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セブンス  作者: 三嶋 与夢
元麒麟児の九代目
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騎士道

 ギルドへと足を運んだ俺は、今日はノウェムを連れていた。


 仲間を集めて受ける依頼は決めたが、それがもう他のパーティーに取られている可能性もある。


 だからと言って、いつまでも仲間に話を持っていき時間をかけるわけにもいかない。どの依頼を受け、無理ならこれ、などといくつか候補はあるが、それらもなく、新しく受けたいと思う依頼があればノウェムと相談するためだ。


(アリアだと、この辺の判断が信用出来ないんだよな)


 アリアが悪いとは言わないが、未だに自分の事で手一杯だ。他の仲間のことを考えている余裕がないので、やはりこうした事を決めるにはノウェムやミランダが適している。


 次点でクラーラだろうか?


 いつものように混雑はしているが、朝早いとあって人は少ない方だった。


 周囲を見れば、迷宮討伐で一緒に仕事をした冒険者たちも見かけた。中には、あまり会いたくない冒険者もいた。


「げっ! 女野郎」


 嫌そうな表情をしてこちらを見ているのは、仕事に向かうエアハルトだ。今日は大剣を背負っていないが、タンクトップなのは変わらない。


(まだ寒いと思うんだけどな)


 呆れつつも、相手には軽く挨拶をしておく。ノウェムも会釈をしていた。


「酷いな。そっちも元気そうだね」


 そう言うと、エアハルトは自慢気に。


「おうよ! もう、評価【B】も取れるようになったんだ。これで金を貯めて装備を調えたら、すぐに迷宮討伐に行ってお前なんか抜いてやるからな!」


 仲間を引き連れて外に出るエアハルトの背中を見る俺は、なんだかエアハルトの成長が嬉しかった。


「あいつが真面目に仕事をして……上着を買えば良いのに」


 そう言うと、ノウェムは苦笑いをする。


「何か譲れないものでもあるのでしょうね。逆に腰回りは金属の武具が目立つんですけど」


 上下でバランスが悪いエアハルトの装備だが、今回は見られなかった。普段は腰回りや足に金属製の武具をつけている。


「雑用系では不要かな。でも、上手くやっているみたいだ」


 少し安心した。


 何かあれば、寝覚めも悪い。


(マリアーヌさんに宜しくと言われた後だしな)


 そう思っていると、今度は朝から爽やかな笑顔で暑苦しい知り合いに会った。クレートさんだ。


「おはよう、ライエル君!」


 今度は俺が「げっ!」と言いそうになったが、ノウェムがクレートさんに挨拶をする。


「お久しぶりです」


「やぁ、ノウェムさん。毎日違う女性を連れているね」


 笑顔のクレートさんには悪気はないのだろうが、周囲はそうでもない。羨むような視線や、哀れむような視線が俺に突き刺さってくる。


 宝玉内からは四代目が。


『こういう悪気のない奴は、質が悪いよね』


 三代目は笑いながら。


『計算通りに出来るなら嫌な奴だけど、そこまで器用そうでもないから良い奴だよ。距離を取って付き合えば、良い味方になってくれそうだ』


 俺も挨拶をすると、クレートさんはラフな恰好をしていた。ラフといっても、性格なのかキッチリとした恰好をしている。


 襟もしっかり止めて、服も皺がほとんどない。


「いつも思うんですけど、キッチリしていますよね。冒険者じゃないみたいだ」


 すると、クレートさんは笑顔で。


「そうかい? そう思われて嬉しいのか悲しいのか。でも、私たちの最終目的は仕官だからね」


 そう言えば、そんな事を聞いた気がした。


「仕官ですか」


 そう言うと、クレートさんは張った胸を右手で叩き。


「そう、私たちは騎士になるために集まったパーティーだ! いずれ仕えるべき主君に出会えるまで、自分を鍛えているのさ」


 暑苦しい人だと思ったが、目的があり自分を律しているのだろう。それが行き過ぎである気もするが。


 すると、クレートさんがギルド内にある時計を見て。


「いかん、もう行かねば。それでは失礼するよ、ライエル君!」


 笑顔で去って行くクレートさんを見て、俺は手を振ってしまった。


 クレートさんを見て、七代目は。


『心意気は買うが、何故冒険者なのか……』


 七代目は冒険者嫌いだ。あまりこうした時に正しい意見を言わないので放置する。


 すると、ノウェムが声をかけてきた。


「ライエル様、次ですよ」


 言われて前を見れば、カウンターで話をしていた冒険者たちが離れていく。


(今日の受付はタニヤさんか)


