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セブンス  作者: 三嶋 与夢
孫馬鹿な七代目
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ハーレムの主

 東支部ギルドに顔を出したのは、俺とノウェムの二人だけだった。


 それというのも、受付で依頼を受ける必要性があったからだ。


 もっとも、ベイムでは依頼を受けるとそのまますぐに仕事、という訳ではない。


 期間が決められており、その期間内に依頼を達成する必要があるのだ。


 特に東支部は派遣型のギルドであるので、出発前のパーティー以外はラフな恰好でギルドに向かう場合が多い。


 パーティーの信用度が高ければ、複数の依頼を効率的に受ける事も可能なようだ。


 もっとも、移動してきたばかりの俺たちは、ベイムでの信用がない。ないというか、絡まれたせいでマイナスからのスタートである。


 ギルドに到着すると、出発をする冒険者の中にラフな恰好をした者たちを見つけることができた。


 ローブを着て、腰には武器を下げている。だが、それだけだ。


 これから仕事に向かう、というような印象はなかった。受付のギルド職員と明るく会話をしている者もいれば、真剣な表情で条件を確認している者。


 そして、内容に満足せずに抗議している者もいる。


 朝早くから東支部に足を運んだ理由は、依頼を受けるためだ。ギルドの信用して貰うためには、数多くの依頼を達成する必要がある。


 そして、ベイムでの俺たちの評価を上げれば、迷宮に挑めるようになる。


 早く迷宮に挑めるように、日頃から積み重ねを大事にしようという訳だ。


 そんな中で、俺の受付になったのはタニヤさんだった。


(これだけ受付がいて、またこの人か)


 黒髪オカッパ。そして、スレンダーなタニヤさんは、胸もスレンダーだ。


「……何か失礼な事を考えていませんか、ライエル君?」


「い、いえ。そんなことは……」


「視線が胸を見ていましたよ。真っ平らで悪かったですね。きつい仕事を割り振ってあげましょうか?」


 ノウェムが申し訳なさそうにタニヤさんに謝罪をする。


「すみません。ライエル様も、悪気は……なかったと思います」


 すみません、ありました。などと言えるわけもない俺は、そのまま曖昧な笑みを浮かべてタニヤさんに謝罪をした。


 相手は少し笑っており、気にしていない様子だった。


「ま、そんな事を気にしていたら、冒険者ギルドで受付の仕事なんかしていませんけどね。それと、ライエル君たちのパーティーですが、今回はベイムで初めての仕事と言うことですので少し試させて貰います」


 とても長いカウンターに仕切りを作った受付の机の上に、一枚の書類が差し出された。


 依頼書を受け取ると、俺は内容を確認する。


「……魔物の討伐ですか?」


 タニヤさんが頷いて、今回の依頼を説明する。


「ベイムから片道で三日の距離にある村の依頼です。近くにグレーウルフが見かけられたそうです。期間は二十五日以内に達成を受付に報告してください。数は増えている可能性もありますが、十以上は覚悟して貰います」


 グレーウルフとは、狼のような魔物である。最大の違いは、殺したときに魔石を持っているか、いないかの差しかない。


 ただし、集団で襲ってくる上に、大きさは狼以上で人間を優先的に襲ってくる。


「村は無事なんですよね?」


 俺が確認を取ると、タニヤさんは肩を上下させる。


「ベイムの欠点は食糧の自給率ですからね。付近の村は大事にしますよ。そのために、小さな村にも壁を作っています」


 領土が本当に小さいために、食糧を自給自足というのは無理がある。


 だが、交易や魔石や素材、それに財宝に希少金属で得た資金で周辺から食糧を買い込んでいるのだ。


 しかし、同時にベイムの弱点でもある。


「買うだけじゃ足りないんですかね?」


 そう言うと、宝玉の中から七代目の声がする。


『自給率が低いからと言って、何もしないわけにはいかないんだぞ、ライエル。足元を見られるから、自分たちでもある程度は賄えるというのを周辺国に見せておきたいのだろうな』


 それを聞いて頷きそうなのを我慢すると、タニヤさんが七代目と同じような返答をする。違うのは後半だ。


「何もしなければ足元を見られてしまいます。食糧を高値で買わされますからね。それに、ベイム周辺の多くの村は、かつて冒険者だった人たちが多いんですよ。引退した冒険者に、第二の人生を支援する場所でもあるわけです。それもあって、簡単には魔物に滅ぼされません」


 それを聞くと、その人たちが何とかできそうだと思った。俺の表情を見て、タニヤさんは理解したのか説明する。


「なら依頼なんか出すな、そう思っていますね」


「いや、その……」


「彼らも厳しくなれば戦いますよ。けど、多くが引退した人たちです。好きこのんで戦いたいなら、未だに冒険者をしています。つまり、率先して戦おうと思わない。まぁ、他にも理由はあると聞いていますが……色々とあるんですよ。色々と」


