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セブンス  作者: 三嶋 与夢
孫馬鹿な七代目
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冒険者たち

 ギルドの施設内にある部屋の一つは、訓練用のものがあった。


 綺麗な石の壁に囲まれたその部屋では、少し空気が重かった。小さな窓が取り付けられていたが、換気が十分ではないのだろう。


 サーベルの形をした木剣を持たされると、髪をオールバックにした青年のクレートが俺と対戦相手であるエアハルトの間に立っていた。


 周囲には俺の仲間や、大剣を持たされたエアハルトの仲間がいる。


 そして、気になったのか他の冒険者たちもゾロゾロと集まってきていた。


 朝になって戻ってきた冒険者たちもそうだが、ギルドに来ただけの冒険者たちが俺たちを見てニヤニヤしている。


 耳を澄ますと、彼らの話し声が聞こえてきた。


「どっちが勝つか賭けないか?」

「しかし、良く聞くが滅多にない決闘かよ」

「若いのは良いね。無鉄砲で」

「それで、決闘の理由って何?」

「一方がどう見てもハーレムだろ? だからじゃないか」

「見ている分には羨ましいが、実際は違うだろうに」

「若いね~、だけど面白いからそれでいいか」

「俺は青髪の方に賭ける!」

「緑色の髪をした兄ちゃんはスキル持ちらしいぞ」


 ……楽しそうだった。


 新人に厳しく、ギルドに登録に行くと絡んでくるような先輩冒険者たち――そんな存在はいなかった。


 だが、同世代の冒険者に、俺は喧嘩を売られている。


(どうしてこうなった? 確かにノウェムたちを引き連れていたけど、回避出来たはずなのに……)


 後ろを見れば、クラーラが目をキラキラさせていた。エヴァも同様だが、彼女たちはどうしてメモを持っているのだろう。


 そして、汗臭いこの場所で、シャノンは嫌そうな顔をしながら水筒を持って飲み物を飲んでいる。


 ノウェムは換気をしようと魔法の準備をしており、アリアとミランダは俺が振り向いたことで手を振っていた。


 モニカは両腕で手を振り、ツインテールを揺らしていた。


 正面を見ると、反対側に立っているエアハルトの仲間たちが俺を睨み付けていた。


 横を見ると、クレートが冒険者の輪の中から出て来たギルドの制服を着た職員と話をしている。


「……試合の経緯は理解出来ました。若い冒険者同士の争いですね。でも、あまりこういった事はやらないで欲しいです」


 黒髪おかっぱで、鋭い目つきをした赤い目のギルド職員は、呆れながら俺とエアハルトを交互に見ていた。


 そして――。


「今回の経緯は知りました。試合を行ない、その後の結果に不満を言わないと約束していただきますよ。それと、勝ち負けを決めるだけで、両者が何かを賭けるのは禁止です」


 周りの冒険者たちを見る職員は。


「ついでに、賭け事もあまり熱の入らないように」


 ベテランの冒険者たちが笑い、彼女に言う。


「【タニヤ】ちゃん、お遊び程度から見逃してくれよ」


 どうやら、俺たちに呆れている女性職員は【タニヤ】というらしい。


 クレートさんが右手で胸を叩き。


「心配ない。私が立ち会うんだからな! 双方、試合の結果に納得するように!」


 エアハルトは笑って大剣を模した木剣を構える。


 俺からすれば理不尽な試合なのだが、ここで止めても周囲が納得しない。それに、相手は確かにスキル持ちだ。


(スキル持ちとの戦いは、確かに経験があまりないな)


 タニヤは冒険者の輪の中に混ざると、クレートが少し下がって合図を出そうとしていた。俺を見ているので、構えたら宣言をするのだろう。


 サーベルをもした木剣を構えると、クレートが。


「はじめ!」


 大声が部屋に響くと、楽しそうな歓声が上がった。


「想像していたベイムのギルドとは違うな」


 愚痴をこぼすと、相手が大剣を振り上げて俺に向かって振り下ろしてくる。


(剣を学んでいるのか?)


