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セブンス  作者: 三嶋 与夢
孫馬鹿な七代目
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 宝玉内。


 周囲に視線を向けながら、同時にスキルを使用しいくつもの情報を処理していく。


 点滅する青い光点は、一つであるが場所を即座に変えているように見える。


 本当はそんな事はなく、ただ俺が捉えきれないだけなのだが――。


 周囲の光景は、青空、そしてどこまでも続く一本道だった。


「そこ!」


 サーベルを振ると、火花が散る。


 だが、次の瞬間には左脇腹に痛みが走った。


 短剣の二刀流。


 ミランダと同じスタイルであるが、それを得意とするのは四代目【マークス・ウォルト】である。


 四代目のスキル【スピード】は、移動速度を上昇させるスキルだ。


 三代目が戦場で瀕死となった時、急いで駆けつけようと発現したスキルである。


 その応用として誕生したのが【アップダウン】である。自身の移動速度を上げながら、敵の移動速度は下げるというスキルだ。


 そして――。


「【オーバースピード】は卑怯じゃないですか!」


 周囲に出鱈目に振り回しているサーベルが、何度も衝撃を受けて火花を散らす。


 四代目の姿が見えるときもあれば、スキルを使用してそこにいると思ったから振り抜いた事もある。


 時折、四代目の姿が二人や三人に見えることもあった。


 サーベルが弾かれ、俺の右腕から離れて宙を舞った。そのまま胸に激しい痛みを感じると、吹き飛んで近くにあった木に背中が叩き付けられる。


 見れば、四代目が体当たりをするように短剣を俺の胸に突き立てていた。


『卑怯と言うのは褒め言葉。そして、それを相手に言わせるのが、俺としては楽しくて仕方がないけどね』


 ニヤリと笑いながら、短剣を引き抜く四代目。


 俺の胸から大量に血が噴き出し、視線が四代目から離れて遠くを見ると丁度落ちてきたサーベルが地面に突き刺さっていた。


 消えていくサーベルを見ていると、痛みが引いて体は元通り。噴き出した血も消え、俺は冷や汗をぬぐいながら立ち上がる。


 木に寄りかかり、右手に持った短剣を器用に扱う四代目を見た。


「左手に持った短剣で防いで、そして右手に持った短剣で斬りつける。もっと大きな得物とか、駄目だったんですか?」


 スピードを活かした戦闘方法を得意とする四代目は、少し考えるが首を横に振った。


『これ以上重いと自由に振り回せなかった。同時に、スピードが上がって威力も高くなっているからね。試したこともあるけど、短剣二本が便利だったんだよ。鎧の隙間に差し込んだりできるし』


 短剣を後ろ腰に下げた鞘にしまい込む四代目は、すぐに眼鏡の位置を正すために人差し指で一度だけ持ち上げる。


 眼鏡が光り、俺は大きく深呼吸をした。


「あれだけのスピードを出して、持つんですか?」


『きついけどね。初代のフルオーバーがあれば、なんとか耐えきれるかな。それに、二代目のスキルオールで敵を感知する。ついでに三代目のマインドで相手を揺さぶってしまえば楽なものだよ』


 四代目の最終段階スキルは、初代、二代目のスキルを同時に使用する事を前提にしているようだ。


 そして、四代目は俺の顔を真剣に見ながら。


『……ライエルが俺のスキルを使えるようになれば、もしかすると俺を超えるかも知れないね。いや、超えないと駄目だ』


 四代目は、俺がセントラルで出くわしたセレスを思い出しながら、説明してくる。


『俺が戦っていても、たぶんあの子……セレスには勝てなかった。本気でもないのにあのスピード、そして力。本当に宝玉内に一人の人格しかないのなら、相当なスキルだよ。だけど、俺のスキルは他のスキルを同時に使用して成り立っている。この意味が分かるか?』