 色々というのを知りたいと思ったが、面白い話ではなさそうなので俺は聞くのを止めた。


 そして、その依頼書を見る。


「簡単とは言いませんけど、受けられる依頼ですね」


 ノウェムも頷いていた。


「達成可能だと思います。でも、試すというのは?」


 タニヤはニッコリと笑顔になり、そして言う。


「実力を見るためですよ」


 ノウェムは何かを言いそうになるが、途中で止めて俺を見て頷いた。


「受けます。出発はこちらで決めてもいいんですよね?」


 タニヤさんは頷くと書類にサインするように求め、そしてサインをすると書類を受け取った。


「こちらではどのように達成しようと関係ありませんので。もっとも、犯罪に手を染めればギルドとしても処分をする事になりますけどね。こういった依頼は、ベイムのやり方を学んで貰うためでもありますから」


 簡単な依頼で肩慣らしをして、ベイムでの仕事のやり方を覚えて貰おうというのだろう。


 俺はタニヤさんから依頼の詳細が書かれた用紙と、依頼者に渡す書類を受け取って受付を離れるのだった。






 帰り道。


 俺はノウェムと話をする。


「さて、行きと帰りで三日か……でもこれ、馬を使えば、って感じだよね」


 地図を見ながらそう呟くと、ノウェムも頷いていた。


「そうですね。徒歩であれば明日には出発しないと厳しいかも知れません」


 依頼書を見る限りでは、二十五日では移動にその大半を取られてしまう。


 目当ての村に到着したとしても、きっと数日で依頼をこなして戻らなければ厳しいだろう。


「行きと帰りで、徒歩で二十日か? 依頼に使用出来る期間は準備も入れて二日から三日……普通に考えれば厳しいな」


 ノウェムも頷いていた。


「試させて貰うと言っていましたから、こちらが移動手段を確認しなかったのは、向こうからすれば減点かも知れませんね」


 俺は苦笑いをする。


 徒歩で三日では無理だと思ったが、同時に徒歩でなければ可能だと感じていた。


 依頼書の金額を見ると、準備のために荷馬車などを借りてしまえば儲けはほとんど残らないのも理解出来る。


 ノウェムはクスクスと笑っていた。


「わざと聞かなかったのですよね?」


「まぁ、余裕があるからな。聞く必要がなかったし」


 二十五日もあれば、余裕で戻ってくることができる。準備をするだけなら一日もあれば可能であった。


 三代目の声がする。


『ふ~ん、ライエル……この依頼は少し余裕を持ってこなそうか』


 俺が宝玉に触れると、三代目は面白そうに説明してくれる。本当に誰かの裏をかくというのが楽しそうだ。


 良い性格をしている。


『何、これは多分だけど、実力試験だよ。強さではなく、もっと大事なものだよ。移動力とでも言おうかな? どれだけの期間で、移動出来るかを見ているんだ』


 五代目も納得したようだ。


『派遣型のギルドだと言っていたから、それは重要な問題だろうな。下手をすれば、強かろうと移動が遅ければ仕事を回しにくい。他にも見ている場所はあるだろうが……元冒険者も一枚噛んでいるかもな』


 七代目が嫌そうに言うのだ。


『汚い連中ですね。だから冒険者は嫌いなんです!』


 四代目は、七代目に呆れているようだ。


『何を今更? 俺たちも同じような事を、いや……それ以上の事をする時だってあるんだけど?』


 七代目の冒険者嫌いは相当なものなので、感情論でしかない。


 しかも、ウォルト家の領地にもギルドは存在している。


 七代目も冒険者を利用してきた。だから、納得はいかないが、理解はしているのだろう。


 六代目がまとめる。


『そうなると、向こうでの態度もギルドは試しているのかも知れないな。グレーウルフ程度なら、村にいる引退した冒険者でもなんとかなりそうだが、そういう事か』


 三代目は楽しそうにしている。


『こちらの最速を教えてやる必要もない。少し余裕を持って移動して、余裕を持って対応しようか。出来ると分かれば、向こうだって利用しにかかるからね。多少は出来る冒険者たち、って思われれば良いんじゃない?』


 俺は宝玉を握りしめると、横を歩くノウェムに視線を向ける。だが、ノウェムは宝玉を――いや、俺の手を見ていた。


「ライエル様、その仕草が多いですね。癖になっていませんか?」


 別に責めている訳ではないのだろうが、ノウェムは俺の行動をよく見ている。


 前から気になっていたのかも知れない。


「そ、そうか? いや、頼りになるから、つい握ったりするんだよね。癖になっているのかな? まぁ、別に変な癖でもないし、良いじゃないか」


 ノウェムは微笑みながら。


「そうですね。時々指先で転がすときもありますが、何か違いでもあるのですか?」


 今日はやけに絡んでくると思いながら、俺は曖昧にごまかす。


「気にしてなかったな……それより、時間が微妙だな。昼食には早すぎるし、どこかで休憩でもしていくか?」


 周囲を見れば、喫茶店が並んでいた。


 冒険者や、ベイムの住人たちが利用している店があるなかで、準備中という看板を掲げている店もある。


 中には、食事をしている冒険者たちもいた。


(時間の感覚が違うのか? いや、迷宮から出て来たばかりだと、体内時計が狂うとか聞いたな)


