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セブンス  作者: 三嶋 与夢
初代様は蛮族
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例え道化と呼ばれても

 目を覚ましてからすぐに、俺はゼルフィーさんに連絡を取った。


 前回の喫茶店で待ち合わせを行なうと、そこでロックウォードさんの依頼を受けると申し出た。


「あんた、頭でも打ったのかい? 仮にも元貴族の跡取りが、盗賊団を相手にするとかよく言えたね。感心はするけど、正しい判断とは言えないよ」


 ゼルフィーさんは、俺を見て呆れていた。


 内心では、俺が実家を追い出されたのも無理はないと思っているのだろう。だが、今はそれでいい。


 ゼルフィーさんは甘いお菓子を注文し、綺麗に食べている。なる程、育ちが良いのだろう。ノウェムが気付いたとおりだ。


(確かに騎士のようだな。戦い方もそうだが、父の影響というところか)


「これは俺の判断です。最悪、ゼルフィーさんには抜けて貰っても構いません。ホーキンスさんには俺の方から伝えておきます」


 そう言うと、溜息を吐いてノウェムへと視線を向けたゼルフィーさん。


「ノウェムは頭が良いと思っていたんだけどね」


「ライエル様が決めた事です。それに――」


「それに?」


「ライエル様が出来ると言いました。問題はありません」


 ノウェムの俺に対する信頼度が高すぎるようにも感じたが、俺には勝算があったのだ。


 ご先祖様たちも、それを了承している。


「……今のロックウォード家は落ちぶれているから報酬なんか出ないよ。お嬢様の恰好を見ただろ? それに、現当主が駄目だ。先代様辺りまでは真面目で、王都で子爵位と役職を持った立派な法衣貴族だったけどね」


 ロックウォード家は落ち目なのだろう。


 だが、報酬を貰うのはロックウォード家ではない。むしろ、払うのは俺たちだ。


 そして、資金を出して貰うのは、ダリオンの領主である。


「構いません。報酬はこちらが払おうと思っています」


「は? ちょっと待ちな。あんた、いったい何を言っているんだい? 本当に頭を打ったなら、良い医者を紹介するよ」


 俺は苦笑いをしながら「それなら」と言って、ゼルフィーさんに頼むのだった。


「情報を持っている人を紹介して貰えますか。盗賊団、そしてダリオンの領主に詳しい人物を」


「盗賊団は理解できるけど、領主?」


 ゼルフィーさんが困った顔をすると思った。だが、実際は視線が鋭くなる。


(どうやらご先祖様――三代目や五代目の予想通りかも知れないな)


「えぇ」


 俺は、笑顔で言うのだった。内心では失敗する確率もあると分かっているが、相手に見せてはいけない。


 自信を見せる。そうしないと、誰もついてこない。


「ま、勝てますよ。それに、俺にとっては得意分野ですから。そうだ。ついでにお願いできますかね?」


 得意分野だと嘘をつく。


 本当は賊と戦った事もない。戦った経験があるのは、宝玉の中のご先祖様たちである。


「……何をだい?」


「いえ、こちらは簡単な仕事です。ただ、ゼルフィーさんなら出来る仕事だと思います。ギルドに“も”信用のあるゼルフィーさんに依頼したいんですよね」


 俺は、段々とご先祖様たちの予想通りに物事が進んでいくのを実感していた。






 ダリオンの領主がいる屋敷の前に来ていた。


 ゼルフィーさんから紹介して貰った情報屋から、俺は領主の人となりを知る事が出来た。


 そして、現在のダリオンという街の現状も知る事ができた。


 堅実という言葉が似合う【ベントラー・ロドーニア】は、領主として立派な部類に入るだろう。


 王都に近いという立地は、下手をすると領民が大都会を目指して移住してしまうというデメリットも抱えている。


 領地の発展を意識しても、近くに王都があればどうしても比べられる。


 長い時間をかけ、ダリオンを少しずつ大きくしてきたのがロドーニア一族だ。


 俺は、購入した服の襟元を正す。


「久しぶりだよ、こういう服を着たのは……なんだか随分前のように感じる」


「似合っておりますよ、ライエル様」


 ノウェムも男爵家の令嬢に相応しい服――とまではいかないが、綺麗なドレスを着ている。もっとも、本人の品があるせいか、随分と綺麗に見えた。


(昔からそうだったけど、ノウェムって雰囲気あるんだよな)


