儚い恋心
彼女は夢を見た。
夢の中の彼女は、心から愛する相手がいた。彼の傍にずっといたいと本気で願っていた。
夢の中の彼女は、彼に愛されていた。彼もまた一生自分の傍にいてくれることを約束してくれ、優しく笑ってくれた。
二人は相思相愛だった。ずっと一緒にいる、確かにそう信じていた。
……その時は。
夢から覚めた彼女は、ベッドの上にいた。ぼんやりとした眼をこすり、もう一度眠りの世界に入ろうとする。
それを邪魔するのは携帯電話のアラームで、彼女を現実世界に引き戻す。
目が覚めた彼女は、不思議な夢を見た気がしていた。誰かを本気で愛し、愛された夢。
しかし今、その記憶は曖昧で、相手の顔も名前も思い出せない。声も分からない。
ただの夢だと言ってしまえばそれまでだが、それでも考えてしまう。
ーーあの人は誰だったのだろうか。
ーー私は誰を愛していたのだろうか。
曖昧な記憶の中、確かに分かることはあった。
ーー私は確かに誰かを本気で愛していたはず。
それは自分の感情。詳しいことの分からない相手への恋心。
現実で誰かに恋心を抱いたことはないけれど、確かにそうだったのだ。
ただの夢かもしれない。だけど夢の中の彼女は確かに彼を愛していた。
夢と現実は別物かもしれない。
だけど夢を見たのは自分自身。
そして目覚めた後にかすかに残る、愛情。
夢だったけれど、愛情自体は偽物ではなかったはず。
夢の中の恋愛は儚く消えてしまった。
後に残ったのは心に残る、儚く消えた想いーー誰かを愛した記憶。
読んでいただきありがとうございました。