 クラーラに教えて貰ったのだが、俺たちにはモニカがいる。


 そのため、時間に関してはあいつが正確に告げてくるので、俺たちは暗い迷宮内に何日も滞在しても時間の感覚が狂うことはない。


 ノウェムは。


「それより、依頼を受けたことを伝えないと駄目ですよ。きっと待っていますから」


 頷いた俺は、宿屋を目指すために歩き始める。


「なぁ、ノウェム」


「はい?」


 歩きながらノウェムにたずねたのは、ミランダたちの事だった。


 ファンバイユの屋敷で、ノウェムが全てを打ち明けてからパーティーの雰囲気はどこかギスギスしている。


 いや、ギスギスというよりも、事務的な感じがしていた。


 ミランダも裏で何かをしている、という風には見えない。俺が気付いていないだけ、という事もあるかも知れないが、スキルで注意深く確認した時も何もなかった。


 そう、何もない。


 今のパーティーには、会話がほとんどないのだ。


 ノウェムは、エヴァとよく一緒にいる。


 ミランダは、シャノンと。


 クラーラが基本的に一人か、ノウェムやミランダと一緒に行動する事もある。


 アリアは、モニカと言い争いをしている事が多いのだが、基本的にはミランダと一緒にいることが多い。


 モニカは……基本、俺以外には興味なさそうにしている。全員の世話をしてもいるが、俺とは明らかに温度差があった。


「上手くやっていけそうか?」


 何を、とは言わなかった。


 ノウェムは微笑みながら頷くと。


「大丈夫ですよ。ベイムでも上手くやっていけます。ライエル様の実力ならば、間違いなく一流の冒険者になれますから」


 俺は頭をかいた。


「……そうか」


 つまり、ノウェムはミランダとの関係を現状維持にするようだ。お互いに不干渉を貫くなら、下手に争うよりもずっといい。


 ただ――。


(本当にこれでいいのかな?)


 俺は二人の関係をどうにかすべきではないか? そう思うのだった。






 夜。


 俺は宝玉内にいた。


 五代目の記憶の部屋で、地面に倒れ仰向けになっていた。息は乱れ、汗だくで血だらけで……。それが収まっても、起き上がれなかった。


 五代目は右手に片手剣を持っているが、その刃には切れ目がいくつも入っている。


 蛇腹剣。


 その使い手である五代目は、息も切らさずに俺を見下ろしていた。


『前より動きが悪い。簡単にフェイントに引っかかる。ついでに力も入っていない。集中力が乱れていたぞ』


 俺の反省点をまとめると、右手に持っていた蛇腹剣を消してしまう。俺の近くで地面に突き刺さっていたサーベルも消えていった。


『……朝方の事をまだ気にしているのか?』


 五代目は、俺の気持ちに気が付いているのか、腰を下ろして俺に話しかけてきた。


「ハーレムとか別に興味ないんですけど、同じパーティーの仲間ですから。どうにか仲良くやれないものかと……」


 俺が上半身を起こすと、五代目は呆れたように額を手で押さえて首を横に振っていた。


 五代目もハーレムと言えばハーレムだったので、何かアドバイスがないか聞くことにした。


「何か解決策とかないんですかね? お互いに話し合いをして貰った方がいいですか?」


 五代目が。


『俺に聞くのか? 聞く相手を間違っている気もするが……まぁ、俺しかいないか』


 聞いている限りでは、六代目も妾を囲っていた。だが、どうにも大変だったような事を七代目が言っていたのだ。


 何しろ、七代目はハーレムを見てきて、嫌だから妻は一人と決めていたようである。


「六代目は失敗したんですか?」


 俺が聞くと、五代目が左手をヒラヒラとさせて否定する。


『馬鹿。上手く行く方があり得ないだろうが。逆を考えろ。お前、ノウェムに他の男がいたら許せるか? 同じように好きだから、一緒に暮らしましょうとか言われたらどうよ?』


 全力で首を横に振ると、五代目は頷いた。


『ノウェムの周りに男が五人とか六人いたとして、お前はノウェムだけを愛せるか?』


 それも少し悩んだのだが、全力で否定した。


 気持ちで納得出来ないからだ。


「やっぱり、ハーレムとか駄目ですよね。俺としてはノウェムだけで良いんですけど……そうも言っていられない状況なのは理解しています。でも、ハーレムはちょっと……」


『駄目だね。よくて愛人くらいか? 政略結婚なら、子供を産んだ後にお互いに愛人を作るとか普通にあるからな。俺はその辺の事に口出し出来る立場じゃないが……そういうの、ウォルト家は確かに疎遠ではあったな。ただ、お前の場合はあの娘たちの目的がお前だから難しいんだよな。諦めてくれるなら、ついてこないだろうし』


 初代が開拓団に参加した理由からして、好きな人に釣り合うためというなんとも微笑ましいものだった。


 だが、俺の場合はエヴァは特殊としても、他は俺目当てである。


 五代目もそれを気にしていた。


「俺はどうしたらいいんですかね?」


 五代目がハッキリと告げた。


『何もするな。いいか、お前は酷くならない限り、絶対にあの二人の関係に口を出すな』


 答えは、驚きの何もするなというものであった。


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