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セブンス  作者: 三嶋 与夢
逸話とかかなり曲解されて伝わっているかもね十二代目
198/345

引き継ぎ

 迷宮討伐からベイムへと帰還した俺たちは、ギルドへと報告に向かっていた。


 ベイムに到着したのは昼頃で、屋敷に戻ってから報告書を確認してからギルド東支部へと向かった。


 モニカが抱きつき、それを引きはがしてと大変だったので少し疲れている。


 ギルドへと到着すると、当然だが三階へと向かった。向かって、そこで対応してくれた職員と向き合って驚いた。


 長い金髪と少したれた目。瞳は緑色で、ポワポワした雰囲気を出していた。


「あら、お久しぶりです~」


 語尾が伸びた感じで、個室に入った俺に対してニコニコとした笑顔を向けてきた。立ち上がって部屋にある飲み物を用意すると、机の上に用意していた。


「マリアーヌさん? え、なんで?」


 俺が困惑していると、マリアーヌさんは苦笑いをしていた。


「たはは、実は一階の新人専門受付嬢を首になってしまいまして。あれですかね? やはり年齢的にお姉さんでも歳が離れすぎましたかね? 手が届きそうで届かない存在が、新人担当に大事なんですけど」


 そんな役職だったのか? そう思ったが、今は深く聞かないことにした。というか、年齢の話に参加しても、今の俺ではきっと嫌味と思われるかも知れない。


 無難に話を逸らす事にした。


 宝玉からは、四代目が――。


『二十歳なんてまだ許容範囲内とか言ってあげれば? 実際、セルマさんとかもう三十六? だし』


 こいつは何を言っているんだ。そう思いつつもスルーして、俺は曖昧な笑みのままマリアーヌさんと机を挟んで向かい合うように座った。


「それは大変でしたね。あ、これが今回の報告書です」


 差し出した封筒を、マリアーヌさんが受け取って確認する。机の引き出しから書類を取り出すと、報告書と照らし合わせていた。


「……ギルドの報告書と差異がほとんどありません。書類は大丈夫ですね」


 書類関係はアデーレさんに頑張って貰った。だから、俺はヴァルキリーシリーズの試験運用に専念出来ていた。


 ただ、ヴァルキリーシリーズには大きな問題点がある。それは、俺が彼女たちのマスターにならないと、彼女たちの言う【ネットワーク】を構築出来ない事にある。


 そして、俺一人の負担が大きくなるのだが、問題は他にも沢山あった。


 ――金がかかる。動かすだけで金がかかる。戦えばもっと金がかかる。冒険者の集まった傭兵団が、資金集めに躍起になる理由が分かった。


「それは良かった。俺たちの方はしばらく装備の点検や休暇で動けませんので、また後日ギルドに顔を出します。依頼はその時にあるもので――」


 手続きを終えて、部屋から出ようとする俺にマリアーヌさんが微笑んだ。


「はい。お疲れ様でした。ゆっくり休んでくださいね」






 一階へと降りると、以前マリアーヌさんが座っていたカウンターに違う職員が座っていた。


 明るい感じの声が聞こえ、そこを見ると茶髪で可愛い系の職員がいた。マリアーヌさんよりも若く、そしてマリアーヌさんとは違う雰囲気だった。


 ポワポワではなく、キャピキャピしている感じだろうか?


 だが、やっているのは同じ事だ。


「凄いですよ! 前まで評価【D】だったのに、今は【C】ですからね。これだと、思ったより早く装備が揃いますよ。まったく、私の計画がいい意味で裏切られましたよ。これからも頑張りましょうね。私も頑張りますから」


 雑用系の仕事――それこそ、都市の清掃や手伝いなどでは、普通に貰える評価が【C】だ。


 優秀だと思われれば【B】で、【A】は滅多に出ない。出すと、追加報酬を支払う事になるからだ。


 まぁ、今までが酷く、そしてやっと普通の評価を貰えることになったのだろう。


「いやぁ、俺たちが本気を出せばこれくらい簡単だって」


 笑顔で新人冒険者たちを褒めつつ、前のめりになって身振り手振りで若い冒険たち――新人を褒めていた。装備の質も悪く、それでいてすぐに報告に来たのか汚れていた冒険者たちに、笑顔で対応していた。


(代りがいるわけだ。マリアーヌさんより若いな? 俺と同じか少し下かな?)


 年齢的な制限がそれほど強いとも思えないが、新人担当の職員は少し改造した制服を着て笑顔で新人の相手をしていた。


 相手の顔をどこかで見た。


(……リューエさん、だったか?)


