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セブンス  作者: 三嶋 与夢
そろそろ駄目な奴が出て来てもおかしくないぞ十三代目
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カルタフス

 ――カルタフスの城にある地下牢。


 その中でも拷問を行なう部屋に、卑猥な姿で拘束されたカルタフス女王であるルドミラは、黒の体に張り付くような拘束具をきせられ猿ぐつわを噛まされていた。


 周囲ではそんなルドミラの世話をするため、女中が二人待機している。部屋には拷問器具が置かれてはいるが、ルドミラ自体に傷はない。


 ただ、恐怖を煽り、プライドをズタズタにするため、こうして地下牢に閉じ込められていた。


 そんな部屋に足音が近付くと、ルドミラはまぶたを開けてドアを睨み付ける。赤紫色の長い髪が肌に張り付き、地下牢の中は蝋燭の光で薄暗くゆらゆらと光が揺らめいていた。


 ルドミラを拘束した張本人である人物。


 ラルク・メイヤードが、自分の仲間――部下を連れて地下牢へとやってきたのだ。


 ルドミラはラルクの顔を確認すると、猿ぐつわを強く噛んだ。


 灰色の髪を後ろにながし、普段はウルフカットのラルクが今日は冒険者の姿とは違い、貴族風の恰好をしてオールバックにしていた。


 襟を緩め、胸元を見せているラルクは、ルドミラを見ると下卑た笑みを向けてきた。


「よぅ、ルドミラ様。ご機嫌いかがだ? そんな恰好で拘束されて、恥ずかしい姿を晒してよ。俺の事を甘く見ていたようだが……さて、そろそろ色よい返事、って奴を聞かせて貰えるか」


 自分のスキルが女性限定に効果が高いと知っており、ラルクは周囲を女性で固めていた。


 女中がルドミラの猿ぐつわを外すと、ルドミラは唾を吐いてラルクを睨み付ける。


「随分と調子のいいことを言う。私が病気で動けないことになっているのを、知らないとでも思ったか? 城の連中に取り入って地位を得たようだが、その地位も脆くてしょうがないのだろう?」


 ラルクはルドミラを睨み付ける。スキルを使用し、ルドミラを自分に惚れさせようとしているのか、ルドミラはラルクに視線が強制的に向いた。


 スキルによりラルクに対して自分の理想とする男性……の姿を見たが、それを精神力でねじ伏せて目をそらした。


 ラルクは悔しそうにしていた。


「俺の事を侮って、そんな恰好で拘束された屑が偉そうに!」


 ラルクの言うとおりだ。ルドミラもその件には言い返さない。そして、未だに自分を救出出来ないカルタフスの動きが嫌になっていた。


(まったく、ここまで頑固に規律を重視するか。難儀なものだな)


 ルドミラは、自分の周囲を魅了し、そして地位を得たラルクが今度は自分を魅了してカルタフスの王になる計画を見抜いてはいた。


 だが、同時に、そのためにルドミラ自身を傷つけることが出来ないのも理解していた。自分を殺せないのを理解し、そしてそれを利用する事にしたのだ。


「その拘束された女一人、怖くて手が出せない男が随分と偉そうではないか。どうした、これ以上の辱めはないのか? お前……随分と小さい男だな」


 ルドミラがそう言うと、ラルクの額に青筋が浮んだ。近くにあった鞭を手に取り、そのままルドミラを打つ。


 激しい痛みがルドミラを襲うが、ルドミラは声を発しない。そうしてニヤニヤとラルクを見て笑い、煽っていた。そんなルドミラを見て、ラルクは息を切らすと女中たちに命令するのだった。


「薬で治療しておけ!」


 そう言ってラルクが部下と共に部屋を出て行くと、女中たちは頭を下げて見送った後にドアを閉めて一人が見張りに立つのだった。


 一人はルドミラに近付くと、拘束を解いて怪我の治療に取りかかった。そして、心配そうにルドミラに言うのだ。


「女王陛下、このような事はもう……」


 心配そうに言う女中に、ルドミラは笑いながら言う。


「いいではないか。それに、流石に決まりだからとラルクを城の女中に相手をさせ、隙を見せた部下がいては笑うしかないよ。流石にここまで酷いと、少しは痛い目を見ないと分からないからな」


 背伸びをするルドミラは、拘束されていた椅子に腰を下ろして足を組んだ。


 ラルクに対して対応するように言ったのだが、それでもまさか決まり通りにしか動けないとは思いもしなかった。


 だから、ルドミラはわざと捕まったのだ。二人の女中はルドミラの信用する女中で、ラルクの下で魅了されたフリをして貰っていた。


 ただ、女中は我慢が出来ないようだ。


「ですが、このままでは国が傾きます」


 その言葉にルドミラは言う。


「ラルクの件がなくとも、いずれはこの行きすぎた体質で国は滅ぶさ。決まりを重視して責任から逃げる者が多いからな。今まではそれが強みではあったが、行きすぎればただの欠点だ」


