方は、面倒そうだった。


「オートマトン三体ね。確かにゴーレムも用意は出来るけど、戦力的にどうなの? 勝てるの? 迷宮で腕を磨いた冒険者とか、ハッキリ言って化け物だよ」


 俺はダミアンとマクシムさんに自信を持ちつつ宣言した。


「勝つ。ここで負ければ、どのみちセレスという怪物には勝てない。それと、だ。ベイムでトレース家を追い出す動きがある。正確には今の当主であるフィデルさんだけどね。他のいくつかの商家も追い出される、って話だよ。だから、そのまま開発中の土地へ移住させたい。ダミアン、ラタータ爺さんを説得出来ないか?」


 ダミアンは眼鏡をかけると、自分のメイドであるオートマトンの一号からカップを受け取り、お茶を飲むのだった。


「可能だと思うよ。良くも悪くも職人だからね。場所と仕事さえあれば可能じゃない? ベイムの賑わいも嫌いじゃないみたいだけど、元は田舎から出て来てそれが懐かしいとも言っていたし。それに、ヴァルキリーズの改良とか楽しそうだし、仕事を投げ出したくない感じだね」


 ラタータ爺さんを引き抜けるようだ。そうなると、他の関係のある職人や商人に声をかけ、ベイムの南へ招待出来るかも知れない。


 ミレイアさんが、楽しそうに。


『ライエル、エヴァちゃんに噂を流して貰いましょう。南の地に幸運ありとか!』


 この人も楽しそうだ。


 すると、ダミアンが俺の方を見て。


「……利用価値がなくなる商人たちを引き取るのかい? ライエルなら、上手くやればベイムに残った商人たちと上手くやれそうだけどね」


 俺は首を横に振る。


「悪いけど、これでも義理堅いんだ。助けて貰っておいて裏切れないよ」


 すると、マクシムさんが疑わしい視線を俺に向けてきた。


「……俺の知っている義理堅いと違う」


 ……失礼な。俺を支援した商人たちは、ベイム崩壊から助け出すのだ。十分に義理堅いではないか。






 ギルド東支部を訪れた俺は、三階の個室でマリアーヌさんを指名した。


 普段は誰が受け付けでも問題ないが、今回だけはマリアーヌさんを指名する必要があったのだ。


 ギルドにそれなりに在籍しており、知り合いである冒険者を見捨てられない職員がどうしても必要だった。


 いや、絶対に必要とは言えないが、それでも利用するつもりで指名した。


 マリアーヌさんは、俺が個室で待っていると笑顔で書類などを持って部屋に入ってきた。そして、俺の顔を見るなり。


「指名するなんて珍しいわね。勘違いしそうになるから、出来れば理由を聞かせて欲しいかも……」


 冗談を言うマリアーヌさんが、俺の表情を見ると真剣な表情になった。


「冗談を言う雰囲気ではありませんね」


 そう言って机に書類を置くと、マリアーヌさんは飲み物を用意して椅子に座る。俺は飲み物に口をつけると、マリアーヌさんにお願いをするのだった。


「カルタフスに行く事になりました。船の方はトレース家の船を使用します。ついでに、雑用を依頼出来る冒険者パーティーも雇ったんですよ」


 マリアーヌさんは表情を崩さなかった。


「そうですか。大変だと思いますが、ライエルさんならきっと依頼を達成してくれると――」


 そこで俺は笑みをつくる。とても良い笑顔を作りつつ、俺は自分が嫌になった。こういう事ばかり上手くなっていく。


「それでカルタフスに向かった冒険者の資料が欲しいんです。ギルドが保管している詳しい資料……ありますよね?」


 マリアーヌさんの垂れ目が細くなり、俺を睨み付けるように。


「情報の漏洩は禁じられています。そんな事を言われて対応なんか――」


「俺の情報は渡したのに? マリアーヌさんくらいの職員なら、俺がどういう状況なのかを知っているんじゃないですか? 新人育成なんかもやってきたらしいですが、割とギルドの仕事にも詳しいですよね?」


 マリアーヌさんは、椅子から立ち上がって部屋を出ようとした。


「……他の職員を呼びます。それから、私が言えることは何もありません」


 俺は笑顔のまま、依頼した冒険者パーティーの事を伝えるのだった。


「今回、俺はエアハルトのパーティーに助けを求めました。快く引き受けてくれましたよ。大きな依頼ですからね。それはそうと、マリアーヌさんはエアハルトたちのために怒ったそうじゃないですか。死んでもおかしくない依頼を受けさせないで、受付で問題まで起こして……俺、優しい人は好きですよ」


 マリアーヌさんが振り返ると、俺の方を酷く睨み付けてきた。そして、しばらくして俯くと、それが全ての答えだった。


 知っていたのだろう。俺の現状と、ベイムの対応を。


「全て知っている訳ですか。それでカルタフスに行く事を選ぶんですから、随分と強気なんですね。私としては、そのまま逃げてくれれば助かるんですが」


 俺は肩をすくめつつ。


「ベイムにも大事なものが残っているんです。俺は大事なものを守るためなら、ある程度の行動は許されると思っていましてね。さて、マリアーヌさんには大きな利益もない事ですが、俺のお願いを聞いて貰えますか?」


