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セブンス  作者: 三嶋 与夢
初代様は蛮族
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初代 バジル・ウォルト

 毛皮を着込んだワイルドな――蛮族だ。


 ボサボサした長い髪に、紫の瞳をした野生身溢れるウォルト家の祖である。


 王都で法衣貴族をしていたウォルト家の三男だった。


 だが、家も継げない初代は、独立するために辺境で開拓村を興したのだ。


 法衣貴族のウォルト家から独立し、辺境の誰も手を付けていない未開の森を切り開いたのが初代である。


 当時、領地の近くには蛮族と呼ばれていた人々もいた。そうした人々も抱え込み、ウォルト家の始まりを作った人物である。


 もっとも、独立した理由は――。


『初恋の人が男爵家だったんだよ。結婚するにはそれなりの地位がいるだろ? だから、開拓して準男爵になれば迎えに来ようと……』


 会議室では、倒れた俺がいつの間にかその場にいた。


 初代の話を聞かされ、周囲は自分たちの始まりが初代の初恋によるものだと知り複雑な表情をしている。


『つまりアレか? 女に恋をしたから開拓団に志願して、そのまま地方貴族のウォルト家を興した、と? ……道理で結婚してからも微妙な訳だよな!』


 二代目が、初代とその妻との話をする。


 どうやら、夫婦仲が初期は良くなかったらしい。


『王都に戻ってみたら初恋の人が結婚して嫁いでたんだぞ! 悲しくもなるわ!』


 初代が二代目に掴みかかるが、両者は思うところがあるのか一歩も引こうとしない。


『まさかあの家訓の条件って……そのアリスさんが原因だったとか?』


 三代目が言うと、初代は少し照れていた。


『ヘヘ、どうせ結婚できないなら、条件出してクリアできる奴と結婚する、って宴会で言ったんだよ。これはウォルト家の家訓だ、って言うと全員引き下がったし。いやぁ、まさか本当に家訓にするなんて思わねーよ。相手が見つかったのも驚きだけどな』


 笑いながら言う初代に、二代目は叫ぶ。


(魔力が減るから叫ばないで欲しいな。というか、そんな事実は知りたくなかったよ)


『お前はぁぁぁ!! それで、俺がどれだけ苦労したと思ってんだ! どいつもこいつも、ウォルト家の家訓だから、って! お前のせいで結婚が遅れるし、俺はお前が無計画に村を大きくしたからその処理で……アァァァァァ!!』


 二代目が発狂してしまうと、俺は近くにいた七代目に声をかける。


「あの、なんで俺がここにいるんです? というか、気絶した後に何かありました?」


『う、うむ……実は、な』


 七代目が言うには、この緊急会議を開いたのは初代のようだ。


 なんでも、ロックウォード家の危機を聞いて、助けたいと主張したのである。


 六代目が、初代に言う。


『はぁ、ですが無理です。指導員のゼルフィーを貸し出すのはもっての他。ノウェムが家財道具を売り払った資金を無駄にせよ、とでも?』


 そう言うと、初代が腕を組んで難しい顔になる。


『いや、それはそうなんだが。でもな、初恋の人の生き写しがいて、助けを求めてるんだ……お前らもこの気持ちは分かるだろ?』


 だが、五代目は冷静だった。


『理解できませんね。俺たちに恋愛の自由はないし、領地のために結婚したようなものですから』


『なんて冷たい野郎だ! お前ら、それでも人間かよ! いったい、誰のおかげで生まれてこれたと思ってやがる!』


 そう言うと、二代目から順番に――。


『お袋』

『母さん』

『母ですね』

『ママ』

『母です』

『母上のおかげですね』


(うわぁ……珍しく意見が一致したよ)


『お前らぁぁぁ!!』


 初代が叫ぶが、二代目は冷たく言い放つ。


『というかさ、お袋がいたのに初恋の人を助けろ、って言われた俺の気持ちはどうよ? それにノウェムちゃん怒ってたぞ』


「え、そうなんですか?」


 二代目は俺を見て微妙な顔をする。


『……だってほら、あのアリアって子がライエルを揺すって気を失っただろ? なんか泣きそうだったよ』


(あぁ、想像できるな)


 俺を運んだ後、家で事情を確認したようだ。


 ご先祖様たちは、そこである程度の事情を確認したらしい。


 俺は、ノウェムが取り乱しているところを想像する。子供の頃は、今と違ってもっと頼りなかった。


「それに助けるっていうと、具体的に何をすれば良いんです?」


 そう言うと、初代が待っていましたと言わんばかりに説明に入る。


『実は、宝を盗んだ連中は盗賊団でな。そいつらがダリオン周辺の廃鉱跡に隠れ住んでいやがる。それで、忍び込んで宝である『玉』を取り戻すんだよ。やってくれるか?』


 俺にやれと言わんばかりに睨んでくる初代に、二代目たちが反対する。


『無理。盗賊団とか、そのゼルフィーって冒険者でも危ういでしょ。というか、情報が少なすぎて危険すぎ』


 三代目も同意見だ。


『騎士団なり、ダリオンの兵士たちに相談すれば良いと思いますよ。というか、それは領主が対処すべき案件ですよね?』


 他も同じような事を言う。


 七代目に関しては、俺の身の安全が第一らしい。


『そもそも、ライエルに賊討伐など論外です。魔法の使用には制限がかかり、その上でライエルとゼルフィーですか? ノウェムもついて行くと言い出したとして、あの娘にいかほどの兵力があるのか』