 スキルの性能では、俺はセレスに勝てないという事だろう。


 そして、セレスの持つスキルがいったいなんなのかも、俺も含めて歴代当主がしっかりと把握できていなかった。


「相手が俺よりも確実に強い、っていうのは理解していますよ」


『本気を出していないセレスにも今のままでは勝てない、って事だ。本気がどの程度か知らないが、出会ったときより弱いというのは考えられないよね』


 セレスを止めると決めたときから、俺は単純にセレスに個の力で勝つのを諦めている。


 今、こうして実力を付けているのは、セレスと戦える状況を作るためだ。


 何千、何万という軍隊を用意するのも大変だが、それ以上に問題はセレスに止めを刺すときだ。


 下手な人間では魅了され、何万の兵士で囲んでもセレスは逃げ切れるだろう。もしくは、単純な実力で倒されるか――。


 ゾッとした俺を、四代目は呆れながら。


『そう怖がるな。戦える状況を作るために助言もするし、そこまで押し上げてやる。ただ、ライエルが死んでしまえば意味がない。それは忘れないでくれ』


 俺が頷くと、周囲の景色が灰色に染まって消えていく。


 次第に意識が現実に引き戻され、目を覚ますとそこは村にある小屋であった。太陽が姿を見せ、段々と明るくなっていく。


 周囲ではすでに動き出している村人もおり、遠くで声が聞こえてきた。犬の吠える声、そして生活音も聞こえてくる。


 胸の辺りを触るが、怪我などしていない。


 ただ、汗が凄く起き上がるとタオルを持って建物の外に出るのだった。






 外に出て背伸びをし、顔を洗って口の中を濯いだ俺は村長が来るのを確認した。


 小屋への通り道を見ていると、朝早くから不機嫌な村長が俺のところに来て。


「昨日はすまなかったな。夜に確認したら、村のガキ共がお前らの荷物をあさろうとしていた」


 不機嫌な理由は、どうやらシャノンとモニカしかいない時に盗みに入った少年たちがいたためだ。


 シャノンに言われた俺が、魔物の討伐から戻るとそのまま村長の家に報告に出向いた。


 調べると言われ、少年たちの特徴だけを伝えたのが昨日の事だった。


(対応が早いな)


 そう思いながら、俺は村長と話をした。


「次男坊や三男坊は、家を継げないからな。冒険者になろうと思ったらしい」


 それを聞くと、宝玉内の三代目が声を出す。


『未遂で終わって良かったよね。双方が事を荒立てなくてすむし。しかし、いつの時代も同じだよね』


 俺は、もう二度としないならこれ以上は口を出さないと決めていた。


「そのために装備を手に入れようと? まぁ、俺たちの方は被害もないので問題ないですけどね。見張り台も撤去して貰えましたし」


 覗き台の事も報告しており、村長は疲れた表情をしている。


「温厚な連中で助かったよ。これが気の荒い連中なら、報復されていたのを分かってないからな。はぁ、村長なんかしたくないぜ」


 俺は苦笑いをしながら。


「どうして村長になるのを断らなかったんですか?」


 村長は不機嫌そうに。


「故郷が遠くて、そこまで戻る気になれなかった。ここに移り住んだばかりの俺に、断れるとでも? 田舎は馴染むのに苦労するぞ。人付き合いとか、更に言えば風習とか面倒な事が多い。そういうのを村の新入りに押しつけて数年経てば、ようやく認めて貰える訳だ。お前がもしも老後は田舎でノンビリ過ごすなら、俺よりも稼いでどこかでかい街にでも屋敷を持つように勧めるがね」


 三代目も宝玉内で同意していた。


『村の仲間として認めて貰うのは、本当に難しいよね。移住者を受け入れる時とか、本当に苦労したよ』


 ――俺にはもう関係ないことだが。


「稼げたらそうします。ま、生き残る方が大変でしょうけど」


「それはそうだ! ま、お前は良いところまで行くだろうな。俺の勘だが」


 村長とはそのままグレーウルフの状況や、森の状況を話し合って別れた。






 昨日よりも少ない数で森に入った俺たち。


 シャノン、モニカに続いてノウェムとクラーラも、今回は休ませる事にした。


 エヴァを先頭に、俺にアリア、そしてミランダの四人で森に挑んでいる。


 今回は移動速度を上げて、森に散らばるように動き回る小さな群れを潰して回るのが目的だった。


 先を進むエヴァは。


「木の根に注意してね」


 俺たちより先に進み、何かあれば声をかけてくれている。


 エヴァを真似するように森の中を進む俺たち三人は、昨日の疲れもあって動きが鈍い。


 アリアなど。


「変なところが筋肉痛で辛いわ」


 文句を言いながら、短剣を取り出して枝や草を切りながら進んでいた。


 ミランダは周囲を見て。


「そこら中がトラップよね。木の根に石に、泥に……面倒な依頼だから試験に選ばれたのかしら」


 そして、前を歩くエヴァが俺たちを手で制すとしゃがんで矢筒から矢を取り出し、弓を構える。


 俺たちも腰を低くして得物を抜くと、ガサガサと音が聞こえてきた。


 息づかい、そして獣の臭い。


 グレーウルフだと俺は理解しているが、アリアとミランダは違う。


「何が来るのかしら」


 視線を周囲に向けるアリア。


「グレーウルフだけを片付けて、早く戻りたいわね。森の中で戦いたくないわ」


 敵がいる方角を見て、短剣を両手に持って構えている。


 そして、低いうなり声が聞こえてきた。


(俺たちを発見したのか)


