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セブンス  作者: 三嶋 与夢
やっちまったな八代目
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地下八階

 水陸両用のミニポーターと、ミニポーター一台に荷物を積み込んだ俺は、スキル【ボックス】を使用して準備を整えた。


 一見すると、地下五階層以内で魔物を倒し、そのまま戻ってくるような装備をしている。


 ミニポーターを操作する俺が中央で、最初からランタンを使用して明かりを用意して迷宮に挑む計画だ。


 地下五階層を突破するまでは、魔物の素材は無視する事にしていた。回収しても魔石だけだ。


 準備を整えて振り返ると、今回のメンバーを確認する。


 俺。


 ノウェム。


 アリア。


 アリアから槍を借りているミランダ。


 そしてモニカ。


 五名で挑むのだが、モニカが張り切っていた。


 昨夜など、アラムサースで最初に作り出したモニカ以上に大きなハンマーを磨き、嬉しそうにしていた。


 全員が動きやすい服装に着替えており、出来うる限り金属製の武具は外している。革製の装備に身を包んでいるのは、地下七階以降を考えてだった。


 地下七階まで、金属製の防具の必要性が低いのも自分たちで確認しての選択だ。


 朝早くから起きて、出発の準備を整えているとシャノンが眠そうにしている。


 メイはポーターの天井で横になり、俺たちを見ていた。


 エヴァは、モニカから食事のことを確認している。


「作り置きはちゃんと保管しておくように。わざわざチキン野郎に氷まで用意させたんです。それから、腐りやすいものから食べてくださいね。というか、なくなれば自分で作るか、買ってください」


 エヴァは。


「分かっているけど、メイの食事量は知っているでしょ。これだけで足りるかしら?」


 金貨の入った革袋を見ながら、エヴァは心配そうにポーターの上に横になるメイと革袋を交互に見る。


 メイは。


「大丈夫だよ。ご飯がなくなれば、その辺で探すから。言っておくけど、これでも君たちより長生きしているんだけど?」


 幼そうな外見に騙されているが、少なくともメイは八十年以上も生きている。何しろ、宝玉の中にいる五代目と出会っている。


 ノウェムが、エヴァに言うのだ。


「それでは、後の事はよろしくお願いします。それと、あまり歌に集中しないでくださいね」


 エヴァが困ったように笑い、少し後ずさりしていた。


(ノウェムの奴、エヴァに釘を刺したな)


 最後に、テントから出て来たクラーラが、俺たちに言うのだ。


「心配しなくても、戻ってくれば全て報告しますよ。ライエルさんたちもお気を付けて。それと、これは頼まれていったものです」


 クラーラから本を受け取ると、俺はお礼を言う。


「ありがとう。まぁ、こっちも良い報告を出来るように頑張るよ」


 俺は頷くと、迷宮に向かって歩き出すのだった。


 俺の後ろをミニポーターがついてくる。


 ミランダやアリアが、シャノンに声をかけて歩き出し、ノウェムはメイやエヴァに声をかけていた。


 微笑ましい光景のはずなのだが、どこか大きな壁を感じていた。


 宝玉内の四代目が、少し困ったような声を出す。


『う~ん、なんかこのままパーティーの雰囲気が固まりそうだね。何かきっかけでもあれば違うんだろうけどさ』


 俺も、なんとか今の状況を改善したいと思いつつ、その方法が分からないので手を出せずにいる。


(なんとかしたいんだけどなぁ)


 表だって対立していないだけマシなのか、それともぶつかり合う方がマシなのか……俺には、分からなかった。






 迷宮内に入った俺は、スキル【マップ】と【サーチ】加えて移動速度の上昇である【スピード】を使用して出来うる限り戦闘を回避、そして最短距離で先を進んでいた。


 以前、クレートさんたちと一緒に迷宮へと足を踏み入れた時とは違い、そのスピードにミランダもアリアも満足げだった。


「やっぱり、これくらいのペースで進みたいわよね」


 ミランダに同意するのは、アリアだ。


「前が遅すぎたから、今回はいつもより早く感じるわ」


 俺は内心で。


(俺がスキルも使っているから、そう感じると思うんだけどね)


