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セブンス  作者: 三嶋 与夢
孫馬鹿な七代目
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ソロ

 ――森の中。


 村の金に手を出した少年たちは、周囲を警戒しながら手に入れた金を数えている。


 薄暗い森の中では、鳥の鳴き声が聞こえて不気味だった。


「早くしろよ!」


 一人が急かすと、数えていた少年が。


「銀貨で五十枚だ。間違いない!」


 それは、村のために集めたお金であった。それがある場所を知っていた少年たち。


 大人たちに獣を不用意に狩ってしまい、森のバランスが崩れたと責められた彼らは、都市部へと向かう事にしていた。


 そのための資金を入手するために、村のお金に手を付けたのである。


「よし、それだけあれば都会に行ってもやっていけるな」


 都会――都市まで行けば、どうにかなると彼らは思っていた。


「五月蝿い大人たちから離れるのに丁度良いよな。それにしても、あの余所者が偉そうにしているのが腹立つよな。大した冒険者でもないくせにさ」


 余所者とは、村長のことだろう。


 彼らからすれば、村長は老後を村で過ごす負け組であった。彼らが思い描く冒険者は、都市部で屋敷を構えて優雅な生活をしている姿を指す。


「親父や兄貴が言ってたぜ、冒険者として格が低いから、あんなナヨナヨした奴しか来ないんだ、って」


 村長に対して不満を述べる彼らは、手に入った金を大事に持ってこれからの計画を考えようとしていた。


「なぁ、これからどうやって村を出る? 金だけ持っていても、食べ物も装備もないだろ」


 三人組みの少年たちは、顔を向き合わせると同じような答えを思い浮かべていた。


「決まってるだろ。あるところから借りるんだよ」


 彼らは旅をするような装備などない。


 思い浮かんだ方法とは、ライエルたちの装備を借りる、と称して奪う事だった。


「女ばかり連れて、あいつ嫌いなんだよ。村長の奴も、不細工のくせに美人な嫁を貰いやがって。絶対に金で買ったぜ、あれ」


 普段から立場の弱い次男や三男である彼らは、窮屈な村での生活に嫌気が差していた。


 時折、行商人から都市部で活躍する冒険者の話を聞いては、いつかは自分たちも、などと夢を見ている。


 だが、現実は甘くない。


 割と裕福なベイムの村人たちだが、次男や三男の独立に出せる金はそこまで多くはなかった。


 最初から開拓して畑を手に入れることを諦めている彼ら三人は、農業など手伝い程度で本腰を入れていない。


 継げる畑も家もなく、独立として考えていたのが冒険者だった。


 冒険者になれば、自分たちは成功すると根拠のない自信を持っている。もっとも、多くの冒険者が彼らのように現実を知らないのも事実だった。


 無謀な冒険者が減らない理由の一つでもある。


「なぁ、装備を手に入れたらどうする? 近くの村まで歩きだと二日はかかるぜ」


 一人の少年が、銀貨の詰まった袋をわざと目線まで持ち上げてジャラジャラと鳴らした。


「そこまで行けば金で食糧を買えばいいだろうが。ついでに荷馬車に乗せて貰えば、都市部はすぐだ」


 少年たちは、都市部で独立する姿を思って笑みを浮かべていた。


「なら、夜になったら忍び込むか。森の奥に入らなければ大丈夫だろうし」


 ライエルたちが森に入るようになり、入口付近の魔物の数は減っているのを実感した少年たち。


 夜まで隠れていれば、どうにかなると考える。


「そうなると暇だな」


 逃げ出す際にパンと水筒は持ち込んだ三人は、パンをちぎって口に運ぶ。硬いパンをモソモソと食べ、腰に下げた武器を見た。


「なぁ、素材とか魔石とか回収しておけば、隣の村まで行ったら売れるよな?」


 一人がそう言うと、残りの二人は銀貨の詰まった袋に視線を向ける。


 彼らの感覚では大金だが、出来るなら都市に行くまで手を付けたくなかった。


 この金で冒険者としての装備を揃えるのだ。


 少しでも節約して、良い装備を買いたい。


「……暇だし、食事代くらいは稼いでいくか」


 少年たちが、森の奥に足を進める――。






 村長から追加依頼を受けた俺は、装備の点検を済ませると装着して森に入る準備をする。


 俺が単独で森に入るのを、呆れた表情でミランダが見ていた。


「依頼は受けたけど、無理して森に入らなくてもいいんじゃない?」


 俺は腰に予備のサーベルや短剣、そしてナイフを確認すると、ロープを鞄に入れる。


「森の入口付近でウロウロしているし、早い内に回収するよ。死体で発見、なんて事になれば厄介だから」


 お人好し、などと言ってミランダは俺を見ている。


「私かエヴァを連れて行きなさいよ」


 森の中で動き回れるのは、ミランダやアリア、そしてエルフのエヴァくらいだ。だが、三人を連れていく程でもない。


「逃げ出した三人が森の奥に行くなら、俺は引き返すよ。それに、スキルもあるから」


 宝玉を掴んでみせると、ミランダが言う。


「……無理はしないでよ。それと、いつか隠し事もちゃんと言いなさい。ライエルが自分で言うまで、聞かないでいてあげるわ」


 そう言って離れていくミランダの背中を見て、俺は。


(バレてる……)


