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セブンス  作者: 三嶋 与夢
骨肉の争いとかないといいね十一代目
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第十一章 エピローグ

 ベイムで開かれた戦勝記念パーティー。


 それは、色んな意味がある中で開かれた。あまり戦わなかったベイムだが、今回の戦いはあくまでベイムの勝利であると示すために開かれたのだ。


 参加したギルドの幹部職員。


 そして、商人たち。


 有名な傭兵団の団長たち。


 そんな中で、俺はヴェラと共に参加していた。他のメンバーは屋敷で待機だ。何故なら、呼ばれていないのだから。


 ヴェラの関係者として出席すると、周囲の視線が俺に集まった。


 忌々しそうにするフィデルさんの視界の隅で、ヴェラとイチャイチャするという煽りを歴代当主の指示で実行している。


「これ美味しいな」


 料理を食べる俺に、少しだけヴェラが呆れていた。理由は周囲の反応である。俺が参加すると思っていなかったので、視線がやたらと集まるのに誰も声をかけてこない。


「まったく。パーティーに参加したいとか言うからおかしいと思えば……。どうして参加したの? ライエルには面白くないでしょうに」


 ザインの戦勝パーティーとは違う雰囲気だが、並んでいる料理や酒は高級な物ばかりだった。


 俺はそれらを見ながら。


「いや、ベイムの底力を見てみたくて。あれだけ散財させたのに、まだこれだけの力があるとかおかしいよね」


 宝玉内の四代目も同意していた。


『まったくだ。まだまだ搾り取れるという事だからね。搾り取るのも大変なんだけど』


 まぁ、頑張った俺たちを無視して、パーティーなど開いていると聞いたので冷やかしに来たのが半分。そして、フィデルさんを煽るためにヴェラと共に会場に乗り込んだのが残り半分。


 もう少しだけ意味を求めれば、ベイムに対する挑発行為であった。


(……なんだろう? 俺って、ベイムにしてみれば疫病神じゃないかな?)


 無理だと思った砦の防衛を成功させ、ベイムに損をさせたのが俺だ。大量の武具がベイムに保管されていたが、そのほとんどを魔石や素材と交換でザインやロルフィスに押しつけて問題を解決していた。


 ただ、それらの行動も、ベイムにはたいした痛手ではない。すぐにそれだけの損を取り戻せる力がベイムにはあるからだ。


 他の商人と話をするフィデルさんの視界の端で、俺はヴェラの手を握った。


 フィデルさんは相手と談笑をしていたが、その様子を見ながら三代目が爆笑していた。


『チラチラ見ているね! 気になっているね!』


 周囲を挑発しながらパーティーを楽しんでいると、笑顔で商人らしき青年が近づいて来た。爽やかな印象のある青年はどこかで見たことがあった。青年は俺を見ながら。


「これは聖騎士殿。今回の防衛戦での活躍は聞いております。わが家の支援は役立ちましたかな?」


 相手は俺が支援を求めた家の関係者。跡取り息子だった。道理で見たことのある顔だと思っていると、俺も笑顔で。


「はい。おかげで勝利することが出来ました。感謝しております」


 素直にお礼を言う。


 青年はそのまま世間話をすると、周囲を見ていた。つまり――。


(俺の家はちゃんと支援したぞ、って見せたいのか)


 俺を利用している訳だが、俺も十分に支援して貰った。だから、別にこの程度なら煩わしいとも思わない。むしろ、大歓迎だ。


 ただ、この機会を逃さないのが歴代当主たちだ。


 ミレイアさんが言う。


『ライエル、この青年に見えるようにヴェラちゃんの手を握って! 恋人のように握って! 手のひらを合わせる感じで!』


 興奮するミレイアさんの指示に従うと、俺はヴェラの手を指示通りに握った。何を考えているのかと思うと、青年が俺とヴェラを見て。


「おっと、お邪魔だったようで。申し訳ありません。しかし、トレース家のお嬢さんと仲が宜しいのですか?」


 青年が聞いてくると、五代目の声がした。


『おっと、お義父さんの登場だ』


 笑い声を上げながら背筋を伸ばして近づいて来たのは、フィデルさんだ。俺たちの様子を見ており、我慢出来なくなったのか、それともようやく集まってくるパーティーの参加者たちから抜け出せたのか。


