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セブンス  作者: 三嶋 与夢
そろそろ駄目な奴が出て来てもおかしくないぞ十三代目
222/345

動き出すベイム

 ベイム。


 いつも通り屋敷からの道を歩き、通い慣れたギルドへと向かっていた。まだ暑い季節で、ベイムの女性たちは普段よりも薄着で過激な服装をしている。


 ギルドへ向かうだけでも汗をかき、こんな日に武具を着込んで仕事に向かう同業者を見ると本当に大変だと思った。人ごとではないのだが、今日の俺はラフな恰好で腰には数打ち品のサーベルを下げているだけだ。


 隣を歩いているノウェムも、普段より薄着をしている。


「まだ暑いですね。以前よりも寝苦しい日も続いていますし、ライエル様も健康管理には気を付けてください」


 俺の方は大丈夫だ。魔法で作り出した氷の柱を部屋に置いて少しは涼しくしていた。


「俺の方は大丈夫だ。それより、ノウェムの方は大丈夫だったのか?」


 昨日の昼にはベイムに戻ってきたのだが、その前日にノウェムたちも依頼を達成して戻ってきていたようだ。


 俺が戻ってきたことで、ギルドへの報告をまとめて行なう事になり、こうして一緒にギルドへと向かっているのである。


「こちらは魔法が得意な者が揃っていますからね。ただ、まだ暑いので、冷やすことができる魔具なども売られていますし、買っておくのも悪くないかも知れません」


 便利な魔具も存在する。魔力を流し込み、部屋の温度を下げてくれるのだ。


 そういった便利な魔具は、一般的な魔具である武具とは違って安い。安いのだが、それは魔具として安いと言うだけだ。


「お金が……いや、あった方が便利なのは分かるんだけど」


 魔法でなんとか出来るなら、魔具を持つ必要もない。今は金銭的な余裕というものがなく、このままではまたヴェラに頼ってしまいそうになる。


 二人で話をしながらギルドへと到着すると、そこではある噂話が有名になりつつあった。






 東支部、個室。


 マリアーヌさんが担当である個室に入った俺とノウェムは、噂について聞くことが出来た。


「カルタフスで女王を救えば王になれる? なんです、それ?」


 聞いた俺も理解出来ないが、宝玉内の三代目も嫌そうに。


『そこはお姫様じゃないの? 女王だとなんか盛り上がりに欠けるよね』


 七代目も同じ意見のようだ。


『そうですね。どうもそれなりの年増な女性を思い浮かべてしまいます。罰ゲームかなにかですかね』


 カルタフスの女王は、確か代理だったはずだ。年齢的にはそこまで年増でもないはずで、近年まで姫騎士として名を広めていた人物である。


 ミレイアさんが、少し怒りながら。


『女性の年齢を気にするのは失礼ですよ。まったく、これだから殿方は』


 七代目が、ミレイアさんの口調を真似つつ。


『男性の気持ちを察しないのもどうかと思いますよ。まったく、これだから叔母上は』


 次の瞬間、いつも通り火薬の弾ける音が聞こえて宝玉内が静かになった。俺が思うに、七代目とミレイアさんは生前に何かしらの付き合いがあったのかも知れない。


 時期的なものを考えれば、屋敷で一緒に過ごしていた時期もあるだろう。


 マリアーヌさんも苦笑いをしていた。


「噂です。ただ、カルタフスの噂がベイムまで聞こえてきて、それを本格的に調べている人もいるそうです。確認出来たのは、女王は体調不良でしばらく表に出ていないこと。それと、少し評判の悪い冒険者が城で地位を得た噂もありますし。名前はラルク・メイヤードさんだったと思いますけど」


 その名前を聞いて、俺は目を細めた。マリアーヌさんは、書類の処理をしながら俺の方を一瞥して、また書類に視線を戻す。


「お知り合いですか?」


「カルタフスで少し。話したことはありませんけど、割と面倒なスキルを持っていました。女性に効果のあるスキルだったと思うんですけどね」


 それを聞いて、マリアーヌさんも気が付いたようだ。書類の処理を終えて、ノウェムたちが処理した依頼の報酬を受け取った。


 マリアーヌさんは言う。


「一応、報告はしておきますね。ただ、どうにも気になる事もあって」


「気になる事?」


 俺が困っているマリアーヌさんを見ながら、報酬の金額を確認していると説明してくれた。ハッキリとは分からないらしいのだが。


「こういう話は、早い段階で現地のギルドが動くはずなんです。カルタフスは規律に五月蝿いので、動くと思ったんですけど。それと、本部の方が慌ただしい気がします。カルタフスの件と関わりがあるとは思えないんですが、船を手配していまして」


