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セブンス  作者: 三嶋 与夢
孫馬鹿な七代目
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ベイムでの初仕事

 ポーターが五日をかけて到着したその村は、周囲を丸太や岩で囲まれた村だった。


 近くに山や森もあるので、そこから木材を調達しているようだ。周囲の地形を利用するように防衛された村は、どうにも俺の知っている村より逞しい気がする。


 ポーターから降りた俺は、村の入口で書類を手に取った。


 見張り台からこちらを見ている村の若者の背には、弓が担がれていた。


 冒険者ギルドから派遣された事が分かると、すぐに門が開けられてポーターごと村の中へと入っていく。


 クラーラが、周囲を見て少し呆れていた。


「見張りもそうですが、これだけ防御に力を入れているのを見ると……私たちが必要であるのか疑問ですね」


 率直な感想だが、俺も同意見である。


 俺たちを出迎えてくれたのは、村長と名乗る男だった。


 体は大きく、少し腹は出ているが腕の筋肉が凄い。俺たちを見て、少し微妙そうな顔をしたが、すぐに笑顔になると。


「ようこそ。こんな田舎に良く来てくれた。さて、ギルドの書類を見せて貰おうか」


 俺が封筒に入った書類を手渡すと、相手はそれを見て何度か頷いていた。


 依頼を出した本人らしく、俺たちを見ると頭をかきながら。


「経験を積んだパーティーか。しかし、見たことのない道具まであるな。今の流行なのか? それに、なんで家政婦がいるんだ?」


「メイドです」


「え?」


「メイドです」


「そ、そうか」


 村長がポーターを見てから、メイド服姿のモニカを見た。


 家政婦と言われ、メイドである事を譲らないモニカに村長はちょっと引いている。頭のおかしい娘だと思ったのか、すぐに切り替えるとリーダーである俺に話を振ってきた。


「ここで話をするのも落ち着かないだろう。宿じゃないが、宿泊出来る建物があるからそこを使ってくれ。掃除はしているから、それなりに快適だと思うぜ」


 村長を先頭にポーターを動かし俺たちは村を歩く。


 見れば、武器を手に持っている村人までいた。


 それを見て、村長が苦笑いをする。


「気分が悪いだろうが、我慢してくれ。ガキほど武器を持って強がりたいのさ。それに、冒険者が来るとどうしても警戒してな」


 俺は村長の後ろ姿を見ながら。


「村長も冒険者だったんですか?」


「……分かるのか? 優秀な冒険者を派遣してくれたギルドに感謝だな」


 笑いながら歩く村長は、歴戦の強者という印象を受ける。


(グレーウルフ程度なら、この人一人でどうにかならないか?)