 対して、俺は普段着ていた旅人が着るような服ではない。ダリオンの服屋で購入した高価な服――の、古着を着用している。


 稼いだ金をほとんど使用してしまったが、これにはもちろん理由がある。


 今日の担当である六代目が、宝玉から声を出した。


『よし、見た目は問題ないな。さぁ、ライエル……道化を演じる準備はできたかな?』


 宝玉を触り、肯定する返事をした。


『宜しい! では行こうか……家を追い出された馬鹿息子様が、ダリオンの領主に面会する時間だ』


 六代目に言われ、俺はこちらを警戒している門番を見た。


 警戒していると言うよりも、俺たちの恰好を見て貴族の子弟か何かだと思ったのだろう。


 武器を向けてくる気配がない。


 俺は門番に近づくと、領主に会いたいと言う。


「ライエル・ウォルトと申します。領主様に面会したのですが、確認を取って頂けますか?」


 すると、門番の瞳が少し開かれた。


(やはり知っていたな。ゼルフィーさんが知っていたから、間違いないと思ったよ)


「少々お待ちください。ただいま確認を取って参ります」


 そう言って、門番が門の中にいた兵士に言伝をした。


 ノウェムも俺も、門番に笑顔を向けている。


 しばらくして、中の方から兵士ではなくスーツを着た男が歩いてきた。ソレを見て、面会は可能だと知る。


「ライエル・ウォルト様ですね? ベントラー様がお会いになるそうです。ですが、今は手が離せません。屋敷の中でしばしお待ちください」


 丁寧な対応に、俺は頷く。


「えぇ、構いません。急な来訪で心苦しく思っている程です。ダリオンの領主様は寛大ですね」


 ノウェムの方は、黙ってお辞儀をする。


「では、こちらに……」


 案内をされ、俺は領主の屋敷に入った。


 領地の規模にしては、屋敷は小さく感じる。


『思った通りだな』


 六代目が言うと、俺も思っていた通りなのでここまでは安心する。


 情報屋の話では、領主は人が良さそうな四十代の小柄で小太りの男だ。領民からの評判は、領主として満足のいくレベルである。


 つまり、領民にとっては良い領主という位置づけだった。


 ただ、優しそうなだけに、そこが頼りなくも感じられる人物でもあるらしい。


 少々頼りないところがある領主――そういう情報だった。しかし、俺とご先祖様の意見は違う。


『門番もスーツ姿の使用人も実に忠実だ。褒めても気を抜かないが、少しはこちらに対する態度が軟化したな。堅実、そして領地がこれだけ拡大したのは、間違いなく領主が優秀だからだな! 実に良い!』


 六代目が嬉しそうだ。


 その理由だが、俺としては少し気が滅入る。


 何故なら、堅実で優秀――領民からも慕われている領主。


 つまり。


『さぞ領地の発展に手を焼いているだろうな! 人手不足に加え、統治に手を抜けない性格だ! いいぞ! つけいる隙がある!』


 生き生きとしている六代目は、領主の問題点も理解していた。


 発展著しいという事、そして冒険者に仕事が多く回る環境。そして、領民に慕われながら、盗賊団を放置している。


 理由があると思った。だから調べたのだ。


 ノリノリでご先祖様一同が、情報を精査して領主の人柄や領地の問題、そして現在の状況を確認していた。


『領内に迷宮が二つ発生し、それを討伐するために家臣の騎士と兵を派遣か。領地の端にある村々のために骨を折る……うむ! 立派な領主だ!』


(そんなに褒めても、これから交渉する際にはそこを突くんだよな……)


