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セブンス  作者: 三嶋 与夢
やっちまったな八代目
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パーティーの形

 クレートさんの依頼を引き受けた俺は、地下五階層で野営を行なっているアレットさんたちに物資を運んできていた。


 真面目すぎるクレートさんのパーティーに参加しての移動は、普段の自分たちの移動と違って遅い。


 休憩の取り方、そして動きにも違いが多かった。


 揃えている人員などが違うので、一緒である方がおかしいのは理解している。


 俺の率直な感想は。


(基本に忠実だけど、戦闘に偏っているな)


 敵と遭遇すれば、自慢の武具でねじ伏せるのがクレートさんたちのやり方だ。揃えている装備を見るに、どうにも騎士団をイメージしているように見えた。


(……というか、真面目すぎる)


 洞窟内を再現したような迷宮を進み、地下六階への入口へと到着した俺たちは荷物をアレットさんたちに届け、中身の確認をする。


 クレートさんも立ち会って、荷物が正しい数だけ揃っているのかを確認していた。


 アレットさんは、リストを見ながら食糧に目を向ける。


「ふむ、少し違うがこんなものだろう。クレート、それにライエル君もお礼を言うよ」


 笑顔で荷物の確認を終えたアレットさんだが、それに意見を言うのはクレートさんだった。


「アレット殿、少し違うとはどういう事ですか? こちらは、確かに受け取って間違いないと言われたのですが?」


 少し間があった後に、アレットさんはクレートさんに説明をする。


「……大方、地上で揃える時間がなかったんだろう。私も地上に戻った時に確認しなかったからな。上は随分と賑わっているようだし、揃わない物もあるだろうさ。別に文句を言ったわけではないんだが? ま、気にしたのなら謝罪しよう」


 謝罪をするアレットさんだが、クレートさんは引き下がらない。


「揃わなかった? それは駄目ではないですか。すぐに依頼を出して、追加で物資を送って貰わないと。私のパーティーでもう一度――」


 もう一度、依頼を引き受けるとでも言い足そうなクレートさんに、少し苦笑いをしたアレットさんは手をヒラヒラと振る。


 面倒だというのを理解しているようだ。


「問題ない。元から余裕を持って頼んであるし、これだけあれば地下七階層のボスに挑んでも大丈夫だろ。次に頼む時に追加で依頼するよ」


 物資の量は十分という意味のようだ。


 クレートさんは、ブツブツと。


「いや、しかし……そういった事はちゃんとしないと」


 納得いかない様子だが、アレットさんは持っていたリストで口元を隠して言う。


「依頼料もそれなりにするんだ。何度も頼めば赤字になる。それと、一泊するなら場所を貸すぞ?」


 俺たちが一泊してから、地上に戻ると考えているようだ。腰に下げていた懐中時計を手にとって時間を見ており、今から戻れば夜になると教えてくれる。


 時間の感覚がおかしくなる迷宮で、こうした時計は必要だろう。


(俺も買おうかな。高いけど)


 迷宮討伐に耐えうるような時計などは、非常に高価であった。


 一泊するかと聞かれたクレートさんは。


「いえ、休憩させて頂ければ十分です。今日中に戻らなければいけませんので」


 予定よりも遅れて到着した事もあって、地上に戻れば夜になっているだろう。


(ノウェムたちが心配してないかな? というか、今回はなんというか……)


 クレートさんたちのパーティーを間近で見られたのは、俺たちにとって大きな収穫だった。


 だが、二度と一緒に仕事をしたくないとも思える。パーティーの方針も違えば、リズムというか……とにかく、ガチガチ過ぎて合わない。


 融通が利かないにも程がある。


「そうか。なら、空いている場所を使ってくれ。それと、クレートも地下六階以降に早く挑戦しろ。我々だけでは面倒だ」


 アレットさんの言葉に、クレートさんは拒否を示した。


「いいえ。装備が揃っていないので」


 微妙な表情をしたアレットさんは。


「そ、そうか。あ、ライエル君は少しだけ話があるから残って貰えるか? お仲間も一緒に頼むよ」


 言われて頷くと、ミランダもアリアも疲れた表情で頷いていた。


 クレートさんたちと行動を共にして、どうにも疲れた様子だ。


「なら、私は休憩させて貰います。ライエル君、出発には遅れないように」


 その場から離れていくクレートさんの背中を見ながら、アレットさんは深い溜息を吐くのだった。


「はぁ~、実力もあって真面目なんだが……真面目すぎて駄目なんだよな。というか、よく一緒にここまで荷物運びに来たね。実入りなんて良くなかっただろうに」


 依頼を出した本人が、俺たちが同行したのを不思議そうにしていた。


 小規模だが、二つのパーティーが一緒に依頼をこなすには、依頼料が少ないのを良く理解していた。


 アリアが嫌そうに。


「ライエルの指示ですから。というか、本当に真面目すぎですよ。もう少しやり方というのがあると思うんですけど?」


 すると、アレットさんが笑う。


「あの真面目さは真似出来ないよ。だが、優秀なのは事実だ。どんな依頼も真面目にこなすし、自分たちのやり方にこだわり過ぎる面もあるが、逆を言えば慎重で確実性が高い。アルバーノたちとは正反対だよ。あいつらは、もう少しだけ危機感を持つべきだと思うけどね」


