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セブンス  作者: 三嶋 与夢
逸話とかかなり曲解されて伝わっているかもね十二代目
207/345

四代目の時代

 宝玉内。


 疲れた俺は四代目に泣きついていた。


「もう無理です。知恵を貸して頂けないでしょうか?」


 開拓を開始して二週間が過ぎようとしていたが、結果は散々だった。


 失敗、そして失敗。上手くいっても失敗して、また一からやり直しというのをこの入週間繰り返していた。


 円卓の間では、歴代当主とミレイアさんがヤレヤレという感じで俺に視線を向けている。


 四代目が立ち上がると俺に手招きをしてきた。


 そうして四代目は、自分の記憶の部屋へと向かう。俺は周囲を見るが、歴代当主たちも行けと言うだけだ。


 ミレイアさんはニコニコしており、俺に手を振っていた。


「……助言をして貰えればいいのに」


 呟きつつ記憶の部屋へと向かい、そこをくぐると周囲は普段と違っていた。


 四代目の記憶の部屋は、どこまでも続く一本道という光景が基本である。だが、今日は周囲に荷馬車や人手、そしてそれを指揮する若い四代目の姿があった。


 若い四代目――マークスは、周囲に指示を出している。


 ただ、雰囲気はあまり良くない。


『どういう事だ! 用意した資材のほとんどを何に使ったんだ!』


 言われているのは、新しく組み込まれた領地の領民たちだ。名士が代表してマークスと話をしていた。


『実は村の方で資材が必要でして。ここはそこまで急ぐ必要もないので、お借りしました。必要になれば必ず用意いたします』


 十代。


 若く、そして男爵となったばかりのマークスは、名士に侮られていた。普通は相手が年下でも、領主となれば舐めた態度は取らない。


 いつの間にか俺の横に立っていた四代目は、昔の自分を見て溜息を吐いていた。


『まったく、今にして思えば何をしていたのか』


「どうしてこんな事に? いくらなんでもこの態度は領主に向けるものじゃありませんよ。資材を勝手に利用するなんて」


 殺されても文句が言えない。もしくは、村単位で厳重な罰が下されてもおかしくなかった。ただ、相手は悔しがるマークスの前で笑顔だった。


『どうせここも上手くいきません。どうせ無駄にするなら、有効活用しませんと』

『ウォルト家は成り上がりですからね。焦る気持ちも分かりますが』

『さて、それでは我々は忙しいので男手を少し戻しますよ』


 勝手に行動する領民たちを、マークスの後ろにいる領民たちが睨み付けていた。ただ、数が違う。


「……元からウォルト家の領民と、新しい領民とで溝が出来ていますね」


 酷い土地だった。


 周囲には川が流れているが、堤防が崩れてそれを修繕しないので水が流れ込んできている。


 引き上げていく領民たちを、マークスは悔しそうに見ていた。すると、ウォルト家の騎士が腰に下げた剣の柄に手をかけた。


 それを、マークスは手で制す。


『マークス様! やつらのあの態度を見過ごすのですか! あれはウォルト家が用意した資材です。堂々と盗んだと言ったのですよ!』


 周囲からも同じように反発する声が聞こえてきた。


 四代目は、苦笑いしながらその光景を見ていた。


『実に頼りない。この頃の俺は、どこも自分の領地と同じだと思っていたんだよね。初代から続いて四代目である俺……ウォルト家は上手くまとまっていたんだよ。準男爵家規模で、小さいけど街もあって割と裕福だった。けどね、急に領地が広がるとこれまでの統治がまったく通用しないんだ』


 名士だけではなく、周辺の小領主をまとめるのにマークスは若すぎたのだ。そして、良くも悪くもウォルト家の領民はウォルト家を領主として認めていた。


『大変だったよ。今まではそれで通っていたのに、ウォルト家の信用がない領地だと平気で侮ってくるんだから。その対処も頭を悩ませたし、一気に増えた書類仕事とか……いやぁ、実に大変だった。実際、ウォルト家の領民だったら資材とか盗みました、なんて笑って言わないからね。こいつら本気なのかと困惑したよ』


 俺は四代目が何を俺に見せたいのか分かたなかった。大変だった時代もあるのは理解したが、それと今回の件に何か関係があるのだろうか?