 商人たちの船に便乗させるのではなく、冒険者たちに特別に船を用意して送り届けているというのだ。


 カルタフスの話が本当で、ギルド本部が本格的に動いているならすぐにこの件も終わる事だろう。


 五代目が言う。


『ギルドが本格的に動いているなら問題ないな。腕の立つ連中だっているだろうから、ラルクの問題もすぐに片付く。さて、俺たちは俺たちの仕事をするぞ、ライエル』


 言われて宝玉を握ると、その様子をノウェムが見ていた。俺がこうして宝玉に返事をしているのを見て、なにを話しているのか気になっている様子だ。


 というか、とてもワクワクしている。ノウェム自身、歴代当主に憧れを持っているようなのだ。だが、歴代当主たちは「会おう」とは言わないのだった。






 ――カルタフスの港。


 そこにはベイムから腕のある冒険者たちが集められていた。


 凄腕、と呼ばれている彼らだが、普段は傭兵団でもなければ魔物退治や依頼で派遣される冒険者でもない。


 ベイムにある迷宮に潜り、そこで稼いでいる迷宮専門の冒険者たちだった。


 その中の一人が、リーダー格の冒険者にたずねるのだった。


「随分と小僧一人のために大げさですよね」


 メインの戦闘を行なうメンバーに加え、予備のメンバーもいた。だが、全員が男で編成されている。


 ラルクを警戒しての事だが、それにしては男たちの物言いには不自然なところが多い。リーダー格の男は首を回しながら。


「船の移動なんか久しぶりだ。しかし、確かに警戒しすぎだな。俺たちを出すまではないと思うが……ベイムでは動きにくかった、というところか」


 元から男性だけの冒険者たちで、女っ気などないパーティーだ。だが、それでも女性が参加する場合もある。しかし、今回はそんな事を一切しない。する必要がなかった。


 ラルクがいるために、それが出来なかった――というだけではない。


「あいつも異性に対して高い魅了を発揮するスキルを持っている可能性がある、か……厄介な奴が多いな。さて、俺たちは仮の依頼人に接触するぞ」


 港にある木箱から腰を上げて、冒険者のリーダー格の男が立つと全員がリーダーに従い移動を開始するのだった――。






 ――ベイム東支部。


 マリーナは、タニヤ――ターニャの依頼を個室で聞きながら、ニヤニヤとしていた。


 それは危険度の高い任務であり、更に言えば外に情報が出回ると困る類いのものだったのだ。


 しかし、マリーナにしてみれば魅力的な依頼であり、それを断る理由などなかった。


 ターニャの能面のような表情を見ながら、マリーナは依頼書にサインをする。


「……随分とギルドも悪い事をするじゃないか。まさか、自分のところに所属する冒険者を、私に狩らせようって言うんだからね」


 ターニャはなにも言わなかった。いや、言い返すことが出来ないのだろう。


 そうして依頼書を燃やすと、前金としてマリーナに高額な報酬を支払うのだった。金貨だけで五百枚はある。それを受け取り、マリーナは金貨を自分のバッグに詰め込んだ。


「さて、私の方はあのお嬢ちゃんを相手にする。前から気になっていたんだよね。獣の臭いがしてさ……坊やも気になるが、お嬢ちゃんはもっと私の相手に相応しいんだ」


 ターニャは呆れるようにマリーナに言うのだった。


「……ライエルく……ライエルパーティーの襲撃を行なって貰えれば構いません。他の冒険者たちにも依頼が出されているはずです。マリーナさん、急がなければ獲物は他の冒険者に捕られてしまいますよ」


「それは困る。だが、戦力の分散を待て、っていうのが気に入らないね。大勢で囲んで叩くのが一番じゃないのかい?」


 ターニャは、マリーナが独断で動くのを防ぎたかった様子だ。そのために、説明する事にしたのだろう。


「ライエルをベイムで討ち取るわけにはいきません。こちらとしては、なんとしてもカルタフスへ誘導します。その後、残ると思われるメンバーへ襲撃して貰えれば構いません」


 マリーナはそれを聞いて少し不満そうに言うのだ。


「カルタフスの噂はギルド関係か。坊やとも戦ってみたかったんだが、残念で仕方がないね」


 ターニャは俯いていた。仕事なのでこうした依頼を出しているのだろうが、本人としてはやりたくないのかも知れない。表情に変化はないが、マリーナは自分の中の野生がそう囁くのだった。


 バッグを背負ったマリーナは言う。


「……私の獲物に触らない限り、ギルドの思うとおりに動いてやるさ。ま、しばらくは依頼も受けないでベイムでノンビリさせて貰うよ」


 そう言って部屋を出るマリーナは、舌なめずりをして自分の標的であるメイを思い浮かべるのだった。


(以前は迷宮内で会った事があった。だけど、今度は……あぁ、ゾクゾクするよ)


