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セブンス  作者: 三嶋 与夢
逸話とかかなり曲解されて伝わっているかもね十二代目
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らいえる君とらいえるサン

『らいえるさんが僕たちを忘れていた件について、僕は激しく抗議すべきだと思うんだよね。ベストライエル……これはベストライエルに大きな影響が出たと思うんだ! 今回見逃したのは、絶対に大きな損失だと思うんだよ!』


 三代目が宝玉内で力説するが、返ってきた言葉は寂しいものだった。


 数が少ない。


 五代目は呆れるように溜息を吐いて。


『まだ終わってないかもしれないだろうに』


 七代目は、それはないと首を振りつつ。


『小規模な戦闘ですからそれはないかと。ここまで時間が過ぎて決着がつかないとなると、何か失敗したとしか……』


 ミレイアはヒラヒラしたドレスの袖から弾込式の銃を取り出していた。七代目が使用するものよりも年代物で、一発撃てば弾を込めないと撃てない銃だ。


 その銃を確認しながら。


『……お仕置きが必要ですね。私、凄く楽しみにしていたのに。この瞬間をどれだけ待ったと思っているのか』


 七代目が、ミレイアの銃を懐かしそうに見ていた。銃が大好きな七代目だが、もしかすればミレイアに影響を受けたのかも知れないと三代目は思うのだった。


(まぁ、なんだかんだと言って、二人は仲が良いからね)


 そうしていると、五代目が天井を見上げていた。不鮮明だった映像が、徐々に鮮明になっていくと、そこでライエルが仲間に対して説明をしているようだった。


『お、どうやらここから……終わっているみたいだな』


 五代目が話している内容や雰囲気、それらから戦争が終わっているのを察すると三代目が椅子から立ち上がって。


『終わっているじゃないか! ちょっと、戦場のらいえるサンとか貴重だから見たかったのに!』


 以前は大型の魔物と戦っている姿を見たが、らいえるサンが戦場で戦うところは全員が見ていない。そういった意味でも、今回見逃したのは三代目たちにとってとても痛いことだった。


 ……ベルトライエル的に、だ。


 しかし、文句を言おうとした三代目が、ライエルの言葉にピタリと止まる。


『ほら、並んでキスを待て』


 そんな事を言うライエルに、モニカが手を上げてアピールをしていた。ジャンプしており、メイド服やツインテールがピョンピョンと揺れている。


『はい! はい!! 私もキスをするんでしょうか!! ここ大事ですよ! 凄く大事ですよ!』


 すると、ライエルは呆れたように。


『馬鹿かお前は。だが、そんな馬鹿なところも可愛いな。もちろん、キスするに決まっているだろうが! 無駄だろうと何だろうと、俺はモニカともキスがしたい!』


 女性陣に囲まれてなんとも最低な発言をしているライエルだが、とても堂々と宣言していた。雰囲気だけを見れば、恰好いいことを言っていると思えなくもない。


 ただ、三代目的には。


『え、らいえるサン……まさか、ここに連れていくるの? みんなを? ……必要ないじゃない!』


 今になって自分たちの事を知られてもメリットなど少ない。歴代当主たちはそう考えていた。先延ばし、そしてセレスの宝玉の件もあって自分たちの存在が知られるのはデメリットも多く含んでいると考えていた。


 だから、ここまで来たら会わないまま終わらせる方が良かったのだ。そして、その方が面白いとも考えていた。


『色々と見られていたとか知ったら、アリアとか激怒するよな』


 五代目がそう言うと、立ち上がって部屋に入ろうとするのだった。だが、そんな五代目の腕をミレイアが掴んだ。


『良いではないですか。さぁ、父上もライエルの嫁と顔合わせをしましょうよ』


 ニコニコしているが、どこかイライラしているのを三代目は理解していた。五代目を困らせて楽しんでいるようだ。いや、甘えているのかも知れない。


 三代目も部屋に戻ろうとする。すると。


『ん? なんだ……』


 そこで、ライエルの記憶の扉が勢いよく開けられると、強制的に三代目たちは自分の記憶の部屋へと移動させられるのだった。


 最後に見たのは、部屋の前にいた小さなライエルだった――。






 全員とキスをしようと思った俺だが、冷静だったクラーラに指摘されたので迷っていた。


 クラーラ曰く。


「ライエルさん、何か理由があるのは分かりました。でも、全員が意識を奪われると困ります。体の見張りも必要ですが、なによりもここは戦場でなにが起きるか分かりません。終わったからと気を抜かないでください」


 もっともな意見だ。それを聞いて、俺はクラーラの意見を取り入れる事にした。


「そうなると誰を宝玉内へ連れていくか……」


 視線を巡らせ、俺はシャノンを見た。シャノンの金色の瞳を見て、ミレイアさんを思い出したのだ。いつか、ひ孫と会いたいと言っていたので、俺はシャノンとミランダを見て頷く。


