家出息子
ザイン神聖騎士団の精鋭を返り討ちにした俺たちは、彼らの墓を作っていた。
流石にそのままでは酷いと、セルマさんが提案してきたのだ。ザインの騎士団員であり、同じ国の人間だからと。
それを聞いた六代目は。
『理由はともかく、このままにしておくのも証拠が残るな。焼いて埋めてやるか。あ、装備は回収しておくように』
武具に荷物に馬、それらを回収した俺たちは、彼らを手厚く葬る。後から調査に来た神聖騎士団の仲間に、こちらの情報を与えないために。同時に、セルマさんの好印象を勝ち取るために。
何しろ、ベイムに戻るまでに、俺は彼らの信頼を得なければいけなかった。セレスに対抗するには頼りないが、それでも今の俺には手段を選んでいる余裕もなかった。
ザインの力が必要だ。
手厚く葬り、元聖女であるセルマさんが祈りを捧げると、俺にお礼を言ってきた。
「命懸けで戦って貰った上に、ここまで協力して貰い感謝しています。納得出来ないとは思っていますので、報酬は上乗せさせて頂きます」
こちらの心情も配慮しているようだ。だが、俺は首を横に振った。
「優しいんですね。でも、報酬は最初の額で結構です。それが契約ですし、これは俺のサービスだと思ってください」
「感謝します。冒険者は粗暴な方が多いと聞いていましたが、どうやら立派な方もおられるのですね」
セルマさんの横で、心配そうに見ていたガストーネさんも俺に頭を下げてきた。
俺は笑顔で受け答えをすると、空を見上げた。
襲撃を受け、その後の片付けもあって暗くなり始めていた。
「今日はここで野宿ですね。ベイムまで早ければ残り二日でしょうか? 明日に備えて今は休みましょう」
内心、俺はこう思っていた。
(残り二日で彼女たちの信頼を獲得し、ザイン奪還の計画を打ち明けて大義名分になって貰うとか……ハードルが高いです)
愚痴をこぼしたくなるが、歴代当主たちの提案だ。力を得るために、これ以上の案もないので実行に移すことにはした。
ただ、俺には向いていないように思えた。
(はぁ、上手く行くのかな?)
感謝をするセルマさんにガストーネさんを見ながら、俺は心が痛むのだった。
宝玉内。
六代目の記憶の部屋。
皆が寝静まった頃、俺は六代目に相談をしていた。ただ、ハルバードを持って六代目と戦いながら、である。
ハルバードを横に一閃すると、六代目がそれを小さくさばいて俺に突きを連続で繰り出してきた。
『ほう、それでどうした? 騙しているようで気が引けると?』
突きを避け、そして体勢を立て直して構え直すと呼吸を整えた。
「は、はい。騙しているというか、利用するのに抵抗があると言うか」
六代目はハルバードを肩にかつぎ、俺の顔を見て左手でアゴを触っていた。
『納得出来ないか? まぁ、心情的に仕方ないかも知れないが』
俺も構えを解くと、持っていたハルバードが握っていた右手から消えた。六代目は、ハルバードを地面に突き刺してそのまま座った。
俺も座る。
『ライエル、お前は視野が狭いな。もっと大きな視野を持て』
「視野ですか? 二代目のスキルで、全周囲を把握出来るとかいう冗談は言わない方がいいんでしょうね」
六代目は歯を見せてニヤリとすると、俺に話をしてくれた。
『そうだな。その視野じゃない。お前の行動が、今後にどう響くか。そして、動いた結果がどうなるか……何もしなければ、どうなるかも考えろ』
六代目は俺に簡単に説明してくれた。セレスだけが理由ではない。このままザインを放置出来ない理由を教えてくれたのだ。
『統治方法に問題があり、周辺国もそれを利用してきた。ザインも利用してきたんだろうが、このまま行けば、待っているのは破滅だ。大陸の統一国家セントラスが崩壊して三百年……小さくまとまって争い続けるのもいい加減終わってもいいだろう』
言われるとそうなのだが、それを俺がやって良いのかという疑問もあったのだ。
セレスを言い訳に利用しているようで嫌だった。
(俺は、間違っているんじゃないのか? 俺のためにザインやロルフィスを巻き込んでいいのか?)