 敵は盗賊団という事もあって、数は複数だろう。


 未知数の敵に対して、こちらはどれだけの兵力を持って行けるのか? 不確定要素が多く、ご先祖様たちが反対する。


『助けたいんだよ! 俺は気持ちも伝えられなかった! そして、今はライエルが助けを求められている……これって運命だろうが!』


『いや、ただの勘違いです』


 四代目がバッサリと言うと、初代が椅子に座って肩を落とす。見ていて悲しくなってくるほどだが、俺に盗賊団を相手にしろと言われても困る。


 というか、人を相手に勝負したのは、セレスとの勝負くらいだ。


 役に立つか立たないかと言われると、立たないと思う。


 だが、ここで初代がボソリと呟いた。


『そうだよな。俺の血、だもんな。所詮は伯爵家になっても、中身は同じだよな』


 ピクリ……そんな音が聞こえた気がした。


『いや、悪かった。お前たちに期待した俺が馬鹿だったんだ。王家の血が入ったとかいうライエルならもしかしたら、なんて淡い期待をしたんだが、そうだよな……所詮お前らは、俺の子孫、だもんな。たかが知れてるよね』


 初代の見え透いた煽りに、全員がイライラしていた。


「え、あの……み、皆さん?」


『……出来るし。ただ、メリットがないだけだし』


 四代目が言うと、二代目も同意する。


『お前と一緒にするなよ。俺らが本気になれば、盗賊団の一つや二つ、すぐに壊滅させてやるよ!』


 三代目も静かに怒りながら言う。


『舐めているよね。これでも領主として兵を率いて賊を討伐してきた身だよ? 初代の時とは時代が違うんだよね』


 すると、初代が更に煽る。


『いいんだって。どうせ出来ないんだろ? お前らも戦争経験したとか言うけど、基本的に後ろで見ているだけで、部下に任せてたんだろ? いや、貴族様だから、それで良いと思うよ。無理に前に出られても他の奴が困っただろうからな』


 それを聞いて、五代目が初代を睨み付けた。


『は? 俺ら前線で指揮してきたんだけど? というか、俺らじゃなくライエルが討伐するんだろ? それに、出来ないなんて言ってないですけど』


 六代目も同じだった。


『臆病者とは心外ですな。だが、今回はライエルが討伐をするんです。今のままでは難しいとは思いますよ。だが、出来ないと言っていない』


 初代は更に言う。


『気にしてないから。そうやって凄むなよ。というか、弱い奴ほど、っていうのは本当だな。おっと、お前らの事じゃねーからな』


 お前たちの事じゃないと言いながら、ニヤニヤして一同を見渡す。


 椅子から立ち上がった七代目が、初代に指を差しながら言う。


『やってやろうにもあんたが手を貸さないんだろうが! ライエルに協力しない上に、助けろと命令するのか!』


 すると、初代がテーブルに拳を振り下ろした。


 その場にドンッという音が響くと、全員が黙る。


『アリアって子を助けるなら全力で手助けしてやらー! 俺の持っているスキル、それに応用だってライエルに教えてやるよ! ただし、助けるなら、だ!』


 それを聞いて、イライラしていた全員の表情がいつも通りになる。


 俺は、ソレを見ていてオロオロしてしまった。


 初代も目を見開いて驚いている。そして、四代目がその場を仕切り出す。


『では、初代はライエルに手を貸すという事で。いやぁ、これでようやく問題一つが解決しましたね』


『……え?』


 状況において行かれる初代。そんな中、三代目が俺に笑顔を向けてくる。


『良かったね、ライエル。これでスキルが使用できるよ』


「は、はい……あ、あの……さっきのは?」


 俺が先程までの状況を聞くと、五代目が疲れたと言いながら説明してくれる。


『いや、こっちを煽ってきたから、それを利用して初代に確約を、な。いくらなんでも、この場で言った事を取り消す気はないだろうし。というか、そんな事をする軟弱野郎ではないですよね、初代?』