 俺たちに近付いてくると。


「ヴェラ、友人を招待するのはいいが、少し近すぎないかな?」


 娘には笑顔で。そして俺には冷たい視線を向ける笑顔のフィデルさんに、俺は挨拶をした。


「嫌ですね“お義父さん”」


 すると、フィデルさんが周囲の誰からも見えないように俺の足を踏みつけた。


 七代目が宝玉内から怒鳴る。


『貴様! ライエルになんてことを! ただ煽るだけでは終わらせんぞ!』


 踏まれて痛いが、我慢出来ないものでもなかった。ただ、青年は雰囲気を察したのか、笑顔でその場を去って行く。


 すると、フィデルさんが周囲に聞こえない声で。


「小僧……調子に乗るなよ。貴様くらい、いつでも踏みつぶせるのだよ。こういう風に、な!」


 踏んでいる足に力を入れようとするフィデルさんだが、急に冷や汗をかきだした。


 足元を見ると、ヴェラがヒールの部分でフィデルさんの靴を踏んでいたのだ。


「ヴェ、ヴェラ……お父さん、痛い」


 表情を崩さないのは流石だと思ってみていると、ヴェラも笑顔で。


「なら、その足をどけてくれるわよね? それと、ライエルを潰すなら、私も敵に回るからね」


 俺の足から離れたフィデルさんは、ヒールで踏まれた足が解放された。革靴にヒールの跡がついていた。


「ヴェラ、考え直すんだ。こいつは駄目だ。男として許すことが出来ない。だいたい、屋敷で十人以上の女性を囲っているような奴だぞ? どこがいいんだ」


 パーティー会場では、すでに俺だけが視線を集めている状況ではなかった。周囲が俺とトレース家の関係を気にしながら、チラチラと視線を向けてくるのを感じる。


 すると、俺たちのところにギルドの幹部職員らしき人物が現われた。本部ではなく、どこかの支部の幹部だろう。


 俺たちを見ながら。


「これはフィデル殿。ライエル殿とはお知り合いでしたか?」


 警戒しているのが理解出来た。スキル――オール、サーチ――で感じているのは、相手の護衛が警戒しているのと、隠しているが敵意を向けていることだった。


 俺は相手に見えるように、ヴェラと繋いだ手を見せつつ。


「えぇ、今回も沢山支援していただきました。勝利出来たのはトレース家の助力があればこそ、ですね」


 わざと今回“も”と強調しつつ、俺はフィデルさんに視線を向けた。忌々しいと思っているのだろうが、フィデルさんは表情を崩さない。


「そう言って貰えて何よりだ。時に、南支部は随分と大変そうではないかね?」


 フィデルさんの言葉からするに、相手はギルド南支部の幹部なのだろう。


(南支部は傭兵団専門みたいなところだったな)


 相手は肩をすくめ。


「傭兵は雇われて成果を出さなければ儲けが少ないですからね。今回は大量の魔物を倒す意気込みでしたが、誰かに邪魔をされてしまいまして」


 幹部の反応が、黄色から一瞬だけ赤に変った。俺は笑顔で幹部を見ながら。


「それは残念でしたね。閉じこもっていないで要塞に来れば稼げたでしょうに」


 ――挑発した。背中は冷や汗が流れているが、これを指示したのは当然ながら歴代当主たちだ。


 特に七代目がノリノリだ。


『ライエル、言ってやりなさい。臆病すぎれば稼げないのは当然だと。ついでに殺意はもっと上手く隠すように教えてあげなさい。それから最後に……煽れ! もっと煽るんだ!』


 傭兵団のまとめ役である幹部に対して、かなり七代目はあたりが強かった。


 俺は幹部に聞こえる程度の声で。


「殺意はもっと上手く消すべきです。それに、お隣の護衛は先程から俺を警戒しすぎですよ」


 笑顔で言うと、南支部の幹部は表情を変えなかった。


「なんの事でしょうね? 戦場で疲れたのではありませんか? こんな場所に出てこないで、ゆっくり休むべきでは?」


 この程度では気にもしない。表面上は取り繕っていたが、相手は我慢しているのが分かった。六代目のスキルであるサーチで、南支部の幹部と護衛が真っ赤に表示されているからだ。


 他にも、周囲で俺に敵意を向ける存在が多い。


(……なんで俺は、こんな場所に来ているんだろう。ほとんど煽るためだけに来たとか、絶対におかしいよ)


