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セブンス  作者: 三嶋 与夢
逸話とかかなり曲解されて伝わっているかもね十二代目
199/345

らいえる

 ――リューエは、ギルドの更衣室で自分の制服を見ていた。


 スカートが少し短く、そして他の職員の物より派手になっている。


 それを手にとって溜息を吐いた。周囲では、同じように女性職員がギルドに来て、着替えを行なっている。


 近くでは、マリアーヌが今まで使用していた胸を強調する制服ではなく通常の物を着用している。


 それを横目で見て、リューエは自分の制服を見た。


「確かに、胸は大きくないですけど……だから短いスカートとか」


 文句を言いながら、リューエは職員の制服に着替えた。


 着替えを終えると受付に行く前に、資料室へと向かった。担当する冒険者の資料を確認するためだ。パーティーの人員、そして依頼の達成率や評価をまとめたそれらの資料を持ってカウンターに行くのだ。


 資料室を出ると、リューエはギルドカードが保管されている部屋へと向かう。そこでは、新人教育に指定された冒険者たちのギルドカードが別枠で保管されていた。


 それを確認して、銀色のギルドカードに刻まれた名前に傷がないのを確認する。自分と仲の良かった冒険者が死んでから、リューエはこうしてこの部屋に通うようになった。


 多くの資料を持って、部屋を出ようとするとマリアーヌとドアの前で鉢合わせする。


「……あ」


 リューエは小柄であり、マリアーヌを見上げる形になっていた。


「あら、確認に来たの?」


 笑顔のマリアーヌに頭を下げてその場を後にした。今まで馬鹿にしていただけに、会わせる顔がなかったからだ。


 自分と懇意にしている冒険者は優秀だと自慢し、マリアーヌが新人冒険者――しかも、ギルドの教育指定枠の冒険者たちの相手にする事を馬鹿にしていた。


 ただ、知り合いの冒険者たちが、パーティーごと大打撃を受けて生き残ったのは一人だけになると、リューエには上から新人教育の話が出たのだ。


 しばらくふさぎ込んでいたリューエは、その話を受ける事にした。


 急いで受付の裏側に顔を出すと、リューエはそこでまとめ役の上司に挨拶をした。


「おはようございます」


 すると、上司はリューエを見ると笑顔で。


「あぁ、おはよう。少し早いね。まだカウンターは空いていないから、引き継ぎの前に少し話をしようか」


「は、はい」


 カウンターを交代する際は、職員同士で引き継ぎをする決まりになっていた。その時間まで少し余裕があるので、上司がリューエを呼び止めたのだ。


 上司は、リューエにいくつかの書類を見せる。


「実は新しく面倒を見て欲しい冒険者たちがいてね。若いんだけど、二人組とか三人組みが結構いるんだよ。ほら、隣が混乱しているんだけど、バンセイムがなだれ込んだからはじき出された人間も多いから」


 隣国があった場所には、すでにバンセイムの軍勢が入って統治を開始していた。魔物の討伐から、領地の確認と忙しく動き回っている。


 そんな中で、行き場を失った者。そして地位を失った者たちが、ベイムへと流れ込んできていたのだ。


「こ、こんなにですか?」


 数枚の書類の一つは隣国の現状を。


 残りは、東支部に来た冒険者たちの名前が小さくビッシリと書かれたものだった。


 上司はリューエに説明する。


「いや、最初だけ説明してくれればいいんだ。説明会もやっているが、騙されて明日には路地裏に転がっているかも知れない若者も多い。何回か仕事をしながら、こちらも人手の欲しいパーティーに声をかけるから。あ、全員ではないからね」


