準備
準備が始まりました。
文化祭の準備が始まった。
それぞれ、外装内装に分かれてやっている。
創也と唐崎さんは外装。
おれと野上さんは内装。ちなみに委員長も……。
午後の授業全てが、文化祭の準備に当てられている。
で……。
「松木こっち手伝って〜」
「はい──!」
「松木こっちもー」
「はーい!」
「松木ー」
「はい──」
「こっちー」
「はーいっ──」
何でこんなに引っ張りだこなの?!
確かにおれがテーブル担当になったけど──!
野上さんは委員長といい感じになってるし……
「松木、手動かせよ。ほら」
「あ、ごめん──」
おれは机が離れないように 紐で脚を結ぶ。
あぁ……野上さんと話せてないし──
「はぁ……」
思わずため息が漏れた。
野上さんたちは黙々と、でも楽しそうにやっている。
テーブルクロスを測って、机に合わせている。
きっと、これくらいかな? いいね。みたいな会話をしてるんだろう──
「井藤たち、けっこうお似合いだよな」
おれが見ていた方向を見て、一人の男子が言う。
「しっかり者の井藤に、それに従う野上。夫婦みたいじゃないか?」
「……そうかな?」
「昔ながらの、みたいなさ──」
笑いながら言っていたが、おれは笑えなかった。
だって、本当にそう見えてしまったから。
おれがそこに入る余地なんか、無いんじゃないか……?
もし、手伝うよ。なんて気楽に言ったら、間に合ってるから、他を手伝ってあげて。とか言われそうだ。野上さんなら、もっと柔らかく言うかな──
「松木?」
「え? あ……ごめんごめん──」
また、紐を机の脚に結ぶ。さっきよりも強く……このモヤモヤした気持ちをぶつけるように。
すぐになくなるものじゃないってわかってるけど。それでも、少しは紛れる気がした──
*
休み時間。ゆっくりしようと、自販機にジュースを買いに来た。
買ってからベンチに座って、一息つく。
「はぁ……──」
ぼんやり、目をつむる。
野上さんたちは、まだ話してるのかな……
もしかしたら、おれと話すより委員長と話してた方が、楽しいのかも──
「……あああああ──」
「何してんの、幸多」
「創也……!」
目を開けると、創也が炭酸を片手に、隣に座った。
「どう? 内装は」
「まあまあ。そっちは?」
「ん──あと少しってとこ」
と炭酸を飲み干す。
「そっか……」
「ふぅ。ごちそうさん──じゃ、先行くわ」
「……うん」
「あ。幸多、野上が探してたぞ」
「うん……えっ?」
思わず訊き返す。
「だから、野上が探してたぞ」
「野上さんが!? わかった! すぐ行く!」
おれは、缶ジュースを飲み干してから、ゴミ箱に放り込んで走り出した。
野上さんがおれを探してるって……何か、何かスゴく──嬉しい!!
*
「松木くん──」
「野上さ……」
「遅いぞ──」
……委員長もいる。なぜ?
「あの……探してたって?」
「井藤くんが、松木くんの意見も訊きたいって言ってたから。それに、わたしも松木くんの意見訊きたいなと思って──」
ニコリと野上さんと委員長が笑う。
おれは……、一人で何を嬉しがってたんだろう……
「テーブルクロス、どうかな?」
「男子も使えるよな?」
「うん……そうだね。いいと思う──」
テーブルクロスは、四つ葉のクローバーが基調だった。
四つ葉のクローバーは、幸せを運んでくれると言うけど、今は幸せが遠ざかっている気がした……
まだ、準備は終わらない──
まだ、始まったばかり……




