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セブンス  作者: 三嶋 与夢
やっちまったな八代目
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ベイムの職員

 地下六階層。


 探査中にアレットさんたちが、階層ボスを撃破したので地下七階層が解放された。


 俺は両手に持った黄緑色の宝石――ペリドットを眺めている。


 洞窟内で発見した手頃な部屋で、休憩に入っているのだ。


 迷宮に挑んで二日目になり、手に入れた魔物の素材も魔石も十分だった。


 結局、最初に発見した宝箱は開けていない。


「偶然なのかな」


 二つの宝石を見ると、形も同じだった。


 高値で買い取っては貰えそうなのだが、急に出現した宝箱の中身が最初に発見した宝石と同じ物であるのに妙な違和感を覚える。


 周囲では、休憩をしているアリアにエヴァ、そしてクラーラも休憩に入っている。


 ランタンが暗い部屋の中を明るく照らしていた。


 ノウェムとメイが見張りを行なっており、俺は宝石をしまいこむと座り込んだ体勢で手にあごを乗せて考え込む。


(八月の誕生石で、縁とかそういったものに関係する、ね。クラーラの話だと、壊れやすいとか聞いたんだけど……)


 魔力が貯め込まれたせいなのか、宝石は硬度を増していた。


 鑑定して貰えれば、想像以上の値がつくのではないと期待もしている。


 してはいるが、同時に何か感じてもいる。


 アリアとエヴァは、仮眠を取っていた。


 クラーラも、座った状態で眠っていた。


 俺は宝玉に触れると、歴代当主の意見を聞いてみる。


 声が聞こえたのは、六代目だった。


『偶然かも知れない。ただ、今考えても意味がないな。戻る時にでも、アレットとかいう騎士に聞いてみろ。ペリドットが大量に発見されているのか、とな』


 やはり聞くしかないと思うと、俺はスキル【マップ】と【サーチ】でアレットさんの居場所を確認する。


 地下六階層のボスを撃破すると、迷宮内のベースに戻っているようだ。


(……少し早いけど、切り上げるか)


 地下七階層に進んだのは、アルバーノさんたちとマリーナさんだけだ。他のパーティーは、未だに地下六階層にも足を踏み入れていなかった。


(ま、聞けばハッキリするか)


 俺は壁に背中を預けて目を閉じる。






 休憩後。


 食事を済ませた俺たちは、そのまま地下五階へと戻ってアレットさんたちと話をしていた。


 地上に戻ると言うと。


「それなら丁度良い。地上の部下に手紙を渡してくれ」


 そう言われたからだ。


 世間話、ではないが、俺は発見した宝について確認する。


 部下への手紙を書く間、俺はアレットさんに。


「そう言えば、宝箱を発見したんですよ。宝石を見つけたんですけど、少し気になる事がありまして……この迷宮の宝は、ほとんど宝石関係ですか?」


 時折、そういった迷宮も存在している。


 そうなると、ギルドへの報告する義務が発生するのだ。


 アレットさんのペンが一瞬だけ止まるが、すぐに動き出していた。


「いや、聞いていないな。あまりそういった事は他のパーティーに言わない方がいいよ」


 それを聞いて、俺は別段宝箱の中身が偏っている訳ではないと知る。


「……少し気になったんです。同じ宝石を二回も連続で発見しまして」


 すると、アレットさんは手紙を書き終えてインクが乾燥するのを待っていた。


 内容を確認し、頷くと俺の方を見る。


「ま、冒険者を長くやっていれば、そういった幸運もあるだろうね。なんだ? プレゼントしてくれるなら、いつでも受け付けるよ」


 からかうように笑ってきたアレットさんに、俺が困っていると副官の騎士が近づいて来て。


「貰ったら勘違いするんで止めてくださいね。これでも隊長は男女関係は純情なんで、面倒なんですよ」


 笑顔でそう言うと、アレットさんに中身の入っていない封筒を差し出した。


 奪い取るように受け取るアレットさんは、その中に手紙を折りたたんで入れると封をする。


 そして、俺に渡すのだ。


「放っておけ! ま、まぁ、なんだ。気にすることではないよ。ここで鑑定するよりも、ギルド公認の鑑定士の店に持ち込むのをお勧めする。詐欺紛いの行いも多いから、気を付けるんだ」


