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セブンス  作者: 三嶋 与夢
やっちまったな八代目
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出発する討伐隊

 迷宮討伐の準備を終え、出発するためにベイムの東門に集まると規模は数百人規模だった。


 千には届かないが、それでもかなりの数である。


(難易度は低いと聞いたんだが……)


 一番大きなパーティーは、アレット・バイエ率いる騎士たちだ。戦える者は三十人前後だろうが、それ以外のサポートが同数だけ存在している。


 だが、サポートが少ないためか臨時で雇い入れてもいた。


 他のパーティーは、大きくても六人前後にサポートが十数名という印象だ。俺のパーティーが最小ではなかった。


 一番少ないところだと、細目の男性が言っていた【アルバーノ】率いる軽装の集団だ。荷馬車を借りているが、全員で六人しかいなかった。


 決闘騒ぎで場をかき乱した【クレート・ベニーニ】は、基本通りに六人の武装した集団を、それ以上の人数で支えるパーティーだ。


 荷馬車も四台は用意しており、装備はバラバラだがまるで行軍のようだ。いや、セントラルで行軍に参加したが、実力的な事に関してはこちらが上であろう。


 周囲を見れば、関係ないパーティーも集まってきている。


「なんだ、普通に参加出来るのか?」


 俺がそう思っていると、ギルドから派遣された職員が今回の指揮官であるアレットさんの下へと歩いていた。


 タニヤさんだ。


 ポーターに積み込んだ荷物の確認も済ませていた俺は、二人のやり取りをそれとなく見ていた。


 朝早くから来ていた事もあって、集まりの中心付近にいる。そのため、ポーターもそうだが、女性の集まりで目立っていた。


 中には、近づいて来て「向こうについたらすぐに商売をするのか?」などと鼻の下を伸ばして近づいて来た冒険者たちもいた。


 どうにも、ベイムでの迷宮討伐は色々とあるようだ。


(何と間違えたんだか……おっと、話をしているな)


 聞こえてくる声は、周囲の雑音に紛れて全てが聞き取れるわけではない。だが、聞き取れたのは――。


「それでは、これが正規の討伐メンバーです」


「……助かるよ、タニヤ」


「元気がありませんね? どうしたんです、アレットさん。あ、そうです! 実は、私が推薦したパーティーも参加しているので、戻ってきたら様子を聞かせて貰えますか?」


「……いいけど? で、なんていう名前?」


「パーティーは目立つからすぐに分かりますよ。あそこで見ている青い髪のライエル君です」


 どうやら、覗いていたのを知っていたようだ。


 そして、アレットさんがこちらを見ると、青い顔をしていた。手を振ると、タニヤさんは笑顔で控えめに手を振り返してきた。


 アレットさんは、俯いて頭を抱えている。


 そのまま手続きを終えると、タニヤさんが俺のところに近づいて来た。


 逃げるように俺の前から消えたアレットさんを見て、俺はなんとも言えない気持ちになる。


(そうだよな。覚えているから辛いんだよな……分かる。凄く理解出来ますよ、アレットさん)


 宝玉からは、三代目が必死に笑いを堪える声がした。


『ねぇ、ライエル……書類を常に持ち歩いているのか、ちゃんと聞いてね。もしくは、本人の目の前で『良い人は見つかりましたか』って聞いてね!』


(……三代目が、なんだか一番黒いよな)


 近づいて来たタニヤさんに、俺は挨拶をした。


「おはようございます。気が付いていたんですね」


「目立つ荷馬車を持っていますから。というか、荷馬車ではなくポーターでしたか? まさか、アラムサースで話題の代物を持っていたなんて驚きですよ」


 周囲の視線を集めるポーターを見ると、近くでモニカが胸を張っていた。


 誰もお前を褒めていないと思いつつ、俺はタニヤさんと話を続ける。


「そう言えば、正規のメンバーがどうとか」


「え? あぁ、あれですか。ライエル君は詳しくありませんでしたね。初参加なので、その辺の流れも覚えておくのは良いかも知れませんね」


 タニヤさんが説明してくれたのは。


 ギルドが認めた討伐に参加出来るパーティーとは別に、補助としてそのパーティーが雇うパーティーやソロの冒険者を臨時参加として認めているというのだ。


 普段はギリギリの人数で依頼をこなし、迷宮討伐になるとサポートを行なう冒険者を雇うパーティーも多いという。


 もちろん、そういったパーティーだけではないし、臨時に雇うとしても相手を信用出来ないと駄目だ。


 俺たちが知っていても、一週間程度では雇うのも難しいだろう。


「冒険者以外にも、商人も同行しますよ。同じ方角に旅をする人たちもそうですし、旅芸人の一座もいますね。ほら、あそこにいるでしょ」


 見れば、エルフが集まって楽器などの確認をしていた。


 少し離れており、気が付かなかった。


(武器を持っているし、冒険者に見えたんだけど)