 カルタフスは決まり――ルールを重視過ぎる傾向にある国柄だった。それが時に良い結果を生んできたが、それがここに来て悪い方へ傾きだしていた。決まりを守って行動したので責任はない。


 ルールだから仕方がない。そんな事が目立ってきたのだ。ルールを増やしてもそれを理解出来ている人間がどれだけいるか。


 女王とは言っているが、ルドミラもそのルールで前国王の後を継いだほとんど代理のような女王だった。


 カルタフスは男系であり、いずれは婿がこの国の王となる。そして、ラルクはその王座を狙っているのだ。


「全く。私ではなく、王家の分家から男子を選べばいいのだ。父もそのつもりで色々と動いていたが、決まる前に話が流れたからな」


 国柄なのか、王家の分家もルドミラの女王への即位を反対しなかった。ルドミラの婿になれば、実質次の王なので問題にしなかったのだろう。


 だが、ルドミラからすれば面倒な話である。


「……私の不在を不審がっている者はいるか?」


 女中に確認すると、一人が頷いて報告する。


「ほとんどの者たちは怪しいと気が付いております。ただ、動こうとする者がいるかどうか」


 女中の答えにルドミラは呆れつつも。


「ならば、私をここから救い出した者が次の王だ。そう噂を流せ。それでも動かないなら、もうラルクにでもくれてやれ。情けない」


 女中がそんなルドミラの判断に困惑していると、ルドミラは天井を見上げ。


「ふむ、悪くない。姫ではないが……助けて貰った王子か英雄か。それらに嫁ぐのは王家の女として憧れもあるからな。いっそ、国外からも募ってみるか? 少しは国内の男共にも焦りを感じて貰わんとな」


 そう言ってルドミラが楽しそうにしていると、女中二人は諦めたように従うのだった――。






 右手に持ったカタナに、俺は聖水という液体をかけていた。


 透明な液体だが、淡く光っておりカタナにかかると暗い迷宮内で光を放っているように見えた。


 両手でカタナを握りしめ、聖水の入っていた小瓶を投げるとかごを持ったシャノンがキャッチする。


 荷物持ちとして皆の後ろに控えているシャノンは、次々に仲間の投げる小瓶をキャッチしてはかごにしまい込むのだった。


 砦に発生した迷宮の最奥の間は、地下五階にある大広間だった。広い部屋だが天井はそれ程まで高くはなく、多くの柱が不規則に天井を支えている感じだった。


 目の前のアンデッドは、全身鎧を着た骸骨の騎士だ。大きさは、三メートルはあるだろうか?