「あの、俺の開拓の件と今回の記憶に関係ってあるんですか?」


 すると、四代目は笑顔で。


『ライエル、俺はライエルの時代でなんて呼ばれていた?』


「ウォルト家ではもっとも長く当主の地位にいて、それで内政巧者だとか……」


 実際、四代目が男爵家となったウォルト家の基礎を築いていた。準男爵家のような街とその周辺の村や集落ではなく、もっと大きな領地の視点を持って領地開発をしたのが四代目だったのだ。


 四代目は照れくさそうにしていた。


『うん、実に恥ずかしい限りだ。だけど、そんなふうに言われている俺だが、実際はこんなふうに失敗を積み重ねていた訳だよ。自分の手に余る仕事をしては失敗して、信用を失っていくんだ』


 そうして、場面は切り替わる。


 ウォルト家の屋敷の一室では、机に向かってマークスが書類を処理していた。覗き込んでみてみれば、なんとも微妙な事で名士から報告が来ていた。


「……なんか、子供の喧嘩のような報告が上がってきているんですけど」


 俺が言うと、四代目が笑った。


『実際そんなものが多いよ。それを領主に裁いて貰う訳だけど、これってお金も手に入るから手を抜けないんだよね。ただ、数が多い。この時は急に領地が膨れあがって、家臣も足りないから仕事ばかりしていたね』


 そうして、部屋には背筋を伸ばした壮年の男性が入ってくる。フォクスズ家の当時の当主らしい。


『マークス様、あまりご無理をされてはいけません。お母上も心配されておりました』


 マークスは顔を上げると、相手がフォクスズ家の当主と知って頷いた。


『分かっています……いや、分かっているんだ』


 言葉遣いを直し、上司と部下という形を取っていた。四代目が説明してくれる。


『これまではご近所だったんだけど、男爵家だから周辺は寄子扱いになるんだよね。当時は領地替えがあって、周辺だとうちしか規模の大きな領主がいなかったし。管理する土地は増えるし、周辺の面倒も見ないといけないしで大変だったよ』


 四代目は笑っているが、とても笑っていられない状況にしか見えなかった。この状況から四代目が、ウォルト家の――男爵家としてのウォルト家の基礎を築いたのが奇跡に見えた。


 四代目は、フォクスズ家の当主を見ながら少し寂しそうに。


『……近所の頼りになるおじさんが、急に部下になったからどう接して良いのか分からなかったね。しかも、凄く協力してくれたんだよ。だから、どうしてもフォクスズ家と聞くと恩返しを考えちゃうね』


 場面は変る。


 そこは、小さな村だった。ただ、非常に荒らされていた。畑はボロボロ。建物は崩れ、燃えた場所もあった。


 マークスは人手をかき集め、そして復興の手伝いをさせていた。


 それが終わると、マークスが去るときに村人たちが非常に感謝しているようだった。


 四代目が言う。


『小さな事からコツコツと、だね。協力を得られないのに、どうして大きなことが成功すると思ったのか……魔物に襲撃された村を助けた。俺にとっては小さな仕事だったんだけどね。ただ、次はここの村人が率先して協力してくれるようになったよ。それに、俺が割と良い領主だと思われたのかな? どんどん協力的になっていった。その時だね。小さな成功を積み重ねる重要性を知ったのは』


 俺に何を見せたいのか、前から四代目がなんと言っていたのかを思い出す。


 四代目は俺に振り返ると、こう言った。


『ライエル、知識もあって技術もある。それぞれがライエルに協力しようとしている。この状況で失敗が続いているのは誰の責任だと思う?』


 俺は俯きながら。


「俺です」


『ほとんどはライエルの責任だね。前は周囲に任せるべきところは任せろと教えたけど、今回は管理するところはしっかり管理しろ、って教えようか。そのバランスが非常に難しいんだけどね』


 四代目は周囲の光景を変更した。すると、ここ二週間の俺たちが作業をしている光景を映し出す。


 記憶の部屋でそんな事も可能なのかと思っていると、俺は自分を見て恥ずかしくなった。


 クラーラに詰め寄られ。


『ライエルさん、ここはこれだけの資材がいります。お金も大事だとは思いますが、基礎は重要ですよ』


 そして、今度はアデーレさんが俺に駆け寄ってきて。


『そんなお金があると思っているんですか! これから先の予定もあるのに、失敗ばかり続いて予算が足りないんですよ。削れるところは削らないと、そもそも作業が出来ないんですよ!』


 俺は二人の意見を聞いて、判断出来ずに中途半端に意見を取り入れていた。


 オロオロしている姿を、こうして第三者の視点で見て俺は自分が不甲斐なく感じるのだった。


 四代目が、俺を見て笑う。


『クラーラちゃんは知識にこだわり過ぎる部分がある。けど、この場合はクラーラちゃんの意見を採用するべきだったね。アデーレちゃんは……こう、書類とかお金の計算には強いんだけど、どうしても現場を軽視しているね。お金の管理も大事だけど、現場を知らないからそれが足を引っ張っている感じかな。まぁ、何が言いたいかというと……ライエルは最初の段階で人選を失敗しています』


