リミットバースト
『ぶちかませ、ライエル!!』
初代の声が聞こえると、俺は大男の戦斧が目の前に迫るのに笑う。
俺の表情を見て、大男は気が触れたと思ったか、それとも気がついていないのか……。
だが、これで勝負はついた。
「リミットバースト」
フルオーバーが、自身の能力を全体的に一割から二割向上させるならば、リミットバーストは限界を超えて強化を施す。
しかし、その強烈な反動を同時に治療も行なう事でチャラにするスキルだ。
スキルを発動すると同時に、俺の周囲で流れる時間がいつもと違って感じる。
酷く緩やかで、そして感覚が研ぎ澄まされる。
予備として持ってきたサーベルを左手で引き抜くと、そのまま相手の斧へと二本のサーベルを当てて攻撃を逸らす。
ぶつかった衝撃でサーベルから火花が飛び散り、衝撃が俺を襲う。
それらを受け流し、俺は体をひねって相手に蹴りを打ち込んだ。頭部だ。
「なっ……」
吹き飛びはしなかったが、転んだ大男は頭に直撃を受けてフラフラしている。
斧を杖代わりに立ち上がると、俺を見て理解できないといった表情をしていた。
「随分と便利なスキルだね。羨ましいよ」
そう言うと、大男が斧を構える。
スキルの効果か、それとも大男が特別打撃に耐性があるのか、それは分からない。どちらかも知れない。
斧を振り回しながら俺に突撃をしてくる大男は、何やら大声を上げていた。
だが、それは相手を威嚇するものではない。
今の一瞬で、俺の動きが変わったのを理解したのだろう。同時に、今まで必殺であった一撃が通用しなかったのだ。
切り札が効果がないと知ると、焦ったのかも知れない。
「この化け物がぁぁぁ!!」
自分が敵わないから化け物扱いは酷いと思いながら、また二本のサーベルで相手の攻撃を受け流して蹴りを打ち込む。
一本では折れてしまいそうだった。
(スキルの効果か……凄いな)
今度は腹に蹴りを打ち込んだ。
膝をつく大男は、俺を見て信じられないものを見ているような顔になった。
「なんでだ。こっちはスピードもパワーもあるんだぞ。お前みたいなナヨナヨした女みたいな奴に、なんで……」
確かに相手の方がスキルの効果もあってパワーもある。
スピードは俺の方があるだろう。
もっとも、力など魔力を操作すればいくらか上昇する。そういった訓練も積んできた俺からすれば、相手はパワータイプとは呼べない。
ただ、一時的にパワーが上がっているだけだ。
圧倒的に技術が足りない。
周囲の気配をスキルで探ると、もう盗賊たちが捕縛されていた。
残っているのは、目の前の大男だけだった。
俺が歩み寄ると、大男は斧を捨てて両手を上げる。そして、俺に懇願してきた。
「ま、待ってくれ! き、気に入ったよ、あんた! 俺はあんたならでっかい夢が見られると思うんだ! な、だから俺を部下にしてみないか? なんなら、部下たちも兵隊にでもなんでもこき使ってくれて構わないからよ」
一転して、弱腰の態度になる。
捨てた斧を見れば、大男の手の届く範囲にはない。
しかし、初代が言う。
『おい、こいつは小賢しい奴だ。臆病な面がある奴は――』
俺が視線を少し動かしたのに気がついたのか、隠していたナイフを取り出してスキルを使用する体勢に入る。
左手に握りしめられた玉が、淡く光っていた。
大男が下卑た笑みを向けてくる。
「馬鹿が!」
『――武器の一つや二つ、隠しているもんだ』
すると、五代目が呆れた声で言う。
『もう少し早く言って貰えませんかね?』
『アホか。ライエルには十分だろうが』
初代の声を聞いた時には、俺は相手に飛びかかり蹴りを放っていた。
相手のアゴを蹴り上げる一撃で、スキルは不発に終わる。
周囲を見れば、俺を冒険者たちが囲んでいた。
少し安心したそぶりを見るに、俺が不意打ちを食らうと思ったらしい。