 強敵を前に、マリーナは興奮している様子だった――。






 ――ベイムの隣国となってしまったバンセイム。


 ベイムに一番近い都市にいるブロアは、ベイムからの書類を読んでいた。


「……本気みたいだね」


 目の前にいるのはベイムからの使者であり、商人の代表の一人である男だった。


「もちろんです。それに、手土産も十分に用意しております。きっと、セレス様にお気に召して頂けると」


 ベイムの商人たちが本気になって集めた財宝、そして珍しい品の一部を見たブロアは、それが自分に対しての賄賂だと気が付いていた。


 受け取るのは悪いが、今は少しでも金が欲しかったので受け取っておく。


「私からの忠告をさせて貰えれば、あまり興味を持たれない方がいい。セレス様は気まぐれだからね」


 残忍だ、とは言わない。目の前の商人が、自分がそう言っていたと告げ口をするのを恐れて、というのもあった。だが、ブロアは理解していたのだ。


(セレスに会わなければ、あの不気味さは理解出来ないか。きっと、ベイムの商人たちはちょっと残忍な小娘程度に思っているんだろうな)


 自分たちなら、セレスを利用して儲けることが出来ると本気で考えていそうだった。


「はい。その辺も抜かりなく調べております。それで、通行の方は?」


 ブロアは書類を用意すると、商人に手渡すのだった。


「私の管理下にある土地までは護衛しよう。そこからは領主にこの書類を見せて通行してくれ。セレス様への献上品と聞けば、護衛を申し出る領主や貴族もいるかも知れない。ま、旅の安全は保障しよう」


 整備されている街道を利用するなら、とブロアは付け加えるのだった。


 商人は頭を下げ、そして部屋を出て行く。その姿を見て、ブロアは商人が戻ってくるときはどんな顔をしているか、あるいは戻ってこられるのか、を考えるのだった――。






 ラウノさんの事務所。


 そこにノウェムと共に顔を出した俺は、ラウノさんの情報を聞いて眉をひそめた。


「……ギルドが俺を?」


 ラウノさんは、神妙な表情をしていた。


「そうだ。お前さん、ギルドにやりすぎたと思われた。というだけじゃない。ギルド本部は、お前さんと妹であるセレスを天秤にかけた。確かにお前さんはベイムに利益をもたらしたが、大国の次期王妃――比べるまでもなく、ベイムは次期王妃様を選んだというわけだ」


 俺ではなくセレスを選んだ。それを聞いても間違いだとは思わない。冒険者一人と、大国バンセイムの王妃を比べるなら、だ。


 ただ、急すぎる。それに、知らないフリも出来たはずだ。


「俺だけを潰すためですか。ギルド本部も随分と暇ですね。いや、ギルド全体が、ですかね」


 ノウェムも今回の一件には我慢出来ないのか、ラウノさんを責めるように。


「ライエル様を切り捨てるというのは、いったい誰の判断なのですか? セレス様を甘く見ているようでは、ベイムも――」


「――ノウェム」


 ノウェムを止めると、俺はラウノさんに続きを聞くのだった。


「……情報屋はお前の情報を売り出している。俺がこの情報を売っているのも危ない橋だと分かって欲しいね。ギルドはお前さんにカルタフスの女王救出を依頼するつもりだ。ただ、これは偽の依頼だ。先に向かった冒険者たちは、迷宮で地下七十階層を突破した凄腕の集まりだ。そこでお前さんを待ち構えている。ついでに、ここに残る仲間にも襲撃をかけるつもりらしい」


 俺はラウノさんを見ながら。


「……トレース家の名は効果がない、という事ですか?」


 ラウノさんは頷いて。


「こいつはお前だけの問題じゃない。トレース家をはじめとした派閥を、なんとか他の商人たちはベイムから追い出したいのさ。だが、トレース家に実力行使はしないだろうな。だから、お前さんたちを実力を持って叩きつぶす。見せしめ、という意味合いもあるはずだ。いくつかの理由があって、ベイムはお前さんを切り捨てる事にしたわけだ。トレース家ごとな」


 俺はベイムに切り捨てられたようだ。だが、これまでの行動を考えれば、切り捨てられても仕方がない。むしろ――。


 三代目がきっと薄暗い笑みを浮かべていることだろう。


『……違うね。切り捨てられたのはライエルじゃない。ベイムという都だよ。いいじゃないか。想定していたシナリオの中で、もっとも望んだ結末だよ。用意された罠ごと、食いちぎってあげよう』


 五代目も本気のようだ。


『カルタフスの噂も確かめないとな。女王の救出が本当に出来るなら、これは大きな恩になる。バンセイムの北側を押さえられる手段が手に入るな』


 七代目も。


『ライエルがついに冒険者を辞めるときが来た! これはなんという嬉しい知らせだ。ありがとう……ベイムの諸君。わしらは、君たちの犠牲を決して忘れることはない』


 ミレイアさんが最後を締めくくる。


『だから……私たちのライエルのため、ベイムには滅んで貰いましょうか』


 全員が声を揃える。きっと、これは血なのだろう。


『楽しくなって参りましたぁぁぁ!!』


 俺も笑みを浮かべると、ラウノさんがゾッとした表情になっていた。ノウェムは、ただ少しだけ嬉しそうにしている。


「楽しくなってきましたね、ラウノさん」


「え、あ? そ、そうか?」


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