小さな勇気と小さな決意
今回は、二人しか登場しません。
あと、幸多がちょっと頑張ります。
野上さんたちと連絡先を交換してからまだ日は浅いけど、普通にメールのやり取りをするようになってきた。
これだけでも大きな進歩だ!
まあ、今日もまだ野上さんと話せないで放課後になっちゃったけど……
手を洗いながら、小さく溜め息をつく。
トイレから出て、手を拭いて教室に戻ろうとした時だった。
両手にプリントの束を抱えた野上さんが、教室から出て来たのは。
これって、話すチャンスでは?!
どうしよう、声かけようかな……でも──
考えている間にも、野上さんは行ってしまう……
……っ、行こう……!
少し大股で、野上さんの横に追いつく。
「て、手伝うよ……!」
「松木くん──いいの?」
野上さんがこっちを向いて、申しわけなさそうに言ってくる。
もちろん、答えは決まってる。
「いいよ。だって重たそうだったし」
それに、野上さんと話したかったし──
「ありがとう。優しいんだね──」
プリントの束を半分上から取る。
野上さんの笑顔に、胸がざわつく。
「そ、そう? 普通だよ」
「そっか──」
野上さんは笑って前を向く。
並んで歩く。
話す内容が浮かばなくて、無言になってしまう……
何か、何か話さないと──
「いい天気だね、今日」
口を開いたのは、野上さんだった。
「お昼にね、猫が中庭でひなたぼっこしてたの。可愛かったな──」
クスリと笑った野上さんの横顔を見て、話しかけてよかったと改めて実感する。
いつもなら、野上さんを見かけるだけで十分だった。
だから、こんな近くで話して、笑顔を見られることが、自分にとって奇跡で、もっと見たいと思ってしまう。
でも、それはわがままでしかないのか──
「松木くん?」
「え? あ……そうだね、ポカポカしてたもんね! おれもご飯食べながらウトウトしちゃったもん」
「うそ。ほんとに?」
またクスリと笑う。
あぁ……。可愛いなぁ──
「そういえば、そろそろ春も終わりだね」
「そうだね。暑くなるよ、これから」
「ね──」
*
他愛のない会話をしているうちに、職員室に着いた。
職員室前のボックスにプリントの束を入れて、野上さんは言った。
「松木くん、手伝ってくれてありがとう」
「ううん。どういたしまして。野上さんと話せて楽しかった」
「わたしも。楽しかった」
ふんわりと野上さんは微笑む。
周りにお花が舞うのが見えた気がした。
「また、話せるかな……?」
野上さんは優しいから、何となく答えは分かっているけど……。やっぱり聞いてしまう。
「うん。話そう──」
野上さんは、頷いてからニッコリ笑った。
この笑顔が、自分だけに向けられていると思うと、やっぱり嬉しかった──
これから、もっといっぱい話そう。
それで、ちょっとずつでもいいから、距離を縮めるよ──
どうだったでしょうか、
感想批判、などなどよろしくお願いします。
すると喜びます(_ _)




