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セブンス  作者: 三嶋 与夢
元麒麟児の九代目
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第四の陣営

 俺は、大きな方針の変更をする事になっていた。


(くそ、ロルフィスの王女が酷すぎなければ、このままロルフィス側で勝利を得られたのに)


 迷宮でミスリルを発見した、ロルフィス。


 それを女神が与えたと言いだした、ザイン。


 これが、表向きである今回の戦争の発端だ。


 だが、ここに第三国――セルバ王国という国が出てくる。


 いくつかの情報を見ると。


 セルバの王子がロルフィスの王女――一人娘と婚約をしていた。


 ザインの現聖女は、セルバの元貴族の娘である。


 両者に関係があり、そして今回の戦争に表立って動きを見せていない第三国が、セルバなのである。


 ノウェムたちが購入し、俺たちの受け入れ準備を進めていた屋敷の自室。


 俺は椅子に座って机に向かい、宝玉の声と話をしていた。


「どうにも怪しい国がある訳ですけど、俺たちはこの三国を相手に出来ますかね」


 俺の声に、机の上に置いた宝玉から六代目の声が聞こえた。


『安心しろ。幸運にもお前の手の中にはいくつも手札が揃っている。元聖女、元大神官、ロルフィスの騎士……そして元聖女候補。情報も集まっている事を考えれば、後はどこを目指すか考えればいい』


 どこへこの戦争の決着を持って行くのか、俺には難しい問題に思えた。


 すると、気配を感じて俺は宝玉を手に取り、首にかけると口を閉じた。


 三代目の声は。


『おや、早速来たね』


 足音が聞こえ、段々と近づいて来た。椅子に座ってドアを眺めていると、部屋に少し乱暴なノック音が聞こえてきた。


「どうぞ」


 そう言うと、ドアが乱暴に開かれた。


 部屋に入ってきたのは、息を切らしたシャノンだった。ゼーハーと息を乱しながら、俺に向かって口を開く。


 最初、思うように声が出なかったのか、少しだけ間があってから。


「ライエル……あんたのお客さんが来たわよ」


 疲れたシャノンの顔を見て、俺は笑顔で。


「あぁ、そう。というか、この屋敷広いよな」


 笑いながら立ち上がると、多少は運動不足が解消されつつあるシャノンが恨みがましく俺を見ながら。


「ならさっさと売り払いなさいよ! こっちは怖くてしょうがないのに、誰も売ろうとか言わないし! 幽霊屋敷とか言われているのよ!」


 ベイムで有名な幽霊屋敷を購入した俺たちだが、屋敷に来て数日が過ぎた。だが、特に変わった事は起きていない。


 きっと、噂に尾ひれがついただけなのだろう。


 ノウェムの話では、地下に牢屋があるとかでその辺が噂の原因かも知れない。


「それにしても、アレットさんも動きが速いな」


 俺はシャノンを連れて部屋を出た。シャノンの距離が妙に近い気がしたが、これは屋敷内で一人になるのが怖いからだ。


 いつも以上に距離が近く、歩きにくく感じていると六代目が。


『ライエル、手を握ってやれ』


 言われて、俺は変な距離で歩くよりはいいと思って、シャノンに手を出した。


 少し悩んだシャノンだが、手を繋いできた。二人で廊下を歩き、客が来ている部屋へと向かう。


 色々と思案していると、シャノンが。


「こ、怖いでしょうから、私が手を繋いであげたんだからね!」


 そう言ってくるので。


「はいはい、ありがとうございます」


 俺が気のない返事をすると、シャノンが何かブツブツと文句を言った。それを聞きながら、俺はアレットさんとの話がどう進むのかを考えた。


(さて、ロルフィスはどんな対応をするかな)


 窓から日が差し込む廊下を歩きながら、俺は今後の心配をするのだった。






 屋敷の応接間。


 ソファーに座り、テーブルを挟んで俺はアレットさんと向かい合っていた。


 アレットさんの斜め後ろには副官が姿勢良く立っており、俺の斜め後ろではモニカがお茶の用意を終えて立っていた。


 俺の方は、なんでメイドが後ろに立っているのだろう。


(絶対にこいつ間違ってるよな)


 モニカに不満を抱きつつも、俺はアレットさんに話を切り出そうとした。だが、先に口を開いたのはアレットさんだ。


「クレートを雇ったそうだね。今回の戦争に参加するつもりかい?」


 お茶を飲みながら、視線を下に向けたアレットさんに俺は頷いた。


「こちら側なら顔見知りだ。少しくらい優遇するよ。ただ、敵側なら戦場では容赦できないね」


 落ち着いているアレットさんだが、雰囲気はどこか鋭いものがあった。


「参加はします。そして、どちらの陣営かと言えば……まぁ、俺自身が第四の陣営で参加しようと思っています」


 アレットさんの持っていたカップが止まり、視線が俺に向いた。俺は、そのまま説明を続ける。


「依頼の帰りに大きな荷物を拾いまして。個人的に依頼を受ける事になったんですが、そうなるとどこかに所属するよりも、第四の陣営として参加した方が良さそうなので」


 笑顔で言うと、アレットさんは真剣な表情で。


「うちとザイン……二国の問題だが?」


 そう。最初はそう思っていた。だが、第三の陣営も後ろでロルフィスが弱る、もしくは削られるのを待っている様子だった。


 俺は――。


「細かい話は抜きにしましょう。最初はロルフィスの陣営で参加も考えました。ですが、それでは不安になりました。王女殿下……言ってはなんですけど、また随分と酷いですね」