すると、六代目は俺の中に迷いがあるのを察知したのか、立ち上がって周囲の景色を変更した。ここは六代目の記憶の中。
六代目が、周囲の景色を自由に変更できる場所だ。
『そう悩むな。なら、一つだけ例を見せてやる』
すると、そこはウォルト家が治めているバイス領の都市部だった。
俺が実家を追い出されたときよりも小さかったが、面影は残っていた。
俺も立ち上がると、小さな酒場から一人の不良が殴り飛ばされていた。
殴り飛ばされていたのは、赤く長い髪を後ろに流しただけの若き日の六代目の姿だった。
今よりも目つきが鋭く、どこか刺々しい印象があった。
「あの、これは?」
『……俺が家出をしていた時の記憶だ』
そうして、若き日の六代目――ファインズが立ち上がって咆吼するように怒鳴り散らした。
『ふざけんな! あんな糞野郎に頭を下げろだ? 死んでもごめんだ!』
酒場から出て来たのは、大きな体をしたスキンヘッドで立派なあご髭を持つ大男だ。シャツを筋肉が押し上げており、一見して強そうに見えた。
実際、戦で戦ったのか、腕や顔には傷が多かった。
『……ガキ、俺はお前がツケでいくら酒を飲もうが構わん。暴れ回ってもいい。俺を殴ってもいい。だがな、あの人の……フレドリクス様の暴言だけは許さねーぞ』
大男に胸倉を持ち上げられたファインズは、睨み付けて唾を吐いていた。
俺はソレを見て。
「……酒場の店主ですか?」
六代目は恥ずかしそうに頷き、頭をかきながら説明してくれた。
『そうだ。ツケで酒を飲んでいた。後から聞いたが、五代目が部下に言って支払いもしてくれたようだ。ツケを払いに行った時に聞かされたな』
懐かしそうに言う六代目は、そのまま大男とファインズの喧嘩を見ていた。大男に殴り飛ばされるが、ファインズも鍛えているので投げ飛ばしていた。
周囲には住人が集まり、そしてファインズを見て――。
『あの人の息子なのにな』
『親が優秀なら、息子が駄目になる典型だよ』
『ウォルト家は大丈夫なのか?』
周囲の反応を見ると、どうやら五代目に好意的なようだ。女好きで有名だった五代目だが、どうやら領民には慕われていたようだ。
ファインズが大男をマウントポジションで殴り始めると、周囲が止めに入って景色は灰色に染まり時間が止まってしまった。
六代目は、俺に言う。
『俺や弟に妹たちからすれば、最低の親父だった。情もなければ興味もない態度に腹も立った。だがな、領民には慕われていた。なんでだと思う?』
俺は単純に。
「領地経営に領主の家庭問題は関係ないから、ですか? いや、でも跡取りとか問題もあるし……」
すると、六代目はある景色を見せてくれた。
そこには、暴れ回ってボロボロのファインズに、老夫婦が声をかけていたところだ。外は夜で、冬なのかファインズも寒そうにしていた。
『……ここでは風邪を引きます。何もない家ですが、どうか上がってください』
ファインズは、流石にこのままだと凍死をすると思ったのか、好意を受けて老夫婦の家に上がるのだった。
そこで、温かく迎えられていた。お湯を用意され、そして食事も豪華だ。きっと、老夫婦にとって精一杯だったのだろう。
ファインズは食事をし、ベッドで眠っていた。
その様子を、六代目は懐かしそうでいて恥ずかしそうに見ていた。
『昔から失敗ばかりだった。ライエル、俺はな……どうしようもない馬鹿野郎だった。荒れて家を飛び出し、暴れ回って助けて貰うことを繰り返していた』
俺はそれを聞いて、言葉が出なかった。
少し不良っぽいと思っていたが、本当に不良だったのだ。これでよく家に戻れたと思っていると、老夫婦との会話が始まる。
それは、ファインズが朝食を食べているときだった。
『……なんで俺みたいな奴を助けた』
ふてぶてしい態度は、命の恩人に向けるものではない。なのに、老夫婦は嬉しそうにしていた。
『なに、これでわしらはフレドリクス様に恩が返せます』
『あの方には大変お世話になりましたので』
ファインズが嫌そうに。
『あの糞親父が?』
老夫婦は、ファインズに言うのだ。