 オカッパ頭で眼鏡をかけた仕事の出来る女性に見える彼女は、外見同様に仕事も丁寧で早かった。


 俺は書類を持ってカウンターにいくと、タニヤさんに挨拶をしながら。


「どうも。久しぶりですね」


「えぇ、お久しぶりです。今日はどのようなご用件で?」


「依頼を受けようと思いまして。これとか受けられます?」


 書類を置いて指を差すと、タニヤさんが手元の資料を見て考え込んでいた。


「もう受けているパーティーがいますね。新しい資料を見ますか? それと、今ならこちらの依頼を受けてくれると非常に助かるんですけど」


 タニヤさんが受けて欲しいと言ってきたのは、時間もかかるが依頼料が低いものだった。


「流石に厳しくないです?」


 そう言うと、タニヤさんもそれは理解しているのか。


「私たちもそう思うんですが、受けて貰わないと困る事情がありまして。それと、受けてくれるなら途中で退治して得られる魔石は、多少割高で買い取らせて貰いますよ」


 言われて考え込むと、ノウェムが買い取り価格を確認する。


「いくらでしょうか? それと、この依頼は評価されるので?」


 タニヤさんは難しい表情で。


「一割は割高でも大丈夫です。量にもよりますけどね。ただ、評価に関しては……私の評価が上がるのでは駄目ですか?」


 少し首を斜めにし、笑顔になるタニヤさんにノウェムは。


「話になりません」


 すると、タニヤさんは苦笑いをする。


「でしょうね。私でも拒否をします」


 そんな依頼を押しつけようとしたのかと、内心でタニヤさんに驚く。しかし、ノウェムを連れてきて良かった。


 俺では引き受けたかも知れない。


 ノウェムはタニヤさんと話をする。


「では、こちらとこちらを同時に受けるのは可能ですか?」


「可能ですが……それなら帰りがけにでもこちらを引き受けて貰えると助かります」


 ノウェムが俺に視線を向けてくると、内容を確認する。


(ノルマとしてみれば少し多いな。二つを処理すれば十分だし。それに、三つ目を受けると今月は余裕がなくなりそうだ)


 俺は。


「そこまで受けると今月は厳しいですね。あまり余裕がなくなるのも」


 そう言うと、タニヤさんは肩を上下させ。


「それなんですが、当分はこのような状況が続くと思いますよ」


「え?」


 俺がタニヤさんの表情を見ると、真剣なものだった。タニヤさんは、しばらくは依頼が増える、いや――依頼を受ける冒険者が減ると告げてきた。


「確かではありませんが、ザインという国とロルフィスという国が緊張状態に入りました。すぐに動くとは思えませんが、それでも両陣営が人手をかき集めています。下手をすれば万単位の軍勢がぶつかる事になりますよ」


 ノウェムはそれを聞いて。


「アレットさんの母国でしたね」


 すると、タニヤさんは頷いて説明を続けた。


「ライエル君たちが参加するかは分かりませんが、それだけの規模になれば冒険者はどんどん参加します。依頼の量も増えるでしょうが、受ける冒険者の数も減るので当然ですがギルドは処理するために」


 処理するために、ノルマを増やすのだろう。


(参ったな。しばらくは依頼が増えるのか)


 それを聞いて、ノウェムも考え込んでいるようだった。


 ただ、宝玉内からは楽しそうな声がする。


 三代目は。


『ほう、万単位の戦争か』


 四代目が。


『準備がきついですね。ライエルを参加させるとなると、情報も欲しい』


 五代目も。


『勝ち馬に乗るか、劣勢を覆すか……後者ならライエルの目的である味方を増やせそうだな』


 六代目は否定する。


『勝って名を広めるのもいいですな。そうすれば、人が集まりやすくなる。それにライエルは大規模な戦は経験していません。劣勢を覆すのは厳しいかと』


 七代目が。


『チャンスですな。積極的に介入する方向で行きましょう。とはいえ、情報がなければ始まりませんね』


 歴代当主の中では、俺を参加させる方向で意見がまとまりつつあった。


(……俺の意見は?)