 ――そう言うと、副官の表情が鋭くなった。


 アレットさんは、副官を手で制すると。


「……変な噂を聞いたようだが、うちの王女殿下は美しく聡明な方だよ。今回の戦争にも心を痛めている。戦争を回避出来るなら、ミスリルなど渡してしまえと言っていた。民のために、財産などおしくないとね」


 ロルフィスの王と王妃は亡くなっており、しかも王女殿下は一人娘。


 他の王族も、小国なので分家筋はあるが、後継者は王女殿下となっていた。だが、女王に即位はしていない。


 微妙な国。


 それが、今のロルフィスだ。


 アレットさんは、俺に第三の陣営を確認してきた。


「それで、ライエル君は第三の陣営がいると思っているようだが、どこが出てくるのかな? 是非とも聞いておきたいね。情報屋を使ってかなり情報を集めていると聞いているよ」


 俺が情報を集めている、という情報をアレットさんは握っていた。


 確かに、形振り構わず集めてはいる。


「……第三の陣営はセルバだと思っています。ある程度、ロルフィスが疲弊したところで出てくると。それが最後に止めを刺すのか、それとも恩着せがましく助けに来るのかまでは調べていませんけどね」


 アレットさんは溜息を吐いた。


 副官が何かを言おうとすると、左手をヒラヒラとさせて発言を止めた。俺を見て、残っていたカップのお茶を飲み干すと、口を開く。


 モニカがおかわりを用意するために動く中で。


「そうだよ。セルバも動いている。だが、我々はセルバが動く前にどうにかしたいのさ。色々と調べたようだが、あまり首を突っ込むと命を縮めることになるよ」


 脅しとも取れる言葉だが、俺は肩を上下させてソファーに深く座り直すと話を続けた。


「いくつかお願いがあります。ロルフィスの王女殿下に面会です。ザインの元聖女セルマさん、そして元大神官のガストーネさん、最後は聖女候補であったアウラさんの三人と面会して頂きたい」


 俺の言葉に、アレットさんは驚いた顔をした。


「ザインの穏健派だね。大きな拾いもの……なる程、またとんでもないものを拾ったものだ。私たちに預けてくれれば、それなりのお礼はするよ」


 俺は首を横に振った。


「もう俺が依頼を受けたので。それに、しばらくは隠れて貰っています」


「面会をしてどうするつもりだい? 我々に協力してくれるんだろうね?」


 アレットさんの言葉に、俺は頷いた。


「ロルフィスには勝って貰いたいですからね。それに、ザインは痛い目に遭うべきでしょうし。ついでにセルバを叩いておきたい」


 アレットさんは不思議そうな表情をしていた。


「……それはありがたいが、ライエル君の目的はなんだい? 傭兵団の立ち上げでもしたいのかな? 成功するよりも、失敗する可能性の方が大きそうだが」


 俺はアレットさんに笑顔を向けた。


「勝ちますよ。そのための準備が今回の面会です。俺はロルフィスと協力して今回の戦争を勝利に導きます。ま、勝利する側は二国なんですけどね」


「二国?」


 アレットさんがそう言うと、俺は笑顔で。


「それで、どうします? 俺たちと王女殿下を面会は可能ですかね?」


 難しそうな表情をするアレットさんは。


「私は報告をするだけだ。判断が出来る立場にはない。もしかすれば、なんとしても確保しろと命令が来るかもね」


 不敵に笑うアレットさんを見て、俺は言うのだ。


「その時は、ザイン側で動くだけです」






 アレットさんたちが屋敷を去ると、俺は次の準備を進めていた。


 一階の広間には十分なスペースがあり、そこで結成式を行なう事になっている。


 広間を急いで見栄え良くすると、テーブルを出して酒や料理を並べた。


 ノウェム、モニカが次々に料理を準備し、ミランダとアリア、そしてクラーラがそれらを並べていく。


 メイは料理に手を出そうとするので、シャノンが見張っていた。


 そうしてエヴァは。


「軽く歌えば良いのよね?」


「そうだ。気分が盛り上がる奴がいい」


 俺は広間に用意した場所で、エヴァに歌う内容を教えていた。場を盛り上げるために、エヴァには歌って貰うのだ。


「……本命じゃないのが嫌だけど、歌えるならいいか。数はどれくらいなの?」


 少し不満そうなエヴァだが、広間のテーブルの数を見てそんな事を聞いてくる。


「あ、エヴァには教えてなかったな。買い出しに行って貰ったし、衣装の用意もあったから」


 慌ただしく準備をする中で、俺はエヴァに伝えた。


「来るのはクレートさんたちと、今回の話に参加する夢見がちな冒険者たちだ。クレートさんの知り合いにもいてね。小さなパーティーや、元はどこかの国の騎士、っていう人たちもいる。規模で言えば百人くらいかな」