 全体で対応すると聞いて、リューエは安心した。自分が抱えている冒険者たちだけでも大変なのに、大量の冒険者の面倒は見きれないからだ。


「安心しました。これ以上は流石に……」


 リューエを見て、上司も頷いた。


「まぁ、色々と足りない新人冒険者たちは大変だからね。管理する方も色々と考えて仕事を回さないとだし。頑張ってね。分からない事があれば、マリアーヌに聞いてごらん」


 リューエは苦笑いをしてから、上司と別れて表のカウンターへと向かうのだった――。






 ――昼食後。


 休憩を終えてカウンターに戻ったリューエは、依頼を終えて戻ってきた冒険者の相手をしていた。


 笑顔を絶やさないように、そして相手をよく見て対応する。


「だ、駄目じゃないですか。依頼を途中で放棄するなんて。これだとギルドから報酬は出せませんよ」


 頭の中では、使えない新人冒険者に依頼を出してくれる依頼主に謝罪したい気持ちだった。また、休日に謝罪に行く必要があるかも知れないと、リューエは頭が痛くなる。


 目の前の二人組の冒険者は、汚れたままの姿で椅子に座っていた。カウンターに腕を置いて、リューエに対して。


「そんな事を言われても困るんだよ。半分はやったんだから、半分くれよ」


 ダラダラと報酬が欲しいと話しており、後ろに並んでいた冒険者たちはリューエのカウンターから離れて違うカウンターへと移動していく。


 人の流れが、リューエのカウンターだけまったく違った。


(どうしよう。まったくさばけない。他のカウンターに人が流れて……)


 新人担当だからと、他の冒険者の相手をしないとは限らない。忙しければ相手をするし、暇があれば手伝うのは当たり前だった。冒険者を待たせて仕事が遅れるのは、ギルドにとっても問題だ。


 相手は、数ヶ月前に冒険者になった若者たちだ。リューエよりも年下だが、言葉遣いは上から目線だ。


「なぁ、もっと融通を利かせてくれない? 俺たちも早く帰りたいんだ。半分出せば終わりじゃないか」


 問題行動が多く、新人教育枠になった冒険者たちだった。最初は普通だったのだが、田舎から出て来たのか、少しのお金が手に入っても遊び回るようになっていた。


「依頼は達成しないと報酬が出ないんです。半分とか八割でも、駄目なものは駄目です」


 何度も説明しても、二人組は納得しなかった。


 徐々に声が荒くなってくる。


「お前、俺たちの担当だろ? ちゃんとしてくれよ」


「それに、今日の依頼人とか最悪だったんだけど? 変な仕事回すなよ。俺らに『真面目にしろ』とか『休むな』とか、本当に五月蝿いんだよ」


 問題行動の目立ち始めた二人組だが、リューエは必死に説明する。


「それは、お二人が休憩時間外で座って仕事をしなければ当然で――」


 リューエの言葉が少しだけ荒くなると、冒険者の一人が舌打ちをした。


「ちっ、なんだよ。俺らの金で食ってるくせに。はぁ、前の新人担当は巨乳で美人だったのに、俺たちはお前みたいなチンチクリンが相手か。やる気でないんだよね」


 リューエは俯いてしまった。


 昔、新人の頃に手続きが遅く、冒険者に怒鳴られた事を思い出した。


(そう言えば、あの時に助けてくれたのもあの人だったな)


 死んでしまった冒険者を思い出すリューエ。


 そうしていると、周囲の職員がフォローに入るためにリューエに近付いてくる。しかし、冒険者の後ろから声がした。


「……いつまでダラダラやってんだよ。ガラガラだと思ったら、同じ事を何度も言いやがって。こっちは急いでんだよ。少しは考えろや」


 後ろにいたのは、エアハルトだった。いつものようにタンクトップで、大剣を背負っている。


 二人組が立ち上がってエアハルトを睨み付けるが、エアハルトたちには仲間もいた。離れていた仲間が集まり、二人組とは装備も違っている。


「なんだよ、やる気か?」


 エアハルトが凄むと、二人組の冒険者たちは慌ててカウンターから離れて行った。元々、失敗しており書類も持ってきていない。


 逃げるようにギルドから出て行くと、エアハルトたちに職員が近付いて。


「困ります。ギルド内で冒険者同士の私闘は禁じていますよ」


 眼鏡をかけた男性のギルド職員に注意をされ、エアハルトは頭をかいた。


「わ、悪かったよ」


 ただ、ギルド職員は注意をしつつも。


「それでは、受付を済ませてください」


 それ以上は咎めずに、エアハルトたちをすぐに解放した。男性職員が、リューエに近付き。


「間に合わなくて申し訳ない。あの手合いが来た時は、後ろに下がって強面の職員に頼ってください。それと、彼らの手続きをお願いします」


「は、はい!」


 リューエが返事をすると、エアハルトが仲間と話をして一人で対応する事にした。


 カウンターの前に座ったエアハルトは、ギルドでシャワーを借りたようだ。報告書をリューエに渡してくる。


 受け取ったリューエは、中身を確認した。


(ベイム周辺で魔物の討伐と、雑用系の仕事の二つ。評価は【B】か)