 禍々しい鎧と盾、そして剣はなんとも言えないデタラメな造りをしている。剣というか、鉄の塊に見えた。


 ミランダ、アリア、モニカが前衛で、その後ろには俺とヴァルキリー一号、二号、三号が控えており、一番後ろにシャノンがいた。


 槍を持ったアリアが大きく屈むと、そのまま前に向かって跳びだした。


 大剣を片手で持つ骸骨の騎士が剣を横凪に払うと、床をこすったのか火花が散る。


 アリアはそれをジャンプして避けると、相手は盾でアリアを吹き飛ばそうとした。だが、ミランダの短剣が飛んできてそれを盾で払うと動きがおかしくなる。


 ミランダが左手の指先から糸を出しており、それは柱を中継するようにしてボスである骸骨の騎士の盾を引っ張っている。


「アリア!」


 ミランダが叫ぶと、アリアが隙のできた骸骨の騎士の左腕に槍を振り下ろした。電光石火――まさに、複数のスキルを一撃に込めたアリアの攻撃は、そう呼ぶに相応しい。


 魔法が得意ではないアリアが、スキルと武芸を磨いてきた結果――今ではパーティーの重要な前衛になっていた。


 左腕がちぎれ飛んだ骸骨の騎士が、大きな口を開けて咆吼すると耳が痛くなる。


 シャノンなど両手で耳を押さえ。


「こいつどこから声を出しているのよぉ! 骨と鎧だけじゃない!」


 魔物を見ながら理不尽だと叫んでいた。俺もその意見には同意する。そして、大剣をアリアに震おうとする骸骨の騎士へ、モニカが大きなハンマーを横に震う。


 ハンマーの反対側からは、火が噴き出て威力を増しているようだった。


「これぞ浪漫兵器! 浪漫を理解する最強メイドのモニカの一撃……受け止めなさい!」


 大剣と右肩や右脇を持って行かれた骸骨の騎士は、丸腰となると低いうなり声を上げた。そして、崩れた白い骨の一部や鎧が骸骨の騎士に集まっていくが……。


 俺はその様子を見て。


「やはり聖水の効果で再生が遅いな。悪いが、すぐに終わらせて貰うぞ」


 俺が駆け出すと、銃で俺をヴァルキリーたちが援護する。骸骨の騎士は再生が思うように行かない中で、俺を前に兜で頭突きをしてくる。


 俺はそんな骸骨の騎士の兜ごと――。


「――斬る」


 ――縦に一閃。線が入るとそのまま骸骨の騎士が縦にズレて、そのまま崩れて白い粉になっていく。


 アンデッド系に効果のある聖水を刃にかけており、効果があって助かった。そうでなければ、相手が倒れるまで攻撃を続けるか、魔法で吹き飛ばすしか方法がなくなる。


 ただ、今回は砦内の通路、そして狭い部屋が多く、魔法を使用出来る条件が揃わなくて苦労した。


 広い部屋でも、こうして聖水を使った方が効果的だ。


 ボスが魔石を残して消え去るのを見て、アリアが言う。


「素材を気にしないなら、アンデッドも便利なのよね。回収が楽でいいわ」


 魔物を倒した後に、手袋をして魔物を切り開いて回収しなくていいのは確かに助かる。地味に大変な仕事なので、サポートに任せるのが冒険者でも多い。


 俺はカタナの刃を布で拭きながら。


「新人の頃はそれで大変だったよな。俺、失敗してゼルフィーさんに無駄にするな、って怒られたんだよ」


 そういう失敗談をすると、アリアも思い出したように。


「あぁ、私も血を見て最初は触れなかったわ。ゼルフィー、ソレを見て頭を抱えていたけど……今なら少しはその気持ちも分かるわね」


 アリアと少し前の新時代の話をしていると、ミランダが近づいて来た。俺たちが話している間に、最奥の間の財宝を回収したらしい。


「思い出話もいいけど、こっちも確認して貰えるかしら? ライエル、今回の報酬よ。私は悪くないと思うけどね」


 そこには希少金属――魔力を浴びた金属――の、銀があった。それなりの量であり、売れば金貨で百枚から二百枚はするだろう。


 値段の方は交渉次第だが、財宝だけを見れば悪くない迷宮だったのかも知れない。


 ただ、今回は聖水を購入しており、出費の方も多かった。


 少し前ならこれでも十分にパーティーの維持はできた。しかし、今ではこれだけの時間と労力をかけて、この程度の稼ぎでは足りない、というのが今の正直な感想だ。


「悪くはないけど、これだと少しの儲けしかない。流石にこういうのが続くと面倒だな。アレットさんたちは順調に実入りの良い迷宮を紹介して貰っているのに」


 他と比べてもしょうがないが、明らかにギルドの意図を感じる。


 モニカが周囲の状況を確認したのか、俺に報告してきた。


「チキン野郎、撤収の準備は完了しました。すでに魔物は出現していないそうです」


 迷宮内。ヴァルキリーズを配置しており、魔石の回収を行なわせていた。彼女たちの外付けバッテリーというか、エネルギーの元は魔石である。


 それを液体にして使用するのだ。


 迷宮の雰囲気が静かになり、俺は討伐が終わった事を確認すると外へ出る事にした。


 大きなボスである骸骨の騎士の魔石を抱えた一号。ミランダから銀を受け取った二号が荷物を持つ。


 シャノンは荷物の中身を確認すると。


「まだ中身のあるのが結構残っているわよ。これ、結構高価なのよね? しかも使用期限付きだし。ついでに使用期限が短いのに……私のお小遣いより高いとか許せない」


 シャノンは無駄遣いが多い。というか、ほとんどをエルフの歌や語りにつぎ込んでしまう。


 遊びに連れて行けば、大体が歌を聴いて、食事の時も音楽や語りを聴きながら食事を出来る場所を好んでいた。


 ミランダは笑顔でシャノンの頭をがしがしと撫で? た。


「もう少し、計画的に使えるようになったら増やしてあげるわよ。渡したその日に使いきるのを止める事から始めなさい」


 相変わらず駄目なシャノンだが、ミレイアさんとの出会いから少しは成長した……気がする。今回も手伝いとはいえ、ボス討伐に参加しているからだ。


 俺は大広間を後にしながら思う。


(さて、一度はベイムに戻らないと。迷宮の討伐報告は……もう少しだけ様子を見るか)

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