『はい。村を焼かれ、生き残ったわしたちが生きていけるようにして貰いました』
『助けに駆けつけてくれました。なのに、私どもは酷いことを言って……ずっと後悔しておりました』
ファインズが少し驚いたような顔をしたが、すぐに態度は悪くなった。
『それがあいつの仕事だろうが! 間に合わなかったあの糞親父が悪いんだよ! お前ら、騙されているんだよ!』
すると、老夫婦はそれを聞いても笑っていた。
『でしょうな。だが、あの人は優しかった。見ていて痛々しい程に』
記憶の映像が途切れると、そこは屋敷の庭だった。
「また景色が変わりましたね」
すると、六代目が溜息を吐いて。
『自分の恥ずかしい部分をこれ以上は見せられるか! 次は俺が戻った時の記憶だ。まぁ、次も恥ずかしい記憶ではあるんだが……』
屋敷の前には、兵士が立っていて困っていた。ボロボロのファインズを前にして、屋敷へと入れるべきか迷っているようだ。
屋敷の玄関が開くと、そこから五代目――フレドリクスが歩いてきた。隣には、ファインズの母の姿もあった。
ファインズの母は、駆け寄ってくると息子を思いっきり平手打ちにする。
『ぶっ!』
上半身がグラリと揺れたファインズに、今度は反対の手で平手打ちをしていた。その様子を見て、俺は思った。
(あれ、優しそうなのに無茶苦茶強いぞ、この人!)
『この馬鹿息子! 家を飛び出して情けない姿で戻ってきて! どれだけ心配をかけさせるんです!』
泣きながら平手打ちを繰り返す女性を見て、俺は引いた。だって、ファインズが更にボロボロになっていくから。
フレドリクスも、若干引いているように見えた。
ファインズの方は何度も頬を叩かれていた。頬が膨れあがり、可哀相になってきた。
『……お袋の平手打ちはな、心にも響いたが頭や骨にも響いたぞ。色んな意味で……凄く痛かった』
体の大きなファインズが、母に睨まれて竦んでいた。
それを見て、フレドリクスは呆れたように言うのだ。
『はぁ、風呂に入って服を着替えろ。食って寝たら俺のところに来い。出て行って遅れた分を取り戻せたら、跡取りとして認めてやる』
そう言って屋敷へと戻っていくと、門番である兵士たちがフラフラのファインズに肩を貸して屋敷へと運んでいく。
泣きながら、ファインズの母も息子に同行する。
「……許されたんですか?」
『あぁ、許された。まぁ、色々と弟には文句も言われたし、嫌味も言われた。一番堪えたのは、ミレイアに『頭は冷えましたか?』って言われたときだ。説教をされて悲しかった』
六代目はシスコンのようだ。
オッホン、とわざとらしい咳をすると、六代目は俺に言う。
『まぁ、何が言いたいかと言うとだな。自分が良いと思っても他人には駄目に見えて、自分が悪いと思っても、他人には良いことのように見える事もあるわけだ。ま、俺が見せておきたかったというのもあるけどな』
六代目が自分の恥ずかしい記憶を見せ、そして恥ずかしそうにしていた。
そして、俺に呟くように。
『俺は失敗しかしてこなかった。結局、親父よりも酷い人間だったんだ』
朝、出発を前にしてガストーネさんとセルマさんが一人の少女を俺の前に連れてきた。
名前は【アウラ】。
ガストーネさんたちが次の聖女にと推した、聖女候補だという。
茶髪の長い髪はウェーブしており、もう少しでドリルが出来そうな気がする。慎ましやかな胸は、セルマさんと違って黒く質素な巫女が着る制服で主張をしてこない。
真っ平らだった。
そんな彼女を俺の前に連れて来ると、クラーラが立ち上がってエヴァとメイを連れてポーターの荷台へと向かった。
「アリアさんの様子を見てきます」
「分かった」
三人が離れていくと、セルマさんが。
「気を使わせたようですね。ですが、良かった」
そして、ガストーネさんが俺に事情を話してくる。
「ライエル殿、我々は聖女候補であるアウラ様を逃がすためにベイムへと行くのです。ザインでは我々の命が危ないのは理解して貰ったと思います。それで、ライエル殿の腕を見込んで頼みがあります。このアウラ様を保護してはいただけないか?」
「保護ですか?」
