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セブンス  作者: 三嶋 与夢
逸話とかかなり曲解されて伝わっているかもね十二代目
210/345

大改造

 ――ルソワース城の大会議室。


「レトル宰相、ガレリアの領主と繋がっていたのは、貴殿の派閥の者たちだ。この責任、なんらかの形で取らなければならないのでは?」


 武装した兵士たちに囲まれ、宰相であるレトルは苦虫を噛み潰した表情を内心でしていた。だが、表面上では惚けた表情をしている。


「はて、身に覚えがないな。指示した覚えもない」


 中級、下級の役人たちが中心となり、兵士を率いて証拠と共に重鎮たちの一部を拘束、そして罪状を述べていた。


 同じように兵士に囲まれたエルザは、玉座に座ってなにも言わないで状況を見守っている。兵士の中にはローブを着た魔法使い……女性が杖を持って立っており、反対側には同じようにローブを着ている槍を持った女性が立っていた。


 二人とも雰囲気から察するに腕の立つ者たちなのだろう。


(こいつら、それなりに腕の立つ者を雇ったか。下手に動けぬ。それにしても、わしを助けぬとは恩知らずな小娘が!)


 レトルが内政に関して口出しをさせていないのだが、ここに来てそれが仇となっていた。レトルを助命するようにエルザが命令を下さないのだ。


 もっとも――。


「しかし、派閥の長である貴殿がなにもなし、という訳にもいきますまい? 自主的に謹慎、二ヶ月は自らの屋敷に引っ込んで貰わなければ」


 相手側の要求を聞いて、レトルは整えた髭を指で挟むように撫でた。内心では笑いが止まらない。


(そうか、こいつらもわしがいなければ政務が滞ると理解して……強硬手段でわしの力を削ぎはしたが、これ以上は不可能という賢さはあったか!)


 自分の内政手腕に自信のあるレトルは、甘すぎる処分に気をよくしていた。ならば、ここは率先して処罰を受けた方がいい。そう思ったのだ。


「それには同意だな。分かった。自主的に謹慎させて貰おう。ただ、わしのいない二ヶ月で政務が滞ることがないように願いたいものだ。我々の仕事には民の生活がかかっているのだからね。女王陛下、それで宜しいかな?」


 会議室、エルザにそう言ったレトルは、礼儀を正しながらも女王に無礼な視線を向けていた。


(まったく、戦場以外では役に立たない小娘が)


 エルザは少し目を閉じ、それからゆっくりと目を開けると――。


「……宰相は自宅謹慎二ヶ月。他の者の処分は?」


 中心人物である中級役人が、深々と頭を下げて。


「敵と繋がり己の私腹を肥やしていた者たちです。極刑が相応しいかと」


 エルザは立ち上がると。


「ならばそうしろ」


 そう言って会議室を出て行くのだった。極刑の決まった兵士に囲まれた重鎮、そして高官たちが叫ぶ。


「ち、違う! 宰相殿の命令で!」

「俺だけではない! こいつもだ! こいつも裏切っている!」

「ふざけるな! どうして俺たちだけが……お前らもなぜ黙って!」


 他にもガレリアの領主と繋がっている者たちがいると、兵士に連れて行かれる者たちは叫んでいた――。






 ――ガレリア公王家屋敷。


 諸侯を集めたグレイシアは、堂々と宣言する。


「公王家を裏切り、ルソワースに内通した領主がいる。すでに証拠も揃い、ルソワースでは一部高官共の処罰も行なわれた。だが、我々の方はなにもなし、という訳にもいくまい? ガレリア公王家の名において、討伐を宣言する!」