 頭をかいて、宝玉から手を離すと四代目が言う。


『麒麟にキスをしようとしたとか嘘をついたのに、意味がなかったね。いつか言える環境を整えた方がいいね』


 六代目は。


『だな。ま、今すぐでなくてもいいが』


 別に言う必要もないと思っていたが、シャノンのおかげで説明しなくてはならなくなった。タイミングも悪いが、落ち着いて話せる環境を作るべきだろう。


 順序よく説明し、疑問が残らないようにしなければならない。そして、俺の持つ宝玉が、セレスの持つ宝玉とは別であると……。


 その時、俺は思った。


(俺の持つ宝玉と、セレスの持つ宝玉の違いってなんだ? セレスは、確か俺の持つ宝玉を偽物だか、失敗作とか……宝玉の本当の使い方は、スキルを記憶する事じゃないのか?)


 首を横に振り、森へと向かう俺はまずは三人の少年を救出する事を考えるのだった。






 単独で森の中に入った俺は、エヴァの指導もあって森の中を一人でも歩けていた。


 慣れてはいないが、スキルの使用もあって道に迷うことなく、そして魔物を回避しながら奥へと進んでいく。


 俺が森へと入る前に、三人が奥へと進んでいた。


「なんとか追いつけそうだな」


 森の奥深くに行くことなく、追いつけそうなので俺はそのまま三人を追いかける。


 周囲のマップが頭に思い浮かび、そして敵味方の反応まで知ることができる俺は冒険者の仕事にも向いているのだろう。


 それだけ、五代目と四代目のスキルが優秀である証拠でもあった。


 三人を追いかける俺は、途中で発見した死体を見る。


 グレーウルフであり、途中で皮を剥ぐのは諦めたのか魔石だけが回収されていた。


「酷いな」


 魔物がズタズタになっている事ではなく、素材などのはぎ取りが酷い。基礎を知らないようだ。


「毛皮の方が高いんだけど」


 買い取り価格で言えば、毛皮の方が高く買い取られる。


 冒険者生活にも慣れてきた俺からすれば、どうしても勿体ないと思えた。それより、今気になるのは。


「村の金を持ち出せたのに、どうして森の奥に向かうんだ? いや、そもそも逃げ出せる準備なんかしていないだろうに」


 もしくは、最初から計画しており、森の中に装備などを隠している? そこまで考え、あり得ないと思って森の中を進む。


 少年たちの下に魔物が集まり始める。気が付いていない少年たちは、何やら囲んでいるようだった。


「獣を囲んでいる? トラップか!」


 最初から獣がそこにおり、俺はトラップが設置されているのに気が付かなかった。


 走り出すと短剣を手にとって邪魔な枝や草を払いながら先を急ぐ。


 すると――。


「……嘘だろ」


 スキルによって現状を理解した俺は、慌てて速度を上げた。


 宝玉内からも、驚きの声が聞こえた。


 五代目だ。


『メイ……』






 ――獣を囲んだ少年たちは、息絶えた獣を見て溜息を吐く。


「んだよ、魔石なしかよ」


 返り血を浴びた少年は、布で手を拭くとイライラしていた。


 時間がかかったのに、成果が得られなかったのが理由だ。


「見分けなんかつかない、っての」


「というか、こいつらが俺らを襲うのに、なんで大事にしなきゃいけないんだ?」


 たまたま、以前に設置して放置していた少年たちは、そこに向かって狼を発見した。


 弱っていた狼を囲んで倒したのだが、グレーウルフなどよりもしぶとく手間取っていたのだ。


「魔石二つでどれくらいだっけ?」


「あ~、大銅貨くらいは貰えたような……」


 三人がその場を離れようとすると、急に落雷が起こる。


 地響きに加え、青白い光が周囲を明るくした。


 空を見上げれば、木の枝や葉から見える小さな空は青空である。


「なんだ。何が起きて」

「おい、まずい魔物が出たとかじゃないよな」

「に、逃げよう!」


 魔法を使う魔物でも出たのか? そう結論づけた少年たちは、急いで逃げようとした。だが、そんな少年たちの輪の中に、小柄な少女がいる。


 酷く、現実感のない少女だった。


 見たこともない服を着ている。


 白い服は、ヘソ出しで肩だし。いや、胸、腰、二の腕から下と別々のパーツの服装だった。


 胸の辺りの布と、腰回りはわりと体のラインが出るようなピッチリとしたものだ。引き締まった腰回りに、突き出た大きな胸。


 お尻は小ぶりだった。


 そんな服装なのに、腕の布は反対に手が見えないほどにゆったりとしていた。足下にはサンダルで、膝下辺りまで網状にベルトを巻いたようなものが巻かれている。


 ショートヘアーで、短い金髪を小さく揺らしながら三人の間を抜けると、彼女は狼の足に食い込んだ罠を破壊して血だらけの狼を抱きかかえた。


 三人の少年は、呼吸すら自由にならない感覚と、複雑な感情で足が動かなかった。