気をつけていたが、やはり気を抜いていたのかも知れない。
(スキルのおかげで助かったな。というか、このリミットバースト……こいつも破格の性能だな)
連続使用に制限があるものの、性能はどれも癖はあるが有用だった。
スキルを解除し、俺は気絶した大男を見る。
『こんなものかな。ライエル、身柄を引き渡す前に、左手から――』
五代目が言うと、俺はスキルを解いて気絶した相手の左手から紐を無理矢理引きちぎり玉を回収した。
赤い玉は、少し輝いて見える。
(こっちの方が凄く便利な気がしてきたんだが)
玉を見ながら、俺は自分の胸元で輝いている青い宝玉を見た。
文句を言ってスキルの使用にも制限をかけてくる宝玉。
使用者を選ばず、スキルの使用方法を教えて自由に扱える玉。
どちらを選ぶかと言われると、俺なら後者を選んでしまいそうだ。
『……おい、何か言いたそうだな』
初代が野性的な勘で俺の言いたい事を察したのか、低い声で聞いてくる。
すると、俺の側にノウェムとロックウォードさんが駆け寄ってきた。
盗賊団のボスは、周囲の冒険者たちが囲んで縛り上げている。
「ライエル様……お見事です」
ノウェムは少し涙目だったが、俺を見て笑顔を向けてくる。
ロックウォードさんは、俺を見るとアタフタとしていた。
俺が持っている赤い玉を見て何か言いたいのだろうが、自分が何もしていないので口を出せないのだろう。
(不器用な人だな)
そう思っていると、冒険者たちの方から声がした。
「おい、こいつは酷いな」
「体中から血が出ている? スキル使用による反動か」
「ま、生きてれば問題ない。おい、連れて行くぞ」
振り返ると、盗賊団のボスの体から血が噴き出していた。そんな大男に、冒険者たちは薬をかけて傷を癒している。
(ま、生きてないと困るよね)
スキルの過剰使用。不可に体が耐えきれなかったようだ。
(これを見ると分かるけど、ご先祖様たちが俺にスキルの使用制限を設ける訳だ)
体中から血を流す大男を見ながら、俺はスキルの使用には細心の注意を払おうと心に決める。
そして、今度はロックウォードさんから声がかかった。
「あ、あの……」
非常に困った表情をしながら、俺の手にある玉と俺の顔を交互に見ている。
ソレを見て、ノウェムが俺に言う。
「ライエル様の目的を果たすときですよ」
そう言われ、俺は手に持った玉をロックウォードさんに手渡す。投げて渡そうと思ったが、よく考えれば大事な家宝だ。
手渡しの方が良い。
両手で俺の手を握るように玉を受け取ったロックウォードさんは、俺の顔を見て泣き出していた。
真っ赤になった顔で、俺にお礼を言いたそうだった。
「え、あの、私は何もしてないけど、その……」
言葉が出てこないロックウォードさんに、ノウェムが優しく言う。
「お受け取りください。それがライエル様の望みですから。そうですよね、ライエル様」
クスクスと笑いながら俺に確認を取ってくるノウェムに、俺は頬を指先でかきながら照れくさいので視線を逸らした。
「まぁ、なんだ……俺の目的は達成した。だから、問題ない。それよりも、だ」
「あ、ありが――」
ロックウォードさんがお礼を言おうとしたが、それは最後まで言えなかった。
俺は近づいてきた冒険者がいたので、振り返る。
「邪魔して悪いな。こちらも仕事でね」
「いえ、ありがとうございます。こちらこそ助かりました」
冒険者にそう言うと、相手はフードを取る。
目つきも鋭く、雰囲気もただ者ではない男性だった。
賞金稼ぎというよりも、この人は領主と懇意にしている冒険者だ。
実力や人柄、そして信用のある冒険者。
ただし、ダリオンの冒険者ではない。
ゼルフィーさんに頼んで、協力を申し込んだのだ。