 大剣を使うエアハルトを見ると、どうやらどこかで学んでいるようだった。苗字を名乗っているので、もしかすればどこぞの貴族の息子なのかも知れない。


 それとも、剣を覚える環境にいただけか――。


 体を半身逸らしつつ、突きを繰り出すと相手の腕に木剣の先が当たる。


 だが、感触が硬かった。


 それに、手加減をしたのだが相手の腕は赤くなっていない。


 宝玉内からは楽しそうな六代目が。


『肉体の強化系は前衛系も支援系もあるが……若いのにスキルを発現し、使いこなすか。なる程、威勢が良いだけの理由もあるか』


 大剣を横に振り抜いてきたエアハルトの攻撃を、下がって避けると風圧を感じた。一定の技術を身に付けているようだが、動き自体がそこまで早くなっていない。


 スキルを使用しているが、脅威ではなかった。


「逃げ回ってんじゃねーぞ! 食らいやがれ!」


 斜めに振り下ろした大剣を、今度はそのまま跳ね上げる。斬り返した攻撃を木剣で受け止めると、そのまま相手は俺を蹴り飛ばしてきた。


 後ろに飛び退くと、観客たちと距離が近くなった。


「こんなものか? 冒険者もたいした事がねーな。まだ一つ目しか使ってないんだぜ」


 三代目が大喜びする。


『自分から情報をくれる……なんて良い子なんだ! 二段階目、それに最終段階まで使えるのかな? 聞いてみようよ、ライエル』


 本当に楽しそう――というよりも、馬鹿にしている気がした。


 俺は呆れつつも。


「二段階目があるのか、確かにそれは怖いな。だが、それで終わりならなんとでもなるんだけどね」


 ムッとしたエアハルトが、大剣を担いで自慢してくる。


「誰が二つ目、って言ったよ。俺は三つ目まで使えるんだ」


「ご丁寧にどうも!」


 距離を詰めて、そのまま大剣の間合いの中に入り込む。エアハルトが拳を突き出してくるが、腕を掴んでそのままひねって後ろに回る。


 周囲からは。


「何? これで終わり?」

「余裕を見せて構えを解くから! 俺の銀貨一枚が!」

「ふっ、今日は良い酒が飲めそうだ」


 周囲は呆気ない終わりに声が上がると、腕をひねって地面に押しつけたエアハルトの雰囲気が変わる。


「馬鹿にしやがってぇぇぇ!」


 腕の筋肉が膨れあがり、そのまま魔力が噴き出すような錯覚を覚えたために俺は即座にエアハルトを解放して離れた。


 肉体強化。


 アリアと同系統のスキルかと思っていたが、どうやら正解のようだ。木剣と言っても大剣の形をしたそれは重い。だが、それを片手で持って俺に振り下ろしてきた。


 二段階目か、それとも最終段階なのか。


 四代目が。


『受け止めたら折れるね。このまま避ける方が良いけど、単純なスキルは効果も単純……だけど、単純に強い、っていうのは厄介なんだよね』


 初代のスキル――支援系のスキルも、単純だが実に有効である。単純に肉体を強化するだけのスキルに対し、初代のスキルは能力そのものを向上させるタイプだ。


 使用するべきか悩んだが、俺は初代のスキルを使用しなかった。


「おらぁぁぁ!」


 大剣を振り回し、俺を追いかけてくるエアハルトに向かって走ると、そのまま懐に飛び込んで大股開きをしていたエアハルトの股の下をスライディングでくぐり抜ける。


 地面に木剣を叩き付けたエアハルトは、そのまま木剣を砕いてしまった。


「ちょこまか逃げ回りやがって! おい、俺の【グラム】を貸しやがれ!」


 折れた木剣を放り投げたエアハルトが、大層な名前を持つ剣を仲間に寄越せと言っていた。


 エアハルトの仲間の一人が、大剣を投げたところで空中で石が飛んできて大剣は冒険者たちがいる場所に落ちる。


 拾った冒険者に、エアハルトの仲間が剣を返せと詰め寄ると。


「おいおい、こいつを使ったらお互いに退けなくなるだろうが。お前ら、目の前のお嬢ちゃんたちを見ろよ」


 俺もチラリと仲間の方を見ると、すぐに視線を戻した。


 ミランダが掌から石を落とし、そのまま腰の短剣を引き抜いている。それに、アリアたちも睨み付けていた。


(……こ、怖くない。怖くなんか)