 少女を見た時、美しいと思った。


 同時に、あり得ないとも思った。


 彼女の耳の上辺りから髪の毛をかき分け生えているのは、二本の角である。


 金色の角を持つ少女を見て、三人組みは美しいと思いながら恐怖した。


 亜人種に、角を持つ種族がいるなど聞いたことがないからだ。知らないだけで、存在しているとしても、初めて見る存在に三人は恐怖する。


 何よりも、雰囲気が違うのだ。


 一人が、なんとか声を絞り出す。


「お、お前、誰だよ。村に来た冒険者か? 見たことがなかったけど……」


 すると、振り返る少女の目は青く透き通っていたが同時に三人を見下し、睨み付けていた。


「ひっ!」


 驚いた一人の少年が後ろに倒れると、少女の周りには狼の仲間が集まってきた。少年たちを無視して、少女の足に体を寄せて仲間の匂いをかいでいる。


 少女の口が開く。


「ごめんね、気付いてあげられなくて……さぁ、お別れだよ」


 そう言うと、少女は抱いた狼を地面に置く。仲間の狼が遠吠えをすると、そのまま少女の足に額を寄せるなり、子供の狼が身を寄せていた。


 少女が目を閉じ、そして開くと死体となった狼の体は燃え上がる。


 青白い炎が揺らめくと、少女は。


「さぁ、もう行きなさい」


 狼たちを森の奥へと返すと、少年たちを睨み付ける。燃え上がる炎を避けて少年たちに近づく少女は、一言。


「僕はね、君たちのような連中が嫌いなんだ。無知で、そして傲慢で……そうだね、二度としないように、ここで一人には消えて貰おう。二人は近くの村に帰って、今日の事を語り継ぐ。それで今回は終わりだ」


 淡々と言う少女に、少年たちは冷や汗を流して青い顔をして互いの顔を見る。


 少女は。


「誰が消えるの?」


 消える。少女はそう言うが、少年たちは理解していた。


 自分たちの中で、誰か一人が殺されると。


「わ、悪かった。悪かったから、見逃してくれよ」


 一人がそう言うと、少女は首をかしげて。


「何が悪かったのかな? 言えるなら言ってごらん?」


 少年たちは顔を見合わせて。


「お、狼を殺した事だ」


 そういうと、少女は笑い出した。


「アハハハ、確かにそうだね。うん、間違ってはいないね。でもさぁ……」


 少女は一瞬で姿を変化させる。


 小柄であった少女は、白い鱗を持ち、金色のたてがみを持つ麒麟に変化する。


 二本の角は姿を消し、代わりに額から一本の角が生える。


 攻撃的で、鋭い角だ。


「生き物を殺すな、なんて言わないんだよ。僕だって生きるために殺すし。ハッキリ言えば、君たちが殺しを楽しんでいたとしても文句はない。それは君たちの問題だ。だけど……」


 一歩前に踏み出すと、少年たちは全員が後ろに倒れて尻餅をつく。最初に倒れた少年は、何とか逃げようと四つん這いで離れようとしていた。


 初めて見た麒麟が、少年たちに敵意を向けている。


 神々しい姿だが、同時に自分たちを嫌っている。


 それを知った少年たちは、涙を流して許しを請う。


 だが、麒麟は興味がないようだ。


「個人的に気に入らないけどね。そして、無闇に森のバランスを崩した。それが君たちの罪だ。さぁ、消える一人は誰がいい?」


 大きな麒麟の姿で、少女の声が聞こえるのは違和感がある。


 だが、少年たちはそれ以上に自分の身が可愛かった。


「俺は嫌だって言ったんだ! お前が俺を誘うから!」

「ふざけんな! お前が一番楽しんでいただろうが!」

「俺は嫌だ! 死にたくない! 死にたくないんだ!」


 少年たちが泣き叫び、互いを罵り会う声が聞こえてくる。麒麟はそれを聞くが――。


「それで、誰が消えるんだい?」


 三人の許しを請う声は、麒麟には届かなかったようだ。


 だが、麒麟は急に視線を少年たちから、外して向き直る。


「来たようだね。待っていたよ……」


 少年たちが見たのは、青い髪をした冒険者である。


 急いできたのか、髪には木の枝や葉っぱがついていた。息を切らし、右手に持った短剣を左手に持ち替えると、冒険者はサーベルを引き抜く。


 腰を低くし、構えを取ると麒麟を睨み付けていた。


 自分たちとは違い、麒麟に立ち向かう姿勢を見せている。


 麒麟は、前足を大きく上げるとそのまま飛び上がり、着地をするときには人の姿をしていた。


 そして、泣きじゃくった少年たちを見下すと。


「もういいや。本命には会えたからね。僕の前に現われたら、今度は確実に消えて貰うよ」


 脅された少年たちは、そのまま森に入ってきた道を戻っていく。


 持っていた荷物を放り投げ、必死に走って村を目指した――。


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