 パーティーが終わるまで、俺はヴェラと会場で楽しんでいるふうに装うのだった。






 次の日。


 屋敷で目を覚ますと、朝から駆け込んできたラタータ爺さんの孫である青年【ゴルズ】が叫んでいた。


 屋敷の庭にある大きな倉庫の前で、ラタータ爺さんに泣きついている。


「帰って来てよ、爺ちゃん! トレース家から大砲を十二門も注文が入ったんだ! こっちはクタクタなのに急げとか言ってくるんだよ! しかも銃関係もだよ。間に合わないよ!」


 どうやら俺が要塞に置いてきた装備の関係で、ラタータ爺さんの鍛冶屋が困っているらしい。ランニング姿で表に出て来たラタータ爺さんは、歯磨きをしていたのか手にはコップと歯ブラシが握られていた。


 だが、笑顔で。


「悪いがわしはもう趣味に生きる。正直、義息子に仕事を丸投げ――いや、任せる時期が来たと思った。義息子に言っておいてくれ。『もうお前の時代だ』って」


 眩しい笑顔だった。正直、義息子に仕事を放り投げて趣味に生きている凄腕の職人というのも質が悪い。


 屋敷一階の窓からその様子を見ていると、ゴルズが叫んだ。ゴルズの隣には木箱があり、何か荷物を持ってきたようだ。


「おい爺! 今、丸投げとか言い直しただろ! 頼むから戻ってきてくれよ! 仕事が間に合わないんだよ」


 ラタータ爺さんは楽しそうに親指を突き立てて。


「頑張れ。仕事があるのはいい事だ。それに、そういった環境で腕も磨かれていくから大丈夫だ」


「爺! お前が変な仕事を受けるからこうなったんだよ! トレースの当主に爺から納期をどうにかするように言ってくれよ!」


 泣き出しそうなゴルズを見ながら、俺は悪い事をしたと思うのだった。しかし、そんな孫を見てもラタータ爺さんは木箱の方が気になるらしい。


「で、それはなんだ?」


 ゴルズも木箱に視線を向けると、溜息を吐いて木箱を開けるのだった。


「返して貰ったカタナを整備したんだよ。それと、新しく作った奴も持ってきたんだ。というか、俺はこの依頼を受けないと駄目かな? 仕事とか山積みなんだけど」


 ラタータ爺さんはカタナを木箱から取り出すと、抜いてみて片目をつむって刃を見ていた。


「ふむ、前よりも良さそうだな。ま、しばらくは仕事中心で良いだろ。フィデルの小僧にはわしからも話をしておく。しかし、これは絶対にサーベルとは別物だよな」


 ラタータ爺さんは、モニカが似たようなものだという話をやはり信じていないようだった。


「……頼むよ。というか、これ以上は時間がないからしばらくは無理だから。依頼人にも言っておいてくれる?」


 ゴルズは用件を伝え終わると、そのまま屋敷から出て行くのだった。すると、俺が見ていたのを気付いたラタータ爺さんが手招きをしてきた。






 戦場で使用したカタナの整備、そして新しいカタナを受け取った俺は使い心地を試していた。


 新しい刀は刃渡りが短くなっており、振り回しやすくなっていた。


 屋敷の庭で振り回してみたが、柄の方も両手持ちが出来るようになっており扱いやすい。


 その様子を見たラタータ爺さんは、気になる点をメモしていた。


「あの嬢ちゃんの指示通りに作ってみたが、こいつはまた壊れやすい武器だな。希少金属でも鉄なんかじゃまったく駄目だ」


 庭でカタナを振っていた俺を見ているのは、ダミアンも同じだった。


 倉庫から出て来て、メイドに世話をされながら俺の方を見ていた。カタナよりも、ヴァルキリーについて聞きたいことがあるようだ。


「それより、あの三体の事なんだけどさ。割と整備が面倒なんだよね。次からは簡略化して量産するつもりだけど、何か要望はあるかい?」


 ダミアンはヴァルキリーから得られるデータが欲しいのか、積極的である。実際、ヴァルキリーの開発でダミアンの研究は大きく進歩していた。


「あぁ、そっちは魔力の消費を抑えて欲しいかな? 数が多いと魔力の消費が馬鹿にならない」


 すると、ダミアンはアゴに手を当てて考えながら。


「そうなると別で魔力を供給する訳だ。体の中にそんな装置を組み込むと場所が……」


 それを聞いたラタータ爺さんが一言。


「外付けでよくね?」


「それだ!」


 二人は笑い出すと、そのまま倉庫へと戻っていく。どうやら、新しい発想でも生まれたのか、作業に取りかかるようだ。


