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セブンス  作者: 三嶋 与夢
そろそろ駄目な奴が出て来てもおかしくないぞ十三代目
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ジーナ・トレース

 ――港から屋敷へと戻ってきた姉であるヴェラを、ジーナは待っていた。


 大事な話があると呼び出し、そしてヴェラと二人で話をするために部屋を用意させた。普段は客人などと商談をするためのその部屋を、姉妹で使用するのは滅多にない。


 そうした場所に呼び出したジーナは、赤い髪に触れながら姉であるヴェラを見ながら言うのだ。


 部屋は日が傾き始め、少し薄暗くなっている。


「姉さん、ハッキリ言わせて貰うわ。もう、あの人にお金を貢ぐのを止めて貰えないかしら? 姉さんだけの問題じゃないのよ」


 妹であるジーナの言葉に、ヴェラはカップを口から離して。


「……お父様の命令じゃないわね? 今になってどうしたのよ。それに、私はトレース家の財産にまで手を付けていないわよ」


 ジーナはそんな姉の言い分を切り捨てた。


「姉さんが支援すれば、トレース家が支援しているように見えるわよ! それに、お父様まで大金を動かして……うちの人間でも不安に思っている者もいるわ。船まで増やして、港の開発まで手を出して」


 ヴェラは目を細めた。ジーナにとって姉であるヴェラは、昔から幸運の女神などと呼ばれ、船を動かしトレース家に貢献してきている。だから、仕事の話も父であるフィデルとしているのを知っていた。


 ジーナ自身に知識がない訳ではないが、そうした実戦的という意味で経験は大きくかけているのも知っている。


 しかし、トレース家でもライエルへの支援に疑問を持つ者が多い。


 ヴェラは淡々と。


「港の商業的な利用を独占出来るのよ? しかも二つも。規模を考えればトレース家にとって大きな利益になるのは、ジーナにも分かっているはずだけど?」


 そんなヴェラの物言いに、ジーナは反発したくなるのだ。確かにトレース家は更に大きくなれるだろうが、姉であるヴェラはベイムから離れる事が多く、バランスというものを軽視していた。


 派閥や力関係が崩れるのを、ジーナは激しく警戒していたのだ。


「……大きな利益になるのは分かっているわ。でも、それによってベイムの商人からなんて思われるのかしら?」


 ヴェラは言う。


「その辺はお父様の仕事よ。自分たちだけ美味しい思いをしないように、バランスくらい取れるでしょ。ついでに恩も売れればそれも利益よ」


 恩も利益。そう言い切るヴェラの冷めた部分があるから、ジーナは今まで黙っていたのだ。しかし、今は違う。


「ライエルの事も? ただの損得勘定なのかしら?」


 ジーナがライエルを呼び捨てにすると、ヴェラの視線が険しいものになった。


「……呼び捨ては止めて。私は自分の出来る範囲で支援をしているだけ。お父様も娘に甘いからって、それだけで支援をする人じゃないのは知っているでしょ」


「だから、もうお姉様にもお父様にも止めて欲しいのよ。二人とも目先の欲に囚われすぎているわ。ベイムはそんなに甘くないわよ」


 姉であるヴェラはライエルに夢中であり、父であるフィデルは港の独占権に夢中。


 だから、ベイムがライエルをどうしようとしているのか、正確に見えてこない。ジーナはそう判断していた。


 それはある意味において正しかった。


「私は好きにさせて貰うわよ」


 ヴェラの説得が難しいと思うと、ジーナは率直な感想を伝えるのだった。


「姉さん、あの男はそんなに甘くないわ。姉さんに利用価値がなくなれば平気で捨てるわよ。ザインやレダント砦、それにガレリアとルソワースで何をしてきたか知っているでしょ? あいつは危険よ。姉さんはただの財布扱いなのよ」