 エアハルトやその仲間たちが、ノウェムたちを見て青い表情をしていた。何を思って喧嘩を仕掛けてきたのか、俺は知りたくもない。


 だが、想像と違ったのか、エアハルトは困惑しているようだ。


「く、くそっ! なら、このまま拳で!」


 拳で殴りかかってくるエアハルトに、俺はサーベルで突きを繰り出した。今度は関節部分を狙い、的確に撃ち込んでいく。


 スキルがあるのなら、多少は痛くても問題はないとサーベルで叩いて叩きまくって……。


「ひ、卑怯だろうが! 男なら拳で戦えよ!」


「真剣使おうとしたのはどっちだよ!」


 木剣とは言え、間合いに入り込めないエアハルトが叫ぶので言い返すと、周囲は笑いに包まれた。


「大物新人だな!」

「ブーメラン!」

「さて、どこまで耐えられるかね、あの恥知らずは」


 エアハルトは、スキルの肉体強化で俺の攻撃を耐えている。痛みを覚悟で突撃してくるのだが、動きが丸分かりだったので簡単に避けて木剣を叩き付けることができる。


 突撃してくるエアハルトを避けて、そのまま木剣で叩き、突き、そして時には足をかけて転ばせる。


 ボロボロのエアハルトは、それでも俺に立ち向かってくる。


 呆れたような五代目の声がした。


『タフなのは理解したが、ここまでだ。ライエル、アゴを狙え』


 言われて、俺は突撃してくるエアハルトに真正面から立ち向かうと相手が俺を捕まえようと両腕を広げた。


 そのまま走ってエアハルトに飛び込むと、地面を蹴って膝をエアハルトのアゴにぶち当てる。


 綺麗に決まった事もあって、エアハルトは目を白黒させそのまま足下がフラフラして倒れ込むのだった。


 必死に立とうとするのだが、体が言うことを聞かないのかまともに動けていなかった。膨らんでいた筋肉が元に戻り、エアハルトがそのまま意識を手放す。


 クレートさんが、ソレを見て宣言する。


「勝者ライエル! これにて、試合を終了する!」


 駆けだしてきたのはエアハルトの仲間たちだった。大剣は返して貰えたのか、仲間の一人が抱えている。


 グラムと呼ばれていた大剣は、魔具ではなく普通の大剣のようだ。名前だけは立派な大剣を見てから、エアハルトを見る。


「肉体強化で大剣を振り回す。なる程、厄介ですね」


 強気になるのも理解出来た。何故なら、単純に強かったからだ。


 もっと経験が豊富で、スキルを使いこなしていれば苦戦したかも知れない。


 クレートさんが近づいてきたので、俺は話をする。


「さて、勝者なのだから、ライエル君もこれでおしまいだ。今回の件は水に流すと言うことで」


 良い笑顔で言われているが、そもそもクレートさんが間に入らなければ俺は相手と試合すらしていなかった。


 顔を引きつらせていると、ノウェムたちが近寄ってくる。


「ライエル様、お見事です」


「え? あぁ、そうなのかな?」


 クラーラは満足そうに。


「冒険者が絡んできて試合をして実力を示す。本で読むのも良いんですけど、実際に見るとそれ以上に興奮しますね」


 エヴァは物足りなさそうだった。


「……真剣をあの時に使っていれば、もっと盛り上がったのに」


 俺は。


「おい、危ないだろうが。それから盛り上がりとか以前に、もっと気にする事があると思うんだが?」


 そう言ってエアハルトを見下ろすと、仲間の一人が俺を睨み付けていた。


「ふざけんなよ。覚えていろ、必ずふ――」


 「復讐する」とでも言いたかったのだろうが、彼の目の前に突き出された槍によって、彼がそれ以上を口にすることはなかった。


 槍を持っていたのは、クレートさんだ。


「禍根を残さないという条件で試合をした。もしも手を出すというのなら、立ち会った私も相手になるぞ」


 相手が驚いて下がると、クレートさんは槍を引いて構えも解いた。槍を担ぐと、俺に言うのだ。


「戦いなれているね。優秀な冒険者だ。それに、仲間の質も高い」


 クレートさんがノウェムたちを見ると、アゴに手を当てて。


「いつか一緒に仕事をする機会もあるだろうし、仲良くしようじゃないか。とにかく、東支部にようこそ」


 そう言うと、笑い声がした。


 クレートさんの表情が一変すると、相手を睨み付ける。


「アルバーノ!」


 アルバーノと呼ばれた冒険者は、短い金髪で垂れ目の青い瞳をした青年だった。少し柄の長い特徴的な剣を腰に下げている。


 右手には銀貨を数枚握っており、こちらを見て。


「稼がせて貰ったぜ、青い髪の兄ちゃん。堅物のクレートには気を付けるんだな。そいつ、一緒に仕事をすると時間厳守だとか五月蝿いし、融通が利かないからな。俺はアルバーノだ。一緒に仕事をする機会があれば、よろしくな」


 そう言って部屋から他の冒険者たちと同じように出て行くのだが、その後ろ姿を見てクレートさんが言う。


「……気を付けるんだ。あいつは腕が良いが、抜け目がない。私も何度も煮え湯を飲まされてきた」


 悔しそうな表情をしているクレートさんを見て、俺は曖昧に頷いた。


(なんか、ベイムのギルドは面子が濃いな)


 今までのギルドと違うベイムの冒険者ギルドで、これからやっていけるのか不安になる俺であった。


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