 俺はそんな二人についていくオートマトンの三人の背中を見送りつつ。


「……ラタータ爺さんも普通に住み込み扱いになって来た」


 そう言うのだった。


 誰もいない庭で頭をかくと、俺は空を見上げた。


「今日は宝玉内で話でも聞くか」






 宝玉内。


 俺の記憶の部屋へと入ると、当然のようにミレイアさんがついてきた。


 セプテムさんに会いに行くのだが、今回は大都市がかなり荒廃していた。道を歩くと、やせ衰えた人々が建物の壁に寄りかかって座っていた。


 空は曇っており、活気がまるでなく今にも廃れそうな大都市がそこにはあるだけだ。


 ミレイアさんの前を歩くと、前回以上に酷い光景に俺は顔をしかめた。


「どうしてこんな事に」


 理由は分かっていた。そして、分かっているが、ここまで酷いことになるとは考えつかなかった。その前になんとかできたのではないか? そう思えて仕方がない。


 ミレイアさんが言う。


『セプテム様が一人で支えていたのよね。魔法使いの弟子を育ててはみたけれど、弟子たちはセプテム様のように献身的に民には尽くさなかった。やがて、何もできない民を捨ててここから姿を消したのよ』


 そうして魔法を覚えた者たちが、技術を他の国に持ちだした。ミレイアさんは、貴族の始まりだと告げた。


『こうして魔法を得た魔法使いたちが、この大都市の光景を戒めにしつつ自分たちの地位を確立していくのよね。より優秀な者と子孫を残し、少しでも魔法技術を磨いて……新しい支配者層が誕生したのよ』


 俺たち貴族の始まりである。今までの貴族が明確に魔法使いではなかったのに対して、魔法使いこそが貴族という流れが生まれる原因になっていた。


 セプテムさんの屋敷は朽ちており、屋根も一部がなくなっていた。


 廊下を歩いて空を見上げると、灰色の雲が見えた。


 ミレイアさんが言う。


『歴代のセプテム様たちの中で、彼女は優秀だった。優秀過ぎた。そして、優しすぎて全てを駄目にしてしまった。より発達した魔法を大陸に広めてしまう結果を生んだのよね』


 セプテムさんの部屋に入ると、そこではベッドが朽ちており老婆姿ではないセプテムさんが椅子に座っていた。


 幼い少女は、椅子に座って俺たちを見つけると声をかけてくる。雰囲気は、確かにセプテムさんのものだ。しかし、声は幼かった。


『あら、本当にタイミングが悪いわね。もう少しすれば、ループして村だったときの光景が広がるというのに』


 セプテムさんがそう言うと、俺は苦笑いをした。そして――。


「今日は聞きたいことがあります」


『何かしら?』


 俺は前から疑問に思っていた事を聞く。それは、セプテム――アグリッサの倒し方だった。


「三百年前にアグリッサは討たれました」


『そうね』


「ですが、倒し方はどこにも記録されていません。セレスを止めるために、どうしても俺たちにはアグリッサに勝った手段が知りたいのです」


 俺の真剣な表情を見て、幼いセプテムさんは少し困った表情になった。俺たちでは倒せないと思っているのか? そう思っていると、セプテムさんは口を開いた。


『悪いけど、アグリッサはスキルを作り出せるのよ。そして、それを扱える体もね。どんなスキルを持っているか想像もつかないわ。全てを扱えるかも知れない。……けれど』


 けれど――そう言って、セプテムさんは椅子から立ち上がると俺の前に立った。


『それはライエルも同じよ』


「俺も?」


 セプテムさんは微笑んだ。微笑んで、俺という存在がいかに奇跡なのかを語ってくれた。


『歴代当主たちが青い玉を持ってスキルを受け継ぎ、その体を支援系に特化したものに変えてきた。それを受け継いだライエルは、支援系のスキルを扱うのに長けているのはある意味で当然ね』


 初代が安いからと購入した玉のおかげで、俺たちウォルト家の人間は支援系のスキルを発現しやすく、そしてより強力になるという。


 代を重ね、そして磨かれた支援系に特化した血――。


『ライエル、貴方のエクスペリエンス、そしてコネクションは本来存在しないスキルよ。別物に見えて、それはある共通点がある。奪われ続けた貴方が求めたのは【経験】――つまりは。エクスペリエンスは経験を多く得る……つまり、より先を目指した【未来】を。コネクションは共通の経験を得る【現在】を。三段階目はまだ分からないけど、きっと【過去】に繋がると思うわ』