 かき集められるだけかき集め、そして現状ではこれが限界だった。


「……集まったのは百名? それでロルフィスに力も借りずに、ザインに喧嘩を売るの? 寡兵で大軍を破るにしても、それだけの数で戦いになるの?」


 俺は笑顔で。


「安心しろ、サポートもいるから戦えるのは半分以下だ。装備も間に合わないし、今回は三十人くらいになる」


 エヴァは俺を見てドン引きした表情をしていた。何しろ、敵は万という大軍だ。そんな中に俺たちを含めて四十名程度で戦おうというのだ。


 馬鹿にする気持ちも分かる。


「だ、大丈夫だから。俺を信じろ。これでも無理はしない男だ」


 そう言うと、エヴァは軽く溜息を吐いて。


「そこはもう少し前みたいに自信に満ちた表情で言って欲しいわ。ま、ついていく、って決めたから反対はしないわよ。それに、成功すれば英雄譚間違いなしだから。ついでに言うけど、告白するまで死なないでよ。楽しみにしてるんだから」


 最後はからかうように言うエヴァに、俺は顔を赤くして視線を逸らすのだった。


 そして、俺たちの所にセルマさんとアウラさんがやってきた。


 モニカが手作りした衣装を着ており、雰囲気は出ている。白く、肌に張り付いたようなドレスにも見える衣装を、二人は恥ずかしそうにしていた。


 アウラさんが。


「ちょっと、あのメイドは何を考えているのよ! こんな体のラインが出ている服とか……しかも、私たちの服を見てケチをつけてくるし!」


 モニカがセルマさんとアウラさん――そして、巫女さんたちを見て一言言ったのだ。


「巫女なのにシスター服とか……間違っていますね」


 その場で、俺は「お前の方が間違っている」と言ってやった。そうしてモニカが、彼女や大神官のガストーネさんのために衣装を作ったら、これが派手だったのだ。


 セルマさんも恥じらいながら。


「流石にこれは恥ずかしいので、上に羽織るものはありませんか?」


 モジモジとしたセルマさんを見て、エヴァは。


「別に良いじゃない。肌の露出は少ないんだし。私の方が露出の多い服を着るわよ」


 エヴァのステージ用の衣装は過激なものが多い。というか、少ないながら揃えており、全部過激だった。


 アウラさんがイライラしながら。


「聖女のイメージじゃないのよ! あのメイド、私の胸を見て鼻で笑うし!」


 小さな胸を右腕で隠すようにするアウラさんを見て、俺は腕や頭部の装飾品を見た。モニカが用意してくれたものは、細工も素晴らしい。


 ある程度の装飾品を買い、モニカが仕上げたのだが良い感じだ。


「いや、モニカも忙しいし、もう時間がないので無理です。それに、ガストーネさんはなんだか満足していますよ」


 俺たちは、広間で進行の確認をしているガストーネさんたちに視線を向けた。


 与えられた衣装を着ており、こちらは男性なので露出はないが少し派手だった。帽子が細長く大きく、服もゆったりとしていた。白と青の大神官の衣装に満足そうにしている。


 本人曰く、普段使っていたものよりも着心地が良いらしい。


(モニカが万能過ぎるな。これでポーターの改良も終われば、こちらの準備は終わるな。後は、ザイン側の仕込みを急がないと)


 急いでパーティー……結成式の準備が整う中で、俺はセルマさんに確認を取った。


「あ、話は変わりますが、例の件は確実に実行してくださいね」


 セルマさんは、俺の方を見て頷く。


「それは間違いなく。そもそも、これだけの兵で勝利を収めたなら、仕官させるには十分な理由です。というか、本当に五十名程度で戦争に参加するつもりですか? 私は素人ですが、物語のように寡兵で大軍を破るのは難しいと思うのですが」


 アウラさんが、俺を睨み付けて。


「あんた、戦争の経験あるの?」


 疑った視線、そして気に入らない衣装を着せられた不満からか、俺に当たっている。


 俺は宝玉を一回だけ握ると。


「まぁ、それなりには。というか、別に俺は万の軍勢とは戦わないよ。主戦場で戦うつもりもないし」


 それを聞いて、アウラさんやセルマさんが驚いた表情をした。


 エヴァだけは。


「ちょっと、それじゃ歌にしても盛り上がらないじゃない」


 残念そうにするのだった。


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