 盗賊団と繋がっているという線も疑ったが、その盗賊団が最近になってダリオンに流れ着いた情報を手に入れたのでその線が消えた。


(ダリオンに来てからは、盗賊団が暴れ回っていないから疑ったけど)


 領主と繋がっていれば、そのまま交渉して玉を返して貰うつもりだった。


 俺は、屋敷の一室で待たせて貰うと、ノウェムと共にソファーに座りお茶を飲む。


(さて、ここからは実家を追い出された貴族の息子を演じますか)


 あまり間違っていない気もするが、ここからは俺の演技が必要になってくる。それと、ウォルトという家名を十分に使わせて貰おう。


 ご先祖様の許可も取っているので、問題ない――と、思いたい。


『ハハハ! 面白くなってきたな、ライエル!』


 六代目のテンションの高さに、俺はちょっと引いてしまった。






 仕事が一段落した領主が、俺たちの前に現われたのはそれから一時間した後だった。


 だが、今は目を点にして俺を見ている。


「このライエル・ウォルト! 今は実家を追い出された身ですが、必ずや領地を取り戻し、かつての栄光を取り戻して見せます! つきましては、ベントラー様にもご助力頂きたい」


 実家を追い出された地方領主のウォルト家の元跡取り。


 それが今の俺の評価だ。


 ダリオンまで届いている情報は、そこまで詳しくないと判断した。


 同時に、この機会に俺は、俺という人間の評価を決めてしまおうと思っていた。



『追い出されても仕方のない馬鹿息子――夢想家でもいいな。口だけの夢見がちな元貴族というのが、今のライエルには相応しい』



 これは五代目の意見だ。


 当然だが、他のご先祖様たちは反対もした。


だが、今の俺にはいつ俺を利用する連中が周りに現われてもおかしくない状況だ。


 ご先祖様たちも、自分たちの時代より情報の伝達が速いと感じている。


 そのため、今回の件で俺を守るために評判を決めてしまおうとしたのだ。


 今の俺に対して動きを見せない実家であるウォルト家。


 それが、これを機会にどう動くのかも調べるつもりらしい。


 騒ぎ立てる俺を始末しに来るのか? それとも、このまま放置するのか?


 セレスという怪物に支配されているウォルト家の反応を知る機会として、今回の件を利用する計画のようだ。


(本気で暗殺者を差し向けられると、俺が困るんだが……)


 ご先祖様たちが言うには、その問題も初代のスキルが解決してくれるらしい。


 蛮族スタイルの初代を思えば、少し疑わしくも思えた。だが、確かに初代のスキルは凄い。


 目の前の領主――ベントラー・ロドーニアは、俺を見て少し引きつった顔をしていた。


『いいぞ、ライエル。想像以上の馬鹿で困っている顔だ! 油断して表情が出ているぞ、ガハハハ!!』


 興奮している六代目に言われた通りだった。


「ラ、ライエル殿、その協力と言われても急な話で返答が出来ない。それに、このような話はライエル殿のためにもならないでしょう。聞かなかった事にしますので、今日はお帰り頂きたく……」


 聞かなかった事にしたい。つまり、なかった事にしたいのだ。


 ウォルト家は辺境に位置しているが、立派な伯爵家だ。軍事力も持ち、中央である王都にもコネがある。


 俺のような馬鹿息子に絡まれたベントラーさんはこう思うだろう。


『いいぞ、ライエル……爆弾が領内に入り込んだ顔をしているぞ! お前を追い出したい顔をしているな!』


 六代目の言うとおりだ。


 俺のような厄介者をどう扱うべきか思案している事だろう。ベントラーさんの隣にいる陪臣の男は、動揺を見せる事なく立っていた。


 護衛なのか、腕前は相当なものである。


(立っているだけでこの威圧……凄腕だな)


 そんな部下を持っていると言う事は、それだけで優秀だと言える。


「それとですね、ベントラー様……最近は近くの廃鉱跡に盗賊団がいついたとか? このライエル、是非ともベントラー様のお役に立ちたいのです。つきましては、討伐の許可を頂きたい」