そのため、ギルドで問題にならないか確認も取っている。ホーキンスさんは、それを聞いて難しい顔をしていたが「表向きは駄目です」と言っていた。
黙認してくれるようだ。それよりも、本当に協力できるのかを心配していた。
(ゼルフィーさんがロックウォードさんを助けたいと思うなら、積極的に協力すると思ったけど、正解だったな)
相手に冒険者は安堵の表情をしていた。
「助かったのはこちらも同じだ。これでこいつらを俺たちのホームで裁ける。領主様も大喜びだろうさ」
そう、盗賊団が暴れ回っていた領地の冒険者たちだ。その中でも腕利きの冒険者たちが、今回の盗賊団討伐に参加している。
「こいつらのかき集めた宝から、こちらが探していたものを引き取りたい。急いで悪いとは思うが、立ち会ってくれ」
そう言われると、俺は頷いた。
『そうそう、こういう時も迅速に行動しないとね。相手の仕事は終わってないんだから。ダリオンから連れてきた冒険者たちにも事情を説明しようか。欲を出して盗賊団の集めた宝に手を出す奴がいるかも知れないし』
陽気な三代目の声が聞こえた。
俺は立ち会いがあるので、冒険者の一人に説明を頼む。
『冒険者に頼る事になるとは……』
七代目は、冒険者を頼りたくなかったようだ。
三代目は、七代目に呆れたように言う。
『自分だって懇意にしていた冒険者くらいいるだろうに……。まぁ、気持ちは分からなくもないけどね。冒険者もピンキリだし』
しかし、俺たちの計画には、凄腕の冒険者は欠かせなかった。
「あの戦斧もいいかな? 領主様の寄子が所有していた物でね。親族が探していたんだ。君に権利があるのは分かっているから、相応の値段を出すはずだ」
大男が所有していた戦斧を見る。
確かに立派な戦斧だった。
俺は使用しないので、値段は任せる事にした。
「構いませんよ。そちらが提示する額でいいです。さて、確認しに行きますか」
「話が早くて助かる。だがいいのか? 相手は代々受け継ぐ家宝のような武器だと言っていたけど? 値をつり上げる事も可能だよ」
それを聞いて、俺は視界にドキッとしているロックウォードさんが見えた。
「……ま、そういう気分でもないんで(こっちの目的は達成したからな。変に欲を出す必要もないだろうし)」
「そうかい。なら、こっちだ。手を付けられないからまだ廃鉱内なんだ。それと、形見の斧の事は依頼者に伝えておこう。きっと喜ぶぞ」
「それはでも……まぁ、任せます」
余計な事は言わない方が良いのではないか? そう思った俺だが、相手の好意なのかと思い任せる事にした。
冒険者と共に廃鉱内へと向かう。
ノウェムも俺についてくる。ロックウォードさんは、俺たちを見送っていた。
というよりも、何をしていいのか分からないのか、立ち尽くしている。
安心して気が抜けたのかも知れない。
『良かった。本当に良かった。アリスさんの子孫に、アリスさんの玉が戻ったんだ……ちくしょう、涙が出てくるぜ』
初代が涙を流しているようだ。
ソレを見て、二代目が言い放つ。
『オッサンが泣いている光景って、どうしてこんなに醜いんだろうな。初代だからそう見えるのか?』
『テメェ! 俺が浸っている時になんてこと言いやがる! 表に出ろ!』
『だから出られねー、って言ってんだろうが! 学習しやがれこの蛮族がぁ!』
いつものやり取り、だが――。
(おい止めろ! こっちは戦闘の後で疲れもあって……あ、目眩が)
俺がフラフラしだすと、すぐにノウェムが体を支えてくれた。
「ライエル様!?」
「おいおい、大丈夫か? まぁ、あれだけ頑張ったんだ。少し休んでからでも……」
「い、いえ……もう少しですから(お前ら少しは学習しろやぁぁぁ!!)」
最後まで締まらない。
これが俺のいつものパターンになりつつあるのが、嫌になる。
ガタガタと揺れる荷馬車の上――。