 すると、ノウェムが、ミランダたちに――。


「クレートさんたちは、そんなに遅かったんですか?」


 ――声をかけた。


 一瞬の間があった後に。


 アリアは困った様子でミランダに視線を送り、ミランダは耳にかかった髪をわざとらしくかき上げながら。


「……そうね」


 と言うだけだ。


 六代目が、嫌なことを思い出したのか震える声で。


『止めろ……この空気は止めてくれ』


 そんな事を言ってきた。


 俺がノウェムに説明しようとすると、モニカが会話に参加する。


「面倒ですね。というか、チキン野郎が震えているので怯えさせないでくださいよ。あなたたち、少しはチキン野郎の立場になって考えたらどうです? 女のギスギスした空気に耐えられるほど、チキン野郎はメンタルが強くないんですからね!」


 確かにそうだが、何故か納得出来なかった。


 言い返そうとすると、五代目が俺を止める。


『会話に入り込むな。面倒になるだろうが』


 俺は宝玉を触り、何か打開策がないかと歴代当主に助言を求めたのだが……。


 三代目が。


『僕たちの中で、ハーレムだったのは五代目と六代目だよ。二人がアドバイスできないのに、僕たちに意見を求められても……ま、見ている分には楽しいから、頑張ってよ』


 アドバイスをするつもりがないようだ。


(なんだよ、こういう時のための知恵袋だろうが!)


 腹を立てていると、五代目が呆れたように。


『……一度で良いから、本気で話し合える環境でも作らないと駄目だろうな。ライエルがいないところ、もしくは口出しをしない状況で、だ』


 すると、四代目が。


『……コネクションでも使えばよくない?』


 却下を示すために、指先で宝玉を転がす。何故なら、コネクション――繋がりを作る必要があり、魔力のラインを作るためには粘膜的な接触が必要だ。


 それも、キスで言うとディープな大人のキスになる。


 全員に話し合いの場を作るために、前段階で俺がキスをして回る……ちょっと意味が分からないです。


 そのままギスギスした空気の中で、地下三階へ降りる階段がある部屋に到着する。


 すると、階段を上ってくる一団がいたので道を空けるのだった。


 相手は、アレットさんたちだ。


(なんだろう。このギスギスした状況だと、アレットさんが眩しく見える。でも、なんか疲れているというか……何かあったのか?)


