表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/35

準備

準備が始まりました。

 文化祭の準備が始まった。

 それぞれ、外装内装に分かれてやっている。

 創也(そうや)唐崎(からさき)さんは外装。

 おれと野上(のがみ)さんは内装。ちなみに委員長も……。

 午後の授業全てが、文化祭の準備に当てられている。


 で……。


松木(まつき)こっち手伝って〜」

「はい──!」

「松木こっちもー」

「はーい!」

「松木ー」

「はい──」

「こっちー」

「はーいっ──」


 何でこんなに引っ張りだこなの?!

 確かにおれがテーブル担当になったけど──!

 野上さんは委員長といい感じになってるし……


「松木、手動かせよ。ほら」

「あ、ごめん──」


 おれは机が離れないように 紐で脚を結ぶ。

 あぁ……野上さんと話せてないし──


「はぁ……」


 思わずため息が漏れた。

 野上さんたちは黙々と、でも楽しそうにやっている。

 テーブルクロスを測って、机に合わせている。

 きっと、これくらいかな? いいね。みたいな会話をしてるんだろう──


井藤(いとう)たち、けっこうお似合いだよな」


 おれが見ていた方向を見て、一人の男子が言う。


「しっかり者の井藤に、それに従う野上。夫婦みたいじゃないか?」

「……そうかな?」

「昔ながらの、みたいなさ──」


 笑いながら言っていたが、おれは笑えなかった。

 だって、本当にそう見えてしまったから。

 おれがそこに入る余地なんか、無いんじゃないか……?

 もし、手伝うよ。なんて気楽に言ったら、間に合ってるから、他を手伝ってあげて。とか言われそうだ。野上さんなら、もっと柔らかく言うかな──


「松木?」

「え? あ……ごめんごめん──」


 また、紐を机の脚に結ぶ。さっきよりも強く……このモヤモヤした気持ちをぶつけるように。

 すぐになくなるものじゃないってわかってるけど。それでも、少しは(まぎ)れる気がした──


         *


 休み時間。ゆっくりしようと、自販機にジュースを買いに来た。

 買ってからベンチに座って、一息つく。


「はぁ……──」


 ぼんやり、目をつむる。

 野上さんたちは、まだ話してるのかな……

 もしかしたら、おれと話すより委員長と話してた方が、楽しいのかも──


「……あああああ──」

「何してんの、幸多(こうた)

「創也……!」


 目を開けると、創也が炭酸を片手に、隣に座った。


「どう? 内装は」

「まあまあ。そっちは?」

「ん──あと少しってとこ」


 と炭酸を飲み干す。


「そっか……」

「ふぅ。ごちそうさん──じゃ、先行くわ」

「……うん」

「あ。幸多、野上が探してたぞ」

「うん……えっ?」


 思わず訊き返す。


「だから、野上が探してたぞ」

「野上さんが!? わかった! すぐ行く!」


 おれは、缶ジュースを飲み干してから、ゴミ箱に放り込んで走り出した。

 野上さんがおれを探してるって……何か、何かスゴく──嬉しい!!


         *


「松木くん──」

「野上さ……」

「遅いぞ──」


 ……委員長もいる。なぜ?


「あの……探してたって?」

「井藤くんが、松木くんの意見も訊きたいって言ってたから。それに、わたしも松木くんの意見訊きたいなと思って──」


 ニコリと野上さんと委員長が笑う。

 おれは……、一人で何を嬉しがってたんだろう……


「テーブルクロス、どうかな?」

「男子も使えるよな?」

「うん……そうだね。いいと思う──」


 テーブルクロスは、四つ葉のクローバーが基調だった。

 四つ葉のクローバーは、幸せを運んでくれると言うけど、今は幸せが遠ざかっている気がした……

 まだ、準備は終わらない──





まだ、始まったばかり……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