 ジーナの忠告を無視して、ヴェラは立ち上がるのだった。


「……それは理解しているわよ。でも、あんたには迷惑をかけてないでしょ。ロランドの事だって悪くいわなかったじゃない。今更……もう、いいわ」


 ヴェラが部屋を出て行くと、ジーナはその後ろ姿を見送るのだった。姉の姿が見えなくなると、カップを口へと運びながら、目を細めて。


「家を追い出された姉さんが、あいつに捨てられたら助けてあげるわ。だって、私たちは姉妹だから……姉さんは、船の上がよく似合うもの。ロランドのために頑張って貰うわよ。元は好きだった男のために頑張れるんだから、それでいいわよね」


 まるで捨てられる事を前提にしているジーナだが、彼女にも動くだけの理由があった。これ以上トレース家が大きくなるようなら、その功績でライエルとヴェラが結婚する可能性が高くなるからだ。


 そうすると、更に大きくなったトレース家を維持するのに、ロランドではまずかった。根が真面目で働き者だが、それだけでは膨れあがったトレース家を仕切ることが出来ない。


 そうなると、家を仕切るのはライエル、そして実質ヴェラという形になってしまうのだ。


 更に言えば、フィデルは家を維持するためにジーナとロランドを引き離し、政略結婚を急ぐだろう。


 ジーナにとって、それは絶対に嫌だったのだ。だから、行動するのだった――。






 ベイムの南方。


 まったく開発されていないその未開の場所で、俺は額の汗を拭っていた。


 季節的にまだ暑いというか、南だからかベイムよりも暑い気がした。


 ノウェムとクラーラ、エヴァとメイは、ギルドからの依頼をこなすために別で動いている。魔物の討伐と村の復興という事で、そちらに向かって貰っていた。


 俺の方は、発見された迷宮の討伐に来ていた。


 入口は古い砦の門の中にあり、迷宮はまるでその砦の通路が続いている場所だった。


 松明が用意されているが、不気味な紫色の炎が通路を照らしていた。何もないよりはマシなのでありがたい。


 こうした人工の建物にも、時折迷宮は出現する。多くの場合はアンデッドが徘徊する迷宮となり、すぐに討伐される運命だ。


 アンデッドは多くが倒せば消えてしまい、残るのは魔石だけだ。素材がないのに、倒すとなると厄介で非常に面倒な魔物なのだ。


 戦場で滅ぼされ、その怨念が迷宮を生み出しているという噂まである。


 そんな場所に派遣された俺たちだが、そういった事情であまり金にならないと判断された迷宮を押しつけられていた。


 砦の入口は迷宮化をしているが、その周囲はボロボロだ。周囲には木々も広がり、土地も酷い状態だった。


 俺はミランダとその迷宮を見ながら。


「どうするのよ。私たちだけで挑むのも可能だけど、見返りが少ないわよ。しかも、この辺の調査にギルドの職員が来ないし。……ねぇ、私たちの扱い、悪くない?」


 ミランダが腹を立てている理由も当然であり、ほとんど支援がない状態で俺たちは迷宮討伐をするように言われたのだ。


 東支部、というよりも本部の方がそういう動きをしていた。


 宝玉内からは、五代目が今の状況を見ながら。


『……そうなると、そろそろか? 思ったよりも早かったな。まぁ、逆に取り込みにかかるより良いけどな』


 こうなることを予想していた歴代当主たちは、焦った様子がなかった。三代目などのんきに。


『それよりさ、ここを任されたなら時間を稼ぎつつ様子を探らない? 動くならライエルがベイムに戻ってからだろうし』


 この状況を利用しつつ、ベイムの動きを探ろうとしていた。相変わらず頼りになるが、敵に回したくない連中だ。ベイムが憐れに思えてきた。