 周囲に気を配れば、明らかに元は冒険者という村人がチラホラと発見出来た。


 こちらを警戒しているようで、中には敵意を向けてくる者もいた。


 宝玉から、三代目の声がする。


『冒険者も色んな奴がいるからね。報酬が少ないと暴れる奴もいるし、中には依頼者を脅すような馬鹿もいる。賊と変わらない連中もいるから、こうして警戒されるんだよ』


 冒険者嫌いの七代目も同意していた。


『冒険者は信用出来ませんからね。というか、ライエルに敵意を向ける村人もどうかと思いますが。こちらがその気なら、村を消滅させる事だってできるんだがな』


 警戒している理由も分かるし、俺たちがどんな冒険者か分からないから不安なのだろう。


 もっとも、その程度でこちらから喧嘩を売るほどのことでもない。


 歩いていると、普段から旅人や行商人、そして冒険者などを泊めている建物が見えた。


 横に長く、入口が三つほどある建物を、村長が指差した。


「あそこを自由に使ってくれ。もっとも、壊されたら苦情を出すけどな。それと、そこの青い髪の兄ちゃんは、俺と一緒に来て貰おうか」


 村長の家でグレーウルフについて説明があるのだろう。俺は仲間に視線を向けると、全員が頷いたので村長に同行する。






 村長の家では、年齢が十か二十も違いそうな若く綺麗な奥さんがいた。


 大きな家には小さな子供が二人おり、俺を廊下から覗き込むように見ている。


 木造でしっかりした作りをした村長の家は、建てて間もないのか綺麗であった。


 若く綺麗な奥さんからお茶を貰うと、それを飲みながら話をする。


「雰囲気が悪いだろ。こういうのははじめてか?」


 俺は、以前に個人的な依頼でグリフォン退治を受けていた。記録には残っていないが、その時に村で防衛戦をしている。


「はじめてではないですが、なれてもいませんね」


 すると、相手は笑っていた。


「だろうな。視線がキョロキョロとしていたから、そうじゃないかと思ったんだ。ま、こっちも受け入れるとなるとリスクもあるから、我慢してくれ」


 頷くと、村長はグレーウルフについて話をする。


「さて、それで依頼なんだが……近くの森でグレーウルフの群れを見つけた。枯木や狩りで森や山に入るんだが、危ないから退治して欲しい、ってのが依頼だな」


 俺は村長を見てから、壁に掛けられている武具を見る。


 体格に相応しく、前衛で斧を振るっていた戦士のようだ。


「俺が退治しないのが不思議か?」


「何か理由があるとは思っています」


「確かに理由はあるな。だが、これは昔からの風習や流れみたいなものだ。それに、俺もその流れを変えたくない」


 お茶を飲みながら、元冒険者の村長は俺の人柄を把握したのか話をする。


「お前たち、ここに来るまで戦っただろ」


「えぇ、少し多い気はしましたけど、何度も魔物と戦いました」


 それを聞いて、村長は嬉しそうにしている。


「そういう事だよ。ベイム周辺なら冒険者が魔物を捜し回るが、ここまで遠いと冒険者が寄りつかない。冒険者を呼ぶのは、魔物を倒しながらここまで来て貰う事だ。そうしないと、村に来る行商人や旅人が困るからな」


 理由を聞いて納得した。確かに、村周辺の魔物は村長が一人でもどうにかできるだろう。


 しかし、それではここまでの道のりにいる魔物が退治されない。退治されないと、どうしても村に来る者たちが足を運びがたくなる。


「冒険者を呼ぶこと自体が目的だったと?」


「そういうものだよ。それに、俺たちにとって行商人は大事だからな。冒険者は金が手に入り、俺たちは金を払って行商人や旅人の安全を確保する。その辺の事を分かっていると、依頼を受けるときに得をすると思うぜ」


 何やら得をする事があるようだ。


 村長がお茶を飲みながら、俺に情報を教えてくれる。


「近くの森に群れがいるんだが、案内はいるか?」


 そう言ってきた村長の視線は、俺を試すようなものだった。俺は首を横に振る。


 五代目と四代目のスキルがあれば、敵の発見は容易である。


「そうか。準備が出来たら向かって貰う。それから、終わったら俺に声をかけてくれ。確認に向かいたいからな」


 俺は確認を終えると、立ち上がって村長に一言。


「そう言えば」


「なんだ?」


「自分で倒さない本当の理由というか、もう一つくらい理由があるんじゃないですか?」


 すると、村長は疲れた顔をしながら。


「俺が一人でも退治出来ると村人に知れてみろ。村の連中は、金を出すのを惜しんで俺に退治に行けと言い出すんだよ。村人、って言っても強かだし、賢い奴は賢い。でもな、馬鹿はどこにでもいるんだ。引退して衰えた体で、危険を冒して退治するほど金に困ってないからな」


 俺は、本音が聞けたので笑顔になって頷いた。


 若く綺麗な奥さんに、子供が二人。確かに、無理をして手放すには惜しい幸せという事だろう。


 引退して体は衰えており、万が一にでも命を落とせば悔やみきれないという事だ。


 宝玉からは三代目の声がする。


『ま、全体のためになると説明しても、理解出来ない連中はいるからね。それに、余所から来て村長をやっている元冒険者には不満もあるんじゃないの』


 三代目の声を聞いて、俺は村長にもう一度たずねる。


「それと」


「まだあるのか?」


「なんで村長をやっているんですか?」


 俺の質問に、村長は溜息を吐いた。


「俺だってやりたくないが、ベイムじゃギルドとコネがあると便利なわけだよ。余所だと、領主や貴族とかに知り合いがいる感じか? こうして依頼も受けて貰えるのも、俺のコネという訳だ。他の村なんか、下手をすると受け手がいない、って拒否されるんだぞ」


 ギルドからすれば、必死に割り振っているのだろう。だが、冒険者にも事情がある。そして、依頼者にも事情があるという訳だ。


「それとな。やっぱり強さもあるが、ベイムじゃ冒険者を理解している奴が頼りになる訳だ。俺だって嫌なんだが、前の村長が引退する時に俺に押しつけたんだよ」


 宝玉からは、四代目の声がした。


『その辺の事情を理解しているから、彼に村長を任せたわけだ。ま、引退してノンビリしたいとか思っているような元冒険者は、村長とか嫌だろうね』


 五代目が。


『逆に言えば、下手に欲がないから仕事をするだけであまり干渉しない訳か。最低限の人となりは見るだろうが、思い出せばベイムの村人は武器を持てるくらいに金を持っている訳か』