「許可? ライエル殿は冒険者になられたと聞いておりますが?」


 ベントラーさんは、俺の事をよく調べているようだ。


 ダリオンに入り、そこから俺の情報が流れてきた段階で調べたのだろう。


 優秀な人だ。


「えぇ、ですが領主様の立場として、盗賊団など放置しておけない、かと。ですので、許可が欲しいのです。何、盗賊団を倒したあかつきには、全て領主様のお手柄にして頂いて結構です!」


 俺が笑顔でそう言うと、ベントラーさんは動揺して視線が動いている。


「そ、それはライエル殿が盗賊団を討伐して頂けると? 誰かを雇うのではなく?」


「ご安心ください。ベテランの冒険者を雇っております。ギルドでも声をかけ、人数も揃えておきますよ」


 大丈夫ですよ、などと言って俺は笑顔を向ける。


 すると、ベントラーさんの表情が少し青くなった。


「……大変嬉しい申し出ですが、やはり領内の事は私に任せて頂きたい。今回はお気持ちだけ受け取らせて頂く形で――」


『よし、ライエル……今だ』


 六代目の合図で、俺は少し悲しそうな表情になる。


「そうですか……では、今回は私個人の意志で討伐させて頂きます。これでもウォルト家の男! 盗賊団の一つや二つ、簡単に討伐させて頂きますよ。おっと、ベントラー様の名前は出さないのでご安心ください」


 方針を切り替える。


 だが、ベントラーさんは困った顔をしていた。


『ライエルは追い出されたとはいえ、ウォルト家の人間……正確な情報が伝わっていないから判断が出来ないのだろうな。このまま見殺しにでもすれば、難癖を付けられるとでも考えたのだろう。いいぞ……楽しくなってきた!』


「……ライエル殿、ハッキリ申し上げる。貴殿も元は付いたとしても一領主の跡取りだったお方だ。余計な手出しはしないで頂きたい。今は冒険者であるならば、冒険者として生きる道を模索すべきです。その手伝いというなら微力ながら力をお貸ししましょう。だが、領地の事に関して手出しはしないで頂きたい」


(微力、ね……金を持たせて支援するとかかな。本当は追い出したいだろうに)


 ベントラーさんの言い分はもっともだった。だが、俺には俺の理由があり、そして盗賊退治をしなくてはいけない。


(申し訳ない気持ちになるな)


「そう言えば――」


 俺がまだ何か言おうとすると、ベントラーさんが話を逸らされて腹立たしいのか眉を動かした。


「何か?」


「いえ、随分と派手に暴れた盗賊団のようですね。領地をまたいでダリオンまで流れ着き、相当な財貨をため込んでいるとか……逃がした領主は、さぞ悔しい思いをしているでしょうね」


「……でしょうね」


 ベントラーさんの表情は変わらないが、忌々しそうにしているのは理解できた。


『周辺の領主も絡めば、さぞ面倒になるな。オマケに兵力を割いたために守りは薄い』


 あまり頭の良くない盗賊団だったが、領地をまたいで荒稼ぎしたせいで領主が手を出せなかったようだ。


 根城が判明しているのに、手が出せない時点で少々怪しかった。その関係で色々と調べたが、面白くない事も判明している。


(とはいえ、今は盗賊団の事だな。少しだけ頭が回ったのか、運が良いのか……)


 他の領地に兵を連れ込むなど、戦争の口実にされてしまう。


 散々暴れ回った盗賊団を逃がした領主は、きっと悔しい思いをしている事だろう。


(というか、盗賊団の頭はそれなりに切れ者だと思ったけど、情報からするに運が良かったんだろうな)


 分かってやっていたのなら、少しは警戒するべき相手だった。だが、調べるとどうにも違う。


 ご先祖様たちの意見で、相手はそれほどの相手でもない事がすぐに分かった。やはり、賊退治をしてきた経験者、という感じだ。


 そんな他の領地で暴れ回った盗賊団が、ダリオンでは大人しい。他の領主たちはどう思うだろうか?