鉄格子に囲まれた盗賊たちは、三台の荷馬車の上で窮屈そうに押し込められていた。
ダリオンから出て、暴れ回っていた領地に戻されるというのを、彼らは知らなかった。
「ちくしょう、まだ何もやってないだろうが!」
「そうだ! 俺たちはまだお前らの領地で暴れてねーぞ!」
「すぐに解放しやがれ! 宝まで奪いやがって」
盗賊たちの身勝手な発言だが、周囲の冒険者たちはニヤニヤと笑っていた。
勝手な事を言う盗賊たちを笑っている、だけとは思えない。これから盗賊たちに待ち受ける事を知っているかのようだった。
ソレを見て、大男が違和感を覚える。
「おい、こいつらダリオンの冒険者だよな?」
アゴが痛いのか、さすりながら部下に聞く。冒険者として、ダリオンで情報を集めていた部下である。
「いや、見た事がないです」
そう言うと、大男が周囲を見渡した。
「……どこに向かっていやがる。領地を越えて連れ出すとか、どういう事だ?」
それを聞いて、一人の冒険者が鉄格子近くに来た。
馬に乗り、盗賊たちを見ながら言う。
「いつ、俺たちがダリオンの冒険者だって言ったよ? お前らはこれから散々暴れ回った領地に戻って裁きを受けるんだぜ」
それを聞き、盗賊団の顔色が急激に悪くなる。
領主の力が強い国が、バンセイム王国だ。
共通の法はあるものの、領地によっては領主の意向が強い。
そのため、領地を越えた犯罪者たちは、場合によっては見逃される事が多かった。
やりすぎれば、名のある賞金稼ぎが追って来るという事もあるが。
「ど、どういう事だ! 俺たちはダリオンにいたんだ! お前らが出てくる理由がないだろうが!」
錯乱した大男を見て、周囲の部下たちが更に慌て出す。
ソレを見て冒険者たちが大笑いをした。
「俺たちは、たまたまこちら側に逃げてきたお前らを捕まえただけだ。ダリオンの冒険者たちがこちらに追い込んだから、たまたまその場にいた俺たちが取り押さえた。まったく、困ったもんだぜ、ダリオンの連中も……大きな借りができちまった」
冒険者たちは、それぞれが依頼を受けている。
盗賊団に奪われた貴重品を取り戻して欲しい。
家族の敵を討って欲しい。
その他様々な依頼を、冒険者たちが一斉に受けてダリオンでの盗賊団討伐に隠れて参加したのである。
領主と繋がりのある冒険者に連絡を取ったのは、ゼルフィーだった。
「ふ、ふざけるな! どうしてそんな事をしやがる! 俺たちが悪人だからか? なら、もっと悪党がいるだろうが!」
大男の言うとおりだ。
彼らの罪など、極悪人たちからすれば軽い物だ。
もっとも、極悪人たちと比べれば、だが。
彼らの罪も相当重い。
村を襲撃し、焼き払った。村を治める領主の屋敷を襲撃した。女子供を――。
様々な罪を重ねてきたのである。
そんな事をされた領地の領主は、盗賊団に逃げられ手が出せない。そんな事では、領主の面子が潰れてしまうのだ。
領民の不満も溜まってしまう。頼りない領主、だと。
「知るかよ。運が悪かったんだ。それに、今まで暴れ回っておいて、今更そんな事を言われてもな……お前らが襲撃をした村出身の冒険者だって参加しているんだぜ?」
それを聞き、大男が周囲を見た。
笑っている冒険者たちの中で、笑っていない数名の冒険者がいた。
手に持っている武器を見せつけてくる。
「さ、裁くんだよな? ここで俺たちを殺したら……」
「は? 何を言ってんの、お前?……一人二人いなくたって、裁けばどうせ全員処刑だ。ある程度の数がいればいいんだよ」
――盗賊団全員の顔が青くなるのだった。
ダリオンへと到着した俺たちは、集まった人員を解放し、そして借り受けた荷馬車や道具などを商人へと返した。
盗賊団がため込んでいた財宝は、ほとんどを返して手元に残ったのは支払いなどを済ませれば金貨にして六十枚である。