俺がそう言ってアウラという少女を見た。だが、相手は俺を見ると視線を逸らした。
セルマさんが注意をした。
「アウラ、失礼ですよ」
ただ、アウラさんは。
「結構です。命の恩人ではありますが、それは報酬分の仕事でしかありませんので。それに、この冒険者を私は信用出来ません。それに、ベイムまで行けば私は自由にさせて貰います。もう聖女や神殿にザインも関係ありませんから」
そう言って戻っていくアウラさんを見て、宝玉内からは四代目の声がした。
『せっかくの聖女候補は乗り気じゃないね。あれだと、説得しても陣頭に立ってくれないよ。らいえるサンならなんとかしてくれそうなのになぁ~』
後半を聞き流し、俺はガストーネさんを見た。
申し訳なさそうにしていたので、事情を聞く。
「アウラさんの護衛は置いておくとして、お二人や他の人たちはどうするんですか?」
セルマさんは俯きつつ、胸に手を当てて口を開いてくれた。
「私どもは関係者。いずれは次の追手が放たれるでしょう。あそこまで本気で殺しに来るとは正直言って思っていませんでした。考えが甘かった」
ガストーネさんも。
「迷惑がかかるでしょう。だが、アウラ様は聖女でもなく、私たちが担ぎ上げただけです。せめて、違う人生を歩んで幸せになって欲しいのです」
宝玉の中から、六代目の声がした。
『違うな。担ぎ上げられた次点で関係者だ。もうそこに区切りはない。間違いなく狙われるぞ』
ガストーネさんも、セルマさんも根は優しいのだろう。だが、それでは守れないものもあるのかも知れない。
(……それだけでは守れないのか)
そう思った俺は。
「お二人は死ぬつもりですか?」
すると、セルマさんは首を横に振っていた。だが、表情が少し曇っているように見えた。
「死ぬつもりはありません。ですが、元聖女である私はどこへ行っても迷惑になる。ならば、遠くへ行こうと思います。ガストーネや他の者も同じです」
俺は二人の前で姿勢を改めた。そして、真剣な表情で言うのだ。
「逃げるのですか? 言っては悪いですけど、今のままではアウラさんは命を狙われます。元聖女であるセルマさんよりも、アウラさんの方が相手には脅威なのでは?」
「そ、それは」
ガストーネさんが困った様子だ。疲れているのか、やはり思考が鈍っているのかも知れない。追い詰められ、精神的にも追い込まれているように見えた。
三代目が、飄々とした声で。
『おや、ライエルが乗り気になったね。六代目の説得のおかげかな? 何を言ったんだい?』
六代目は短く。
『話をしただけです。昔話ですよ』
俺は目の前の二人を見て。
「このまま行けば、ザインも酷いことになるのでは? 攻められるロルフィスでは関係ない民が大勢死ぬかも知れません」
セルマさんは俯いて悔しそうにしていた。
「分かっています。ですが、もう私たちにはどうする事も出来ません。聖女の地位も強引とは言え、正式な形で譲り渡しました。ガストーネも大神官の地位を追いやられてしまっては」
ガストーネさんが、俺に言う。細く小さな手で、握り拳を作っていた。
「私たちとて、好きで捨てるのではないのです。ただ、何もできない。もう神聖騎士団や他の大神官たちを押さえ込む力などないのです!」
俺は二人の前で、堂々とする。そして、自分に言い聞かせた。
(いや、出来る。俺なら出来る)
右手で胸を押さえた俺は、二人の前で堂々と、そして自信を持って言うのだ。
「いえ、出来ます。お二人はもちろんですが、アウラさん――聖女候補のお力があれば、ザインを取り戻せます」
セルマさんが、驚いたような表情で顔を上げて。
「と、取り戻す? ライエル殿、何を言っているのですか? ザインは正式に今代の聖女が引き継いで――」
「それで問題が起きたのでは? いらぬ戦が起きて、聖女候補や貴方たちは殺されようとしている。違いますか?」
ガストーネさんが。
「そ、それは確かにそうですが、取り戻すとはいったい何をするのです?……一国に立ち向かうにも、これだけの数ではどうしようもない」
俺はニヤリとして、二人に言うのだ。