 少し疲れた表情をしており、部下たちも普段より動きが重そうだった。


「アレットさん、どうしたんですか?」


 俺が疑問に思って声をかけると、アレットさんは俺を見て笑顔で。


「ライエル君か。丁度良かった。これから戻るんだが、簡単で良いので帰り道を聞いていいか? 実はクタクタでね」


 アレットさんに言われた俺は、メモを取り出してそこに簡単な地図を書く。


 すると、書いている間を休憩に当てたアレットさんのパーティーは、その場所に座り込んで辛そうにしていた。


 苦笑いをしながら、アレットさんは説明してくれた。


「実は地下七階のボスを倒したんだ。だが、これがまた厄介でね」


「強かったんですか?」


 すると、アレットさんは首を横に振る。


「倒せない敵じゃないんだ。だが、地下八階も見てきたが、ここから先はボートがいる。アルバーノたちも無理だと判断して、今は地下七階で魔物相手に戦っているよ」


 腰よりも上。


 それこそ胸には届かない辺りまで水に浸かり、ボスのいる部屋では相当苦労をして倒したようだ。


「地上に戻って準備だな。木材をかき集めて、ボートやイカダを作る必要もある。とにかく、面倒な迷宮だよ。本当に地下十階で終わってくれると助かるんだが」


 地下十階というのは、ギルドが分かっている範囲で伝えてきた情報だ。誤差もあれば、もしかすればそれよりも浅い可能性もある。


 だが、より深ければ、大変な事になるだろう。


 地図を書き終え、俺はアレットさんにメモを手渡した。


「どうぞ」


「ありがとう。慣れない戦闘で疲れていてね。早く地上に戻らないといけないとあって、無理をしているんだが……しばらくは休暇だな」


 魔物の強さよりも、迷宮の厄介さにアレットさんも苦戦をしているようだった。


 だが、移動を開始したアレットさんたちを見て、ミランダが俺に近付いてくる。


「良かったじゃない。地下八階層は手付かずよ。宝の山だったりしてね」


 冗談を言う風に告げてくると、俺は。


「そう願いたいね。……地下六階で一泊しよう。明日は地下八階層に挑む」


 全員が頷くのを見て、俺は階段を降りるのだった。






 予定通り地下六階層で一泊した俺たちは、二日目にして地下七階層のボスがいた部屋を前にしていた。


 膝まで水に浸かっている俺は、サーベルを抜いて仲間に指示を出す。


「ミランダ、アリア、下がれ。モニカも動くな。ノウェム!」


 目の前にはカエルが人の姿をしたようなフロッグマンがおり、槍や盾を持って立ちはだかっていた。


 膝の辺りまで水に浸かっており、全員の動きが普段よりも遅い。


 四代目のスキル【アップダウン】を使用し、戦闘を有利に進めても良かった。だが、ここで敵がどれだけの強さかを見るために、素の状態で戦っている。


 ノウェムが杖を掲げ――。


「ウインドブレード」


 魔法を使用すると、風の刃が次々に魔物に向かって襲いかかっていた。


 洞窟内で強い風が発生し、水も巻き上げられていく。


 敵の盾や武器、そして体中が血に染まると、周囲に血が広がっていく。ランタンが風に揺らされて光源が安定しない中で、俺は敵が全滅したことを確認してサーベルをしまう。


 アリアが見張りに入ると、手袋を装着したミランダがフロッグマンから魔石を回収し始めた。


 そんな中、モニカはブツブツと文句を言っている。


「私は濡れても問題ないのに。こんな胴付きの長靴スタイルとか……確かに作れと言われたので作りましたが、まさかこのモニカに着せるとは……チキン野郎は何も分かっていませんね」


 モニカが文句を言っている理由は、全員の恰好にある。


 濡れても大丈夫なように、合羽を着ているのだ。


 これで少しは動きやすくなると思ったのだが、モニカにも着せると俺は「変態野郎」と罵声を浴びせられた。


 今も悔しそうにしており。


「ちくしょう……スカートから道具を取り出せないじゃないですか。メイドにこんな恰好をさせて、いったいどうするつもりなんですか」


 俺は溜息を吐きながら、水の中を進む。


 揺れていたランタンを、ノウェムが手で止めていた。


「あのな、お前がヒラヒラした服で濡れると他も迷惑なの! 少しは考えろ」


 すると。


「なら心配はいりませんよ。防水など標準装備。それに、すぐに乾きますから」


 ビシッとポーズを決めるモニカだが、ミランダが。


「終わったわよ。さて、次はいよいよボスの部屋ね。もういないけど。聞いた話だと、ほとんど地底湖みたいな感じよね」


 確かにそうなのだ。


 俺は、そろそろ準備をする事にした。


 アルバーノさんたちも引き上げたのか、今はこの階層にはマリーナさんや俺たちしかいない。


(というか、マリーナさんは何を考えているんだろう。一つ上の階層で戦っても、出てくる魔物には違いがないのに。本物の戦闘狂なのか?)


 地下五階層で出会った時の事を思い出しながら、俺は全員に離れるように言う。


「さて、ボート型のミニポーターを出すか。というか、もう三号で統一していいかな? もう三台目だし」


 アリアは呆れたように。


「なんでもいいから早くしてよ。というか、もう乗り込むの?」


 俺は首を横に振ってから、指を鳴らした。必要はないのだが、七代目がこうしてスキル【ボックス】を使用しているのを見て、真似ているだけだ。


 水面の上に魔法陣が飛び出すと、大きな箱が出て来てそのまま蓋が開くと消えていく。


 ボートが出現すると、水面に波が出来て太もも当たりまで水が押し寄せてきた。


「乗るのはこの先からだな。というか、次の部屋で少し練習しておきたいけど」


 はじめて使用する形なので、魔法【ゴーレム】の使用感覚を確かめたかった。


 モニカの方は、一緒に箱から出て来たミニポーター用の浮き輪を手に取ると、そのまま装着を開始し始める。


(ミニポーターは、ロープで繋いでもいいかな)