 会議に参加していない数名の諸侯がおり、その面子が裏切り者という扱いだった。


 本来は数も多く、そしてなに食わない顔で裏切り者の諸侯を罵る者もいた。だが、諸侯たちは。


「しかし、敵がそういったからと処分をするのは」

「以前に兵士を出したばかり。今は動けません」

「もっとしっかりと調べてからでも良いのではないか?」


 消極的だった。特に、自分たちも内通している諸侯は酷く焦っている。裏切っていない者たちも、兵を出せる状況になく討伐は困難という認識だった。


 そこで、グレイシアは。


「ならば公王家単独で動くとしよう。裏切り者を放置していては、ガレリアが侮られる!」


 周囲が消極的な中で、ガレリアの最大戦力であるグレイシアが動くと言いだした。諸侯――領主たちは、不満もあるが正当性もあって反論出来ないでいた。


 しかし、現状で公王家でも満足な兵数を用意出来るとは思えないので、諸侯はその判断に従うことにする。


 いくら強くとも、グレイシア一人では勝利してもその後の処理、そして奪った領地の統治は難しいと周囲が判断していた。


 失敗し、兵を出せる時期になれば増援で参加して領地を分けて貰うなり報酬を出して貰う事を考えているのだった――。






 ルソワース、ガレリアが激しく動く中。


 俺は両国に近いロルフィスの村で書類整理をしていた。書類というか、ベイムからの手紙を読みつつ髪をかきむしる。


 今問題なのはフィデルさんからの依頼だ。


「ルソワースで宰相を支援している商家の権限を奪え? それに、複雑なガレリアでの商家よりも一つ上の権限を寄越せ? あの野郎……ここぞとばかりに支援する対価を求めやがって。前はそんな事は一言も……」


 建て直された家の中、ヴァルキリー一号にお茶を差し出された俺はそれを一気に飲み干した。


 冷たくて美味しいが、やはりどこかノウェムやモニカの出すお茶とは違う。


「ありがと」


 礼を言うと、一号が頭を下げてそのままカップにおかわりを注いだ。ペンを口にくわえ、俺はこの問題をどうするか悩んでいると四代目がアドバイスをくれる。


『ライエル、相手――フィデル君も全部が通るとは思っていない。いくらかライエルが対応すれば満足なんだよ。因みに、これに対応すると現地商人の不満がライエルに向かうけどね』


 対応させておいて、不満を俺に向けさせる。あるいは、グレイシアさんやエルザさんにその不満を向けさせるわけだ。


 グレイシアさんは逆にその方が良いかも知れない。だが、エルザさんの方は上手く対応しておきたかった。


「グレイシアさんにはある程度の不満を周囲に抱いて貰って、早いうちにレオルド君を公王位に持って行く段取りもつけないと……さて、エルザさんの方はどうするか」


 こちらはルソワースで宰相の人気が高い事もあって、下手な対応はすぐに不満を抱えてしまうことになる。何しろ、地方では宰相は嫌われているが、首都では処分されても国を思っての行動、同じ派閥の馬鹿の尻拭いをさせられた、などと未だに評価が高い。


(中央重視で、間違いなく首都近辺の領民には素晴らしい宰相だった訳だ。本当に厄介だな、この人)