 ベイムならではの事情という事だろう。


 他の場所では、利権を求めて村長になりたい者もいるだろうに。ここでは、税が少ないのか村人の暮らしは裕福であるらしい。


 三代目が言う。


『ついでに、この人はライエルの試験官だろうね。きっと、詳細を報告するはずだよ。ギルドにコネがある、って言っていたし。思っていた以上に手が込んでいるね』


 三代目はいつものように飄々としており、見破ったのが嬉しそうだった。






 村長の家から宿泊する建物に戻った俺は、周囲に村人が隠れているのを発見する。


(なんだ? なんでこの位置に隠れて……)


 ある場所から、どうやらこちらを監視しているようだ。


 しかし、どうにもおかしかった。


 俺が監視されている場所へと向かうと、そこは建物の裏にある場所だった。


 水浴びをするための設備があり、周囲に仕切りはない。


(そういう事か)


 スキルでより詳しく監視している村人を見れば、全員が男だった。


 俺が視線を向けると、わざわざ覗くために台を作って何人かでこちらを見ている。


 発見されたことで、慌ててバラバラに逃げ出すのだが……。


「もう水を使った後か」


 すると、首にタオルを掛けたアリアが俺を見つけたので、声をかけてきた。


「もう終わったの、変態さん」


 ニヤニヤとしているアリアは、クラーラにでもお湯を用意して貰ったのか体を拭いて髪を洗っていた。


 湯冷めするので早く中に入ればいいのに、などと思っていた。だが、変態と言われたので少し腹が立つ。


 麒麟にキスをしようとしたことで、俺はアリアの中で変態扱いだ。


 宝玉の中からは、珍しく感情的な五代目が。


『……なんで変態なんだ? 納得ができないんだが』


 変なところで怒っていた。


(あんたは、もう少しだけ動物以外にも目を向けようよ)


 笑顔のアリアに向かって、俺も笑顔になって村人たちがいた場所を指差す。


「何よ?」


「お前、ここで裸になっただろ」


「だから? 良いでしょ。移動で満足に洗えなかったんだから。出来ればお風呂に入りたいくらいよ」


「覗かれていたぞ」


「……え?」


 俺の指し示した場所を見るアリアは、そこに台が設置されているのを見つけたようだ。


 角度からして、水浴びをする場所を覗ける位置にある。


 俺たちを見張るために用意したと言われればそれまでだが、明らかに覗くために用意されていた。


 ここで恥ずかしがると思ったのだが……。


「それが何?」


「……は?」


 俺は間抜けな顔になったと思う。


 宝玉の中から、六代目の声もする。


『……駄目だな。この娘は色々と分かってない』


 四代目は。


『冒険者だし、今更裸を見られるくらい平気かもね。その割には、ライエルの前で妙に恥じらっているけど……ライエルはいつか後ろから刺されれば良いよ』


 三代目も。


『やっぱり、ハーレム野郎の最後はそういう流れだよね』


 目の前で、アリアが俺を見て掌を口に当ててニヤニヤする。


「何? 見られたのが悔しいの? そうか~、ライエルは女の裸なんか見たことないから、悔しいのね」


 からかうつもりが、逆にからかわれてしまった。


 だが――。


「何を言っているんだ? お前、前に下着姿でソファーに横になっただろ。下着がはだけていたから、毛布を掛けてやったのは俺だぞ」


 アリアが急に顔を赤くし、持っていたタオルを俺に投げつけてきた。


「なんで見てんのよ!」


 濡れているタオルが、俺の顔面に結構な重みを感じさせると同時に、痛みを与えてくれた。


 タオルを取ると、俺はアリアに投げ返す。


「お前が見せびらかしてたんだよ! こっちが恥ずかしいから、毛布を掛けてやった俺の優しさに感謝しろよ!」


「恥ずかしい、って何よ! これでも自信があるのよ!」


 アリアがタオルを投げ返してくるので、俺はそれを受け取ってまた振りかぶる。


「知るかよ!」


 投げつけたタオルを手で受け止めようとしたアリアだが、端を手で掴んだためにタオルが顔面にバチンッ! と音を立てて張り付いていた。


 指を差して笑っていると、アリアが本気で睨んできた。


「……忘れろ! 私の裸を忘れろ!」


「さっきはそれで? とか言っていたじゃないか! 気にしなくても、もう思い出せないっての!」


「この変態!」


「見られたくなかったら、そのズボラなところを直せや!」


 タオルを投げ合っていると、宝玉の中から七代目の声がした。


『……仲が良いな、お前たちは』


 七代目の意見に、同意出来ない俺だった。


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