「随分とお忙しいようですね。このライエル、及ばずながらベントラー様の抱える悩みを解決させて頂きますよ。周囲の領地の方々に、変な勘違いをされても面白くないのでは?」


 俺がそう言うと、ベントラーさんが溜息を吐いた。


「はぁ……何がお望みか? ライエル殿が動いたとして、私にメリットがあるとでも? デメリットしかありませんが?」


(そんな事はない)


 俺は笑顔で告げる。


「兵力と資金をお貸しください。見事盗賊団を蹴散らしてご覧に入れますよ。ただ――」


「ただ?」


 俺は少しだけ間を置いてから答える。


「俺の名前を使って頂きます。当然だが、盗賊団の財貨は俺が頂く。ベントラー様には兵力と資金を出して頂きます」


 圧倒的に俺が有利な条件だ。


 だが、これにはベントラーさんもメリットがある。自領の盗賊団を倒したのは、俺という事になる。


 冒険者である俺が盗賊団を倒せば、近隣の領主が口を出せなくなる。


 盗賊団の奪った宝の山も、俺の物となりベントラーさんは疑われない。


『盗賊団を利用し、ダリオンの領主は他の領地を荒らし回ってその財貨を回収した……そんな風に思われたくないものな! 近隣との付き合いに問題が出てくるからな!』


 嬉しそうな六代目の声が聞こえる。


「私の現在保有する兵力も大体察しておいでのようだ。だが、言わせて頂ければ兵力とは自領の民たちです。お貸しできるわけがない」


「そうですか。では、資金の方は都合を付けて頂けるので? (そうだよね。でも、こっちも分かっているんだよ、そんな事は)」


 俺という人間を理解して貰う。そう――『夢想家ライエル』とでも思って貰うために、わざと要求した。


 兵士を貸す、もしくは兵権を貸し出すなど普通はしない。


「えぇ。金貨五十枚をお出ししましょう」


『ふむ、今の金額だと思えば少ないか? ライエル、つり上げろ。いいか、打ち合わせ取りに……』


 六代目に言われ、俺は資金を強請る。


「盗賊団を討伐し、面倒な問題まで解決できます。金貨二百枚でいかがで?」


 俺の値段のつり上げに、ベントラーさんは笑い出した。


「アハハハ、ライエル殿……少し私を舐めすぎですよ」


 そういうと、隣にいた家臣に指で指示を出した。


 すると、家臣が部屋から出て行く。


 ベントラーさんが想定していたよりも、きっと少ない金額なのだろう。


 ダリオンの街の規模を考えると、端金とは言わないまでも出せる金額だ。


 だが、狙い通りでもある。


『よし、それでいい。世間知らず、そして教育もまともに受けていないと思われただろうからな』


 六代目は納得したようだ。


(自分が駄目に思われるように行動すればいいんだから、楽と言えば楽なんだけど……疲れるな)


 そして、部屋に戻ってきた家臣の手には、革袋が握られていた。


 その中身は、金貨にして二百枚が入っている。


「ライエル殿の名前で賊の討伐を行なう。私は資金を用意しました。ただし、繋がりはなしという事で宜しいですかな?」


「えぇ! ありがとうございます、ベントラー様!」


『失敗しても問題ないと思っているだろうな。成功すれば、近隣の領主とも揉めなくてすむ、そして失敗しても爆弾のように危険なライエルが消える。もしかすれば、盗賊団も移動するかも知れない。金貨二百枚では安い買い物だろうよ』


 隣で一連の流れを見ていたノウェムは、座って微笑んでいるだけだった。


 ベントラーさんも、女連れの世間知らず、そして馬鹿息子と思っただろう。


(さて次は――)


『ライエル、次は人手を集めるか!』


 嬉しそうな六代目の声を聞きながら、俺は「決して私の名前は出さないように」などと笑顔でいうベントラーさんと笑顔で握手をするのだった。


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