 マリアーヌさんは戻ってくると、椅子に座って俺に視線を向けてきた。今までの雰囲気ではなく、それはある種の凄みを持っていた。


 彼女なりに色々と経験を積んできて、こういった雰囲気を出しているのだと思う。


「……冒険者の情報でしたね。確かに、私にとってはメリットの少ない話です。何しろ、デメリットしかありませんからね。ただ、カルタフスに向かった冒険者の情報は用意しましょう。残るお仲間を襲撃する冒険者の情報も。代わりに」


 代わりにマリアーヌさんが望んだのは――。


「エアハルト君たちの命の保証。いえ、無傷でベイムに連れ戻しなさい。カルタフスに入れば、ライエルさんたちの仲間全員がターゲットになっているはずです。雑用だからと見逃されませんから」


 俺は頷くといつまでに情報が集まるのかを、マリアーヌさんに確認するのだった。割と早い内に集まるようで、俺は感心する。職員としての能力もきっと高いのだろう。


 そうして情報の受け取りの手段も整えると、俺はマリアーヌさんに聞くことにした。


「随分とエアハルトたちに肩入れしますね。恋愛感情ですか?」


 すると、マリアーヌさんは俺を馬鹿にしたように笑うのだった。そして、俺を見ながら悲しそうに。


「半分正解ですよ。ただ、エアハルト君たちは……可愛い弟分という感じかしらね。少し世間知らずで、でも真面目で頑張り屋で……そういう子は職員としても見ていて嬉しいのよ。コツコツ頑張って成長して、そしてそれを喜んで報告してくる。……誰かさんみたいに、なんでも完璧にこなす可愛げのない坊やよりも、私はそういう可愛い子を応援したくなるのよね」


 別にマリアーヌさんがギルドに報告しても問題なかった。既に屋敷の方は引き払いつつあり、準備も進めているからだ。


 だが、それを聞いて確かに俺は、エアハルトたちよりも職員からすれば面白味もないのだろうと納得する。


「逆にその程度で俺に手を貸すんですか?」


 マリアーヌさんは、俯いてポツポツと声を出す。


「……前に好きだった冒険者と似ているのよ。私も新人で、割と人気があったからその頃は調子に乗っていたわね。それで、真面目で田舎から出て来た冒険者が、私のために無理をしたのよ」


 その話を聞いて、大体を察した。思った通り、マリアーヌさんはその後の展開を口にする。


「おかげで死んだわ。私に財産まで残しちゃって……本当に馬鹿な人だった。それから、新人育成の受付嬢よ。本当は新人担当の方が良かったんだけどね。やり甲斐もあったから」


 俺は一通りの話を聞いて、それから立ち上がった。


「……エアハルトたちは必ずベイムに戻しますよ。約束します」


 すると、マリアーヌさんは俺を睨み付けつつ。


「戻さなかったら一生恨むわよ。ここまでさせておいて、一人でも欠けるようなら……ギルドの職員を敵に回すとどうなるか教えてあげる」


 その凄みは本当に怖かったが、内心を悟られないように俺は笑うのだった。そして、部屋を出て胸をなで下ろした。






 ――東支部。


 一階の受付では、リューエがエアハルトの書類を受け取っていた。


 そして、エアハルトはリューエに言う。


「悪い、次の仕事だけど、今回はパスだ」


 それを聞いたリューエは、珍しいと思いながらエアハルトに確認するのだった。


「どうしたんですか? 普段は次の依頼を確認して予定を組むのに? 誰か体調を崩されました?」


 エアハルト、違うと言いながら首を横に振るのだった。以前よりも冒険者として落ち着いており、マリアーヌの教えを守って依頼をこなしている。


 装備も揃い始め、外で仲間と共に魔物を倒して末端の冒険者の暮らしよりはマシになってきていた。


「知り合いの頼みでカルタフスまで手伝いをするんだ。ま、雑用だけど実入りもいいし、長期の依頼になるから他の依頼は当分無理なんだよ」


 リューエはそれを聞いて、エアハルトを見ながら。


「知り合いとは言え、名指しとなると信用がある証拠ですよ。エアハルトさんたちも、立派な冒険者ですね。……そうだ! お土産を期待していますからね。どんな冒険をしてきたか教えてくださいよ」


 すると、エアハルトは溜息を吐きつつ。


「まだお菓子とかの方が可愛げがあるぜ。誰にでも同じ事を言っていると、後で苦労するからな。ま、割と顔を合わせる機会も多いから、土産の一つくらい買ってくるさ」


 リューエは、少し視線を逸らし小声で。


「……他の人には言いませんよ」


 エアハルトは椅子から立ち上がりつつ。


「なんだって?」


「なんでもありません。期待していますよ、エアハルトさん」


 リューエの笑顔を見て、エアハルトは苦笑いをするのだった。マリアーヌに騙されたと思っているのか、やはり女性職員には未だにトラウマがある様子だった――。


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