 俺はミランダに対して。


「……依頼は依頼だ。仕事はしっかりするさ。時間をかけて、な。ノウェムたちが戻る前に、基礎をしっかり作っておくか」


 呆れるミランダは俺を見ながら額に手を当てていた。


「時間をかけて、って言っても面倒なだけでそこまで階層はないわよ? 宝箱は少し多い程度で、魔物はアンデッド系ばかりなんだからすぐに終わらせて――」


 ミランダが俺に意見をしてくると、そこにモニカが俺のところに急いでやってきた。慌てているというか、何かと競っている様子だ。


 俺の前に滑り込むように来ると、ポーズを決めて報告してきた。


「チキン野郎! このモニカ、近くに迷宮を発見しました! 褒めてください。このモニカを! さぁ、さあ!!」


 すると、モニカに拳が三つも飛んできた。殴られたモニカが俺の前から吹き飛ぶと、ワイヤーに繋がった腕が持ち主のところへと戻っていく。


 そこには、ヴァルキリー一号、二号、三号が武器を持ってモニカに構えていた。


「見つけたのは私たちです!」

「この泥棒猫!」

「鉄拳制裁を受けなさい!」


 無表情でポーズを決める三体から、視線をモニカへと移した。俺は立ち上がるモニカが、両腕に大きなドリルを持って高速回転させている姿を見た。


 ツインテールがよく絡まないと感心してしまう。


「このポンコツの劣化品共……チキン野郎に報告するのも、褒められるのも! 怒られるのもこのモニカの役目なんですよ! この場でスクラップにしてやらぁぁぁ!!」


 喧嘩を始めたモニカたち。俺は呆れて溜息を吐くと、ミランダも肩をすくめていた。すると、ヴァルキリーズ――量産機たちが俺とミランダに、状況を報告してきた。モニカたちが争っている間に、俺たちに報告するために資料を作成したようだ。


「ご主人様、こちらが資料になっております。ミランダ様もどうぞ」


 受け取ったミランダはお礼を言う。


「ありがとう。モニカより気が利くじゃない。あの子、ライエル以外は扱いが雑なのよね」


 そう言って資料をめくるミランダ。


 俺も資料に目を通すと、近くに迷宮があるのが分かった。凄く近くにある洞窟型で、割と迷宮としてみると旨味のある迷宮だった。


「……こっちは随分といいな」


 まだ地下一階と二階を調査中らしく、通路の広さ的にも文句がなかった。迷宮のお手本とも言うべき造りで、俺としてこれをベイムに報告しようとして……七代目に止められるのだった。


『ライエル、お前はやはり持っている男だな。よし、これはベイムに黙っておきなさい』


 俺はミランダに視線を送った。ミランダは俺が宝玉を握っているのを見て、黙って頷く。そして資料に視線を向けていた。


 事情を知っているので、ミランダの前ではこうして宝玉内からの声と話が出来るのだ。


「黙っておくのですか? ベイムがなにを言ってくるか分かりませんよ」


『気にするな。時間がかかっているように見せればいい。砦の迷宮の方は素早く潰し、ゆっくり有望な迷宮を調査しなさい。それにな……この周辺は実にいいと思わないか? そう、第二のベイムには実に相応しい』


 七代目の考えている事がなんとなく理解出来た俺は、納得して頷いた。少し高い所に登れば、海が見えた。


 ミレイアさんが嬉しそうに。


『あら、港を建造出来る場所がありますね』


 三代目は納得するように。


『砦があるくらいだし、昔は重要な場所だったのかも知れないね。ふむ、今後を考えるといいんじゃないかな? ここをベイムのようにするのに、商人たちならきっと百年もしない内にかつての栄光を取り戻してくれそうだよ。……ま、規制はさせて貰うけどね!』