 周りを見れば、商人が荷馬車を何台も率いていた。着飾った女性たちが、周囲に愛想良くしている。


 中には、この状況で店を開いて、冒険者相手に商売をしている者たちもいた。


 他には、周囲のパーティーになんでもするので連れていって欲しいと頼み込んでいる若い冒険者たちもいた。


「期間限定で、小さな街ができますからね。娯楽も必要でしょう。移動する際には、臨時参加組みが護衛もしてくれますし。正規メンバーたちは全力で迷宮に挑めますよ」


「臨時参加組みは認めないと?」


 タニヤさんは、苦笑いをしながら言う。


「職員の私が言うのもなんですけど、見ていないところまでは分かりません。付き添いで職員も同行しますけどね。私は参加の確認をしたら東支部に戻りますし。その辺りも自分で見てきた方が良いでしょう」


 俺はそういうものかと納得すると、タニヤさんが言う。


「本来は、こうして臨時参加で周囲と関係を作るのも重要ですけど、ライエル君たちは実力がありますからね」


「……さっき、アレットさんには自分が推薦したと」


 俺がそう言うと、タニヤさんは頷いた。


「えぇ、ですから、期待を裏切らないでくださいね」


 笑顔でそう言うと、タニヤさんは他のパーティーの参加確認のために歩き去る。






 ――出発した一団は、アレット率いるパーティーの先導で目的地に到着した。


 ミランダは、ベースを歩いてタニヤの言っていた言葉の意味を理解する。


(確かに、小さな街ができたわ。信じられないわね)


 当初は千人を超えなかった一団だが、時間が過ぎれば人が更に集まり千人を超えていた。


 だが、外に出て移動すると、目的地が違う一団が離れていく。


 結果的に、六日間の移動で辿り着いたのは六百名程度だった。


 討伐難易度は高くはない。だが、地下十階を超える規模と毎階層でボスがいることを考えれば、時間がかかると思われていたのだ。


 実際に討伐に参加するパーティーは、百五十名程度。


 その倍の数を引き連れての討伐は、騎士団や兵士を派遣するのとは違ったやり方だった。


 到着後、すぐにギルド側が派遣した職員が、メンバーがいることを確認する。


 そして、連れてきた魔法使いたちが、ベースを造り始めた。


 土地を均し、そして壁を作って道を整備する。


 タニヤの言った通り、本当に街ができたのだ。


 そして、到着してすぐに荷物を下ろした商人は、残る者と戻る者に別れてベイムへと護衛の冒険者を連れて帰還する。


 また物資を運んでくるのだが、聞けば別の商隊がこちらに向かっているようだ。数日遅れで出発しているという。


 ミランダは、商人が何を考えてそんなことをしているのか気になったのだが、相手は曖昧に笑って語ろうとはしなかった。


 売られている品は、どちらかと言えば武具に酒や食品だった。日持ちのするものを用意している。


 中には、材料を持ち込み、魔法で石窯を作り出してパンを焼く者たちもいた。


 ギルドの職員たちは、持ってきた荷物を主要メンバーに配ってからは、テントを用意してそこで書類関係の仕事をしていた。


 馬を用意しており、ギルドと定期的に連絡を取るのだろう。


 自分たちが与えられた場所へと戻るために歩き出すと、到着してすぐに冒険者たちが娼婦たちのいるテントに集まっていた。


「なぁ、銀貨五枚は高いだろ。三枚でどうだ?」


 値切る冒険者に、娼婦を連れてきた男は笑顔で。


「旦那、こっちも命懸けでこんな土地まで来て商売をするんですぜ。少しくらい高くても罰は当たりませんよ。それに、連れてきたのは極上の娼婦たちですぜ」


 冒険者も引き下がらない。


「嘘を吐け! 護衛付きでここまで来ておいて、それはないだろうが!」


 しかし、男は。


「ならいいんですよ。こっちは他のお客の相手をしますし。それに、到着したばかりでして、準備も終わっていないんですがね。手伝って貰えれば、少しは安くしても良いんですが……」


 チラチラと見る男に、冒険者たちは手伝うと言ってテントの設営やその他の仕事を行なっていた。


 違う場所に視線を向けると、芸人の一座が歌を歌っているのか楽器の演奏も聞こえてくる。


「随分と賑やかね」


 そう言うと、声がかかった。


「そりゃそうだ。冒険者の稼ぎ時は、商人も職人も、そして娼婦も稼ぎ時だ。何日も娯楽無しで戦えるほど、俺たちは真面目でもないからな」


 振り返ると、そこには短い金髪の髪をした垂れ目の男が立っていた。腰には、柄の長い片手剣が下げられている。


 軽装で、一見すると遊び人風の男に、ミランダは笑顔で対応する。


「何かご用?」


 相手も笑顔で挨拶をしてきた。腰に手を当てて、右手は握り、親指を突き立てて自分を指差す。


「アルバーノだ。実は綺麗なお嬢さんとお近づきになりたい。ま、ついでにアンタたちのリーダーともお話ししたい訳よ」


 ミランダがそれとなく腕をだらりとさせ武器を手に取れる状況にすると、相手は冗談だと言って慌て出す。


「怒るな、って! 本当にアンタたちのリーダーに会いたいの! 初参加だろ? あんまりかき乱して欲しくないから、前もって話し合いをしたいんだよ」


 武器を手に取るのを止めると、相手は安心した様子だった。


(軽い感じなのに、随分と反応が早い。それに、結構な強さかも)