 ただ、フィデルさんを無視しても面倒だった。支援が必要であり、他のベイムの商家からも支援を受ける事を考える必要も出て来ていた。


 俺が悩んでいる姿を見て、四代目は楽しそうにしている。


『沢山悩むと良いよ。それと、情報は正しいものを基準にしようか。少しでも自分の希望や予想は排除して、確かな情報を元に考えてごらん』


「……宰相は近い内にそのまま失脚させます。支援していた商家が次に支援をする相手がいるとすれば……いや、今の内からベイムの商人に支援させて」


 色々と考え、メリットとデメリットを秤にかけた。


 そうやって思案していると、量産型のヴァルキリーズが集めた情報を、同じようにラインで繋がったモニカが処理して俺に知らせてくる。


 だが、このラインを使ったやり取り……地味に魔力を削ってくる。距離もあるのだが、何よりも俺を通してかなりの情報量がやり取りされているのだ。


 勘弁して欲しいが、必要なので我慢することにした。


 モニカから送られてきた情報は、ガレリアが一部領主と戦争状態に入った事を告げるものだった。


 規模としては数百人規模の戦闘のようだ。ガレリアでは公王家が一番力を持っている。そのため、このような状況では容易に勝利が掴めた。


「……大義名分があれば、周囲も黙るわけだ」


 裏切ったという事実があり、周囲も公王家の対応に文句を言わなかった、あるいは強く言えなかったのだろう。


 すぐにヴァルキリーズを派遣する事にして、新しい領地の情報収集をさせる事にした。ただ、こういった場合だと俺も現地に入る方が早い。


「ここを終わらせたらガレリアに向かって……いや、ベイムに戻ってエヴァに報告も……違う、ルソワースで細かな打ち合わせも必要だし……」


 俺は机に突っ伏すのだった。


 そんな状況を、宝玉から四代目がニコニコとしながら眺めている気がした。






 ベイム。


 港に到着したヴェラ・トレース号を待っていた俺は、エヴァとメイに小遣いを与えてしばらくベイムで自由にしているように言っておいた。


 エヴァの方はベイムでの仕事もあるので、そのついでに遊んでくるように言ってある。


 メイの背中に乗ってベイムまで来たのは、最大の支援者であるフィデルさん――いや、トレース家のご機嫌伺いだ。


 そうは言っても、今回の目的はヴェラである。


 大型の船舶が港に到着すると、タラップが取り付けられてそこから船員たちが降りてきて作業を開始していた。


 すると、船員の一人が俺に気が付いたようだ。


「ライエルの旦那じゃないですか!」


 俺は右手を軽く上げて挨拶をすると、船員が大声でヴェラを呼ぶ。すると、甲板から顔を出したヴェラが、俺に気が付いたようだ。


「なによ……って、ライエル!」


 ヴェラが慌てて船から降りてくると、俺はヴェラを出迎えて。


「久しぶり。前は会えなかったから会いに来たよ」


 すると、ヴェラは照れながら。


「あんた、ガレリアとかルソワースで忙しいとか言ってなかった? まぁ、嬉しいけど……」


「一緒に食事でもしようかな、って。ほら、俺もたまには何かしないといたたまれないというか……まぁなんというか、食事を奢らせてください!」


 俺の頼みにヴェラは少し呆れたが、笑って頷いてくれた。お金を出させているだけ、という状況も嫌なので、今回は俺が稼いだお金で奢ることにした。


「変に気をつかわないでもいいのに。ま、今回は奢って貰おうかしら」


 照れるヴェラと話をしつつ、俺はそのまま彼女の仕事が一段落つくまで待つことにした。ヴェラが荷物を取りに船内へと戻ると、宝玉内から声がする。


 四代目だ。最近、特に四代目が声をかけてくれる。


『ライエル、一回奢ったくらいでもヒモ野郎には変わりないからね』


(……わ、分かってるよ)






 ――宝玉内では、ライエルがヴェラと二人でぎこちなく食事をしている光景を歴代当主たちが見ていた。


 ミレイアは割と高級な店で食事をする二人を見ながら。


『なんというか、あれだけ女性を周りに侍らせているのに初々しいというか、情けないというか……見ていて面白いですね』


 ライエル自体、こうした高級店で食事をしていても作法は完璧だ。だが、ヴェラと話をしているが、どこかぎこちない。


 相手に気をつかわせていた。


 三代目がそんなライエルの様子をニコニコしながら見ており。


『これが慣れてくると違った面白さもあるんだろうけどね。ま、ライエル自体はハーレムとかあんまり考えてなかったし。全肯定のノウェムちゃんと違って、色々と考える事もあるんだろうけどね』


 ミレイアはノウェムの名前を呟きつつ。


『ノウェムちゃんですか……まぁ、あの子は良くも悪くもライエルを肯定しますからね。情けない姿をあれだけ見せたのに、よくライエルを見捨てませんでしたね。やはり、フォクスズ家の血筋ですね』