 俺がまた酷いことを考えているのだと思い、嫌な表情になるとミランダが俺の方を見て。


「私たちといるときもそうやって会話をしていたの?」


 そう聞いてきた。俺は頷くと、宝玉を手放してヴァルキリーズに指示を出すのだった。


「ベイムに戻ってダミアンたちに手紙を届けてくれ。それと、洞窟の方の調査も行なう。砦の方は主力で一気に潰すとして……さて、周辺を住みやすいように工事でもするか」


 俺は周囲を見ながら、未だに争うモニカたちを放置して指示を出すのだった。


 両腕の大きなドリルを飛ばして、モニカが叫んでいた。


「ダブルドリルナックル!」


「甘い!」

「そのように見え透いた……なに!」

「に、二段構えだと……!」


 なにやら盛り上がっているようだが、俺はそんなモニカたちに向かって。


「ほら、お前らも仕事だ。いい加減にこっちに来い」


 すると、腕に大きな金属の拳を持ったモニカが、ピタリと止まって武器をしまい込む。埃を払って俺の方へと駆けてきた。


「は~い、こんなスクラップ共より、チキン野郎が大事ですからね。それと、大事な報告の続きを――」


「――あぁ、それは聞いたからもういいや」


 俺はモニカの報告を聞いたと言って拒否すると、ミランダと共に天幕へと向かうのだった。モニカが、嬉しそうな表情のまま固まり、ヴァルキリーズたちに指を指され笑っている仕草を取られていた。


 表情が出ないのは不便だと思い見ていた俺は、ダミアンに相談してみることにした。






 ――ベイムにあるライエルの屋敷で、アデーレは手紙を読んでいた。


 その様子を、マクシムが不安そうに見ていた。


「どうですか、お嬢様?」


 マクシムが心配しているのは、故郷である自分たちの領地の状況である。アデーレはこうして定期的に情報を得ていたのだ。


「防衛戦の時からしばらく連絡は届きませんでしたから不安でしたけど、大丈夫みたいです。抵抗しなければ興味が薄いのかも知れませんね。今は他に抵抗する領主と戦っているようです」


 マクシムはそれを聞いて肩を落とすのだった。


「なんとか抵抗を止めさせられませんか。今だけでいいのです。そうすれば、早ければ数年で――」


 数年でライエルが動ける、そう言おうとしたマクシムに、アデーレは首を横に振るのだった。


「四ヶ国連合で動かせる最大兵力は後方支援を省いて最大で四万と少しでしょう。数年で内政が上手くいったとしても五万に届くかどうか。それでは足りません。バンセイムと戦うとなると、少なく見積もっても十万は必要でしょうね。それでも、ライエルさんが最小限の被害で勝ち続け、バンセイム国内の貴族たちをまとめ上げなくてはいけませんが……それだけ待たせては、バンセイム内の領主たちも疲弊するでしょうね」


 大国であるバンセイムの国力を、こうして外から感じるマクシムは頭をかくのだった。中にいるときはそう思わなかったが、国力の差が酷すぎる。


 大陸中央部を押さえ、更には広がり続けたバンセイムの兵力は中央だけでも十万は用意出来るだろう。無理をすれば二十万から三十万だ。


 そこに精強な諸侯の軍勢が加われば自分たちの十倍は兵力を用意出来るのである。


 マクシムは言う。


「やはり、周辺国の協力は必須、ですか? ですが、あまりバンセイム国内の問題にこれ以上他国を巻き込む訳にも」


 アデーレはそれが悩みの種だった。


「分かっていますが非常時です。周辺国と奪い合っている土地を与えるくらいは必要でしょう。それに、四ヶ国連合も兵を何度も貸してくれるかどうか分かりません。せめて、周辺国が睨みを利かせてくれさえすれば……」


 二人が必死に悩んでいるが、ライエルの目指すところは大陸の統一である。小国を省き、バンセイムと事を構えられる国というのは少ない。


 カルタフスが、バンセイムにとって最大の脅威国である。その他で言うとファンバイユ、そしていくつかの国がそこに続くだけだ。


 マクシムは不安そうに。


「お嬢様……ライエル殿は帝国を築くつもりですが、可能なのでしょうか? 我々には自前の兵力などありませんよ。あのオートマトンでしたか? あれは優秀でも百体前後の数しかいませんし」


 アデーレも頭を抱えるのだった。


「……そう、なんですよね。ライエルさんの持つ戦力は、質は高くとも数が少なすぎて。そこをなんとかしないと」


 アデーレもマクシムも、必死に打開策を考えるのだった――。


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