 足して二で割れば丁度良いパーティーができると思えた。


 ミランダが、アレットさんにたずねる。


「地下七階層のボスにも挑むんですか?」


 笑っていたアレットさんは、少しだけ真剣な表情になると頷いた。


「あぁ、近い内に解放する予定だ。アルバーノたちが遊ぶ金欲しさに、そろそろ降りてくるだろうからね。君たちにも期待しているよ」


 アレットさんとの会話を終えると、俺たちは休憩を取って地上を目指すのだった。


 ……ゆっくりと。






 地上へ戻ると、やはり辺りは暗かった。


 街の方では騒がしい声と光で溢れていたが、寒空の下で俺たちは依頼を達成したのを本当に心から喜んだ。


 宝玉内からは、三代目の声が聞こえてくる。


『お疲れ、ライエル。さて、どう思ったかな?』


 クレートさんたちの事だろう。


 俺は、素直に宝玉を指先で回す。否定を示す意味だ。


 三代目は少し笑っている。


『だろうね。普段のリズムと違うから、結構大変に感じたでしょ。ま、後で感想は聞くとして、ライエルはクレートとギルドに行こうか』


 空になったミニポーターを、アリアとミランダに任せて先にポーターのところに戻って貰う事にした。


 俺の方は、クレートさんとギルドに向かって依頼の達成を報告しないといけない。


(普段より疲れたな。だけど、クレートさんは……)


「さぁ、行こうか、ライエル君!」


 爽やかな笑顔で、親指を突き立てて俺に向けてくる。


(この人、凄く元気なんだよなぁ……)


 少し、羨ましく思えた。


 今回は魔物と戦う事もなく、素材や魔石の換金もないので俺は報酬を半額だけ貰いに行くだけだった。


 だが、そこでクレートさんの良いところを発見する。


 交渉するでもなく、普通に報酬を折半したことだ。荷物持ちだから、疲れていないだろうとか行ってこなかったのだ。


 真面目すぎるが、こうしたお金の扱いに関してもやはり真面目だった。






 次の日。


 俺たちは、寝泊まりしている場所でモニカの改良したミニポーターを見ている。


 というか……。


「お前、作ったのか?」


 そこには、ミニポーターとは別の何か。


 ボートのようなポーターが、そこにいた。今まで荷物を入れていた四角い箱形だったのだが、その部分がボートの形になっていたのだ。


 両脇には、水をかくような仕組みまで存在していた。オールもある。


 ご丁寧に、水をかく仕組みは、他のミニポーターにも取り付けられていた。


 モニカは両手を腰に持って行き、自慢気に胸を張って高笑いをする。


「オホホホ、見ましたか、チキン野郎! これぞモニカの本気ですよ。足を付けているので陸地の移動も出来るなら、水場ではボートの役割を果たす水陸両用のミニポーター! はぁ、この愛くるしいフォルムがなんとも言えません」


 ミニポーター三号機に抱きついたモニカを、全員がドン引きしてみていた。ここまでするとは思わなかったのだ。


 クラーラが、オズオズと手を上げてたずねる。


「あの、この子たちは連れていかないんですか?」


 すると、モニカはミニポーター用にゴム製の浮き輪を用意していると説明した。


「荷物を積み過ぎないなら問題ないかと。というか、次こそはこの私を連れて行ってくださいよ! 全力で漕ぎますから! モニカがこの子のエンジンになりますから!」


(この水かきみたいなのは飾りなのかな?)


