文化祭 一日目
文化祭一日目。
委員長には……。
『おはようございます! さて、文化祭一日目。今日は、外からも人が来るので、我が文化祭に来て良かったと思えるものにしましょう──!』
体育館で、生徒会長がマイクを片手に文化祭始まりの合図を出した。
おれたちは喫茶店なので、教室に戻る。
そして、皆お揃いのエプロンを着けて、気持ちを一つにした。
「よし。ついに本番だ。売り上げは考えなくていい。ただ、お客さんに笑顔で帰ってもらえるようにしよう!」
委員長が、笑顔で皆に言う。
創也や唐崎さん、それに野上さんも少し笑っている。
「じゃ、頑張ろう!」
「おー!」
「おっしゃー!」
皆が楽しげに声を上げる。
おれも頑張らなきゃな──
*
「松木、ココア二つ!」
「かしこまりました──!」
意外と、お客さんがたくさん来た。
おれの担当は、飲み物。買ってある飲み物をプラスチックのコップに小分けして、お客さんに持っていく。
「お待たせしました!」
「ありがとー」
「ありがとう」
親子だろうか。男の子とお母さんが、おいしそうにココアを飲んだ。
「頑張ってね」
「はい。ありがとうございます!」
たまに、お礼や応援をしてくれるお客さんがいる。
それだけで、ちょっと心が温かくなる。
「ごゆっくりどうぞ──」
お客さんに笑顔で接客して、裏に戻る。
皆一生懸命動いていた。
「あと二時間。それか、お菓子のストックがなくなったら、今日は終わり。頑張ろう!」
「うん!」
心から、頑張ろうって思える。
野上さんが仕事をやっている姿も見れたし、それだけで嬉しい。
あと二時間、創也は接客に追われ、野上さんと唐崎さんはお菓子の準備を頑張っていた。
もちろんおれも、ジュース運び頑張ったからね!
*
「はぁ……疲れた──」
「松木、ゴミ捨て頼んでいいか? 売り上げの計算しないといけないんだ」
「わかった。行ってくるよ──」
委員長が、悪いと手を合わせた。
計算よりは、ゴミ捨ての方が楽だ。
「よっと……」
両手にゴミ袋。結構重い……
それを持って廊下に出ると、声をかけられた。
「手伝うよ」
左手から、ゴミ袋がなくなった。
隣を見ると、野上さんがいた。
「あ、ありがとう。重いよね、大丈夫?」
「大丈夫だよ。それに今持って思ったけど、一人で二つ持つの大変でしょ?」
「確かに──」
ちょっとだけ、笑った。
野上さんも笑った。
二人で並んで歩き始める。
「……今日、お疲れ様。大変だったでしょ」
「そんなことないよ。松木くんの方こそ動き回ってて疲れたでしょ?」
「あはは。ちょっとね──」
でも、野上さんと話せたから、疲れが吹き飛んだよ! なんてことは言えない。
「わたしもちょっと疲れたかな──」
「でも明日もあるよ。頑張らなきゃ」
「そうだね……」
野上さんは、ふぅ。とため息を吐いた。
……聞いてもいいかな? 委員長のこと──もし答えが、おれの期待しているものと違ったら?
顔が強張る。でも、訊かなきゃ……。そうしないと、本当のことはわからない──
「あのさ……」
「うん?」
「委員長のこと、どう思う……?」
野上さんは、う〜んと考えてから口を開いた。
「井藤くんね、しっかりしてるよね。皆をまとめて、的確な指示もできるし。すごいなぁって思うよ」
やっぱり……、おれは委員長みたいにできない。だから、野上さんが委員長に惹かれるのは当たり前で──
「それに井藤くんって一途なんだよ。この前ね──」
「え?! 野上さん、告白されたの!?」
「へ……?」
野上さんがきょとんとする。
あれ? 何か変なこと言ったか?
「違う違う。井藤くん彼女さんいるし。でも、最近彼女とデート出来てないから、休みに誘ってみるかって」
「そ、そういうことか──」
「そうだよ。告白なんてされてないよ──」
と野上さんはクスクス笑う。
良かった……。付き合ってたわけじゃないんだ……
「松木くん」
「へ? なに?」
「最近、元気なかったみたいだから。大丈夫?」
「うん。大丈夫! 何でもない──それよりさ、明日、一緒にまわらない? 創也と唐崎さんもいるんだけど」
「もちろん──」
野上さんは、いつもみたいに笑った。
ひさしぶりに話せて楽しかった。
野上さんもいっぱい笑ってたし、明日の約束だってできた。
あとで創也に話そう。約束できたぞって。きっと創也は、めんどくさそうに相槌を打って流すんだろうけど……
でも、今のこの気持ちを話さずにはいられない。
だって、こんなにも胸がうずうずしてるんだから──
次回、文化祭二日目。
休日投稿です。