 顔を赤くしたアレットさんから手紙を受け取ると、俺は苦笑いをして頷いておく事にした。


(売るにしても、ベイムに戻ってからだな)


 地上へと戻れば、またパーティーの編成に今回の収入と報酬の分配、それらで頭を悩ませるのかと面倒に思う。


 すると、五階層のベースに、大きな荷物を担いできた血だらけの女性が上がってきた。


 怪我人かと思って動揺したが、アレットさんが溜息を吐く。


「マリーナ、また買い取りか? 自分で地上に行けば良いだろうに」


 すると、血だらけの女性は。


「面倒だ。手数料をアレットたちに払えば、それで終わりだろ? 割高でも良いから、薬と保存食を売ってくれ」


 大きな荷物を地面に置く女性は、黒く長いボサボサの髪を振り乱した。


 周囲に血が跳ぶ。


 赤い瞳をしており、大きな荷物は地面に置くとグチャリという音がした。


 アレットさんが椅子から立ち上がってブツブツと。


「まったく、少しは外見にも気を付ければいいものを。誰か、お湯を用意してやれ。ついでに薬関係と保存食もだ。マリーナ、どれだけ必要だ?」


 マリーナさんは話の早いアレットさんに、助かったとお礼を言いながら。


「薬は一式。食糧は……十日分? それと、地下七階からフロッグマンが出て来た。歯ごたえはないが、水たまりも多い。奴ら、地の利を得て随分と元気だよ。あと、お湯はいらないよ」


 アレットさんは左手を腰に手を当てて、右手でマリーナさんを指差しながら。


「汚れを落としていけ。不衛生では怪我の治りが悪くなる時もある。だが、情報はありがたいな。買い取り価格は良い感じにしてやる」


 興味がないのか、マリーナさんは片手をヒラヒラさせて。


「あんまり持っていても、迷宮内では邪魔だろ。だが、少し休ませて貰うか。薬代と食糧、それから手間賃を引いた額を用意してくれ」


 背が高く、コートを着ていたマリーナさんは軽装だった。


 素手で魔物を相手に戦ったのかと、恐ろしく思う。


(魔法を使用した? いや、それならあんなに血だらけには……それに、雰囲気は戦士だな)


 そう思っていると、ノウェムと話をしていたメイにマリーナさんが視線を向ける。


 アレットさんが嫌そうな表情をして。


「おい、ここで喧嘩を売るなよ」


 マリーナさんは頭をかきながら。


「喧嘩じゃないんだけどね。でも、強そうなのがゴロゴロしているね。背筋がゾクゾクするよ。ねぇ、アレット……隣の坊やは誰だい?」


 赤い瞳に睨まれた俺は、一瞬でサーベルの柄に手を回しそうになった。


 宝玉から声がする。


 三代目が。


『ライエル!』


 真剣な声だった。それを聞いて、武器に手を回すのを止め、俺は呼吸を整える。


 マリーナさんを見て。


「殺気を飛ばさないでくれませんか?」


 すると、彼女は少し驚いた表情をしたが、笑い始めた。


「良いじゃないか! 坊や、名前を良いな」


(坊や扱い? 年齢的には、そこまで歳も離れていないみたいなんだけど)


