クマさん
前回、名前だけ登場した人物が出ます。
あと、その友達も。
創也が協力してくれると言った、次の日。
特に何も野上さんとの進展もなく、昼休み。
屋上でパンを食べながら、創也と並んで座っていた──
「さて、幸多。今日野上と話したか?」
「え? 話してないけど……創也話したの?」
「まあ」
「へー……。ええ?! いつ!?」
「お前がトイレ行ってる間」
「ズルッ!! ズルい!」
くそ〜。自然の摂理だとしても、野上さんと話したかった!!
くぅ〜ッ!
パンにかじりつく。
……おいしい。
「なんか、困ってたっぽい」
「ん……。何かあったの?」
パンを飲み込んで、ゴミをポケットにしまう。
創也も最後のパンを口に放り込んで、飲み込んだ。
「なんか、ストラップ落としたらしい。クマの」
「ストラップ?」
「そう。唐崎とオソロなんだって。で、大切なもんだから、見つけたら教えてほしいって」
「そっか。唐崎さんとの──」
唐崎さんは、野上さんの友達で、スポーツが出来る。二人は、小学校からの友達で、よく一緒に居るのを見かける。
野上さんは、優しい笑顔が特徴的だ。
運動は苦手なのか、この前唐崎さんに「頑張りなよ!」と言われていた。
「可愛かったなぁ」
「は? 何言ってんだお前」
「え? あ、何でもない──」
危ない危ない。にやけるところだった。
「戻るか。そろそろ時間だし」
「そうだね──」
すっかり、ストラップのことを忘れて、創也と屋上を後にした──
*
教室に入ろうとして、ふと下を見ると、何かが落ちていた。
しゃがんで手に取る。
「どうした?」
創也が手元を覗き込む。
手のひらの上の物を見せる。
「そこに落ちてた。クマ?」
「クマ? あ。野上のストラップか」
「コレが?!」
「そうだよ。何ビックリしてんの?」
「ええっ、だ、だって……まさか、落ちてるとは……」
思わないでしょうよ! てか忘れてたし……
クマはピンク色で、両手で丸いガラス玉を抱えていた。
「渡してくれば? 野上居るし──」
と創也が窓際の方に目を向ける。
そこに、唐崎さんと楽しそうに話している野上さんがいた。
「つ、ついてきて?」
「は? ……分かった分かった。協力するって言ったしな」
「ありがとう!」
心臓が口から出ないように深く息を吸って、後ろから創也がついて来ているのを確認する。そして野上さんたちの所に向かう。
どうしよう! 何て話しかければ?!
そんなことを考えているうちに、野上さんたちとの距離は近づいていく──
あ、挨拶しよう! 挨拶!
そして、野上さんたちの前に着いた。
「こ、こ──」
二人がこっちを見る。
あ、挨拶っ……挨拶しないとっ──
「こんっ──」
「こん?」
「キツネ?」
もう、無理だ……
恥ずかしくなって、うつむく。
「どうも。唐崎、野上。幸多がストラップ見つけたってさ──」
創也あああ! ありがとう! おれ頑張るよ!
創也の「これで良いだろ」という目配せに感謝して、口を開く。
「こんにちは、あ、コレ、ドアの近くに落ちてたよ……!」
「え?! ホントに? 良かったね、由里葉。灯台下暗しってやつ?」
「はは、そうかも──ありがとう、松木くん──」
野上さんの笑顔が、おれに向けられている。
あー、クマさんありがとう! マジでありがとう!
「いやいや──良かったね!」
「うん。祭ちゃんとお揃いだから、ホントに良かった──」
クマのストラップを愛おしく撫でる野上さんは、余計におれをドキドキさせる。
……心臓が破裂しそうだ──
「で、他に用は?」
と唐崎さんが首を傾ける。
用って……もう済んじゃったよ……
「ちょっと、な。幸多」
「え? あ、うん……、その──」
二人の視線がおれに集中する。
話し出すのを待ってくれている。
大丈夫、さっきちゃんと話せたんだ!
頑張れ、おれ──
「野上さん、唐崎さん……っ、友達になりませんか?!」
言った……言ったぞ……!
恐る恐る二人を見ると、
「友達でしょ?」
「そうでしょ?」
と二人は顔を見合わせて笑って言った。
「あ、そうだよね……? うん。ありがとう!」
思わず笑ってしまう。
嬉しくて、ちょっと恥ずかしい。
でも、良かった。友達だと言ってくれた。
それだけで、もう世界が変わって見える──
「じゃあ、アドレス交換するか。友達のしるしってことで──」
*
創也が提案してくれたおかげで、野上さんと唐崎さんのメールアドレスと、電話番号を交換することができた。
今日は嬉しくて、眠れそうにない──
どうだったでしょうか、
感想批判、などなどよろしくお願いします。
すると喜びます(_ _)