「俺に賭けてみませんか? このライエル・ウォルトに任せてください。命を賭ける事になりますが、このまま殺されるのを待つよりも、よっぽど有意義だと思いますよ」
セルマさんが、俺を見て一歩下がった。そして、不審そうに俺を見て、問うた。
「……何が目的です。私たちを利用して成り上がるつもりですか? 優しい方だと思っていましたが、どうやら見込み違いのようですね」
どうやら、不信感を抱かれたようだ。
すると、四代目が俺にアドバイスをしてきた。
『ライエル、ここは正直に言うんだ。ただし、少しだけ伏せてね。そう、勘違いをさせよう。なに、勘違いをした方が悪いんだから。いいかい、俺の後に続けて言うんだ――』
四代目のあくどい顔が思い浮かぶ中で、俺は四代目の言うとおりに。
「俺が欲しいのはあなた(が治めるザイン)です」
四代目の言葉に従い言ってみたが、言ってしばらくするとセルマさんが真っ赤になってアワアワとし始めた。狼狽し、ガストーネさんと俺の顔を交互に見ていた。
「な、ななな、なにを言っているのですか!」
俺も口にした後で。
(おいぃぃぃ!! これってどういう事だよ! 思いっきり駄目な方に勘違いさせたじゃないか!)
俺も困っていると、四代目が。
『慌てるな! 今は勘違いをさせて、頷いて逃げ場をなくしたらちゃんと訂正するんだ! 女の敵だが、今のライエルには必要な事なんだ!』
五代目もドン引きしていた。
『自分の父親だが、最低だな。ママがいたら絶対に罵声を浴びせられていたぞ』
七代目も。
『最低ですな。ライエルが後ろから刺される未来が見えます。よし、ライエル……ここは謝っておこう。こんな勘違いは許しておけない』
六代目も。
『ライエル、ここはすぐに訂正しろ。いいか、これは駄目だ。俺もこれで失敗した』
三代目が。
『四代目……マークスは後で僕と話をしようか。ライエル、これはまずいから、ちゃんと説明してね』
四代目が。
『え? ちょっと! だってここまで来れば、もう一人か二人増えても変わりませんよ! それにライエルならなんとか――』
声は途中で聞こえなくなった。なので、俺はわざとらしく咳払いをして。
「か、勘違いをさせてしまいましたね。正確には、しっかりと今まで統治をしてきた貴方たちが治めるザインが欲しいんです。このまま放置をすれば、冒険者の俺にとてもデメリットがありますので」
真っ赤な表情のセルマさんが、深呼吸をしながら何度か頷いていた。
「そ、そ、そそそうですよね! し、しかし、冒険者は戦場があればお金を稼げるのでゅわ?」
セルマさんが噛んだ。俺とガストーネさんは、聞かなかったことにしてスルーした。
俺は自分の事情を話す。
「俺が所属しているギルドは、色々と面倒でしてね。その辺の事情も説明しないといけないんでしょうけど、戦争があると依頼をこなすノルマが増えるんです。それでは困ってしまうので、この周辺の国には落ち着いて貰いたいわけですよ。俺の事情は他にもありますが、ザインがこのままでは困るんです。聞けば、これからも戦争が続きそうですから」
慌てたためか、セルマさんは正常に判断が出来なくなっていた。
俺を見て、納得しようと頷いていた。というか、あまり頭に話が入っていないように見えた。
ガストーネさんも、同じだ。困惑しており、話に口出しをしてこない。
「まぁ、俺の事情は移動中にでも話すとして、少し冷静になりましょうか。お話は次の休憩の時にでもしましょう」
セルマさんは顔が赤いまま。
「そうですね。それがいいです。そうしないと、まともに話が……」
ガストーネさんも。
「で、では次の休憩を取るときに私たちがまた来ますので」
そう言って逃げるように離れていった。
変な汗をかいたので手でぬぐうと、ポーターの後ろから視線を感じた。振り返ると、顔を青くしたアリアがこちらを荷台から覗いていた。
そして、他の仲間もポーターの影からこちらを覗いていた。
「ヒッ!」
俺は怖くて後退ってしまうのだった。悪い事はしていないのに、どうしてこんな後ろめたい気持ちになったのか……四代目のせいだ!