 なんとも似合っているように見えたが、どうしても裏があるように感じてしまう。


 そうしてカウンターを見ていると、俺と同じようにその場所を見ている一団がいるのに気が付いた。


 エアハルトたちだ。


 上はタンクトップ姿で、季節にあっているが冒険者として急所を晒しているのはどうかと思った。背負っている大剣は普通の大剣だが、名前はグラムだ。


 仲間たちを引き連れ、その場所を複雑そうに見ていた。


 そして、仲間に声をかけられたエアハルトが、違う受付に並ぼうとすると――。


「あ」


「やぁ」


 ――俺と目が合った。






 ギルドを出て、エアハルトたちから話を聞こうと店に入った。


 量の多い食事を提供する店で、味も悪くないので稼げない冒険者にしてみればありがたい店であるようだ。


 俺は食事を済ませているので、飲み物だけを注文してエアハルトたちの食事を見ていた。


 普段は女性に囲まれ、食事はもっとお淑やかというかそんな感じだ。しかし、エアハルトたちは遠慮がない。


「あ、店員さん、ステーキのおかわり! 同じので!」

「俺も!」

「パンも追加で!」

「飲み物は果汁を搾った奴ね! 氷入り!」

「デザートは果物を軽く凍らせた奴ね。人数分よろしく!」


 なれた感じで店員さんも対応していた。周囲もエアハルトたちの食事を見て、俺に苦笑いをしてきた。


 話を聞くのにタダというのもアレだったので、食事を奢ることにした。本人たちはメニューを高い順番で大量に注文していた。


 遠慮がないのだが、逆に微笑ましかった。


「ここにはよく来るの?」


 すると、エアハルトは追加のステーキがくるまで、俺と会話をする。


「馬鹿にしてんのか? お前からすればこんなところだろうが、ここは成り上がった冒険者も懐かしんで足を運ぶ名店だぞ。ベイムで一番の店だ」


 何を言っても喧嘩腰だが、前のように決闘を挑んでくることはない。


 俺はメニューを見た。稼げない冒険者のために、安い食事を提供しているのが分かる。


「いや、いいところだと思うよ。俺も前はこういうところで食事もしていたし」


 懐かしい。冒険者に成り立ての頃は、こういったところで食事をした。


 宿屋に寝泊まりをしており、家事などできなかった頃だ。ダリオンでは、一軒家に住むようになってからも、依頼をこなしてクタクタになると外食をしていた。


 あの頃は、ノウェムと二人。そして、途中でアリアが加わって、色々と拙く頼りなかったと思う。


「……どうせ女連れだろ? いいよな、顔の良い奴は」


 エアハルトが妬ましそうな顔を俺に向けてくるが、エアハルトも顔は悪くない。もっと身なりを整えれば、女性を引き連れていても……。


(そういえば、カルタフスにはラルクがいたな)


 エアハルトと同じ大剣を背負った冒険者だが、あちらは微妙だった。


「まぁ、そこは」


「けっ! で、聞きたいことってなんだよ」


 俺はマリアーヌさんの事を聞くことにした。エアハルトたちは、今では冒険者として依頼をこなし、ベイム周辺で魔物を倒して生活出来る程度には働いている。


 立派な冒険者と言えるし、そこまで育てたマリアーヌさんがどうして新人冒険者の担当から外されたのか気になったのだ。


「マリアーヌさんの事なんだけど」


 すると、エアハルトたちの食事が止まり、それぞれが俯いて悔しそうにしていた。何かあったのかと思っていると、エアハルトがポツポツと語った。


「……あの女、俺たちを裏切りやがった。才能があるとかいっておだてて、本当は裏で笑っていやがった。他の冒険者にも聞いたけど、新人をいいように騙して仕事をさせる職員だったんだよ。三階の受付に回されて出世したから、猫をかぶる必要もなくなったんだろ。どうせ、有能な冒険者たちに嘘っぽい笑顔でも向けてんだよ」


 何か、エアハルトたちとの間に問題が起きたようだ。詳しく話を聞いていると、前の魔物の大軍勢の件で、エアハルトたちが参加を希望したようだ。


 そして、参加をしつこく止めるように言ってきたという。


 城壁の外の依頼は、報酬が破格だ。それにつられて参加を希望したのだろうが、エアハルトたちは参加しない方が良かった。


 下手をすれば死んでいたからだ。


 俺がエアハルトたちの誤解を解こうと、口を開きかけると宝玉からミレイアさんの声がした。


『ライエル、今は駄目よ。頭に血が上っているみたいだし、いくら言っても納得しないわ。もう少しだけ人として成長して、この件で笑えるようになったら教えてあげなさい。冒険者として生き残れば、いつか笑える日が来るから。その時に、教えてあげるのね。実力はありそうだし……そこまで基礎を教え込んだマリアーヌって子は、大事にこの子たちを育てたんでしょうね』


 すぐに誤解を解かなくていいのかと考えたが、確かにエアハルトたちはどこか引きずっていた。俺の言葉で納得するとも思えない。


(俺にとっては、ダリオンで受付を担当してくれていたホーキンスさんみたいな感じかな?)