 俺のスキルはバラバラで共通点がないと思っていた。だが、経験という共通点があるらしい。


「なんか、最後が過去というのはおかしいですね。普通は逆の方が良くないですか?」


 セプテムさんは笑った。


『そうね。でも、今のライエルは歴代当主という過去の知識や経験を手元に持ち、彼らの武器を現在も扱っているわ。そして未来も得ようとしている。スキルとは真逆ね。もしもセレスに勝てるとしたら、ライエルのスキルが鍵になるかも知れないわね』


 俺は少し考えた。


 俺のスキルが、もしも存在しないものならアグリッサやセレスも理解していないはずだ。確かに勝つための重要な鍵となるだろう。


 すると、ミレイアさんに肩をポンポンと叩かれた。


 振り返ると、ミレイアさんはセプテムさんを見ていた。俺もセプテムさんを見ると。


『……どうやら、宝玉は私が伝えることはここまでと思ったみたいね』


 セプテムさんが光に包まれると、周囲の光景も金色の粒になり風に揺れるように消えていく。


「え、あの! まだ聞きたいことが!」


 セプテムさんは首を横に振った。


『それは次の人に聞きなさい。それと……これは不確かだけど、宝玉は事実を知っているわ。私はソレを伝える役目ではなかったのね』


 セプテムさんが笑顔のまま金色の粒になって消えていくと、俺の伸ばした手はなにも触れなかった。


 ただ、声だけはした。


『大丈夫。次の人が教えてくれるわ……頑張ってね、私の子孫さん』


 セプテムさんのクスクスと笑う声を聞きながら、俺は唖然とするといつの間にか円卓の間に転移していた。


「……そうか、俺はセプテムさんの血も引いているのか」


 当然だが、忘れていた事実を思い出した。セプテムの記憶をセレスが受け継いでいるということは、俺にもセプテムさんの血が流れているというわけだ。


 ミレイアさんが少し呆れていた。


『まったく、そんな事も気付かないで』


「でも、普段から歴代当主たちと話をしていれば、俺はこの人たちの子孫なんだ、って……逆に他が想像出来ません」


 ミレイアさんは俺に優しく言うのだった。


『ライエルが生まれるまでに、多くの人が関わっているのは当然でしょうに。ウォルト家だけじゃないわよ。その奥さんたちの一族だって関係しているんだから。直接関係がなくても、沢山の縁があってライエルがいるのよ』


 どこかとんでもない話に聞こえるが、それが当然なのだと気付かされた。


 俺だけではない。全ての人間がそうなのだ。


「……考えさせられますね」


『でしょう? さて、次はどんな人が出てくるでしょうね。楽しみにしておいてね』


 ミレイアさんは口ぶりから知っている様子だった。


(……そう言えば、この人も最近はノリノリで忘れていたけど、宝玉の案内人だったな)


 今回、セプテムさんからは色々と教えて貰った。


 魔法に関して。スキルに関して。女神に関して。


 そして――ノウェムに関しても。


 俺が女神に縁があるのは、きっとセプテムさんの血を引いているからではないだろうか?


 そして、ウォルト家がたまたま購入した玉で、支援系のスキルに特化した体を受け継いできたことも知ることができた。


(……歴代当主の有力なスキルが発現したのは、これも理由の一つか。そうなると、玉には新しい価値が生まれるな)


 色々と考える事は多いがまとまらない。円卓の間を振り返ると、こちらを歴代当主たちが見ていた。


 三代目がいつものように笑顔で。


『なにか進展はあったかな?』


 そう俺に聞いてくる。眼鏡を外した四代目は、レンズを拭きながら俺たちに対して。


『今の話しぶりだと、セプテムとの会話は区切りがついたみたいだね。さて、俺たちにも聞かせて貰おうか』


 五代目は相変わらず興味なさそうにしているが、俺を見ると。


『ま、話してみろ。一人で抱え込むよりずっと楽だぞ』


 そう言ってきた。最近では、五代目の事を少しだけ理解出来た。普段興味なさそうにしているのは、照れ隠しに似たなにかだ。


 七代目は、俺を見てからミレイアさんに視線を送り。


『そう言えば、叔母上は一応案内人でしたね。三代目と騒いでいるので忘れていましたよ。二人とも性格が悪いという共通点が――』


 笑顔でミレイアさんに嫌味を言う七代目だったが、その言葉が最後まで続くことはなかった。


 俺の隣にいたミレイアさんが、笑顔で七代目の顔に拳を叩き込んでいた。いつの間に移動したのか? そして、意外にもミレイアさんが実力者に見えてきた。か弱い印象が拭き飛んで……いや、最初からなかった。