 ミニポーターたちに取り付けられた装置を見ながら、俺はそんな事を思ってしまった。


 俺はモニカを見ながら。


「えんじん? 何を言っているんだ? だけど、地下八階層も水場は多そうだし、メンバーはどうしようかな……」


 仲間を見渡していると、エヴァが俺から視線を逸らした。


「エヴァ? お前……」


 両手で顔を隠したエヴァが、耳を赤くしながら言うのだ。


「ごめんなさい。泳げないです。昔、湖で溺れてから水は駄目なの……」


 エヴァが脱落すると、シャノンも首を全力で横に振っていた。


「嫌よ! 変なカエル人間がいるような場所なんか! 私だって泳げないもん!」


 シャノンは元から期待していなかったが、そうなるとメイやクラーラという事になるのだが……。


 クラーラも青い表情をしていた。


「え? クラーラ?」


「す、すみません。泳いだこととかなくて……というか、持って行く本が濡れるのは勘弁して欲しいです」


 そして、メイを見る


「泳げるというか、水の上でも歩けるし……問題ないね」


 俺は笑顔で。


「水の上なんか歩くなよ。頼むから普通にしてくれ。目立つことをするな」


 すると、宝玉から五代目の声がする。


『ライエル、メイにとっての普通と、お前にとっての普通は違うのであって――』


 説教が長くなりそうなのでスルーすると、俺は残ったメンバーを見た。


 ノウェム。

 アリア。

 ミランダ。

 モニカ。

 メイ。


 ――この五人を入れて、六名での挑戦になるだろう。


 水陸両用のミニポーターを見ると、六人が乗れそうな大きさではある。荷物は残りのミニポーターに積み込んでしまえば問題ないだろう。


 ただ、迷宮に挑む面子は問題ない。問題なのは残る面子だ。


「まぁ、六人いればいいか。でも、三人だけで大丈夫かな?」


 残る面子を見て、俺は少し心配になった。


 シャノンは期待出来ないし、クラーラは小柄で頼りなく見える。エヴァは街に出てしまい遊び回りそうだった。


(冒険者も善人ばかりではないし、何かあればと考えると不安になるんだよな。迷宮内で地上の心配もしたくないし)


 しっかり者のノウェムかミランダを残しておきたいのだが――。


 ここでミランダが提案する。


「少し心配よね。メイに残って貰えば? 頼りになるし、流石に私たちが戻るまでは大人しくしてくれるでしょ」


 言われたメイが、ノウェムを一度見てから俺に視線を向けてくる。


 俺はミランダに。


「え? メイが? 大丈夫かな」


 小柄で頼りなく見えるが、メイは麒麟だ。戦力として見れば頼りになるし、残しておけば戦力面では安心出来る。


 アリアが、呆れながら。


「というか、ここはノウェムかミランダが適任だと思うんだけど? 嫌なら私が残るわよ」


 俺は思った。


(アリアは迷宮内の方が活躍するんだよね。逆を言うと、残してもあんまり……)


 考え込むと、頼りないと思われたのが嫌だったのかメイが声を上げる。


「ちょっと、僕だって常に買い食いしている訳じゃないからね。ここを守れば良いなら、それくらいするよ。安心して行ってくれば。あ、でも……ご飯の作り置きはして行ってよね」


 モニカが、自分は参加すると分かっているのか嬉しそうに。


「作り置きくらいしてやりますよ。というか、何日分を用意しましょう?」


 俺は内心で。


(いや、屋台とかで食えば良いじゃないか。こいつら、なんで買い食いしかしないの? 普通はこういう時のためだろうに)


 迷宮から戻ってきたパーティーは、疲れており食事の準備をするのも面倒だ。


 そうした時のために、屋台があると言ってもいい。


 俺は頭をかきながら、全員に言うのだ。


「今回は地下八階層の解放も視野に入れている。地下八階層を中心に稼ぐが、ボスに挑もうと思うんだ。予定は五日程度だな」


 行きと帰りで一日を消費する計算にしており、三日間で地下八階の探査とボスの討伐を考えていた。


 問題なのは、敵が水中を得意とする魔物である可能性が高いことなのだが……。


(ま、二代目のスキルや武器でどうにかなるからな。それに、そろそろ大物狙いに切り替えないと)


 ここに来て、周囲の環境に驚いてばかりだった。だが、冒険者として稼がなければ意味がない。


 同時に、迷宮のボスと戦っておきたかった。


 次回も呼ばれるために、だ。戦力として考えて貰わないといけない。ギルドだけではなく、周囲の冒険者たちにも。


 ノウェムは賛成してくれる。


「ライエル様がそう言うのなら」


 ミランダは、ノウェムに視線を少し向けてから。


「いいわよ。というか、私も槍とか持とうかしら? アリア、予備を貸しなさいよ」


 アリアはミランダに。


「壊さないでよね。買い換えたけど、使いやすい槍なんだから」


 モニカは久しぶりの参加とあって。


「フフフ、見ていなさい。このモニカこそが、アマゾネス軍団の中で唯一の癒しである事を再確認させてやりますよ。それに、濡れたチキン野郎を優しくタオルで拭いてやるシチュエーションもなかなか……おっと、涎が」


 そういう事で、今度の迷宮では――。


 俺。

 ノウェム。

 アリア。

 ミランダ。

 モニカ。


 ――の、五名で挑むことになったのだった。


四代目(-@∀@)「最近さぁ……ライエルのスルースキルが上昇してつまらないんだよね。あ~あ、はやく らいえるサン にならないかな」

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