『お、男に二言はない!』


 それを聞くと、全員が椅子から立ち上がってそれぞれの部屋に戻る。


 六代目が、俺に今後の打ち合わせについて声をかけてきた。


『ライエルは目を覚ましたらアリアから情報を聞き出せ。それから、ついでに初代にスキルについて聞いておくように。忙しくなるぞ』


 笑いながら部屋に戻るご先祖様たち。


 残ったのは、俺と初代だけとなる。


「……あ、あの?」


『は、謀られたのか……』


 本当に悔しそうにする初代を見ながら、俺は現実ではどのような状況になっているのか気になっていた。






『じゃあ、スキルの説明すっかな』


 全員が自室へと戻った後、俺は初代の部屋に連れて行かれた。


 部屋はどうやら初代が住んでいた屋敷のようだ。俺から言わせると、小屋のような感じである。


「はい。あの、基本的にスキルって一人につき一つですよね? 応用がどうとか……」


 俺は、初代にスキルの説明を聞く。


『元は一つのスキルだ。玉に封じられた状態だと、自分以外のスキルは基本的な使用方法しか使えないだろうな。個人に才能があれば使えるかも、って程度だな。お前の場合は、俺が教えるんだが』


 玉のままでは、保持者が使うほどにスキルの性能を引き出せないらしい。


 ただ、宝玉であれば別であるようだ。


『俺のスキルは知ってるな?』


「フルオーバーだったと」


 初代のスキル、フルオーバーは、単純だがそれ故に有効なスキルである。


『性能的には、一割から二割の能力向上だ。単純に一割から二割強くなると思っておけ』


「はい」


 そして、初代は自身のスキルについて語るのだが、それだけでは盗賊団を相手に出来ないと理解しているようだ。


 腐っても元は領主だけあり、流石にまずいと感じているのだろう。


 なのに、初恋の人にソックリな子孫を助けようとしている。


『その応用で【リミットバースト】ってのがある。限界を超えて身体強化を行い、え~と……回復しつつ戦うスキルだ』


「回復しつつ、ですか?」


『あぁ、詳しい事は知らないが、限界を超えて体を酷使すると普通は壊れるんだと』


 普通は壊れると初代が言うと、まるで初代が普通ではないみたいだ。


(いや、まぁ……普通の人には見えないか)


 蛮族スタイルの初代が、俺を見て睨み付けてくる。


『今、変な事を考えただろ?』


「い、いえ別に!」


『で、説明の続きだが、その限界を超えた強化スキルをお前には使って貰う。だが、お前の体が耐えられるのはだいたい……三分くらいか?』


「え、そこ大事じゃないですか! 曖昧に三分とか言わないでくださいよ!」


 スキルには使用制限が設けられた。


 俺の体が耐えられなくなるから、というのが理由のようである。


『いいか、このスキルは自分に使用すれば強化だが、怪我人に使用すれば怪我の完治が早まる優れものだ。回復力まで強化するからな!』


 確かに凄いスキルだ。


 単純だが、よく考えると破格の性能である。


『そんじゃ、スキル使ってみ』


「……あの、どうやって?」


 こうして、俺と初代との特訓が執り行われたのだった。






 目を覚ましたら、借家の天井が目の前にあった。


 ベッドから起き上がると、体の動きが鈍く感じる。


 近くでは、ノウェムが俺の看病をしていた。


「ライエル様!?」


「ノウェム……俺が倒れてから何日過ぎた?」


 今は少しでも時間が欲しい。


「もうすぐ朝になります。丸一日とは言いませんが、それだけ気を失っていました。本当に心配したんですよ」


「悪かったよ。それと、アリア・ロックウォードさんだったか……呼んできてくれ。ゼルフィーさんもだ。盗賊団退治には向かっていないだろ?」


 まだロックウォードさんもゼルフィーさんも、街にいると思った。


 喫茶店での反応から、ゼルフィーさんは乗り気ではないと思ったからだ。


 流石に、お転婆そうなあのお嬢様でも、一人では盗賊団に挑まないだろう。


「……ライエル様、盗賊団討伐は領主の仕事になります。もしくは自警団が対応するはずです」


 俺の言いたい事が分かったのか、ノウェムは真剣な表情で止めるように言ってくる。


 だが、俺にも理由がある。


(初代に認められるチャンスでもある。それに……)


『良い子だよね、ノウェムちゃん。しっかり領主の仕事だと理解している。さて、ライエル……ここからは僕たちが得意とする分野だよ』


 三代目が俺に言ってくる。


 そう、領主として賊の討伐は大きな悩みの種である。


 歴代当主――特に三代目以降となると、その手の問題に苦しめられてきている。


「ノウェム、これは俺が決めた事だ。悪いが、盗賊団から玉を取り戻す手伝いをする。家で待っていて貰えるか?」


「そんな事はできません。仮に手を貸すなら、私もお手伝いします。ですが、盗賊団の規模も分かっていないというのに」


 そう、分かっていない。


 規模も装備も、そして実力も――。


 なら、調べれば良い。


『まずは盗賊団について調べようか。根城は突き止めてあるから、大した盗賊団でもないようだし。領主が討伐に出向かない理由も調べないと。やる事が一杯だね』


 俺はノウェムに言う。


「ノウェム、力を貸してくれ……それに、これは勝てる“戦”だ」


 それを聞き、ノウェムは黙って頷くのだった。


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