 外から戻ってきたエアハルトたちの報告書には、割と好印象の評価が書き込まれていた。


「えっと、評価【B】ですね。ご苦労様でした。報酬を用意しますけど、次の依頼はどうされますか?」


 すると、エアハルトは特に考え込む様子もなく。


「戦闘が結構きつくてさ。装備の点検をしてからだな。二つもこなしたし、しばらくは大丈夫だろ? 装備の整備とか時間がかかるなら、ベイム内の雑用系でも受けに来るわ。三日以内までには顔を出すよ」


「そうして貰えると助かります。ギルドカードの更新はどうしましょう?」


「次の依頼の前か後で頼むわ」


 リューエが報酬を用意すると、エアハルトは受け取って金額を確認した。そして、立ち上がると。


「ありがとよ」


 そう言って仲間の下に向かうエアハルトの背中を、リューエは見つめるのだった――。






 ギルド東支部に顔を出すと、一階のロビーの雰囲気が少し浮ついていた。


 何事かと思ったが、誰かにでも聞けばいいと思って俺はクラーラを連れてギルドの三階を目指す事にした。


 クラーラも、ギルド内の雰囲気を察したようだ。


「なんだか、少し楽しそうにしていますね」


 俺も頷く。


「そうだね。まぁ、依頼を確認したら話でも聞いてみようか」


 三階で空いている個室へと入ると、そこにはタニヤさんがいた。


 椅子に座り、個室で依頼内容の確認をする事に。だが、タニヤさんは割と真剣な表情で依頼の説明をしてきた。


 眼鏡の奥の視線が、いつもより鋭い気がする。


「よく来て頂けました。タイミングが良いですね」


 そう言われても、俺たちからすればタイミングが悪いとしか思えない。クラーラが、俺に視線で「変な依頼なら断ろう」と言っている。


「何かありました? また迷宮でも?」


 タニヤさんは首を横に振った。サラサラの黒髪が揺れた。


「違います。というか、現在も討伐中なんですよね。ライエル君たちが出ている間に、もう一つできましたから。南支部は少し戸惑っているみたいですが、こちらも冒険者の数が足りません」


 それは大変だろう。そう思ったが、俺たちも自分たちの事情がある。なんでも依頼を受ける事は不可能だ。


「受けられる依頼なら受けますよ」


「あぁ、たぶん大丈夫です」


 タニヤさんが苦笑いをした。事情を聞くと。


「輸送団?」


「はい。ベイムからガレリア、ルソワースへの物資の運搬をお願いします。以前の運搬は防衛戦もあって全てを運べませんでした。護衛と運搬を引き受けて貰えるなら、報酬は上乗せさせて頂きます」


 クラーラが提示された金額を見ると、頷いていた。


 悪くない金額だ。


 ただ、距離があるので、しばらくベイムから離れないといけない。


 宝玉内からは、五代目の声がした。


『戦争している国にベイムから物資を運ぶ、か。荷物は武器とかか?』


 物資と言うが、中身は商品だろう。中身自体は問題ではないが、俺も二国には興味があった。


「海路は使わないんですか?」


 タニヤさんは言う。


「小さな港しかないんですよね。それに、二国とも港を作りたがらないんですよ」


 ベイムが近く、海に面している二国にしては珍しい。場所が確保出来ないのだろうか?