 ウォルト家は、代々の当主や一族がフォクスズ家に世話になっている。それが不思議と思わないだけの年月を過ごしており、そういうものだとこの場にいる面子は過去に思っていた。


 五代目は、急に顔を赤くしたヴェラに戸惑っているライエルを見ながら。


『こいつ、たまに素で口説くから怖いよな。普段は駄目なのに、こう大事な場所で絶対に外さないというか……実は狙ってない?』


 ライエルの一言に顔を赤くしたヴェラを見ながら、七代目は笑っていた。


『この調子で二大戦乙女、いや、魔女二人もおとして欲しいものですね』


 そんな中で、四代目だけは苦笑いというか寂しい表情でライエルを見ていた。宝玉内の天井に映し出された映像を見ながら。


『……本当は、ノウェムちゃんと二人でどこか遠く。それこそ、セレスの手の届かない場所まで逃げて、ノンビリ過ごすのがライエルの幸せなんだろうけどね。ライエルがセレスと戦う道を選んじゃうから』


 ミレイアは四代目に視線を向け、それから五代目に視線を移して凝視していた。五代目は、ミレイアから視線を逸らす。


 溜息を吐くミレイア。


『もう、どうしてそう頑固なのか……。四代目、いえ、お爺様』


『なんだい?』


 眼鏡を指先で位置を正し、椅子に座って足を組む四代目は膝の上に組んだ手を置いた。ミレイアの方を見て微笑んでいる。


『私はライエルのための案内人。歴代当主が役目を果たすことを望んではいますが、今のライエルには四代目のスキルよりも知恵が必要だと思いますよ』


 それを聞いて、四代目は笑っていた。馬鹿にしたのでもなく、おかしいのでもなく、ただ笑顔だった。


『嬉しいことを言ってくれるね。俺のスキルよりも俺の知識が必要か。……確かに、そうなんだろうね。スキルも突き詰めれば道具だ。それを上手く扱うように指導するのが俺たちの役目。でも、そんな俺たちの方が価値はあると聞けば、嬉しいよ』


 嬉しいと言いながら、四代目は少し寂しそうだった。


『でもね、ライエルはいつか独り立ちをする必要がある。ライエルが選んだのはそういう道で、俺たちは将来的に邪魔にしかならない。このまま俺のやり方をライエルに仕込むのは簡単だけど、それを続ければライエルらしいやり方を潰すことになる。新しい可能性を潰してまで、俺のやり方を選ぶ必要はない』


 三代目が、四代目に視線を向けないまま口を開いた。目は宝玉の天井に映し出される外の光景を見ている。


『……本来なら、僕の方が先に消えるべきなんだろうけどね。スキルが優秀過ぎて辛いよ』


 冗談なのか、それとも本気なのか、それ自体は問題ではない。


 四代目は苦笑いをしつつ、父である三代目に言うのだ。


『三代目、いや……父さんはどんな状況でも上手くやれそうなので、安心してライエルを任せられますよ。微妙な立場で実に上手く世渡りしてきたその手腕、それに凶悪なスキルは尊敬しています』


 三代目がボソリと。


『尊敬しているように聞こえないけどね。でも、頃合いでもあるね』


 七代目は、そんな父と子の会話を聞いて黙っていた。


 五代目は雰囲気に耐えられなかったのか。


『そろそろ“らいえるサン”も出てくるだろうに。タイミング的にはその後にするのか?』


 四代目はそれを聞いて大笑いした。


『うん、実に残念なんだけどね。もう少しだけライエルもらいえるサンも見ていたいけど……その前にスキルを継承して消える事にしよう。アレだね。最初はこんなに寂しく思うとは思わなかったよ。あの頼りないライエルに、まさかここまで期待することになるとは』


 天井に映し出され、ヴェラと食事をしながらオロオロとしているライエルを、四代目は微笑んで眺めるのだった――。


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