 作業段階ではなく、人選ミスを指摘された俺は口を開けてポカーンとしていた。作業のどこが悪いと言うのではなく、人選ミスと言われて予想外で反応出来なかった。


 四代目が、俺の人選に対して文句を言う。


『まだエヴァちゃんとか連れてきた方が良かったよ。近くに森もあるし、そっち方面で頑張って貰えれば良かったのに。あとは、ノウェムちゃんとミランダちゃんかな? どちらか一方がいれば、普通にこの集団をまとめてくれたと思うよ』


「……明日にでも変更を」


『この段階で変更すると、アデーレちゃんとか色々と考え込むよ。あの子、絶対に自分よりクラーラちゃんを選んだ、って気にすると思うし。というか、クラーラちゃんはあれだね……意外と周囲と上手くやれるけど、自分の趣味関係ではまったく引かないね。それ以外なら良い感じだけど』


 そうなると、俺はこのまま失敗した人選で作業を進めることになるのだろう。肩を落とすと、四代目が秘策を授けてくれた。


『さて、ではそんなライエルにアドバイスだ。もっとも、作業関係のことは言わないよ。失敗も大事な経験だからね。それで、だ。これはとっても重要な事なんだが……』


 四代目のアドバイス。それは――。






「クラーラ、必要な資材を後で書類にもう一度まとめてくれ。それからアデーレさんはその資材の確保をお願いします。ここが成功しない限り先へは進めませんし、金額云々は後で聞きます。マクシムさん……自分の仕事から離れないように。アリアはレオルド君――いや、レオルド様と森で魔物の退治だ。その時は、先行しないでちゃんとフォローするように」


 朝一番で、全員を集めて今日の仕事内容を確認した。


 全員を見ると、それぞれが何か言いたそうにしていたが、俺が明確に方針を決めると口を出してこない。


 アデーレさんも、もう失敗出来ないので反論しないようだ。何しろ、まったく成功しないという方が結果として悪いと言うのが分かりきっている。


 ただ、アリアが。


「あのさ、ライエル……私とマクシムさんが主力で、他をフォローに回した方がよくない? その方が絶対に仕事が早いわよ」


 俺は笑顔で。


「誰が森にいる魔物を殲滅しろ、なんて言ったよ。作業の邪魔をされない程度に相手をすればいいんだよ。レオルド様に経験積んで貰うのに、お前のフォローをさせてどうするんだ」


 フォロー、アリアが言うフォローとは、荷物持ちや魔物から素材をはぎ取る事だ。


 だが、公王家の跡取り息子にそんな技能が必要だろうか?


 よく考えれば、経験しておくべきではあるが、そればかりをやって貰っても困る。


(脳筋思考の国柄だから、魔物の退治もしながら内政を成功させたとか言った方が絶対に評価高いよな)


 当初から、この開拓はレオルド君の実績作りが目的だった。内政が成功すれば問題ないと思っていたが、土地柄を考慮するのをまったく考えていなかったのだ。


(まずは一箇所だ。ここを成功させて、それから次で内政に関しても指揮を執って貰う)


 アリアが少し気まずそうにしているので、後でフォローする事にした。


 周囲を見て、質問が出ないのを確認すると、俺は。


「さて、今日は壊れた資材なんかの片付けだ。次の作業の邪魔になるから、一度全部を撤去する」


 四代目のアドバイス。それは、とても簡単なものであった。


 今まで俺は大きな目的だけを仲間に指示してきた。だが、相性の悪い人材が、それぞれの考えで行動して足を引っ張り合う状況でのソレは、非常にまずかったのだ。


 もっと細かな指示を出すべきだった。


 そして、大きな目的を語っても、それを個人がどう理解しているのかも考慮していなかった。


 アリアなど、魔物による作業の邪魔を阻止しろと言えば、素で魔物の殲滅を考えていた。ドン引きだ。何がドン引きかというと、それを実行出来てしまう今のアリアにドン引きである。


 俺は少し声を張り上げ。


「いいか。まずはここを成功させる。でないと次なんかないからな」


 まずは一箇所。


 ここを成功させれば、少なくとも大失敗ではない。上手くすれば、この成功を理由にして、もっと周囲から協力を得られるかも知れない。


 ――四代目のアドバイス。


 それは『朝の全体での挨拶』――つまり、『朝礼』だった。


 今まではノウェムやミランダ、そしてモニカという存在がいたので、事前に意思の統一ができていたのだ。


 今までは少数だったので上手くいっていた。そして数が増えたと言っても、ヴァルキリーズは俺とのラインがある。俺の命令を遂行するので、こうした朝礼は今まで形だけだった。いや、そもそも重要視をしていなかった。


(基本、って大事なんだな)


 そういった事を、再度確認した一日だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 基本って大黒柱だよな
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