 宿屋に戻った俺とノウェムは、ギルドで聞いた事情を全員に説明した。


 俺の部屋に集まったので、部屋が狭く感じる。


 モニカが全員にお茶を用意し、それを飲みながらの相談となった。


 シャノンは。


「……依頼を受ける量が増えるの? 断れば良いじゃない」


 それが出来れば楽なのだが、ギルドとしても依頼を受ける冒険者がいないので困っているのだ。


 ここでいつも通り、というのは相手も納得出来ないものがあるはずだ。


 というか、恩を売っておきたいのである程度は引き受けるつもりだ。


 ミランダは、シャノンに。


「それが出来ないから相談なんでしょ。今回は実入りの少ない依頼を受けるとして、次回はどうするの? 依頼だけを受けると収入的にも厳しいわよ」


 基本的に報酬と、行きと帰りで手に入る魔石や素材が収入源だ。


 迷宮討伐とは違って、報酬の額が下がってしまう。


 数をこなせば依頼料でもそれなりの収入にはなるが、俺としてはもう一つの意見もある。


「ついでに言えば、今度のロルフィスとザインの戦争……俺たちも参加する」


 それを聞いたエヴァは、少し興味がありそうにしていた。やはり、歌い手としてはどうしても戦場に憧れがあるのだろう。


 見ていて面白いとは思えないが、英雄歌は多くの人々に好まれているのも事実だ。


「不謹慎だけど、私は興味があるわね」


 ただ、神獣であるメイには理解出来ないようだ。


「同族同士で殺し合いか。僕には理解出来ないよ。ま、数が多いから縄張り争いの延長かな」


 縄張り争いそのものだ。


 クラーラは。


「ですが、私たちの規模では大した戦力に数えられません。質は良くても傭兵団はやはり数も重視します。参加して稼げるとは限りませんよ」


 傭兵団として参加し、金を稼ぐ方法は俺たちにノウハウがない。ただ、俺にはそういった方面に詳しい人たちがいるのだ。


 四代目が、俺にアドバイスをする。


『ライエル、情報収集を行なうと言うんだ。ついでに、依頼の合間に手分けして必要な物資も揃えるよ』


 俺は口を開いて。


「参加は決定事項。ただし、当分は情報収集を優先する。情報収集の結果では参加を見送るし、依頼をしながら情報を集めるのを方針にしようと思うんだ」


 俺の決定を伝えると、アリアが少し戸惑っていた。


「でも、それって……参加したら、人同士で戦うのよね?」


 周囲に視線を向けるアリアに、ミランダが。


「最終的には経験するなら、一度くらい空気に触れておくのもいいかもね。ただ、無駄死には嫌よ。無謀だと思ったら反対するから」


 自分が嫌と言うよりも、俺が無謀な行動をしないか心配しているようだった。俺が頷くと、ノウェムが口を開く。


「アレットさんがライエル様に紹介状を書くように言ってきましたが、もしかすると急いでいたのかも知れませんね。アレットさんは母国であるロルフィスに戻るでしょうから、ザイン側につけば敵同士です」


 全員がアレットさんを思い出すと、憎めない人なので思うところはあった。それに、アレットさんは間違いなく優秀だ。


 戦場で会えば無傷で勝てるとも言い切れない。いや、初参加の俺たちなどいい標的だろう。


 モニカが。


「ふむ、これは少し困りましたね。もう少し早ければ大いに役立てたのですが……まぁ、このモニカがいれば一騎当千の活躍は確実ですよ。何しろ、メイドですので!」


 俺は鼻で笑いながら。


「万の敵がいるのに、お前一人でどうなるよ。一人で千を相手にしても、残りがどれだけいるか。それに、なんでメイドなら安心なんだ?」


 俺の問いに、モニカは一回転してツインテールを揺らし、スカートを指でつまんで持ち上げ綺麗なお辞儀をする。


「メイドとはそういうものです。それに今の私はフルオプションバージョン! これまで出来なかった事が可能になったのです!」


 掃除とか料理に便利道具が増えたところしか見たことがなかった。


 俺は曖昧な返事をして、全員を見る。


「参加する事に反対する者は……いないな。では、これからの行動は、依頼を中心に引き受ける。だが、同時にベイムに残って情報収集をするメンバーを残そうと思う」


 九人いれば、数名を残して依頼を達成するのも可能だろう。


 すると、ミランダが手を上げる。


「何かあるのか、ミランダ?」


「そうね。ベイムで情報屋数人に仕事を頼んだことがあるわ。その時に腕の良い情報屋に知り合いができたの。ライエルに紹介しておくわね」


 笑顔でそういうのだが、俺は話を聞いて思い出す。


(ノウェムを監視させたとか言っていたな。情報屋を先に調べていたのか)


 ミランダは、ついでにと言って付け加えた。


「この周辺の国に関して調べて貰っているわ。バンセイムのことも含めてね。それを聞いてから行動してもいいんじゃない」


 俺はミランダを見た。色々と言いたいこともあるが、全てを受け入れる的な発言をした手前、独断専行を咎められない。


(しかも俺のためになっているんだよなぁ)


 これが俺の足を引っ張る事なら、注意なりするのだが――。


「分かった。会おう。それと、礼は言っておくよ。ただ、次回からは相談をしてくれると助かるかな」


 そう言う俺に、四代目が。


『ライエル、ミランダちゃんに依頼料を支払っておこうか。結構な金額を使わせているはずだよ。ライエルが負担するんだ』


 俺は宝玉を握ると、ミランダに。


「ついでにかかった費用を言ってくれ。俺が払う」


 ミランダは耳にかかった髪を後ろにかき上げつつ。


「あら、なら金貨百枚とか二百枚とか言おうかしら」


 冗談でそう言うので。


「いいぞ。それだけかかったなら払ってやる」


 すると、ミランダは真剣な表情になって。


「嘘よ。でも、そういうやり取りはしっかりして欲しいわね。信用して貰えるのは嬉しいけど、ルーズなのは駄目よ」


 俺は律儀だと思いながら、頷いてミランダにかかった費用を確認するのだった。


 六代目が。


『流石はミランダ! これで情報屋を探す手間が省けたな』


 すると、五代目が。


『アホか。もっといい情報屋がいるかも知れないだろうが。それに、これからはもっと情報が必要になる。一人二人で足りるかよ』


 俺は全員の了承を得ると、立ち上がって行動を開始する事にした。


(さて、いったいどんな状況になっているんだか)


 俺にとって好都合な状況ばかりではないだろうが、今はセレス打倒のために利用出来るものはなんでも利用する必要がある。


(甘いことは言っていられないな)


 そう思うのだった。


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