ボスに向けて
5話目です。
話がなかなか進まないけど、巻いた方がいいのでしょうか・・・
東門の外にある森の外縁部から少し離れた平原で俺たち4人は座って休憩をしながら話し合っていた。
「まずボスの話をする前に、テスタ時の最終目標がなんだったのかを教えとくな」
「何でわざわざそんな話をするんだ?」
「俺が知ってる情報がこれ以上無いって事を知ってもらおうかと思ってな。俺たちテスターはスキルのLvを上げて最初の町の東西にいるボスを倒すってのが目標だったんだ」
「東西だけですか。南北にはいなかったのですか?」
ミコの疑問も俺も思った事だ。はっきり言って基本的に東西南北にフィールドが用意されているなら、それぞれにボスや道が用意されていると考えるのが普通だろう。
「南は行ってないからわからないだろうが、南のフィールドは平原になっている。そこにいるのは『ヒツジ』と『ウシ』ってまんま動物がいるんだよ」
「何で動物がモンスター扱いなんだい・・・」
「ある程度大きくて、基本的にプレイヤーを襲わない生き物ならなんでもよかったんじゃないか?後は素材として糸と皮と角が手に入るから<作成>スキルもちのアイテム採集もわかりやすいからとかか」
モンスターが落とす素材のうち、糸と皮は防具を作るために使い、角は<発見>のスキルで見つかる鉱石類と合わせて武器が作れるのだ。
「それで、北側はどうなってたんだ?南と同じで普通の動物がいたのか?」
「いや、北側は東西のボスを倒してから開放されたんだ。それまでは門自体がしまっていた。製品版になってから最初から門は開放されているみたいだけどな」
「目標の次のフィールドが用意されていたのですか?」
「まぁ疑問に思うよな。でもあれはおまけ要素だったんじゃないかな?テスト協力してくれた人に『こんな強い敵もでてくるぞ!』みたいなさ」
「つまり北側のフィールドは、東西のボスを倒せるような装備やスキルでもきついのか・・・」
「そういうことだな。いたのは『ウルフ』と『サンドゼリー』って名前だったぜ。『ウルフ』はまんま狼のモンスター。ただし3~6匹の集団で絶対に群れで襲ってくる。『サンドゼリー』は黄色いゼリー状のモンスターで、近づかなければ何もしてこないし動きも遅い」
「『ウルフ』はともかく『サンドゼリー』ってのは遠距離の攻撃なら簡単に倒せるんじゃないか?」
「パーティ組んでいれば『ウルフ』の方が楽だな。後『サンドゼリー』に遠距離は意味が無い」
「え?」
『ウルフ』の方が楽と言うマサトの説明に俺たちは驚愕する。なぜなら数が多く、その個体も強いと言うなら群れて行動している『ウルフ』の方が脅威となるのが普通だろう。しかし、マサトは群れよりも個体の方が脅威だと言ったのだ。
「例えば蜂相手に使っていた姉貴の銃とミコの特技はダメージがなくなる」
「遠距離攻撃の攻撃が効かないのかい?」
「効かないわけじゃないんだけど・・・なんていうかな?<銃>と<杖>と<妨害>みたいなスキルで使える魔法みたいな特技は効果が出ないか吸収されるんだよ」
「吸収ですか?効果が出ないというのは《バインド》で動きが止まらないと言うのはわかるのですが、吸収と言うのはどうなるのでしょう?」
「吸収ってのはダメージを与える代わりに回復させるんだ。つまり、特技を使えば使うだけ回復されて『サンドゼリー』を倒せない」
「つまり『サンドゼリー』を倒すためには近距離で戦うしかないと・・・」
「変なモンスターも出るんだね。ま、私は何の問題も無いわけだが」
確かにミサトのスキルは<剣>と<銃>を両方とっているので<銃>が効かない相手は<剣>を使えばいいし、逆の場合も対応できる。逆に俺とミコはかなり厳しい状況になるだろう。俺は武器のスキルがなく、ミコは杖を使った直接的な攻撃しかできないのだから持ち味を生かせない。
「そして『サンドゼリー』に触れると、その道具の耐久力が一気に削れる。たぶん溶かされているんだろうな」
「装備が溶けるって・・・。戦いたくないな」
「俺もそう思う。まぁ製品版でも最初の町の北側にいるかわからないけどな。そんじゃボスの話にしようか」
「そういえば、ボスの話をするために移動したんだったね。すっかり忘れてたよ」
「俺も忘れてた」 「私もです」
「忘れないでくれ・・・。それじゃあ話すな」
そういって俺たちを見渡す。いちいちこういう事を気にするのはこいつの美徳なのかもしれない
「まず西の草原の奥にいる狼型のボスモンスター『レッドリーダー』。名前の通り赤い毛の体長3mぐらいの狼だな。テスト時には体当たりと引っ掻き、後は噛み付きぐらいしかしてこなかったからまずはこっちから倒すのがテスト時の一般的だった」
「リーダーって名前がついてるけど、取り巻きみたいな他のモンスターはでないのか?」
「でなかったな。製品版になって蜂が強化されてたみたいに取り巻きも出てくると思ったほうがいいかもしれないな。今度戦ってみるか?」
「俺の特技で効果があるものがあるなら付き合ってもいいけど?」
「私も戦ってみたいね。ボスがどんなものなのか気になるし」
「行くのなら皆で行きましょう」
4人全員で後日西の草原のボス『レッドリーダー』と戦うと言う事が決定した。ただしボスと戦う為にはいろいろと準備をしないといけないだろうが・・・