 俺は書類を手に取ると、引き受ける事をタニヤさんに告げた。


「分かりました。引き受けます」


 タニヤさんは安心したようだ。


「助かります。ライエル君のところは、大きな荷物も大量に運べますからね」


 どうやら、大型ポーターの事は調べられているようだ。ダミアンがベイムに持ち込んだ時点で、目立っていたから仕方がない。


 クラーラは、書類を見ながら。


「参加する冒険者は私たちだけですか?」


 タニヤさんは頷く。


「二国の荷に手を出す者もいないと思いますが、優秀な冒険者を護衛につけておけば安心出来ますからね。それに、ライエル君ならロルフィスを通行する際に融通が利きそうですから」


 俺がいる事にも意味がありそうだ。


(そう言えば、今まではセルバも通っていたんだよな? 俺が参加すれば、以降もなんとか融通が利くと思ったか?)


 二国に堂々と入れるので、俺は気にしない事にした。


(……これが終われば、今日は本屋に寄ってから喫茶店か? でも、いつもと代わり映えがしないし)


 受ける依頼を決めると、俺はクラーラと帰り道にどこへ寄り道するか悩むのだった。






 ――宝玉内。


 ミレイアはライエルの記憶の部屋のドアを開け、そして中へと入った。


 そこはかつて、ライエルが軟禁されていたウォルト家の屋敷にある一室だ。寝室にはトイレも風呂も用意され、その部屋だけで完結していた。


 部屋には壁一面に本棚が用意され、大量の本が入りきれずに床にまで置かれている。


 ミレイアは、ドアを閉めると部屋を見渡した。


『随分と次期当主の部屋にしては――』


 不意に気配を感じ、ミレイアは一歩だけ前に出た。


『――相応しくない。当たりました?』


 子供の声がした。


 振り返り、視線を下に向けるとそこにはミレイアを見上げる少年の姿があった。


 青い髪、そして青い瞳。白い肌。普段見ている成長した姿ではなく、子供らしい姿。


 その少年は、笑顔でミレイアを見上げており、いつの間にか後ろに立っていたのだ。


『人の言葉を予想して先に言うなんて失礼よ。それに、いつの間にか後ろに立つのも駄目。さて、どうしてそんな事をしたのかしら……ライエル君』


 幼い少年は、ライエルだった。年齢は十歳頃だろうか? 笑顔で少年は両手を頭の後ろに回して、ミレイアに言う。


『スカートの中に興味がありました。子供の悪戯ですから許してください』


 可愛い顔でそう言う少年姿のライエルを見て、ミレイアは少し困惑した。


『知ってはいたけど、性格が違いすぎるわね』


 屈んでライエルの視線に顔を持って行くと、ミレイアは軽くデコピンをした。


『駄目ですか? 僕、真剣なんですよ? ミレイアさんが、どんなパンツをはいているのか見たいんです。子供時代の今しかできない事なんです!』


『はぁ……駄目です。そういうのはしてはいけません。ついでに、子供の姿をしているだけよね、ライエル君?』


『……隙がないですね。ま、やるなと言うからやりたくなるんですけどね。いつかそのスカートをめくってみせましょう』


 自信満々の少年ライエルを見て。


『どうしてここまで違うのか? というか、子供時代のライエルとも違いすぎますね』


 ミレイアがそう言うと、ライエルは歩き出して部屋の中に椅子を用意した。椅子の上をハンカチで拭き、埃を払うとミレイアに勧めて本人はベッドに腰掛けた。


 ミレイアはお礼を言うと椅子に腰掛けた。


『さて、次は貴方がライエルに色々と教えてくれるのかしら?』


 少年ライエルは、ベッドの上で不敵に笑うのだった。


『聞かれれば教えますよ。それに助言もしましょう。ただ、僕の本当の目的は――』


 部屋の中は窓の光が差し込み、その場所以外は薄暗い。


 薄暗い部屋で、少年ライエルは青い瞳を光らせ、口は三日月の形を作って白い歯が見えていた。


 ミレイアは、何かゾクリとするものを感じた。


『――見極める事ですけどね。今の『ライエル』を、僕『らいえる』が見極め、駄目だと思えば人格を奪わせて頂きます。ま、正確に言うなら返して貰う訳ですけどね』


 少年ライエル――いや、らいえるは楽しそうに微笑んでいた――。


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