「よし、ミランダとシャノンは決定だ。取りあえず準備をしろ。残るは……ノウェム、君に決めた!」


 ビシッと指を指すと、ノウェムが頭を下げてくる。


「ライエル様がそう言われるのなら」


 すると、モニカが座り込んで。


「……今回、このモニカの活躍の機会が……しかも、せっかくのフィーバータイムなのに」


 座り込んでいじけるモニカに近付くと、俺は顔を上げたモニカの額にキスをしてやった。


「今はこれで我慢だ。用が終わればすぐに戻る。モニカ……今日はお前の夕食に期待しているぞ」


 そう言って片目をつむると、モニカは回転しながら立ち上がりツインテールまでも回転して綺麗に見えた。


「お任せあれ! 例えここが戦場であっても、このモニカは最善を尽くして最高の料理をご用意いたします!」


 そして、俺は思った。


(さて、三人いればなんとか誤魔化せるか? だが、結果的によかったな。歴代当主たちが推すノウェムのあんな荒れ狂う姿を見せなく……いや、もう三代目だけか)


 ノウェムを一推しする歴代当主も、四代目がいないので三代目だけだ。やはり悲しいが、四代目の教えは俺の中で生きている。クヨクヨしていては怒られてしまうので、俺はノウェムを警戒しているミランダの腕を掴んで引き寄せた。


「……ちょっと、私はまだ怒っているんだけど?」


 未だに納得出来ていないミランダが、俺を少し睨むので真剣な表情で――。


「悪いが今すぐお前の唇が欲しい。だから、理由は聞かないし聞きたくない。寄越せ」


 普段とは違った強引な態度に驚いたミランダに、俺はそのままキスをした。舌を入れてスキル―― コネクション ――を発動すると、そのままミランダは体の力が抜けていくので、優しく抱きかかえると、天幕の中にそっと寝かせるのだった。


「……この俺のスキル」


 俺が感想を言おうとすると、今のキスを見ていたシャノンが。


「不便よね。毎回キスしないといけないし、普段のライエルとか時々ためらうし。切羽詰まっているときとか、早くしろよ、って思うのよね」


 今まで不満に思っていたのか、シャノンが文句を言ってきたので俺は言い返した。


「馬鹿、好きな子や可愛い子とキスをする時、男はドキドキするんだ。可愛いだろ?」


 俺がポーズを決めると、シャノンはドン引きしつつ。


「あんたが可愛い? ない。絶対にないわ。これだけえぐい事をやってきて、これからもするつもりでしょ?」


 シャノンを前に肩をすくめると、俺はシャノンをお姫様抱っこしてそのまま口を塞いだ。不意打ちだったのか、シャノンが暴れる前に意識を失ったのでそっとミランダの横に寝かせてやる。


「こいつ、顔を真っ赤にして……可愛いじゃないか」


 キスする前に強がっていたが顔は真っ赤だった。そういって恰好を付けていると、俺を見ている周囲の視線が冷たいことに気が付いた。


 俺は周囲を見ながら。


「安心しろ。お前たちもいつもよりディープなのを夜にしてやる! さて、それでは次はノウェムに……」


 皆の不満が溜まりやすいのは、きっと俺を心配したからだ。そう思うと、この冷たく馬鹿にしたような視線も心地よい。


 俺は幸せ者だ!