 俺は、自己紹介をする。


「ライエルです。ライエル・ウォルト」


 マリーナさんは、それを聞くと荷物をアレットさんの部下に預けて用意されたカーテンで仕切られた場所へと向かう。


「覚えておくよ」


 楽しそうに歩いて行くと、俺はどうにも害のない人には見えなかった。


 そうしてアレットさんに振り返る。だが、アレットさんは俺を真剣な表情で見ていた。


「……ウォルト? バンセイムでそういう家名を持つ貴族がいたな。ライエル君、元は貴族かい?」


 俺はどうするか少し悩んで、笑顔でアレットさんに言い返す。


「根掘り葉掘り聞くのはマナー違反ですよ、アレットさん」


 アレットさんは、肩を上下させると。


「そうだったね。悪かったよ。さて、では手紙の件はよろしく頼むよ」






 地上へと戻ると、三日目の昼頃だった。


 割と早く戻ってきた俺たちは、ギルドの建物がある場所へと荷物を持って向かう。


 ミニポーターに満載された戦利品を見て、すれ違う冒険者たちは俺たちを横目で見ている。


「おい、あれって話題のポーターか?」

「もう使える奴がいたのか」

「羨ましいね。あれ一台あれば、どれだけ積み込めるか」


 稼ぎよりも、ポーターの有用性に気が付いて羨ましそうにしていた。


 地味に開発者としては嬉しい。


 クラーラが声をかけてくる。


「ライエルさん、また街が大きくなっていますね」


 少し間が空くと、街の発展は更に進んでいるように見える。


 俺はクラーラに同意した。


「そうだね。しかし、ここまで大きくして、いったいどうするつもりなんだろうね」


 ここまでする必要があったのだろうか? そう思いながらギルドへと向かうと、そこで俺たちは驚きの真実を知ることになる。


 ギルドの出張所がある建物に向かった。


 建物の隣では、市場のような場所で商人たちが冒険者たちから魔物の素材を買い取っている。


 ギルドは魔石を買い取り、作りの悪い看板には訂正されたレートが記入されていた。


 以前よりも、少しだけ買い取り価格が高くなっていたのだ。


 買い取りを行なっている職員に、俺は言う。


「前よりも高いですね」


「えぇ、ベイムの方で変更があったようです。ここでも一応は合わせる必要がありますからね。だから、下がっても文句は言わないでくださいよ」


 苦笑いしている職員は、買い取り価格が下がったときに文句を言われているのだろう。


 同情したくなってきた。


「ま、適正価格なら文句はないですよ。それにしても、随分と発展してきましたね。ここまでする必要があるんですか?」


 すると、職員の男性は俺を見て。


「あ、最近いませんでした? 実は、近くに川があるんですが、どうやらこの辺りは開拓に向いているそうなんです。今は周辺の調査をしているんですが、迷宮討伐が終わっても、ここを拠点に開拓を行なうんです。早馬でベイムからも、その方針で進めるようにと命令が来ましたから」


 ……街を一時的に、ではなく本当の街にするつもりのようだ。


 小さな村など、いつなくなってしまってもおかしくない。


 そのため、何もしないままでは収穫は減っていくばかり。それに、ベイムには抱えきれないほどの人口が集まっている。


 人手が余っているので、開拓をしようというのだろう。


 歴代当主が、呆れたような声を出す。


 三代目から順番に。


『呆れるよね。スケールが違うよ』

『でも、意外と有りですね』

『どうせ作るなら、再利用する訳か』

『……ついでに、この周辺を調査して冒険者に安全を確認させると』

『どうせ迷宮討伐もあるのですから、確かに有りと言えば有りですが』


 驚いている俺に、職員は笑顔で言う。


「まぁ、こんな事はそんなにありませんよ。普通は、もっと簡易で最低限の形を整えて、そのままベースで使用するだけですから。後で賊に使用されないように、ちゃんと潰しますし」


 ベース跡が、賊たちの根城にされては大変だ。


 終われば綺麗にしてからベイムに戻るのだろう。


「……そうなると、ベイムでも冒険者にそうした依頼が出るんですか? 周辺の調査とか?」


 職員は手続きを進めながら、俺に頷く。


「多いですよ。地下五階が開放されるまでは、それまでの繋ぎに依頼を受けてくれる冒険者の方々も多いですから」


 そうして稼いだ金が、街に落とされていく。


 実際、ここで本格的に稼いで、戻ったときに多くの冒険者はどれだけの蓄えが出来ているのか?


(稼ぐ側から使っているようにしか見えないな)


 それが俺の感想だった。


「迷宮に挑まれないなら、依頼でも受けてみますか? もうしばらくすれば、奴隷を連れた人たちが本格的に集まって開拓に乗り出しますよ」


 随分と動きが速いと思いつつ、俺は――。


(奴隷? 奴隷を連れてきて、強制労働でもさせるのか?)