 引っ張る形にして、必要なときに操作をしようと考えた。


 割と大きいボートを操作し、両脇の水車のような物を操作して動かすとボートが動き始めた。


 慣れない操作に少しだけ戸惑うが、何とかなりそうだ。


「よし、行こうか」


 モニカの作業も終わったようなので、俺はボスの部屋へと足を進める。






 地下八階層。


 ボートに乗り込んだ俺たちは、水路のようになった迷宮を進む。


 地下七階層のボスの部屋で、ボートの使用感覚を試してみたが問題はなかった。


 そして、俺は先頭に座って周囲を見ていた。


 後ろにはモニカとノウェムが座っており、中間にはアリアとミランダが位置している。


 モニカが。


「あまり無理に動かないでくださいね。沈みますから」


 すると、アリアが後ろを振り返る。


「ちょっと、欠陥品なんじゃない? ちゃんと作りなさいよね!」


 呆れた様子で、モニカはアリアに反論する。


「馬鹿を言わないでください。短い期間でよくここまで作り出せたと、自分で自分を褒めてやりたいくらいです。でも、チキン野郎に褒められたいとも思っていますけどね」


 モニカのチラチラを無視しつつ、俺はスキルを使用していた。


 五代目のスキル【マップ】を使用しているのだが――。


(駄目だな。ここだと少し厳しい)


 二段階目のスキル【ディメンション】に切り替え、周辺の地図を立体的に把握する。水の中、そして自分たちの位置を立体的に知ることができるスキルだ。


 ミランダは、腹立たしくなったアリアが立ち上がらないように肩に手を置いて押さえつけると、周囲を見ながら。


「それにしても、面倒だと思っていたけど意外に楽よね。移動は歩かなくていいし、それに戦闘は――」


 ミランダが話をしている途中だったが、俺は腰を浮かせて長方形型のボートの先に足を乗せた。


 ボートは揺れるが、この程度では沈まない。だが、ボートの上でバランスを取るのが難しかった。


 宝玉を左手で持ち、形を変化させると弓にする。短弓の形で整えると、俺は弓を引くポーズを取った。


 すると、弦のない弓に光の糸が出現し、引くと五本の矢が出現する。


 スキル【セレクト】を使用し、近づいて来た魔物に向けて構えた。


 水の中を自由に動き回るのは、フロッグマンを引き連れている【サハギン】であった。


 弓を引き、狙いを付けると矢を離す。


 五本の矢は、それぞれの獲物目がけて襲いかかり、水面から飛び出して来たサハギンは姿を現した直後に頭部を光の矢で貫かれた。


 四本の矢は、そのまま方向を変えて水の中に突き刺さる。


 すると、プカプカとフロッグマンが浮かび上がってきた。


 宝玉を元の形に戻すと、俺は首にかけ直す。


 モニカが拍手をしてきた。


「お~、見事なものですね」


 アリアは、俺を見ながら少し不満気に。


「私たちは必要ないじゃない。というか、これから先はライエルだけで、他はサポートで十分ね」


 俺はオールを手にとって、浮んでいる魔物の死体をボートに近づける。近くにおいてあった本を手に取り、サハギンの素材のはぎ方を確認しながら作業をする事にした。


「それは無理だ。魔力の消費が激しいからな。……ボートの上だと素材を剥ぐのは難しいな。魔石だけ回収するか」


 クラーラから受け取ったのは、攻略中の迷宮とよく似た過去の迷宮に関する本だ。どのような魔物がいて、どのような構造だったのかが描かれている。


 サハギンの事も書かれているのだが、ボートの上で作業をするのは面倒だ。無理して回収しても、素材にそれだけの価値もなかった。


 ノウェムは、サハギンを見ながら。


「……海にいるような魔物なんですけどね。もしかすれば、ここから先は海に出るような魔物が増えてくるかも知れません」


 洞窟内。


 地底湖を思わせる造りになっていたが、少し特殊なようである。


「そうなると、この本だけだときついか? でも、この本にも海に出るような魔物がいると書いているし……」


 すると、サハギンを見ながらモニカが言う。


「海水で生きる生き物が、淡水でも生きていけると……まぁ、人型ですし呼吸させ出来れば問題ないのかもしれませんね。でも、エラはついているんですよね。不思議というか、なんというか。生き物として間違っていますよ」


 俺は笑顔で。


「お前はオートマトンとして間違っているけどな。その口調が治れば完璧なんだけどね。ダミアンのところのオートマトンたちを見習えよ」


 すると、モニカは。


「ふっ、あいつらを見習え、と? 言っておきますが、口には出さないだけで裏では愚痴だろうが文句だろうが言っていますよ。ご主人様以外は興味が薄いですからね。他の連中の悪口なんか言いまくりですよ! それを思えば、隠さず全てを口に出すモニカは表裏のない素晴らしいメイドだと確信しています!」


 キリッとした表情で言い切るが、俺は鼻で笑うのだった。


「少しは隠せよ」


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