(普通にやったら大赤字だな。討伐しても色んな問題が出てきたと思えば、領主は頭が痛いだろうな)
仕事を依頼する際に、ダリオンからも念のために腕の良い冒険者を雇っていた。
そのため、かなりの金額を消費している。
盗賊たちの宝も、換金する場所を探すのが面倒でほとんどを冒険者たちに売り渡していた。
全てが終り、後はギルドに報告するだけになる。
「これでようやく区切りがつくな」
背伸びをすると、ノウェムが俺に言う。
「お疲れ様でした、ライエル様。それにしても、ライエル様の本当の目的はなんだったのですか?」
言われて、俺はどうするべきか判断に困った。
ご先祖様たちの意思がある宝玉の事を話すべきか、それとも話さないべきか。
(この際だからノウェムには話しておくか。実際、今回の戦闘で俺がスキルを使用したところを見ているだろうし、説得力は少なからずあると……)
すると、そこに馬を引いたゼルフィーさんが現われる。
「お疲れさん、二人とも」
「あ、お疲れ様です、ゼルフィーさん」
ノウェムが言うと、俺も軽く返事をする。
「さっさと銭湯にでも行ってからギルドに顔をだしな。ホーキンスの旦那もきっと心配して待っているだろうよ」
ゼルフィーさんがそう言うと、俺もそうだろうと心配そうにしているホーキンスさんを思い浮かべる。
短い付き合いだが、あの人は本当に良い人だ。
「そうします。それと、ゼルフィーさんも俺たちに用事があるんでしょ」
俺の言葉に、ゼルフィーさんが目を丸くした。
そして、髪をかいてばつが悪そうに視線を逸らす。
「……まったく、ひ弱なガキだと思っていたら、とんでもない小僧だよ、あんた」
溜息を吐き、ゼルフィーさんが俺に言う。
「ギルドに顔を出した後で一緒に領主の屋敷へ行くよ。あんたたちにだって知っておいた方が良い事もあるだろうからね」
そう言って馬に跨がると、ゼルフィーさんはその場を後にする。
ノウェムが、俺に笑顔を向けてくる。
「いつ気がつかれたんです? ゼルフィーさんがダリオンの領主様と付き合いのある冒険者だと」
ノウェムの言葉に、俺は両手を挙げて降参を示す。
「たぶん、ノウェムより後だよ。それに、気がついたのは俺の実力じゃないから」
そう言うと、自慢気に三代目の声が聞こえてきた。
『そう、僕が気付きました。いやぁ、だって優秀で、それでいてすぐに情報を集めてきたんだもの。最初はちょっと怪しいな、こいつ? くらいだったけど、アリアって子が出てきた辺りから段々と確信に――』
『もう良いから。話が進まないから』
三代目の自慢話を、四代目が止めると俺はノウェムに言う。
「私は少し怪しいと思っただけです。ホーキンスさんが指導員を薦めて来たときからですけど。もっとも、安い金額を出してもゼルフィーさんが出てきたと思いますけどね」
「最初から怪しんでいたのか!?」
「だって、明らかに訳ありそうな私たちに指導員を薦めてくるんですよ。それに、他の方たちには薦めていないようでしたから」
クスクスと笑っていたノウェムを見て、それならなぜ高額な依頼料を支払ったのか疑問に思った。
それを察したノウェムが、俺に説明をする。
「指導員は金額にあった指導をすると思いましたから。ライエル様の大望のために、そこで節約する訳にはいかないと判断しました」
「そうなのか? (俺の大望? あれ、俺ってノウェムに何か言ったかな?)」
少し理解できないところもあったが、ギルドに報告する必要もあるので、俺とノウェムは銭湯に向かうのだった。
数日分の汚れもあるので、早く洗い流したかったという理由もある。
(……それにしても、俺の大望? 何か言った覚えがないだが……冒険者になったのも、成り行きというか、他に思い浮かばなかっただけだし)