 狼の姿をしているだけあって、嗅覚は鋭いようだ。


 宝玉内からは五代目が。


『はぁ、なんか辛い』


 狼の姿に似ているからか、それを倒す俺たちを見ているのが辛いようだ。この動物好きめ、などと思いながら俺は草むらから飛び出して来たグレーウルフを見た。


 最初に飛び出して来たグレーウルフは、エヴァの放った矢に射られて飛び出してそのまま倒れ込む。


 二匹目は反応が遅れたアリアに飛びかかろうとしていたので、俺は前に出るとサーベルを下から斜め上に踏み込みながら振り上げて一体を斬り捨て、そのまま斜め上から返すように振り下ろすと足に食らいつこうとするグレーウルフを斬り伏せた。


 ミランダは短剣を投げ、一体のグレーウルフを仕留め、短槍を持ったアリアが前に出ると次々に草むらから出てくるグレーウルフを、スキルを使用して突き殺していく。


 全部で七体の群れは、こうして潰すことが来た。


「森の入口にいたのが二十から三十か。奥に行けば、まだいるわな」


 周囲の警戒をアリアに任せ、俺はサーベルについた血をぬぐうと武器をしまう。ミランダとエヴァがグレーウルフから素材や魔石を回収するので、俺も周囲の警戒に参加した。


 周囲を見ていると――。


(また見ている)


 スキルの効果範囲を広げ、周囲の警戒をすると青や黄色、そして赤に点滅する麒麟が確認出来た。


 発見されると、ギリギリの位置まで下がって俺たち……いや、俺を見張っている。


 そうして、素材を回収し終えたエヴァが。


「おっと、手を出さないでね」


 俺たちにそう言うと、またしても獣の臭いがしてきた。ただし、今回は魔物ではない。


 本物の狼だ。


 数匹が草むらから俺たちをうかがっており、近くにはメスや子供の存在が確認出来る。


 魔物が住み着く森などで生きる獣は、ハッキリ言って厄介だ。


 強い。普通に強いのである。


 過酷な土地で生きるだけあって、わいてくるような魔物とは違って積み上げてきたものが違う。


 エヴァが腰に下げた袋から肉を取り出すと、そのまま投げつけた。


 一匹が草むらから出てくると、そのまま肉の匂いをかいで口で掴む。仕留めたグレーウルフを見てから、また草むらに戻っていく。


 その間に、他の狼は俺たちに襲いかかる場所へと移動しており、仲間が無事に戻ると引き上げていった。


 アリアが、深呼吸をすると汗をぬぐう。


「見分けがつかないんだけど? というか、襲いかかってきたら戦ってもいいのよね?」


 エヴァが反対する。


「そうならないようにしてよね。あの子たちがいるから、魔物が森から溢れないのよ。それに、こいつらと違って本当に厄介だからね」


 素材をはぎ取られ、血だらけの肉の塊をエヴァは指差した。


 ミランダは周囲を見て。


「肉の塊を持って行くと聞いたけど、差し出して見逃して貰うためだったのね。てっきり、毒でも入れてトラップにすると思っていたわ」


 ……ミランダらしい? 考えだと思う。


「止めてよね。そんな事をするから、狼が警戒するのよ。まぁ、臭いをかいでいたし、ここはそういう事をしたかも知れないわね」


 アリアが首をかしげる。


「そういう事?」


 エヴァは立ち上がりつつ、血に染まった手袋を取って。


「トラップで魔物じゃなくて狼や熊を仕留めたのよ。頭が良いし、こっちをかなり警戒していたわ。もしかして、あの村が原因じゃない? ここに同族がいたら、魔物なんかここまでいないんだけどなぁ」


 エルフがいれば、そもそも俺たちは呼ばれもしなかっただろう。


 ミランダは納得すると。


「トラップの放置は厳禁と言われたけど、なる程ね……森には森の事情、って訳」


 エヴァは頷く。


「ま、襲われることもあるんだけどね。そうなった時は歴戦の猛者と戦う覚悟を持ちなさいよ」


 ただ、アリアは。


「一度くらいは戦ってみたいかも」


 ……こんな事を言い出した。


(こいつら怖いな)


 獣もそうだが、味方も怖かった。


 狼や熊、そして仲間を絶対に敵に回さないと心に決めるが、そもそも俺が敵に回しいて良い仲間などいなかった。


 気が付けば、誰か一人を怒らせても危険な状況である。


(あれ……俺って、なんか凄く危険な立ち位置じゃ……)


 首を横に振って、俺は今の考えを押しやって腰に下げた鞄から水筒を取り出して水を飲んだ。


 そして――。


(……どうするかな。ずっとつきまとわれる訳にもいかないし)


 麒麟のメイがいると思われる方角を見て、俺は口元をぬぐう。


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