「まぁ、行くとしてもせめて全員のスキルLvが10を超えてからかな。せめてスキルが10を超えて蜂の素材で作った装備が欲しいな」
「つまり素材集めとLv上げが当面の方針か」
「そうなるな。ただ、素材が集まっても姉貴のスキルじゃ鎧が作れないんだよなぁ・・・」
「<剣>と<銃>が10になったら<鎧>を取るよ。そうすれば服や鎧が作れるんだろう?」
「いいのか?姉貴。別に誰かプレイヤーに頼んで作ってもらうって方法もあるんだが」
「気にしない気にしない。私はいろいろやってみたいのさ!物を作るってのも面白そうじゃないか」
そういって豪快に笑いながらマサトの肩を叩くミサト。とりあえずの方針が決まった。・・・というか
「つまり今まで通りに遊べばいいわけだな」
「だな」 「そうなるな」 「ですね」
今度は全員で笑う。そして
「それじゃあ、もう少し巨大蜂を相手に戦うとしようか」
俺はそう言うとが立ち上がり
「まちなアトム、東の森のボスの名前とかも聞いてからでもいいだろう?」
頬をかきながら再び腰を下ろした。
「東の森のボスモンスターは『クイーンビー』っていってな、さっき戦った『ファイタービー』をさらに大きくしたモンスターだ。ただし『クイーンビー』は飛べない、というか基本その場から動かないボスだな」
「『レッドリーダー』より簡単に倒せそうですけど、どうして先に『レッドリーダー』と戦うんですか?」
「動かない代わりに厄介な能力があるって事だろうさ」
「姉貴の言うとおりだ。『クイーンビー』は動かないけど『ファイタービー』を3匹呼び出してそいつらを戦わせるんだ。しかも残りの体力が減ると同時に出てくる数が5匹まで増える」
「あれが最高5匹か・・・きついな」
「だろ?だから最初は『レッドリーダー』を倒す事を目標にしようぜ」
そういってマサトが立ち上がる。今度はそれに続いて全員が立ち上がり、俺たちは森の方へと歩き出す
「そういえばさっきのパーティはどうなったんだろうね?」
戦闘の合間にぽつりとつぶやいたミサトの発言で全員が森の奥をみる。もちろんそこには誰もいないし誰かが戦っている音も、人の声も聞こえてはこない。ただ鬱蒼とした森がそこにあるだけだ。
「何も聞こえてこないところを見ると、死に戻りかな?」
「たぶんそうなんだろうな。俺たちが話してる時に見かけなかったし」
「死に戻りですか?」
「こういうゲームだと、LPが0になってもゲームオーバーにはならないんだよ。ただ町に戻されて何かペナルティを受けるだけだ。たしかフリスタの場合は所持アイテムの半分がなくなるんだっけ?」
「後は装備してる物の耐久力が半減するな。『道具』に個数の制限はないけど、銀行みたいな預かってくれる施設が無いからテスト時はかなりきつかったぜ」
「NPCがいないとそういうところも不便になるんだな」
「そういえばNPCってなんだい?」
俺とマサトの会話を聞いているだけだったミサトは聞きなれない言葉に反応する。ミコを見ると何度も頭を上下に振って俺たちに説明を求めていた。
「NPCっていうのは、『ノンプレイヤーキャラクター』の事で俺たちみたいに誰かが操作しているわけじゃないキャラクター、人物の事だな」
「普通のゲームでもいるだろ?決まった事しか話さない村人だったり、買い物メニューが出るだけの店員だったりするあれの事だ」
「そういえばいたねえ。確かにああいう村人がいないと大変だね」
「今の状況だと買い物以外にも、ゲームのストーリーに関わる情報も集められないからねえ・・・。他のプレイヤーはどうしてるんだろ」
「そういえば気になったのですが、あの町にいた人数は少なくありませんでしたか?」
そうミコの疑問に俺たちがログインしたときの町の様子を思い出そうとしたとき、再び『ファイタービー』が襲い掛かってきた。
「っち。今度は2匹か1匹俺が足止めするからそこをミコとミサトで攻撃。悪いけどマサトは1人で1匹を頼む、回復はするから安心してくれ」
「りょ~かい」
そういってマサトは2匹の『ファイタービー』に向かって突っ込んでいく、おそらく俺の《バインド》が失敗した場合を考えての行動だろう。
初めての同時に2匹の『ファイタービー』だったが、マサトが1匹を完璧に押さえていてくれたおかげで1対1と3対1の形にできたおかげで何とか倒すことができた。しかし、巨大蜂2匹相手でギリギリだとするとボスの女王蜂と戦うのはこの人数だときついのかもしれない・・・
でもよくよく考えたらこの4人だけで倒す必要は無いんだよな。女王蜂と戦うときにでも考えよう。
結局俺たちはログイン時のプレイヤーの数なんて数えているわけでもなかったので、町の別の場所にいたんだろうと言う結論になった。南門が一番近かったのだから、初心者もテスターも南門に行ったのかもしれない。俺たちみたいにいきなりウサギに行く事の方がおかしいのだろう。
結論が出ればもうその事は考えない。今は大量の蜂と戦ってスキルLvを上げて素材を集める。俺たちは夕食を食べるためにログアウトするまで東の森の外縁部で狩り続けたのだった
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