 そんな風に考えていた。






 ――地下七階層。


 アルバーノ一行は、宝箱を見つけるとすぐに罠の有無を確認していた。


 周囲には魔物の死骸が浮んでおり、アルバーノたちも膝下まで水に浸かっている。


 人の形をしたカエルが、胸当てをして槍と盾を持っていた。


 フロッグマンたちは、傷だらけの状態で周囲を血で赤く染めながら浮んでいる。


 アルバーノのパーティーメンバーの一人が、声を上げる。


「罠無し! ついでに、こいつはいいね。宝石関係だ。少しだが、光が見えた。相当な代物だぜ、頭!」


 未だに自分を“頭”などと呼ぶパーティーメンバーを、アルバーノは苦々しい気持ちで見ている。


「リーダーだ。次間違えたら、報酬を減らすからな。それより、宝石か……ここに来てようやく当たりだな」


 今までの財宝は、希少金属――魔力がこもった金属だが、銅に鉄などといった代物だった。


 安くはないが、飛び切り高いとも言えない。


(こんな生活から抜け出すには、どうしても金がいる。本物のお宝が欲しいところだが……)


 仲間の一人が、壁に埋まった宝を掘り出す。


 だが、そこにあったのは――。


「……あれ? ただの鉄? そんなはずは……痛っ!」


 アルバーノは、仲間の後頭部を平手で叩くと怒鳴りつける。


「ただの鉄だろうが! 宝石だとか期待させやがって。くっそ、今日はもう上がるぞ。五階層まで戻って、姉御に場所を借りて寝る。どうせボスの部屋は見つけたんだ。上に戻ってしばらく遊ぶぞ」


 それを聞いて、仲間たちが騒ぎ出す。


「これで酒が飲める!」

「おい、誰か一緒に博打に行かないか?」

「俺は女だ!」


 本能に忠実な仲間を見て、アルバーノは笑顔を作っているが内心では舌打ちをして苦々しい気持ちで見ていた。


(くそっ! どいつもこいつも、現状で満足しやがって……盗賊団なんてド底辺の生活から、ようやく底辺な冒険者になっただけで満足してやがる)


 アルバーノたちは、生まれた時から盗賊だった。盗賊たちの子供で、読み書きや計算よりも鍵を開け、そして盗みの技術を教わってきた。


 仲間の一人が、未だに首をひねっている。


「でも、確かに見たんだけどなぁ。黄緑色の光だったから、絶対にペリドットだと思ったんだけどなぁ……」


 アルバーノは、叩いた仲間を見て呆れていた。


「おら、早く戻るぞ。そのままグズグズするなら、本当に報酬は減らすからな」


「ま、待ってくれよ。ツケもあるんだ。支払わないと遊べないからそれは困るんだよ、アルバーノ」


 アルバーノは、仲間を蹴飛ばし。


「なら早くしろ!」


 内心では。


(どいつもこいつも、酒に女に博打……俺は、いつか絶対にこんな底辺の生活から抜け出してやる)


 真っ当な道を歩みたいという、アルバーノの願い。それを再確認すると、アルバーノは地下五階層を目指して仲間の先頭を歩くのだった――。






 ――ベースに戻ったライエル一行。


 夜、ノウェムは一人起きると外に出た。


 月を見上げ、息を吐くと白くなる。


 寒さはまた強まり、雪でも降るのではないかと心配する。


「暖かくしないといけませんね。薪なども買っておく必要があるかも知れません」


 ライエルが風邪を引いては大変だと思いながら、ノウェムは月を見上げていた。


 周囲では、冒険者たちが酒場で騒ぎ、博打をして大声を上げている。


 勝てば喜び、負ければ嘆き。


 娼婦を買った冒険者たちの声も聞こえて来た。


 それを、ノウェムは五月蝿いとは思わない。


 アリアは、顔を赤くして寝付けなかったと文句を言うときもある。クラーラも、眠そうにしている時もあった。


 シャノンはミランダに言われ、早めに寝ているので不思議そうにしていた。


 エヴァは同族であるエルフたちと話をし、メイは屋台巡りを楽しんでいる。


 モニカは周囲が五月蝿かろうが、いつも通りだ。


 順調と言えばおかしいが、それでも今の状態をノウェムはまだ好ましく思っている。


 ミランダは警戒しているようだが、それがライエルのためというならノウェムにとっても嬉しいことだった。


 ただ、気がかりなのは――。


(あのペリドット……【オクトー】が、私たちを見ていると伝えているのでしょうね)


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― 新着の感想 ―
一番目とかもいるんか?
[気になる点] ノウェムって青かったりする? サファイア?
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