『もう、ブロード君の意地悪。ミレイアお姉さんも怒るわよ。昔はあんなに可愛かったのに』


 七代目が鼻を押さえながら。


『昔の事は忘れました』


 そう言うのだった。


 ミレイアさんは、少し呆れたように肩をすくめつつ。


『相変わらずね。ま、兄さんの息子として大変な思いもしたでしょうし』


 何やら七代目も色々と抱えているようだ。それを感じたことは生きている時にはなかった。しかし、宝玉内ではいくつか気になる事も言っていた。


 六代目に対して意地になっている部分もあったようだ。


 すると、ミレイアさんは五代目の顔を見ていた。五代目が気付くと。


『なんだ?』


『父上、この際ですのでライエルに父上の記憶を見せてください。ほら、まだ見せていない大事な部分があるでしょ』


 五代目が露骨に嫌な顔をすると、真顔で拒否してきた。


『断る。だいたい、俺の記憶はライエルに関係ない。今は効率重視だ』


 ミレイアさんが笑顔で言うのだ。


『大事だと思いますよ。これからのライエルには必要な事ですし、何よりも責任を感じていますよね? ウォルト家がこれまで暖かい家庭を目指していたのに、自分の代でそれを崩してしまったことを』


 五代目は立ち上がるとそのまま自分の記憶の部屋に戻っていった。


「あの」


『怒らせちゃった』


 少し舌を出して、片目を閉じたミレイアさんはそう言ってから、少しだけ悲しい表情をするのだった。


 四代目が気になったようだ。というか、心当たりがあるらしい。


『……隠している秘密を暴くのもよくないと思うけどね。それでもライエルに知って貰いたいのかな?』


 ミレイアさんは頷いた。頷いてから、七代目に視線を送っていた。






 ――ベイムの隣国には、バンセイムの軍団が進軍していた。


 魔物によって破壊されたかつての首都に入った騎士たちは、バラバラに散っていった魔物の排除を進めていた。


 新しく手に入れた土地は、バンセイムの直轄地になる予定だ。いずれは褒美として誰かに領地を割譲するかも知れない。


 そんな中で、首都でまだ使える建物に本部を置いていた将軍のところに報告が来た。


「将軍。ベイム方面に出した偵察の話では、ベイムは無事なようです。要所を要塞化して魔物の大軍勢を退けたとか」


 話を聞いた将軍は、それを聞いて笑った。


「凄いじゃないか。流石にベイムは落ちなかったか。まぁ、落ちて貰っても困るんだがな。あそこまで進軍しろと言われると、骨が折れる。それに、あそこは交易を行なっているから、落ちると色々と面倒なんだ」


 中年の将軍は椅子に座ると書類の山を片付けつつニコニコしていた。報告に来た騎士が、気になったようだ。


「将軍、今回の出兵は随分と嬉しそうですね」


 すると、将軍は騎士の顔を見てから頷いた。何やら探るような視線が気になった騎士だが、将軍は仕事の手を止めて椅子から立ち上がると窓の外を見た。


 そこには、魔物によって滅ぼされた都市の光景が広がっている。


「ま、誰もが嫌がる仕事だったけどね。中央から離れられるならありがたい。君はセントラル出身ではなかったね?」


 将軍の言葉に、騎士は頷いた。


「はい。セントラルから少し離れた村で育ちました。今回の遠征はセントラルの騎士団は使用しないと言われてかき集められた感じでしたので」


 将軍は少し笑うと。


「あぁ、私がそうさせたんだ。出来るだけセントラルや今の王妃派の連中に関わっていない部下を求めたんだよ」


 騎士が首を傾げると、理解していないと思った将軍は苦笑いをする。


「反応に困っているね。だが、そういう部下が欲しかった。今のセントラルにいれば、嫌でもそう思うことになる。さて、仕事に戻ろうか。セントラルじゃないから気が楽でいいよ」


 将軍の言動に疑問を持ちながらも、騎士は部屋を出て行くのだった――。





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