 ミランダがそう判断すると、相手は事情を説明する。


「アレットの姉御は、基本的に自分の部下を鍛えるために参加している。金儲けも黒字になれば問題ないと考えているんだよ。ボスの相手はしたがるが、それ以外だと気前が良い。俺たちにはありがたい指揮官なのさ」


 説明するアルバーノを見て、ミランダは言う。


「それで、私たちにどうして欲しいの? 不利益になるなら紹介したくないんだけど」


 アルバーノは手をヒラヒラとさせる。


「だから違う、っての。アレットの姉御はガチで戦闘特化。俺たちは移動力というか、偵察特化なんだよ。ま、見れば分かるだろ、同じ感じだし」


 アルバーノを見て、ミランダは自分と同じタイプだと知る。持っている道具が多く、トラップの除去や設置、そして軽装で動きやすい恰好……。


(そう言えば、極端に全員が軽装だったわね。パーティー全員がそうした事に特化している訳か)


「そこで、あまり前を行かれてかき乱さないで欲しいわけ。罠の設置も頼まれることがあるし、俺もアレットの姉御を敵に回したくないの。お互いに利益があるからな。確認してきてもいいぜ。その後で俺の方が挨拶に行ってもいいからよ」


 恰好に似合わず、マメな男だと思いながらミランダは確認する。


「そこまでするの? 確認させたら、ライエルにそっちに行かせるけど?」


 すると、アルバーノは嫌そうな表情をするのだ。


「それは困る。俺以外は行儀が良くないからな。悪気はなくても、怒らせることがあるんだよ。それでクレートとはマジの大喧嘩になったんだ。おかげで姉御のご機嫌は斜めになるし、大変だったんだぜ」


 どうやら、彼なりの理由があって挨拶に来るようだ。


(あなたもお行儀が良いとは言えないけど、それ以上に悪いとなると問題もあるか。気にしているだけマシかしらね)


 ミランダは、相手が嘘を言っているようには見えないが、確認を取ることにする。


「確認にアレットさんのところに行くわ。その後、また会いましょう。ここなら探せば見つかりそうね」


 大きな街ではない。


 小さな、街という機能を持った場所に過ぎない。周囲に村はないが。


「それでいいぜ。なら、明日の朝にしようか。一座がいるから、そこで待つからさ。明日から早速仕事だから、説明してから迷宮に入りたいからよ。ところで、名前は?」


 ミランダは笑顔で。


「ミランダよ。では、本当だったら明日に会いましょう。ライエルも連れていくから」


 アルバーノは用を終えると、そのまま歩き去る。


 遊び人に見えて、流石にギルドが認めるだけはあるのか実力はありそうだった。


(セントラルでのグリフォン退治とは違うわね。周囲も慣れているし、これは私たちの方が勉強することが多いわ。それにしても……)


 ミランダは、歩き出してポーターのある場所へと向かう。


 そこにテントを用意した場所が、ライエルたち一行の寝泊まりする場所だった。今回は、ポーターを迷宮内に連れて行けないので、そのまま寝泊まりする場所にしている。


 近付けば、到着したライエルたちはギルドから受け取った物資を確認していた。


 食糧なのだが、硬いパンや干し肉などだった。


 それを、どのように調理するのかを、真剣な表情でモニカが考えていた。


 ライエルは、クラーラとミニポーターと名付けた小さなポーターもどきの確認をしている。


 メイはポーターの天井で横になり、欠伸をしていた。


 エヴァは、聞こえてくる歌に興味を示し、ソワソワしてはノウェムに注意されている。


 移動だけで疲れたシャノンは、ポーターの荷台から足を出してグッタリしていた。


 ノウェムは、荷物などをエヴァと共に確認している。


 そして、ノウェムが持つ杖を見た。


(ベイムで購入した、ね。どうして嘘を吐く必要があったのかしら)


 金属製の銀色の杖は、シンプルな作りをしていた。持ち手の部分は木を黒く染めたような作りだ。


 両端が銀色で、上の部分のデザインも魔法使いの杖としてはシンプルだった。


 そして、その杖を見た時のライエルの反応をミランダは思い出す。


『それ、ノウェムの杖に似ているね』


 どこが似ているのか? そうした疑問を聞いて確かめはしなかったミランダだが、情報屋に調べさせてノウェムが家族から杖のような物を受け取ったのは知っていた。


(もしかしたら違う可能性もあるけど、タイミングが良すぎるわね)


 ノウェムを警戒するミランダ。


 すると、ノウェムがミランダに振り返った。


 まるで最初から気が付いていたかのようだ。


(……いつか、化けの皮を剥いであげるわよ、ノウェム)


 笑顔で仲間の下に戻るミランダは、そんな事を考えていた――。


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