 懐かしく思った。いるだけで威圧感があったが、とても丁寧な対応をしてくれたのを思いだしてしまう。


「そっか……」


「そうだよ。もういいだろ? 馬鹿な俺たちが騙されたのが悪いんだよ。笑っていいぜ」


「笑わないよ。話してくれてありがとう」


 俺は、話を聞けたのでお礼を言うことにした。すると、エアハルトたちが注文した追加の料理がタイミング良く運ばれてきたのだった。エアハルトたちは、嫌な話を忘れるように目の前の料理にかぶりついていた。






 休日。


 買い物に出かけた俺は、メイとモニカを連れて市場に来ていた。


 迷宮討伐から帰還し、装備の点検を済ませて修理の必要なものは整備を依頼しておいた。次の依頼を受けるまでの期間を休暇に充てる事にしたのだ。


 人通りの多い市場で、俺はモニカが次々に購入する食材の荷物持ちをする。肉や魚に野菜よりも、主に調味料の購入が多かった。


「はぁ、本当はチキン野郎と二人が良かったのに。屋敷にはポンコツとか、ポンコツの量産型とか、あの量産機三体がいて、チキン野郎とイチャイチャできないのに……」


 モニカが愚痴をこぼす相手は、メイだった。市場に行くというと、ついてきたのだ。目を輝かせて、市場を見て回っていた。


 俺は茶紙の袋に入った荷物を持ちながら、斜め後ろにいたモニカに振り返ると。


「いつ俺がお前とイチャイチャした?」


「照れないでください。このモニカ、チキン野郎の愛情は分かっていますから。例え暴力を振るわれても、私の中ではそれも愛情表現ですから」


「いや、暴力とかないわ。そんな愛情は嫌だ」


 モニカの発言に引きつつ、俺は視線をメイに向けた。肩出し、ヘソ出しのタイトなミニスカートという恰好だ。


 ベイムでは道行く人が興味を示さないが、これが他の街ならモニカ共々視線を集めただろう。


 メイは、珍しい果物を見ていた。


「なにこれ! ねぇ、なにこれ!」


 果物を取り扱っているおばさんが、メイに笑顔で説明する。


「海を越えた場所から取り寄せた果物だよ。皮は食べられないけど、半分に切って中身をスプーンですくって食べるのが一般的だね」


 表面は黒か紫か? そんな果物を手に取ると、モニカがソレを見て。


「おや、こんなものまで。購入しておきましょうか」


 いくつか購入すると、おばさんが荷物を持っている俺を見て、小さな袋に詰めて茶紙の袋に入れてくれた。


「お嬢ちゃん、これはサービスだ。また来ておくれよ」


 メイが足を止めたので俺たちが購入したので、おばさんがメイにサービスで購入した果物と同じ物をメイに手渡していた。


 メイは果物を受け取り、嬉しそうにしていた。両手で持って今から食べるのを楽しみにしている様子だった。


 俺は、店に並んだ果物を見ながら。


「本当にベイムはなんでも手に入るな」


 すると、おばさんが大声で笑った。


「それはそうさ。ここは大陸で一番発展している都市だからね。大国の大都市にだって負けてないよ」


 俺は苦笑いをする。七代目が棘のある発言をしてきた。


『だろうな。周辺国や多くの国から金やら物資、そして血を絞り上げ、その利益で豊かになった大都市だ。本当に恐ろしい都だよ』


 だが、おばさんは少しだけ表情が曇る。


「ただ、最近だとルソワースとかガレリアがまた戦争を始めるとか聞くからね。また手に入らない物が出てくるよ。あの二国も困ったものさ」


 ルソワースとガレリアは、互いに長年戦い続けている国同士だ。現在のロルフィスの向こう側に位置している国々である。


 三代目が嫌そうな声を出した。


『なに? この忙しい時期に? 秋を過ぎたら戦争するのが普通なんだけど。それとも、外国は忙しい時期が違うのかな?』


 領地規模的には、残っている領主の中で一番小さいのが三代目の時代だ。そうした時季外れな動員に不満の声を上げている。


 ただ、四代目の方は違う。


『それなりに大きな国です。体裁を保つ程度でいいのでは? そこまで動員をしない事もありますよ。それに、騎士もいるでしょうし、ここは土地柄傭兵を雇って数を揃えているのかも知れませんよ』


 五代目は四代目の意見を聞いて嫌そうに。


『傭兵を雇うのも金がかかる。ま、攻め込んだ先で略奪させるのかも知れないけどな。はぁ、嫌だねぇ』


 考え込んでいると、メイがおばさんからナイフを借りて果物を半分にした。そして、片方を俺に手渡してくる。


「はい、ライエル」


「え? あぁ、ありがとう」


 空いている手で受け取ると、中には果肉が詰まっていた。果汁が溢れ、手がベタベタとする。


 かじりつくと、その甘さに少し驚く。


「なんだろう。知っている果実と少し違う」


 メイも同意見のようだ。


「だよね! これ美味しい」


 モニカは俺たち二人を見て。


「南国の果物ですね。トロピカルな感じです」


 すると、おばさんがモニカを見て笑った。


「お嬢ちゃん知っていたのかい? まぁ、確かに南国の果実は少し独特だね。なるほど、確かに『とろぴかる』って感じだわ」


 モニカは笑顔で。


「熱帯的です」


 こいつは何を言っているんだと思いながら、俺は二人を連れて買い物の続きをする事にした。


 おばさんにお礼を言う。


「ありがとう。またいつか寄らせて貰うよ」


「果物ありがとう!」


 メイも笑顔でおばさんに手を振っていた。ただ、俺の方は果物ばかりに関わってもいられない。


(ガレリアとルソワースか。接触してみる時期かも知れないな)


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