 宝玉内へと降り立つと、俺は周囲を見た。


 円卓の間は普段と同じだが、最後に降り立った俺はその場の雰囲気を見て首を傾げた。


「どうしてお前がここにいる? それに、なんで他にはミレイアさんだけなんだ?」


 円卓の間には二人だけがいた。


 一人はミレイアさんだ。五代目の椅子に座り、驚いているミランダとシャノンに笑顔で手を振っていた。そして、チラリと視線を向けてきた時に俺を凄く睨んでもいた。


 俺は咳払いをしつつ。


「さて、紹介しておこう。ウォルト家の中でも指折りの美人であるミレイア・ウォルト――ミランダたちには、こういえばいいかな? ミレイア・サークライお姉さんだ」


 美人やお姉さんを強調したが、ミレイアさんの雰囲気が変らない。


『初めまして、かしら? 私はサークライ家に嫁いでからの記憶が曖昧だから、もしかしたら会っているかも知れないけど、私自身は貴方たちと初めて会うわ』


 ミランダが驚いたように。


「シャノンと同じなんですか?」


『そうよ。でも、容姿は貴方が近いわね。流石は私のひ孫よ、ミランダ』


 シャノンがミランダの後ろに隠れつつ、円卓の間にいたもう一人を目で見ていた。


 やはり、小手先だけでは簡単にはいかないようだ。そして、俺は俺の椅子に座るもう一人を紹介した。


「それで、この子供がらいえる君……なんというか、俺の記憶らしい。というか、なんでお前がここにいるんだ?」


 俺が首を傾げて聞くと、足をブラブラさせていたらいえるは円卓に肘をついて手にあごを乗せて笑顔で言う。


『どうしても会っておきたかったから、では理由にならない? 久しぶりだね、ノウェム』


 そう言ってらいえるはノウェムを見て微笑んだ。だが、ノウェムの様子がおかしい。妙に距離を取り、そして警戒していた。


 体を半歩後ろに下げてらいえるに対して構えているように見えた。表情は普段よりも無表情で、そして俺を見ると微笑んできた。だが、どこかぎこちない。


「どうした?」


「いえ、唐突だったもので。それに、予想と違っていましたから」


 ノウェムなりに、俺の宝玉に関して予想をしていたようだ。確かに、こんな状況になるとは俺も予想外だ。


「そうか。俺も予想外だ。と言うわけで、部屋に戻れ。寂しいならまた会いに行ってやるから。今日は忙しいんだ」


 これからミレイアさんのご機嫌伺いだ。そう思っていると、らいえるは不満そうに。


『それは困るんだよね。だって、僕はノウェムに話があるから。ついでに言えば、聞いておいた方がいいよ。ミレイアさんに関しては二人に任せなよ。その方が上手くいくだろうし……それにしても』


 らいえるが真剣な表情でミランダとシャノンを見た。


 アゴに手を当てて。


『大きな胸と小さな胸……足して二で割れば、普通胸のミレイアさん、か。だが』


 だが、と言いながらゆっくりと立ち上がったらいえるは、そのまま一瞬でミランダの胸の中へ飛び込もうとした。


『やっぱり大きい方が好きなんだぁぁぁ!!』


 いつの間にか移動したミレイアさんに銃口を向けられ、らいえるは両手を上げていた。


 シャノンがガクガクと震えながら。


「お姉様、こいつがライエルの記憶なの? 今と違って凄いエロガキよ!」


 銃口を突きつけられたらいえるは、そんな怯えるシャノンをチラリと見てから首を横に振った。


『小さい胸にも価値があると言うが……お前の胸にはそそられない。もっと自分を磨くんだな、小娘』


「……いや、やっぱりライエルだわ。前も私にこんな事を言ったし」


 すると、ミレイアさんが笑顔で引き金を引いた。


『駄目よ、らいえる君』


 ターンという音と煙、そして火薬の臭いが円卓の間に充満した。そうか、七代目はこれを毎回受けていたのか。謎が解けてよかったと俺は思いつつ、らいえるに近付く。


「撃った! お姉様、ライエルが撃たれて! ギャァアァァァ!! 立ち上がったぁぁぁ!!」


 混乱するシャノンが、血だらけの額を押さえながら立ち上がるらいえるを見て泣きそうになっていた。ミランダは呆れつつも。


「ここでは大丈夫なんでしょう。それと、私たちを呼んだ理由は、ご先祖様に会わせたかったから? 色々と聞きたいことがあるんだけど?」


 ミランダの意見ももっともだ。俺が説明しようとすると、らいえるが提案する。


『なら、二人はミレイアさんに聞くといいよ。僕はライエルとノウェムに用事があるし。というか、いい加減にライエルは知っておくべきなんだよ。そうじゃないかな、ノウェム?』


 全員の視線がノウェムに集まると、俺はらいえるに。


「女神や邪神の記憶持ち、って事なら俺は知っているが?」


 すると、シャノンが声を上げた。


「はぁ!? なによ、ソレ!」


 ミランダは、シャノンに黙るように言う。


「シャノン、ここは話を聞きましょうか。質問はそれからでも遅くないわ」


 そんなミランダを見て、ミレイアは何度か嬉しそうに頷くのだった。だが、らいえるは首を横に振るのだった。


『違うよ。そんなのはたいした事じゃない大事なのは、ノウェムがどうしてライエルに尽くすのか、だよ。僕の時は鉄壁と呼べるくらいにガードが堅かったんだ。少し不思議に思わないの?』


 そう言われた俺は。


「そうか? 俺の方が魅力的だからだろ。悪いが、お前より俺の方が恰好いいから。な、ノウェム」


 ノウェムはそう言われて、苦笑いをしていた。


「そうですね。どちらもライエル様ですが、確かに今の方が……」


 そう返事をしたノウェムに、らいえるは厳しい視線を向けるのだ。妬みではない。恨みでもない。本当にそう言った負の感情ではなく、らいえるは言う。


『いつまでも隠しておくつもり? 悪いけど……ライエルはノウェムの玩具じゃないんだよ』


 らいえるは、まるで俺のためにノウェムに怒りをぶつけているようだった。


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